指紋は「すべり止め」じゃなかった? 測ったら接触面積は減っていた。本当の役割は"振動センサー"

読む前に予想してみよう!
指紋がまったくない人がいる
遺伝子の変異で指紋ができない「無紋症」が報告されており、入国審査で困ることから別名もある。
- 対象
- ヒトの指先と生体模倣センサー
- 規模
- 実験複数(指先の摩擦測定、センサー実験)
- 研究の種類
- 物理測定・工学的モデル・発生生物学
- 確かさ
- ★★★★☆
指紋は摩擦を増やすと思われてきたが、測定では接触面積が約3分の1減っており、摩擦は下がる方向と考えられた。一方で、ざらつきを感じる振動を作り出す役割が示唆された。
ひとことで言うと指紋はすべり止めじゃなく、細かいざらざらを感じるための仕組みかも。
指先のうずまき模様、指紋。「すべり止めのためにある」と習った人は多いでしょう。
タイヤの溝のように、摩擦を増やしてモノをつかみやすくする――とても納得できる説明です。
ところが、実際に測ってみた研究者たちは、まったく逆の結果を見つけてしまいました。
01測ったら、接触面積が「減って」いた
ちなみに、押しつける力が強いほど摩擦係数が下がることもわかりました。これもゴム的な性質です。
02本当の役目は「ざらつきセンサー」
では、何のためにあるのでしょう。同じ2009年に、まったく別の答えが示されました。
つまり指紋は、手ざわりの情報を、神経が受け取りやすい"周波数"に変換する装置なのかもしれません。レコードの針が溝をなぞって音にするのに似ています。

03指紋はどうやってできる?
2023年、英国の研究チームは、指紋の模様がどのように形成されるかを解明しました。
指紋のうねは、毛を作る過程に似た仕組みで始まりますが、途中で止まるため毛にはなりません。そしてEDAR・WNT・BMPという3つのシグナルが互いに促進・抑制し合う「チューリング・パターン」(シマウマの縞などを説明する数理モデル)によって、模様ができていくのです。
指先の複数の場所から波のように広がり、ぶつかり方によって、うずまき型・ループ型・弓型などの違いが生まれます。これなら、一卵性双生児でも指紋が一致しない理由も説明できます。
04どんでん返し:指紋がない人もいる
実は、生まれつき指紋がない人がいます。無紋症(adermatoglyphia)です。
2011年、イスラエルの研究チームは、この体質の家系を調べ、SMARCAD1という遺伝子の、皮膚だけで働く短い型の変異が原因だと報告しました。空港の入国審査で指紋認証ができず困ることから、「入国遅延病」というあだ名でも紹介されました。
指紋がなくても日常生活はおおむね送れるとされ、これも「指紋=必須のすべり止め」説には合いません。
05まとめ
- 指紋は、なめらかな面では接触面積を減らし、摩擦を下げる方向に働いていた
- 一方で、なでたときに特定の振動を生み、細かい手ざわりを感じ取るのに役立つ
- 模様はチューリング・パターンでできるため、同じ指紋は生まれにくい
- 生まれつき指紋がない人もいる
「あたりまえの説明」を疑って測ってみる。すると、指先に隠れていた本当の仕事が見えてくるのです。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerFingerprints are often said to work like the grooves on a tire, helping us grip objects.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Many people think fingerprints help us hold things without slipping. But in 2009, two scientists measured this. They found that fingerprints made the finger touch less of a smooth surface, so there was less friction, not more.
Another team found a different job for fingerprints. When we move a finger over something rough, the lines make small vibrations. These help us feel tiny differences in texture.
66 words ・ CEFR A2
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多くの人は、指紋は物をすべらずに持つのに役立つと考えています。しかし2009年、2人の科学者がこれを測定しました。彼らは、指紋があることで指がなめらかな面に触れる部分が少なくなり、摩擦は増えるどころか減ることを発見しました。
別のチームは、指紋の違う役割を見つけました。何かざらざらしたものの上で指を動かすと、指紋の線が小さな振動を生み出します。これが、手ざわりのごく小さな違いを感じる助けになるのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
指紋の本当の役割(摩擦ではなく手ざわりを感じる)がテーマなので B。
Q2. What did the 2009 measurement show?
so there was less friction, not more とあるので D。
Q3. In this passage, "texture" means ...
texture は「手ざわり・質感」。ざらざら・なめらかといった触った感じのことなので A。
Fingerprints are often said to work like the grooves on a tire, helping us grip objects. In 2009, however, Warman and Ennos pressed people's fingertips against a smooth acrylic surface and measured friction. They found that the skin behaved like rubber, where friction depends on contact area, and that the ridges reduced the contact area by about a third.
As a result, fingerprints probably lowered friction. That same year, a French team built a sensor that copied a fingertip. When it had ridges like fingerprints, sliding it over a rough surface produced strong vibrations at frequencies that nerves deep in the skin detect best. This suggests fingerprints mainly help us sense texture.
112 words ・ CEFR B1
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指紋はタイヤの溝のようにはたらき、物をつかむのを助けるとよく言われます。しかし2009年、ワーマンとエノスは人の指先をなめらかなアクリル板に押しつけ、摩擦を測定しました。その結果、皮膚はゴムのようにふるまうこと(ゴムでは摩擦は接触面積で決まります)、そして隆起によって接触面積が約3分の1減ることがわかりました。
そのため、指紋はおそらく摩擦を下げていたのです。同じ年、フランスのチームは指先をまねたセンサーを作りました。指紋のような隆起をつけると、ざらざらした面の上をすべらせたときに、皮膚の奥の神経が最もよく感じ取る周波数で強い振動が生じました。これは、指紋が主に手ざわりを感じる助けになっていることを示しています。
4択リーディングクイズ
Q1. Why did the ridges lower friction in the 2009 measurements?
