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牛を「名前」で呼ぶ農場は、牛乳の量が多かった 酪農家516人の調査【イグノーベル賞】

牛を「名前」で呼ぶ農場は、牛乳の量が多かった 酪農家516人の調査【イグノーベル賞】

読む前に予想してみよう!

牛に名前をつけると牛乳が増えることが、実験で証明されている

研究カード(どんな研究?)
対象
イギリスの酪農場で牛の世話を取りしきる人(牧場主・管理者)
規模
516人(郵送アンケート)
研究の種類
観察研究(アンケートの答えと農場の乳量のデータを比べた)
確かさ
★★☆☆☆
3秒でわかる

イギリスの酪農家516人へのアンケートで、牛を名前で呼ぶ農場は、呼ばない農場より乳量が258リットル多かった。ただし名前が原因かは確かめられていない。

ひとことで言うと名前で呼ぶ農場は牛乳が多め。でも名前のおかげかはまだ分からない!

もくじ
  1. 郵便のアンケートに、酪農家516人が答えた
  2. 名前で呼ぶ農場は、呼ばない農場より乳量が多かった
  3. 授賞式に届いた、研究者の娘の「牛の着ぐるみ」写真
  4. どんでん返し:名前が牛乳を増やしたとは言えない
  5. 牛は「誰に何をされたか」を覚えていた
  6. まとめ

牛を名前で呼んでいる農場は、呼んでいない農場より、牛乳が多くとれていました。イギリスの研究で出た結果です。この研究は2009年、イグノーベル賞の「獣医学賞」を受賞しました。

研究者は、イギリスの酪農家516人に郵便でアンケートをしました。その答えと農場の乳量(牛からとれた牛乳の量)を比べると、名前で呼ぶ農場は、呼ばない農場より乳量が258リットル多かったのです。

ただし、これは「名前のおかげ」を確かめた実験ではありません。名前で呼ぶ農家は、ほかにも何かがちがうのかもしれません。それでも、この研究の背景には、牛が人を見分け、人の扱い方で乳の出が変わるという、実験で確かめられた事実があります。

01郵便のアンケートに、酪農家516人が答えた

研究したのは、イギリスのニューカッスル大学のキャサリン・バーテンショーさん(イグノーベル賞の受賞時はダグラスさん)とピーター・ローリンソンさんです。

2人は、イギリスの酪農場で牛の世話を取りしきる人に、郵便でアンケートを送りました。答えたのは516人です。質問は、牛は人を怖がっているか、牛の性格は人の扱い方で変わるか、牛に気持ちはあるか、などでした。そして、その答えと、農場の乳量のデータを比べました。論文の要旨(論文のはじめにつく短いまとめ)によると、乳量はアンケートの答えとは別の客観的なデータです。

論文の要旨によると、これまでの研究では、酪農場の牛と人の関係は「牛が人を怖がる」関係が中心だと考えられてきました。人を怖がる牛は、乳の出が悪くなる。だから怖がらせないことが大事だ、という研究が多かったのです。この研究は向きを変えて、農家が牛をどう見ているかを聞きました。

02名前で呼ぶ農場は、呼ばない農場より乳量が多かった

大学の発表によると、回答者の46%が「うちの農場では牛を名前で呼んでいる」と答えました。論文の要旨によると、名前で呼ぶ農場は、呼ばない農場より乳量が258リットル多く、偶然とは考えにくい差でした。

この258リットルが何の量なのかには注意が必要です。大学の発表は「1年の乳量」の差だと説明しています。でも、牛1頭あたりの量なのか、農場全体の量なのかは、論文の要旨にも大学の発表にも書かれていません。どれくらい大きな差なのかは、論文の本文を見ないと判断できません。

1頭1頭を知っておくことが大事だと考える農場では、初めて子どもを産んだ若い牛の乳量が200リットル以上多い傾向もありました。ただしこちらは、偶然の差である可能性が残る結果でした。

農家の牛の見方も分かりました。

  • 牛に気持ちがあると思う:90%
  • 牛はかしこいと思う:78%
  • 乳牛は人を怖がっていると思う:21%
  • 牛がおとなしいのは、それまでの人との触れ合いのおかげだと思う:48%

