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虫垂(いわゆる盲腸)はムダじゃないかも。腸内細菌の"避難所"説と、手術しない治療

虫垂(いわゆる盲腸)はムダじゃないかも。腸内細菌の"避難所"説と、手術しない治療

読む前に予想してみよう!

虫垂炎(いわゆる盲腸)は、必ず手術で虫垂を取らないと治らない

研究カード(どんな研究?)
対象
多くの種類の哺乳類と、虫垂炎の成人
規模
多くの哺乳類の体のつくりの比較/虫垂炎の成人1552人の試験
研究の種類
体のつくりの比較研究・ランダム化比較試験
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

虫垂はムダな器官とされてきたが、腸内細菌の「避難所」として働く説が提案され、哺乳類の中で少なくとも2回、別々に進化したことも示された。虫垂炎は抗菌薬で治せる例もある。

ひとことで言うと盲腸の先の虫垂は、腸の良い細菌を守る場所かもしれない。

もくじ
  1. 虫垂は、別々の動物の系統で少なくとも2回生まれていた
  2. 腸内細菌の「避難所」説
  3. 虫垂があると、腸の感染症がぶり返しにくい?
  4. 虫垂炎は「必ず手術」ではなくなってきた
  5. 「ムダな器官」という言葉の落とし穴
  6. まとめ

虫垂(ちゅうすい)は、大腸の始まりにある盲腸から飛び出した、長さ5〜10cmほどの細い袋です。

「盲腸」と呼ばれることも多く、炎症を起こすと手術で取ることがよくあります。取っても大きく困ることはないので、長いあいだ「進化のムダな名残」の代表例として教科書に載ってきました。

ところが21世紀に入って、この見方が少しずつ変わってきています。

01虫垂は、別々の動物の系統で少なくとも2回生まれていた

進化のムダな名残なら、ふつうは消えていく方向に進みます。ところが――

別々に生まれ、長く残っている。だとすると、ただの名残ではなく何かの役に立っているのでは、と考えられるわけです。

02腸内細菌の「避難所」説

虫垂には、リンパ組織(免疫の組織)がたくさん集まっています。この点をヒントに、2007年に新しい仮説が提案されました。

今のような医療や衛生環境がなかった時代には、おなかの感染症で腸内細菌が流されてしまうことが、今よりずっと多かったと考えられます。そんなとき、細菌の避難所があれば有利だったかもしれません。

袋の奥まった構造が、細菌の「避難所」になるという仮説
袋の奥まった構造が、細菌の「避難所」になるという仮説

03虫垂があると、腸の感染症がぶり返しにくい?

この説に合うデータも報告されています。

対象はクロストリジオイデス・ディフィシル感染症です。抗菌薬を使ったあとなどに起こる腸の感染症で、ぶり返しやすいのが特徴です。2011年、米国の研究チームは、この病気で入院した患者の記録を調べました。すると、虫垂がある人のほうが再発が少ないという関連が見られました。ほかの要因を統計的にそろえて比べると、再発のリスクは約0.4倍でした。

ただしこれは、過去の記録をさかのぼって調べた観察研究で、因果関係の証明ではありません。研究者自身も、これから患者を追跡する研究で確かめる必要があると述べています。

実際、2023年に8つの研究をまとめた分析では、虫垂を取った人で再発が多いとは言えないという結果でした。この点はまだ決着していません。

04虫垂炎は「必ず手術」ではなくなってきた

もう1つの大きな変化が、治療法です。

05「ムダな器官」という言葉の落とし穴

虫垂の話は、生物学の用語の難しさも教えてくれます。

進化で言う「退化した(vestigial)」は、「元の機能を失った」という意味で、「何の役にも立たない」とは違います。虫垂は、消化の機能はほとんど失っていても、免疫や細菌の維持という別の役を担っている可能性があるのです。

06まとめ

  • 虫垂は哺乳類で少なくとも2回独立に進化し、8000万年以上維持されてきた
  • 腸内細菌の「避難所」として働くという仮説が提案されている
  • 虫垂がある人は、ある腸の感染症の再発が少ないという報告もあるが、その後の研究をまとめた分析では確かめられていない
  • 虫垂炎は、条件によっては抗菌薬だけで治療できる場合がある

