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2026年ノーベル生理学・医学賞は米独の3人に。光で脳の神経細胞を動かす技術を生んだ

2026年ノーベル生理学・医学賞は米独の3人に。光で脳の神経細胞を動かす技術を生んだ

読む前に予想してみよう!

2026年のノーベル生理学・医学賞につながったタンパク質は、緑の藻から見つかった

研究カード(どんな研究?)
対象
藻・カエルの卵・ラットの神経細胞・マウス
規模
2002〜2007年の複数の基礎研究
研究の種類
実験研究(ノーベル賞選考による評価)
確かさ
★★★★★
3秒でわかる

2026年の生理学・医学賞は、藻から「光で開くタンパク質」を見つけた2人と、それで神経細胞を光で動かす方法を作った1人の計3人に。

ひとことで言うと光に向かって泳ぐ藻の仕組みが、脳を調べる大発明になった!

もくじ
  1. 始まりは「光に向かって泳ぐ藻」
  2. カエルの卵で確かめた「光で開く通り道」
  3. 神経細胞を光で「オン」にする
  4. 受賞まで20年以上。前年2025年と比べてみる
  5. まとめ

2026年のノーベル生理学・医学賞は、「光で神経細胞を動かす技術」を生んだ3人に贈られました。発表は10月5日。選んだのは、スウェーデンのカロリンスカ研究所にあるノーベル会議です。

始まりは、光に向かって泳ぐ小さな緑の藻でした。藻が光を感じる仕組みを調べていたら、脳の研究を大きく変える道具が見つかった。今年の受賞は、そんな話です。

01始まりは「光に向かって泳ぐ藻」

クラミドモナスは、1つの細胞だけでできた緑の藻です。光の来る方へ泳いでいく性質があり、細胞の表面にある「眼点」というオレンジ色の小さな点で光を感じます。

1990年代のはじめ、ドイツのマックス・プランク生化学研究所にいたヘーゲマンさんは、この藻の反応の速さに目をつけました。光が眼点に届いてから、わずか0.5ミリ秒で電気の信号が起きていたのです。人の目では、光が届いてから信号が出るまでに少なくとも10ミリ秒かかります。

そこでヘーゲマンさんは、「1つのタンパク質が、光を受け取る役とイオンの通り道の役を両方こなしているのでは」と考えました。イオンチャネルとは、細胞の表面にあって、電気を帯びた粒(イオン)を出し入れする通り道のことです。当時、光だけで開くイオンチャネルは知られておらず、この考えは疑いの目で見られました。

02カエルの卵で確かめた「光で開く通り道」

藻からタンパク質を取り出そうとしても、壊れやすくてうまくいきません。転機は2000年ごろ。日本の研究者たちが公開していたクラミドモナスの遺伝子の情報の中から、ヘーゲマンさんたちは光を受け取るタンパク質によく似た遺伝子を2つ見つけました。

この遺伝子を受け取ったのが、マックス・プランク生物物理学研究所のナーゲルさんです。カエルの卵に遺伝子を入れると、卵はそのタンパク質を作り、表面に並べます。そこに光を当てると、通り道が開いてイオンが流れ込み、電気の信号が生まれました。ヘーゲマンさんの考えは正しかったのです。

2人はこのタンパク質をチャネルロドプシンと名づけ、2002年に1つ目、2003年に2つ目(チャネルロドプシン2)を発表しました。2つ目は光を当てて0.2ミリ秒以内に開き、ヒトやハムスターの腎臓の細胞に入れても、細胞が光に反応するようになりました。

03神経細胞を光で「オン」にする

この発見を知ったのが、アメリカ・スタンフォード大学のダイセロスさんです。精神科で患者さんと向き合った経験から、「生きた脳で、どの神経細胞が何をしているのか」を確かめる方法を探していました。そこでナーゲルさんに連絡し、遺伝子(DNA)を分けてもらいました。

ダイセロスさんの研究室は、チャネルロドプシン2の遺伝子を、皿で育てたラットの神経細胞に入れました。すると、青い光を当てるだけで神経の信号を出させることに成功。2005年に発表しました。2007年には、生きたマウスの脳の運動をつかさどる場所にこの遺伝子を入れ、細い光ファイバーで光を当てて、ひげの動きを操ることができました。

光と遺伝子を組み合わせるこの方法は、2006年に光遺伝学(オプトジェネティクス)と名づけられています。

20世紀の脳の研究では、「この場所が働くと、こういう行動が出るらしい」という関係までは分かっても、その細胞が原因だと示すのは難しいことでした。光遺伝学では、狙った種類の神経細胞だけを光でオン・オフできるので、原因かどうかを実験で確かめられるようになりました。

04受賞まで20年以上。前年2025年と比べてみる

2025年の生理学・医学賞は、免疫が自分の体を攻撃しないように抑える制御性T細胞の発見で、大阪大学の坂口志文さんら3人に贈られました。坂口さんの最初の重要な論文は1995年。受賞まで30年かかっています。

前年2025年の受賞は、免疫の暴走を止める「ブレーキ役」の細胞だった
前年2025年の受賞は、免疫の暴走を止める「ブレーキ役」の細胞だった

今年の受賞研究は、チャネルロドプシンの発表が2002〜2003年、神経細胞での成功が2005年で、そこから受賞まで20年あまり。ヘーゲマンさんが藻の光の信号を報告した1992年の論文から数えると30年あまりで、前年とほぼ同じ長さです。ノーベル賞は、発見の大切さが確かめられるまでに長い時間がかかることの多い賞です。