多くの農家は、牛を「気持ちのある、かしこい動物」と見ていました。

名前で呼ぶかどうかは、牛との付き合い方の一部。研究が比べたのは「農場どうし」の乳量のちがい(イメージ)
名前で呼ぶかどうかは、牛との付き合い方の一部。研究が比べたのは「農場どうし」の乳量のちがい(イメージ)

03授賞式に届いた、研究者の娘の「牛の着ぐるみ」写真

イグノーベル賞は、「人を笑わせ、そして考えさせる研究」に贈られる賞です。2009年10月1日、アメリカのハーバード大学で開かれた授賞式で、この研究は獣医学賞を受けました。受賞の理由は「名前のある牛は、名前のない牛より多くの乳を出すことを示した」というものです。

公式ページによると、授賞式にはローリンソンさんが出席しました。ダグラスさんは出産したばかりで行けませんでした。そのかわりに、自分と、牛の着ぐるみを着た生まれたばかりの娘さんと、1頭の牛が写った写真を送りました。

イグノーベル賞を受けた牛の研究には、ほかに牛にしまを描くとハエがとまりにくくなった研究もあります。

04どんでん返し:名前が牛乳を増やしたとは言えない

この研究で分かったのは、「名前で呼ぶ農場」と「乳量が多い農場」が重なっていた、ということだけです。名前が原因で乳量が増えたのかは、この調査では区別できません。

たとえば、名前で呼ぶ農家は、牛を1頭ずつよく見ているのかもしれません。牛の数、飼い方、世話にかける時間がちがうのかもしれません。そうしたちがいが、乳量の差を生んだ可能性もあります。

大学の発表では、ダグラスさんが「1頭1頭を知って名前で呼ぶことを大事にすれば、農家に余分な費用をかけずに、乳量を大きく増やせる」と話していました。一方、論文の要旨は、1頭ずつに目を向けると乳量が上がるという傾向は「確かめる必要がある」と書いています。

ほかの調査では、結果が分かれました。オーストラリアの研究チーム(2000年)は、66の酪農場を調べました。牛を強く押したりたたいたりする回数が多い農場ほど、乳量が少ない傾向がありました。一方、フィンランドの研究(2013年)は、酪農家161人を調べました。「牛の暮らしを良くする工夫は大事だ」という農家の考え方と、乳量とのつながりは見つかりませんでした。どちらも観察研究で、原因までは分かりません。

05牛は「誰に何をされたか」を覚えていた

名前の効果は確かめられていません。でも、人の扱い方が牛を変えることは、実験で確かめられています。

1999年の実験では、14頭の牛を2人の人が扱いました。1人はやさしく扱い、もう1人は乱暴に扱いました。2人は、ちがう色の服を着ていました。すると牛は、乱暴な人から離れて立つようになりました。ところが2人が服の色を変えると、牛は2人を見分けられなくなりました。牛は、服の色を手がかりに人を見分けていたようです。

乳しぼりのとき、乱暴な人がそばに立つと、誰もいないときと比べて、しぼりきれずに乳房に残る乳が70%増えました。やさしい人がそばにいたときは、乳の量も残る乳も変わりませんでした。

ダグラスさん(当時はバーテンショーさん)たちも、2008年に実験の結果を出しています。3年かけた実験で、初めての出産を控えた若い牛148頭を、ブラシでなでるグループと、なでないグループに分けました。

なでるグループは、出産前に1頭ずつ週5分、ブラシでなでました。なでた時間の合計は、グループによって30分・65分・155分・245分の4通りです。

出産後の4週間、なでた牛は、なでなかった牛より乳を出す反応が19%速くなりました。研究チームは、4通りでいちばん短い30分(出産前の6週間)でも、乳しぼりのときに人を怖がる様子を減らせるようだとまとめています。

06まとめ

牛を名前で呼ぶイギリスの農場は、呼ばない農場より乳量が258リットル多かった。笑ってしまう結果ですが、これはアンケートで見えた「関係」で、名前が牛乳を増やしたとまでは言えません。

一方で、牛は人を見分け、乱暴な人がそばにいると乳が出にくくなります。名前で呼ぶかどうかより、毎日どう接しているか。そこに乳量の差のヒントがあるのかもしれません。名前そのものに効果があるのかは、名前で呼ぶ牛と呼ばない牛を比べる実験をしないと分かりません。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerTwo researchers at Newcastle University in England wanted to know whether the way farmers think about their… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Two researchers at Newcastle University in England wanted to know whether the way farmers think about their cows matters. They mailed a questionnaire to people who manage dairy farms, and 516 of them sent it back. Most said that cows have feelings, and only about one in five thought cows were afraid of people. The researchers then compared the answers with milk production data from the farms.

