辛さは「味」じゃなく「痛み」だった。脳がだまされる“熱センサー”の正体とノーベル賞

読む前に予想してみよう!
鳥は唐辛子を食べても、人ほど辛さを感じないと考えられている
鳥の熱センサーはカプサイシンに反応しにくく、そのおかげで唐辛子の種を遠くへ運ぶ役割を担うと考えられている。
- 対象
- 培養細胞・ラットとニワトリの遺伝子
- 規模
- 基礎研究(分子生物学)
- 研究の種類
- 実験研究(多数の追試で確立)
- 確かさ
- ★★★★☆
唐辛子のカプサイシンは、熱さや痛みを感じるセンサー「TRPV1」をオンにする。だから辛さは「熱い・痛い」として脳に届く。
ひとことで言うと辛いのは舌の「アチチセンサー」がだまされているから!
激辛ラーメンを食べて、口の中が「熱い!」「痛い!」。でも、ラーメンのスープがやけどするほど熱いわけではありませんよね。
実は、辛さは「甘い・しょっぱい」のような味ではなく、「痛み」や「熱さ」の一種なんです。
そしてこの不思議な感覚の仕組みを解き明かした研究は、2021年のノーベル生理学・医学賞につながりました。
01辛さは「五味」に入っていない
舌が感じる基本の味は、甘味・塩味・酸味・苦味・うま味の5つ。ここに「辛味」は入っていません。
辛さは、味を感じる細胞ではなく、痛みや温度を感じる神経がキャッチしているからです。だから、唐辛子が手についたまま目をこすると、舌じゃないのに目が「痛い!」となるわけです。
02唐辛子が押す「熱センサーのスイッチ」
TRPV1は、神経の表面にある小さな扉(イオンチャネル)のようなもの。熱やカプサイシンがやってくると扉が開き、神経に電気信号が流れて、脳に「熱い!痛い!」という情報が送られます。
つまり、カプサイシンは熱センサーの「合カギ」。本当は熱くないのに、脳は「やけどしそうなくらい熱いものが来た!」と勘違いするんです。辛いものを食べると汗が出るのも、体が「暑い」と判断して冷やそうとするからだと考えられています。

