大人になって牛乳が苦手になるのは「人類の標準」だった。むしろ平気な人が“突然変異”

読む前に予想してみよう!
大人になっても乳糖を分解できるのは、人類のもともとの性質だ
本来は離乳後に乳糖分解酵素が減るのがふつう。大人でも分解できるのは、一部の集団で広がった遺伝子の変異による。
- 対象
- 世界89か国の成人など
- 規模
- 約6万3千人(メタ分析・のち撤回)+30人の二重盲検試験
- 研究の種類
- 系統的レビュー・遺伝子研究・ランダム化比較試験
- 確かさ
- ★★★★☆
哺乳類は本来、大人になると乳糖を分解する酵素が減る。世界の大人の多くは乳糖をうまく吸収できず、牛乳が平気な人は遺伝子の変異をもつ少数派だった。
ひとことで言うと牛乳が苦手になるのは「ふつう」。平気な人のほうが珍しかった!
給食の牛乳は平気だったのに、大人になったら牛乳を飲むとお腹がゴロゴロするようになった——そんな人は少なくありません。
「自分の胃腸が弱いのかな」と思うかもしれませんが、実は逆です。大人になって乳を消化しにくくなるのは、哺乳類としてはごく"ふつう"のこと。むしろ、大人になっても牛乳がまったく平気な人のほうが、遺伝子の変異をもつ"少数派"なのです。
01乳を消化する酵素は「赤ちゃん専用」だった
牛乳に含まれる糖は乳糖(ラクトース)。小腸でラクターゼという酵素が、乳糖をブドウ糖とガラクトースに分解して吸収します。
ところが、ほとんどの哺乳類では、乳離れ(離乳)のあとにラクターゼが大きく減ります。乳を飲むのは赤ちゃんの時期だけなので、大人にはもう必要ない、というわけです。
分解されなかった乳糖は大腸まで届き、腸内細菌がそれを分解してガスを出すため、お腹の張りやゴロゴロ、下痢などが起こります。
02世界の大人の多くは「乳糖をうまく吸収できない」
つまり、世界全体で見れば、「乳糖をうまく吸収できない」ほうが多数派なのです(ただし、吸収できないことと症状が出ることは別で、あとの節のように、少量なら症状が軽い人も多いようです)。
03牛乳が平気な人は「牧畜の遺伝子」をもっていた
では、ヨーロッパ北部の人たちは、なぜ大人になっても乳糖を分解できるのでしょうか。
2002年、フィンランドの研究チームは、ラクターゼ遺伝子から少し離れた場所にある1文字の変化(C/T-13910)が、大人になってもラクターゼが作られ続けること(ラクターゼ持続性)と強く結びついていることを突き止めました。この変化は遺伝子の「スイッチ」の部分にあり、大人になってもスイッチがオフにならないようにしていると考えられています。
この変異は、牛やヤギなどを飼い、乳を利用してきた集団で広がったと考えられています。乳を栄養源にできる人が生き残りやすかったため、数千年のうちに広まった——人類の進化と食文化が手を取り合った、教科書的な例です。なお、アフリカなどでは、別の場所の変異で同じ性質をもつ集団も見つかっています。

04「コップ1杯なら平気」なことも多い
おもしろい研究もあります。1995年のアメリカの実験では、「牛乳を少し飲んだだけでひどい症状が出る」と自己申告した30人に、ふつうの牛乳と、乳糖を分解済みの牛乳を、どちらか分からないようにして1週間ずつ毎朝240mL飲んでもらいました。
すると、どちらの牛乳でも症状はごく軽く、差はありませんでした。乳糖の吸収が苦手な人でも、コップ1杯程度なら症状が出にくい人が多いことを示す結果です。
05まとめ
大人になって乳糖を消化しにくくなるのは、哺乳類として、そして世界の多数派として、ごくふつうのことでした。牛乳が平気な人は、牧畜とともに広がった遺伝子の変異をもつ、むしろ珍しい存在なのです。
自分の体質を知ったうえで、量や種類を工夫して、乳製品と上手につきあっていきましょう。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerMany adults feel bloated after drinking milk, and this is actually common among humans.