On farms where the cows were called by name, milk yield was 258 liters higher. In 2009, the study won the Ig Nobel Prize in veterinary medicine. But it was a survey, so it cannot show that the names caused the extra milk. Farmers who use names might also handle their cows more gently or spend more time with each animal.

128 words ・ CEFR B1

和訳を見る

イギリスのニューカッスル大学の2人の研究者は、農家が牛をどう考えているかが関係するのかを知りたいと考えた。彼らは酪農場を管理する人々にアンケートを郵送し、そのうち516人が送り返した。ほとんどの人は牛に気持ちがあると答え、牛が人を怖がっていると考えた人は5人に1人ほどだけだった。研究者たちはそれから、答えを農場の牛乳の生産データと比べた。

牛を名前で呼んでいる農場では、乳量が258リットル多かった。2009年、この研究はイグノーベル賞の獣医学賞を受賞した。でもこれはアンケート調査なので、名前が牛乳を増やしたことは示せない。名前を使う農家は、牛をよりやさしく扱ったり、1頭1頭ともっと長い時間を過ごしたりしているのかもしれない。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the passage mainly about?

Q2. According to the passage, what did only about one in five farmers think?

Q3. What does the writer suggest about the extra milk?

重要単語

  • dairyB1
    形容詞・名詞乳製品の、酪農のCheese and butter are dairy products. dairy farm(酪農場)、dairy cow(乳牛)。daily(毎日の)とつづりを混同しやすい
  • yieldB2
    名詞・動詞生産量、収穫量/(作物などを)生み出すThe rice yield was low because of the cold summer. milk yield で「乳量」。動詞では「結果を生む」「道をゆずる」の意味もある
  • questionnaireB2
    名詞アンケート用紙、質問票Please fill out the questionnaire before you leave. question(質問)から。日本語の「アンケート」はフランス語 enquête から来た言葉で、英語では questionnaire や survey と言う
  • handleB1
    動詞(動物・物を手で)扱う、対処するHandle the eggs carefully. 名詞 handler は「(動物を)扱う人」。handle a problem で「問題に対処する」
  • surveyB1
    名詞(アンケートによる)調査The survey asked farmers about their cows. conduct a survey で「調査を行う」。調査では「関係」は分かっても「原因」までは分からないことが多い
  • udderC1
    名詞(牛などの)乳房The farmer cleaned the cow's udder before milking. 牛・ヤギ・ヒツジなどの乳房を指す。発音は「アダー」

動画でもっと知る

牛を名前で呼んでいるイギリスの農場は、呼んでいない農場より乳量が258リットル多かった。2009年のイグノーベル賞の研究。ただしアンケートで見えた「関係」で、名前そのものが効いたとは言えない。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Bertenshaw & Rowlinson (2009) Exploring Stock Managers' Perceptions of the Human–Animal Relationship on Dairy Farms and an Association with Milk Production, Anthrozoösdoi.org
  2. Rushen, de Passillé & Munksgaard (1999) Fear of People by Cows and Effects on Milk Yield, Behavior, and Heart Rate at Milking, Journal of Dairy Sciencedoi.org
  3. Hemsworth et al. (2000) Relationships between human-animal interactions and productivity of commercial dairy cows, Journal of Animal Sciencedoi.org
  4. Bertenshaw et al. (2008) The effect of different degrees of 'positive' human–animal interaction during rearing on the welfare and subsequent production of commercial dairy heifers, Applied Animal Behaviour Sciencedoi.org
  5. Kauppinen, Valros & Vesala (2013) Attitudes of Dairy Farmers toward Cow Welfare in Relation to Housing, Management and Productivity, Anthrozoösdoi.org