「ムダな器官」という評価は、まだ観察が足りなかったということかもしれません。体の中には、説明を待っている部品がまだありそうです。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerThe appendix, a narrow pouch about 5 to 10 centimeters long, has often been described as a useless leftover… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

The appendix, a narrow pouch about 5 to 10 centimeters long, has often been described as a useless leftover of evolution. However, in 2009, a team led by Smith compared many mammals and found that the appendix had evolved independently at least twice and had been kept for more than 80 million years. Such a long history suggests that it may have a function.

One idea, proposed in 2007, is that it acts as a "safe house" for helpful gut bacteria. If an illness flushes bacteria out of the intestine, those hiding in the appendix could help the gut recover. Meanwhile, a large 2020 trial showed that many patients with appendicitis could be treated with antibiotics instead of surgery.

119 words ・ CEFR B1

和訳を見る

長さ約5〜10センチの細い袋である虫垂は、しばしば進化の役に立たない名残だと説明されてきました。しかし2009年、スミスが率いるチームは多くの哺乳類を比較し、虫垂が少なくとも2回独立に進化し、8000万年以上保たれてきたことを発見しました。これほど長い歴史は、虫垂に何らかの機能があるかもしれないことを示しています。

2007年に提案された考えの一つは、虫垂が有益な腸内細菌の「避難所」としてはたらくというものです。病気で腸から細菌が流し出されても、虫垂に隠れていた細菌が腸の回復を助けられるかもしれません。一方、2020年の大規模な試験では、虫垂炎の多くの患者が手術の代わりに抗菌薬で治療できることが示されました。

4択リーディングクイズ

Q1. What did Smith's team find in 2009?

Q2. According to the "safe house" idea, how might the appendix help?

Q3. Why does the writer say the long history of the appendix is important?

重要単語

  • appendixB2
    名詞虫垂The appendix is a small pouch near the large intestine. 本の「付録」も appendix。体に「付け足された」ものというイメージ。複数形は appendices。
  • vestigialC1
    形容詞退化した・名残のIt was called a vestigial organ. vestige(痕跡・名残)の形容詞。進化論の文脈で頻出。
  • gut bacteriaB2
    名詞(句)腸内細菌Gut bacteria help digest our food. gut は「腸・はらわた」。口語で gut feeling は「直感」。
  • biofilmC1
    名詞バイオフィルム(細菌の膜)Bacteria form a biofilm inside the appendix. 歯垢(プラーク)も biofilm の一種。
  • appendicitisC1
    名詞虫垂炎Appendicitis causes sudden pain. -itis は「炎症」。bronchitis(気管支炎)、arthritis(関節炎)も同じ。
  • antibioticsB2
    名詞抗菌薬・抗生物質Antibiotics worked for many patients. anti-(反)+bio(生命)。ウイルスには効かない点も入試で問われる。
「虫垂はムダな器官」と習ったけど、哺乳類の系統を調べたら少なくとも2回、別々に進化し、8000万年以上維持されていた。腸内細菌の避難所として働くという説も出ている。しかも虫垂炎は、必ず手術とも限らなくなってきている。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Smith et al. (2009) Comparative anatomy and phylogenetic distribution of the mammalian cecal appendix, Journal of Evolutionary Biologydoi.org
  2. Randal Bollinger et al. (2007) Biofilms in the large bowel suggest an apparent function of the human vermiform appendix, Journal of Theoretical Biologydoi.org
  3. CODA Collaborative (2020) A Randomized Trial Comparing Antibiotics with Appendectomy for Appendicitis, New England Journal of Medicinedoi.org
  4. Im et al. (2011) The Appendix May Protect Against Clostridium difficile Recurrence, Clinical Gastroenterology and Hepatologydoi.org
  5. Naga et al. (2023) A Systematic Review and Meta-Analysis: A Prior Appendectomy Does Not Increase the Risk of Severe Clostridioides difficile Infection or Recurrence, Digestive Diseases and Sciencesdoi.org