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Some adults get a stomachache after drinking milk. This is actually normal. Milk has a sugar called lactose. Babies make a special enzyme to break it down.
But after babyhood, most mammals make less of it. Most adults in the world cannot absorb lactose well. People who can drink milk easily have a special gene change. It spread among people who kept cows and goats.
65 words ・ CEFR A2
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牛乳を飲んだ後にお腹が痛くなる大人がいます。これは実はふつうのことです。牛乳には乳糖と呼ばれる糖が含まれています。赤ちゃんは、それを分解するための特別な酵素を作ります。
しかし、赤ちゃんの時期が終わると、ほとんどの哺乳類はその酵素をあまり作らなくなります。世界の大人の多くは、乳糖をうまく吸収できません。牛乳を平気で飲める人は、特別な遺伝子の変化をもっています。それは、牛やヤギを飼っていた人々の間で広がりました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main idea of the passage?
大人になって牛乳でお腹が痛くなるのは実はふつうのこと、という内容なので A。
Q2. What does the passage say about adults in the world and lactose?
Most adults in the world cannot absorb lactose well. とあるので C。
Q3. In this passage, "spread" means the gene change ...
spread は「広がる」。牛やヤギを飼う人々の間で多くの人がもつようになった、という意味なので B。
Many adults feel bloated after drinking milk, and this is actually common among humans. Milk contains a sugar called lactose, which is broken down by an enzyme called lactase. In most mammals, lactase production falls sharply after weaning. Undigested lactose then reaches the large intestine, where bacteria produce gas.
Studies suggest that most adults worldwide do not absorb lactose well, although far fewer adults have this problem in northern Europe. In 2002, Finnish scientists found a small DNA change that keeps lactase working in adults. This change probably spread among groups that kept animals for milk, because milk became a valuable food for them.
104 words ・ CEFR B1
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牛乳を飲んだ後にお腹が張る大人は多く、これは実は人間にはよくあることです。牛乳にはラクトース(乳糖)という糖が含まれ、それはラクターゼという酵素によって分解されます。ほとんどの哺乳類では、離乳後にラクターゼを作る量が大きく減ります。すると、消化されなかった乳糖は大腸に届き、そこで細菌がガスを作ります。研究によれば、世界の大人の大半は乳糖をうまく吸収できませんが、北ヨーロッパではその割合はずっと低くなります。
2002年、フィンランドの科学者たちは、大人になってもラクターゼをはたらかせ続ける小さなDNAの変化を発見しました。この変化はおそらく、乳のために動物を飼っていた集団の間で広がりました。乳が彼らにとって貴重な食べ物になったからです。
4択リーディングクイズ
Q1. What causes gas when lactose is not digested?
Undigested lactose then reaches the large intestine, where bacteria produce gas. とあるので A。
Q2. In which region do far fewer adults have poor lactose absorption?
far fewer adults have this problem in northern Europe とあるので D。
Q3. Why did the DNA change probably spread among herding groups?
because milk became a valuable food for them とあり、乳を栄養源にできることが有利だったので C。
Feeling uncomfortable after drinking milk is often seen as a weakness, but from a biological perspective it is the default. Lactose, the sugar in milk, must be split by the enzyme lactase before it can be absorbed, and in most mammals lactase production declines after weaning. Undigested lactose is fermented by bacteria in the large intestine, causing gas, bloating or diarrhea. Estimates suggest that most adults worldwide malabsorb lactose, with much lower rates in northern Europe and higher rates in the Middle East.
However, the 2017 meta-analysis behind many commonly quoted figures was retracted in 2025, so exact numbers are uncertain, and results also vary with the testing method. The ability to digest lactose in adulthood, known as lactase persistence, was linked in 2002 to a single-letter DNA change located some distance from the lactase gene, which appears to keep the gene's switch turned on.
