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1年間ウォーキングした高齢者、記憶の司令塔「海馬」が約2%大きくなっていた

1年間ウォーキングした高齢者、記憶の司令塔「海馬」が約2%大きくなっていた

読む前に予想してみよう!

大人になると、脳の神経細胞が新しく作られることは一切ない

研究カード(どんな研究?)
対象
認知症のない高齢者
規模
約120人
研究の種類
ランダム化比較試験
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

1年間の有酸素運動で、高齢者の海馬の体積が約2%増えたという実験がある。脳の「肥料」BDNFが関わると考えられるが、頭がよくなる効果の大きさは議論中。

ひとことで言うと歩くと、記憶をつかさどる脳の一部が大きくなったという研究がある!

もくじ
  1. 記憶の司令塔「海馬」
  2. 1年間のウォーキング実験
  3. カギは脳の“肥料”BDNF
  4. 「運動で頭がよくなる」はまだ言い過ぎ
  5. まとめ

年をとると、物忘れが増えて、脳もだんだん小さくなっていく――。それは自然なことだと思われてきました。

ところが、1年間ウォーキングを続けた高齢者の脳で、記憶に関わる部分が大きくなっていたという研究があります。

運動は筋肉だけでなく、脳にも何かをしているのかもしれません。

01記憶の司令塔「海馬」

脳の奥深く、左右に1つずつある海馬(かいば)。名前のとおり、タツノオトシゴ(英語でシーホース)のような形をしています。

海馬は、新しいことを覚えたり、場所を覚えたりするときに大活躍する、いわば記憶の司令塔。そして、年齢とともに少しずつ小さくなっていくことが知られています。

021年間のウォーキング実験

研究チームは、これを「年齢による海馬の縮みを1〜2年分取り戻したようなもの」と説明しています。ウォーキング群では、記憶のテストの成績が上がった人ほど海馬の増え方が大きい傾向もありました。

記憶の司令塔「海馬」は、運動で育つ可能性がある
記憶の司令塔「海馬」は、運動で育つ可能性がある

03カギは脳の“肥料”BDNF

なぜ運動で脳が変わるのでしょう? そのカギとされるのが、BDNF(脳由来神経栄養因子)という物質です。

BDNFは、神経細胞が育ったり、つながりを強めたりするのを助ける物質で、よく「脳の肥料」にたとえられます。エリクソンさんらの研究でも、海馬が大きくなった人ほど、血液中のBDNFが増えていたと報告されています。

1999年には、アメリカ・ソーク研究所のファン・プラーグ(van Praag)さんらが『Nature Neuroscience』で、回し車で走ったマウスは、海馬で新しい神経細胞がたくさん生まれていたことを報告しました。

04「運動で頭がよくなる」はまだ言い過ぎ

ここで注意したいのは、海馬が大きくなること=テストの点が上がる、とは限らないことです。

実はエリクソンさんらの実験でも、記憶テストの成績は、ウォーキング群とストレッチ群の両方で同じくらい上がっていました。「歩いたほうが記憶力がぐんと伸びた」という結果ではなかったのです。

運動と記憶力・判断力の関係を調べた研究はたくさんありますが、効果の大きさは研究によってまちまちです。また、エリクソンさんらの研究は高齢者が対象で、若い人に同じことが起きるかは別の話です。

それでも、「運動が脳の健康を支える可能性がある」という方向性は、多くの研究で一致しています。

05まとめ

1年間のウォーキングで、高齢者の海馬が約2%大きくなった。その背景には、脳の肥料BDNFが関わっていると考えられています。

「頭がよくなる魔法」とまでは言えないけれど、歩くことは、脳へのささやかな贈りものかもしれません。今日の帰り道、少しだけ遠回りしてみませんか?

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerThe hippocampus is a small, seahorse-shaped part of the brain that plays a key role in memory. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

The hippocampus is a small, seahorse-shaped part of the brain that plays a key role in memory. It usually shrinks slowly with age. In a 2011 study, Erickson and his team in the United States randomly divided about 120 older adults without dementia into two groups. For one year, one group walked for about 40 minutes three times a week, while the other group did stretching and other light exercises.

Brain scans showed that the hippocampus grew by about 2 percent in the walking group but shrank by about 1.4 percent in the stretching group. People whose hippocampus grew more also had higher levels of BDNF, a protein that helps brain cells grow. However, memory scores improved similarly in both groups.

121 words ・ CEFR B1

和訳を見る

海馬は、タツノオトシゴのような形をした脳の小さな部分で、記憶に重要な役割を果たしています。海馬はふつう、年齢とともにゆっくり縮んでいきます。2011年に発表された研究で、アメリカのエリクソンさんのチームは、認知症のない高齢者約120人をくじ引きで2つのグループに分けました。1年間、一方のグループは週3回約40分ウォーキングをし、もう一方のグループはストレッチなどの軽い運動をしました。

脳の画像検査で、海馬はウォーキング群では約2%大きくなりましたが、ストレッチ群では約1.4%縮んでいました。海馬が大きく増えた人ほど、脳の細胞が育つのを助けるタンパク質であるBDNFの値も高くなっていました。しかし、記憶テストの点数は両方のグループで同じくらい上がりました。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the passage mainly about?

Q2. How often did the walking group exercise?

Q3. What can we infer from the last sentence?

重要単語

  • hippocampusC1
    名詞海馬The hippocampus plays a key role in memory. ギリシャ語で「馬+海の怪物」=タツノオトシゴ。形が似ていることから。複数形は hippocampi。
  • aerobic exerciseB2
    名詞(句)有酸素運動Walking is a simple form of aerobic exercise. aero-(空気)+bio(生命)。反対は anaerobic exercise(無酸素運動)。
  • neurogenesisC1
    名詞神経新生Running boosted neurogenesis in mice. neuro-(神経)+genesis(誕生)。旧約聖書の Genesis(創世記)と同じ語。
  • volumeB1
    名詞体積、容積/音量/(本の)巻MRI scans measured brain volume. 多義語。turn up the volume「音量を上げる」、a large volume of data「大量のデータ」も頻出。
  • cognitiveC1
    形容詞認知のExercise may support cognitive health. cognition(認知)の形容詞。recognize(認識する)と同語源。cognitive decline「認知機能の低下」。
  • shrinkB2
    動詞縮むThe hippocampus tends to shrink with age. 活用は shrink-shrank-shrunk。服が洗濯で縮むときにも使う。
  • overstateC1
    動詞誇張する、大げさに言うWe should not overstate the results. over-(過度に)+state(述べる)。反対は understate(控えめに言う)。研究の限界を述べる定番語。

動画でもっと知る

4コマでわかる

1年間ウォーキングした高齢者、記憶の司令塔「海馬」が約2%大きくなっていたの4コマ漫画
高齢者に1年間ウォーキングしてもらったら、記憶に関わる脳の「海馬」が約2%大きくなっていたらしい。ストレッチだけのグループは逆に少し小さくなっていた。運動は脳にとっての“肥料”になるのかも。

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出典・参考文献(3件)タップで表示
  1. Erickson et al. (2011) Exercise training increases size of hippocampus and improves memory, PNASdoi.org
  2. van Praag, Kempermann & Gage (1999) Running increases cell proliferation and neurogenesis in the adult mouse dentate gyrus, Nature Neurosciencedoi.org
  3. Szuhany, Bugatti & Otto (2015) A meta-analytic review of the effects of exercise on brain-derived neurotrophic factor, Journal of Psychiatric Researchdoi.org