03ミントが「スースー」する理由も同じ
実は、ミントのスースーする感じも似た仕組みです。ミントの成分メントールは、冷たさを感じるセンサー(TRPM8)のスイッチを押します。だから、実際は冷たくないのに「ひんやり」と感じるんです。
辛さと冷たさ、どちらも温度センサーのだまし討ちというわけですね。
04鳥は唐辛子が辛くない?
おもしろいことに、鳥のTRPV1はカプサイシンに反応しにくいことがわかっています。2002年にジュリアスさんのチームが『Cell』でこの仕組みを報告しました。
唐辛子にとって、種をかみ砕いてしまう哺乳類には「辛い!」と嫌われ、種を丸のみして遠くへ運んでくれる鳥には平気で食べてもらえる。辛さは、種を運ぶ相手を選ぶための作戦だという説もあります。
05まとめ
辛さの正体は、唐辛子の成分が熱センサーTRPV1をだましてオンにすることで生まれる「ニセの熱さ・痛み」でした。
次に激辛料理を食べるとき、「今、舌の熱センサーが合カギで開けられてるんだな」と思い出してみてください。ちょっとだけ、痛みが楽しくなるかもしれません。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerSpiciness is not one of the five basic tastes, which are sweet, salty, sour, bitter and umami.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
When you eat spicy food, your mouth feels hot. But spiciness is not a taste. It is a kind of pain. Chili peppers contain capsaicin. It turns on a sensor in your mouth that usually feels heat above about 43°C. So your brain thinks, "Hot!"
The scientist who found this sensor won a Nobel Prize in 2021. Birds do not seem to feel chili peppers as hot, though.
68 words ・ CEFR A2
和訳を見る
辛いものを食べると、口の中が熱く感じます。でも、辛さは味ではありません。痛みの一種なのです。唐辛子にはカプサイシンが含まれています。カプサイシンは、ふだんは約43℃以上の熱を感じる口の中のセンサーをオンにします。だから、脳は「熱い!」
と思うのです。このセンサーを見つけた科学者は、2021年にノーベル賞を受賞しました。ただし、鳥は唐辛子を辛いと感じにくいようです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
辛いものが熱く・痛く感じる理由がテーマなので D。
Q2. When did the scientist win a Nobel Prize?
won a Nobel Prize in 2021 とあるので C。
Q3. In this passage, "sensor" means ...
sensor は sense(感じる)+-or で「感じとるもの」。熱を感じるセンサーなので A。
Spiciness is not one of the five basic tastes, which are sweet, salty, sour, bitter and umami. Instead, it is detected by nerves that sense pain and temperature. In 1997, Julius and his team in the United States discovered the gene for a sensor that responds to capsaicin, the substance that makes chili peppers hot.
This sensor, called TRPV1, is also switched on by heat above about 43°C. When capsaicin opens it, the nerve sends a "hot and painful" signal to the brain, even though the food is not actually that hot. This work helped Julius win the 2021 Nobel Prize. Similarly, menthol in mint switches on a sensor for cold.
111 words ・ CEFR B1
和訳を見る
辛さは、甘味・塩味・酸味・苦味・うま味という5つの基本の味の1つではありません。そうではなく、痛みや温度を感じる神経によって感知されます。1997年、アメリカのジュリアスさんのチームは、唐辛子を辛くする物質カプサイシンに反応するセンサーの遺伝子を発見しました。TRPV1と呼ばれるこのセンサーは、約43℃以上の熱でもスイッチが入ります。
カプサイシンがこれを開くと、食べ物が実際にはそれほど熱くなくても、神経は「熱くて痛い」という信号を脳に送ります。この研究が、ジュリアスさんの2021年のノーベル賞受賞につながりました。同じように、ミントに含まれるメントールは冷たさのセンサーのスイッチを入れます。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
辛さが味ではなく、熱や痛みのセンサーで感じられる仕組みの話なので A。
Q2. At about what temperature is TRPV1 switched on by heat?
switched on by heat above about 43°C とあるので C。
Q3. What can we infer about menthol in mint?
カプサイシンが熱センサーをだますのと Similarly(同様に)、メントールは冷たさのセンサーのスイッチを入れる。実際は冷たくないのにそう感じさせるので B。
Although we speak of spicy "flavors," spiciness is not among the five basic tastes. It is detected not by taste cells but by nerves that sense pain and temperature. The molecular explanation came in 1997, when Julius and colleagues identified the receptor that responds to capsaicin, the compound that gives chili peppers their heat.
This receptor, TRPV1, is an ion channel on nerve endings that also opens at temperatures above about 43°C. Capsaicin therefore acts like a duplicate key. It opens the heat sensor even when nothing is hot, and the brain interprets the signal as burning pain, which may also explain why spicy food makes us sweat. This discovery contributed to Julius receiving the 2021 Nobel Prize in Physiology or Medicine.
Menthol works in a similar way on a cold receptor called TRPM8. In birds, TRPV1 is largely insensitive to capsaicin. Some researchers propose that chili plants evolved spiciness to discourage mammals, which crush seeds, while allowing birds, which swallow seeds whole and spread them, to eat the fruit. This evolutionary explanation is still a hypothesis.
177 words ・ CEFR B2
和訳を見る
辛い「味」という言い方をしますが、辛さは5つの基本の味には含まれていません。辛さは味を感じる細胞ではなく、痛みや温度を感じる神経によって感知されます。分子レベルでの説明が得られたのは1997年で、ジュリアスさんらは、唐辛子に辛さを与える化合物カプサイシンに反応する受容体を特定しました。この受容体TRPV1は神経の末端にあるイオンチャネルで、約43℃以上の温度でも開きます。
つまりカプサイシンは合鍵のような働きをします。何も熱くないのに熱センサーを開け、脳はその信号を焼けるような痛みと解釈するのです。辛いものを食べると汗が出るのも、これで説明できるかもしれません。
この発見は、ジュリアスさんが2021年にノーベル生理学・医学賞を受賞することにつながりました。メントールも、TRPM8という冷たさの受容体に同じように働きます。鳥のTRPV1はカプサイシンにほとんど反応しません。種をかみ砕いてしまうほ乳類を遠ざけ、種を丸のみして広めてくれる鳥には実を食べさせるために、唐辛子は辛さを進化させたのだと考える研究者もいます。この進化による説明は、今のところ仮説です。
4択リーディングクイズ
Q1. Why does the author compare capsaicin to a "duplicate key"?
コロンの後に it opens the heat sensor even when nothing is hot と説明されているので C。
Q2. What is true about bird TRPV1?
bird TRPV1 is largely insensitive to capsaicin とあるので B。
Q3. How does the author regard the idea that chili plants evolved spiciness to favor birds?
最終文 This evolutionary explanation is still a hypothesis. とあるので D。
重要単語
- capsaicinC1名詞カプサイシン(唐辛子の辛味成分)Capsaicin makes chili peppers taste hot.
唐辛子の属名 Capsicum から。発音は /kæpˈseɪsɪn/(キャプセイシン)。 - receptorC1名詞受容体、センサーTRPV1 is a receptor for heat and pain.
receive(受け取る)と同語源。reception(受付)、receptive(受け入れやすい)も同じ仲間。 - ion channelC1名詞(句)イオンチャネルAn ion channel opens like a tiny gate.
channel は「水路・通り道」。テレビの「チャンネル」と同じ語で、イオンが通る小さな門のイメージ。 - pungentC1形容詞ピリッと辛い、刺激の強いWasabi has a pungent flavor.
においにも使う(a pungent smell「鼻をつくにおい」)。ラテン語 pungere(刺す)から。 - seed dispersalC1名詞(句)種子散布Birds help with seed dispersal.
disperse(まき散らす)の名詞形。生物の長文で植物と動物の関係を説明するときの定番語。 - insensitiveB2形容詞反応しない、鈍感なBirds are insensitive to capsaicin.
in-(否定)+sensitive(敏感な)。人について使うと「無神経な」という意味になる。
動画でもっと知る
動画は各チャンネルの公式埋め込みで表示しています(YouTube)。
この話題を TED で聞く
同じテーマの TED・TED-Ed を、
TED HACK で。英語の見どころ・使える表現・学習ミッションつきの日本語ガイドです。(運営:原田英語)
公式・一次情報をチェック
4コマでわかる

このネタ、誰かに教えたくなった?
辛さって実は「味」じゃなくて「痛み」の一種らしい。唐辛子の成分が、本来は約43℃以上の熱を感じるセンサーをオンにするから、脳は「熱い!」と勘違いする。このセンサーの発見は2021年のノーベル賞に。
押すと「マジかリスト」に保存されます
出典・参考文献(4件)タップで表示
- Caterina et al. (1997) The capsaicin receptor: a heat-activated ion channel in the pain pathway, Naturedoi.org
- Jordt & Julius (2002) Molecular Basis for Species-Specific Sensitivity to "Hot" Chili Peppers, Celldoi.org
- Tewksbury & Nabhan (2001) Directed deterrence by capsaicin in chillies, Naturedoi.org
- McKemy, Neuhausser & Julius (2002) Identification of a cold receptor reveals a general role for TRP channels in thermosensation, Naturedoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。