This variant probably spread over several thousand years among herding populations, offering a textbook case of gene-culture coevolution. The symptoms may also be milder than people expect. In a 1995 blinded trial, 30 people who described themselves as severely intolerant had only minimal symptoms after drinking a cup of milk a day.
197 words ・ CEFR B2
和訳を見る
牛乳を飲んだ後に不快になることは、しばしば弱さとみなされますが、生物学的な観点からはそれが初期設定です。牛乳に含まれる糖である乳糖は、吸収される前にラクターゼという酵素で分解されなければならず、ほとんどの哺乳類では離乳後にラクターゼの産生が減ります。消化されなかった乳糖は大腸で細菌によって発酵され、ガス、お腹の張り、下痢を引き起こします。世界の大人の大半は乳糖をうまく吸収できないと推定されており、割合は北ヨーロッパではずっと低く、中東では高くなります。
ただし、よく引用される数値のもとになった2017年のメタ分析は2025年に撤回されたため、正確な数値は不確かで、結果は検査方法によっても変わります。大人になっても乳糖を消化できる能力はラクターゼ持続性として知られており、2002年に、ラクターゼ遺伝子から少し離れた場所にある1文字のDNAの変化と結びつけられました。この変化は、遺伝子のスイッチをオンのままにしているようです。
この変異はおそらく数千年かけて牧畜民の集団の間で広がり、遺伝子と文化の共進化の教科書的な例となっています。症状も、本人が思うより軽いことがあります。1995年の盲検試験では、自分はひどい乳糖不耐だと申告した30人が、1日コップ1杯の牛乳を飲んでも、ほとんど症状を示しませんでした。
4択リーディングクイズ
Q1. What does the writer mean by saying lactose intolerance is "the default"?
default は「初期設定・標準」。離乳後にラクターゼが減るのが哺乳類のふつうの状態、という意味なので D。
Q2. According to the passage, what does the 2002 DNA change seem to do?
which appears to keep the gene's switch turned on とあるので A。
Q3. What does the 1995 trial suggest?
重度の不耐と自己申告した人でも1日コップ1杯ならほとんど症状がなかったので B。
重要単語
- lactoseC1名詞乳糖Milk contains a sugar called lactose.
lact-(乳)+-ose(糖)。glucose(ブドウ糖)、fructose(果糖)も -ose で糖を表す。 - intoleranceC1名詞不耐(体が受けつけないこと)Lactose intolerance is common in East Asia.
tolerate(耐える)の否定名詞。社会の文脈では「不寛容」の意味で出る。 - enzymeB2名詞酵素Lactase is the enzyme that breaks down lactose.
酵素名は -ase で終わることが多い(lactase, amylase など)。 - weanC1動詞離乳させるMost mammals are weaned within a few months.
be weaned off ~ で「~を徐々にやめさせる」という比喩的な意味にもなる。 - mutationB2名詞突然変異A mutation let some adults digest milk.
mutate(変異する)の名詞形。variant(変異型)とともに遺伝の文章で頻出。 - absorbB1動詞吸収するMany adults cannot absorb lactose well.
be absorbed in ~「~に夢中になる」も入試頻出。名詞は absorption。
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- Lactose Intolerance(米国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所 NIDDK)niddk.nih.gov
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牛乳が苦手になるのは、実は人類の標準らしい。世界の大人の多くは乳糖をうまく吸収できない。牛乳がずっと平気な人は、牧畜とともに広がった遺伝子の変異をもつ少数派だった。
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出典・参考文献(3件)タップで表示
- Storhaug, Fosse & Fadnes (2017/2025年1月に撤回) Country, regional, and global estimates for lactose malabsorption in adults: a systematic review and meta-analysis, Lancet Gastroenterology & Hepatologydoi.org
- Enattah et al. (2002) Identification of a variant associated with adult-type hypolactasia, Nature Geneticsdoi.org
- Suarez, Savaiano & Levitt (1995) A comparison of symptoms after the consumption of milk or lactose-hydrolyzed milk by people with self-reported severe lactose intolerance, New England Journal of Medicinedoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。