前年の受賞は免疫、今年は脳の研究で、分野はまったく違います。それでも似ている点があります。

  • どちらも、最初の考えは当時の主流から外れていた。坂口さんは「危ない免疫細胞は胸腺(胸の奥にある、免疫細胞を育てる器官)で取り除かれる」という考えが強い時代に別のブレーキ役を示し、ヘーゲマンさんは「光だけで開くイオンチャネル」という誰も知らなかった仕組みを考えた。
  • どちらも、体の基本的な仕組みを調べる基礎研究で、治療への応用はいま臨床試験の段階にある。

05まとめ

2026年のノーベル生理学・医学賞は、藻が光を感じるタンパク質の発見と、それを使って神経細胞を光で動かす光遺伝学に贈られました。

「この藻はなぜこんなに速く光に反応するのか」。1990年代はじめの1人の研究者の疑問が、10年あまりで脳を調べる道具になり、30年あまりたった今年、ノーベル賞に届きました。次にノーベル賞のニュースを見たら、「その研究はどんな疑問から始まったのか」を探してみてください。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerOn October 5, 2026, the Nobel Prize in Physiology or Medicine was given to Karl Deisseroth of Stanford… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

On October 5, 2026, the Nobel Prize in Physiology or Medicine was given to Karl Deisseroth of Stanford University and two German scientists, Peter Hegemann and Georg Nagel. Their story began with a green alga that swims toward light. In the early 1990s, Hegemann guessed that one protein in the alga both senses light and lets charged particles into the cell.

Many experts doubted this, because no such protein was known. In 2002 and 2003, he and Nagel showed he was right by putting the alga's genes into frog eggs. They named the protein channelrhodopsin. In 2005, Deisseroth's team added its gene to rat nerve cells, and a flash of blue light made the cells send signals. The method is now called optogenetics.

123 words ・ CEFR B1

和訳を見る

2026年10月5日、ノーベル生理学・医学賞が、スタンフォード大学のカール・ダイセロスさんと、ドイツの2人の科学者ペーター・ヘーゲマンさん、ゲオルク・ナーゲルさんに贈られました。話の始まりは、光に向かって泳ぐ緑の藻でした。1990年代のはじめ、ヘーゲマンさんは、藻の中の1つのタンパク質が光を感じ取ると同時に、電気を帯びた粒を細胞の中に入れているのではないかと考えました。

そのようなタンパク質は知られていなかったため、多くの専門家はこれを疑いました。2002年と2003年、彼とナーゲルさんは藻の遺伝子をカエルの卵に入れることで、彼が正しかったことを示しました。2人はこのタンパク質をチャネルロドプシンと名づけました。2005年、ダイセロスさんのチームはその遺伝子をラットの神経細胞に加え、青い光を当てると細胞が信号を出しました。この方法は今、光遺伝学と呼ばれています。

4択リーディングクイズ

Q1. Why did many experts doubt Hegemann's idea at first?

Q2. What did Deisseroth's team show in 2005?

Q3. What can we infer from the passage?

重要単語

  • optogeneticsC1
    名詞光遺伝学(光で細胞の働きを操る方法)Optogenetics lets scientists turn nerve cells on with light. opto-(光の)+genetics(遺伝学)。optical(光学の)、optician(眼鏡店)の opt- と同じ仲間。
  • neuronB2
    名詞神経細胞、ニューロンA neuron sends signals to other neurons. nerve cell とほぼ同じ意味。形容詞は neural(神経の)で、neural network も同じ語から。
  • ion channelC1
    名詞(句)イオンチャネル(イオンの通り道になるタンパク質)An ion channel lets charged particles into the cell. channel は「水路・通り道」。テレビのチャンネルや English Channel(英仏海峡)と同じ語。
  • algaC1
    名詞藻(も)This tiny alga swims toward the light. 複数形は algae(アルジー)。ラテン語由来で -a → -ae と変わる。ニュースでは algae の形でよく出る。
  • laureateC1
    名詞受賞者The laureates will give lectures in Stockholm in December. 勝者に贈る月桂樹(laurel)の冠が語源。Nobel laureate「ノーベル賞受賞者」で覚える。
  • curiosityB1
    名詞好奇心The project began with one scientist's curiosity. 形容詞は curious。out of curiosity「好奇心から」は会話でもよく使う。
  • triggerB2
    動詞(反応などを)引き起こすA flash of light can trigger a nerve signal. 名詞では「引き金」。trigger an alarm「警報を作動させる」のように、きっかけを与えて何かを起こすときに使う。
2026年ノーベル生理学・医学賞は「光遺伝学」。光に向かって泳ぐ緑の藻から見つかったタンパク質を神経細胞に作らせると、青い光を当てるだけで細胞が信号を出す。藻の研究が脳の研究を変えた。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Nagel et al. (2002) Channelrhodopsin-1: A Light-Gated Proton Channel in Green Algae, Sciencedoi.org
  2. Nagel et al. (2003) Channelrhodopsin-2, a directly light-gated cation-selective membrane channel, PNASdoi.org
  3. Boyden et al. (2005) Millisecond-timescale, genetically targeted optical control of neural activity, Nature Neurosciencedoi.org
  4. Aravanis et al. (2007) An optical neural interface: in vivo control of rodent motor cortex with integrated fiberoptic and optogenetic technology, Journal of Neural Engineeringdoi.org
  5. Nobel Prize Outreach: Press release, The Nobel Prize in Physiology or Medicine 2026nobelprize.org