ゴムでは摩擦が接触面積で決まり、the ridges reduced the contact area by about a third とあるので B。
Q2. What did the French team build?
a French team built a sensor that copied a fingertip とあるので C。
Q3. What is the writer's conclusion about fingerprints?
最終文 This suggests fingerprints mainly help us sense texture. とあるので D。
Car tires have treads for grip, and it seemed natural to assume fingerprints did the same job. In 2009, Warman and Ennos at the University of Manchester pressed fingertips against smooth acrylic while recording friction and contact area. The fingerpad behaved like rubber, whose friction rises with contact area. Compared with flat skin, the ridges cut that area by roughly a third, so on dry, smooth surfaces fingerprints lowered friction.
The authors allowed that ridges might still help on wet or soft surfaces. A more convincing role emerged the same year. Scheibert and colleagues built smooth and ridged versions of a biomimetic sensor. When the ridged sensor slid across a textured surface, it produced vibrations at a frequency set by sliding speed and ridge spacing. That frequency falls within the range where Pacinian receptors, deep touch sensors, respond best.
So fingerprints may work as a filter that turns texture into signals the nervous system can process. People born without fingerprints manage everyday tasks, which also argues against a vital gripping role. Developmental research in 2023 showed that ridges arise from interacting chemical signals that form a Turing pattern, which is why even identical twins have different prints.
197 words ・ CEFR B2
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車のタイヤには滑り止めの溝があり、指紋も同じ役目を果たしていると考えるのは自然なことに思えました。2009年、マンチェスター大学のワーマンとエノスは、指先をなめらかなアクリル板に押しつけながら、摩擦と接触面積を記録しました。指の腹はゴムのようにふるまい、その摩擦は接触面積とともに大きくなります。平らな皮膚に比べて、隆起は接触面積をおよそ3分の1減らしたので、乾いたなめらかな面では、指紋は摩擦を下げていたのです。
著者たちは、濡れた面ややわらかい面では隆起が役立つかもしれないと認めています。同じ年、より説得力のある役割が浮かび上がりました。シャイベールらは、なめらかな型と隆起のある型の2種類の生体模倣センサーを作りました。隆起のあるセンサーが質感のある面の上をすべると、すべる速さと隆起の間隔で決まる周波数の振動が生じました。その周波数は、皮膚の奥の触覚センサーであるパチニ受容器が最もよく反応する範囲に入っています。つまり指紋は、手ざわりを神経系が処理できる信号に変えるフィルターとしてはたらいているのかもしれません。
生まれつき指紋のない人も日常の作業をこなせることも、指紋が握るために不可欠だという考えに反します。2023年の発生学の研究は、隆起が、互いに作用し合う化学的信号がつくるチューリング・パターンから生じることを示しました。一卵性双生児でさえ指紋が異なるのはそのためです。
4択リーディングクイズ
Q1. Which statement best summarizes the passage?
なめらかな面では摩擦を下げ、手ざわりを感じる助けになるという内容なので B。
Q2. What possibility did Warman and Ennos admit?
The authors allowed that ridges might still help on wet or soft surfaces とあるので A。allow that ~ は「~を認める」。
Q3. Why does the author mention people born without fingerprints?
People born without fingerprints manage everyday tasks, which also argues against a vital gripping role とあるので D。
重要単語
- frictionB2名詞摩擦The ridges probably reduced friction.
比喩で「(人間関係の)不和・あつれき」の意味も入試頻出。friction between A and B。 - gripB2名詞・動詞握る力・グリップ/しっかり握るFingerprints may not improve grip at all.
get a grip「落ち着け・しっかりしろ」という口語表現もある。 - ridgeC1名詞隆起・うねEach fingerprint is made of fine ridges.
山の「尾根」も ridge。細長く盛り上がった部分のイメージ。 - textureB2名詞手ざわり・質感We feel texture through tiny vibrations.
text(織られたもの)と同語源。textile(織物)も仲間。 - vibrationB2名詞振動The sensor measured vibrations as it moved.
動詞 vibrate。スマホの「バイブ」もここから。 - receptorC1名詞受容器(感覚のセンサー)A receptor deep in the skin detects vibration.
receive(受け取る)の仲間。薬学では「受容体」と訳す。
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動画は各チャンネルの公式埋め込みで表示しています(YouTube)。
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「指紋はすべり止め」に残念なお知らせ。実測では接触面積が約3分の1減り摩擦は下がる方向だった。代わりの役目は、なでたとき細かいざらつきを感じる振動を作ることかも。
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Warman & Ennos (2009) Fingerprints are unlikely to increase the friction of primate fingerpads, Journal of Experimental Biologydoi.org
- Scheibert et al. (2009) The Role of Fingerprints in the Coding of Tactile Information Probed with a Biomimetic Sensor, Sciencedoi.org
- Glover et al. (2023) The developmental basis of fingerprint pattern formation and variation, Celldoi.org
- Nousbeck et al. (2011) A Mutation in a Skin-Specific Isoform of SMARCAD1 Causes Autosomal-Dominant Adermatoglyphia, The American Journal of Human Geneticsdoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。











