第3章|続ける技術3-4集中のつくり方:ポモドーロとスマホスマホが机にあるだけで集中が落ちる? 有名な研究には「その後」があった

2017年、約800人のスマホ利用者が、記憶や推論の課題に取り組みました。スマホの置き場所は、机の上、ポケットやかばんの中、別の部屋の3通りです。成績がいちばんよかったのは、別の部屋に置いた人たち。電源が入っていても切れていても、結果は変わらなかったといいます。「スマホはそこにあるだけで頭の働きを落とす」として、大きな話題になった研究です。ところが、この話には続きがありました。
01ポモドーロ・テクニックとは何か
ポモドーロ・テクニックは、Francesco Cirillo が考えた時間の使い方です。ポモドーロはイタリア語で「トマト」。Cirillo が大学生のころ、トマトの形をしたキッチンタイマーを使っていたことから、この名前がつきました。公式サイトによると、始まりは1980年代、勉強に集中できなかった Cirillo が「2分間、邪魔されずに勉強できるか」を試した小さな実験でした。1990年代には、彼が指導していたソフトウェア開発のチームに広まっていきます。
一般によく紹介される基本の形は、次のとおりです。
- やることを1つ決める
- タイマーを25分にセットして、その作業だけをする
- タイマーが鳴ったら、5分ほど休む
- これを4回くり返したら、長めの休憩(15〜30分ほど)をとる
「25分」は絶対ではない
ここで知っておきたいのは、考案者自身が「25分」にこだわっていないことです。Cirillo は公式サイトで、メディアやアプリがこの方法を「25分働いて休む」という一つの指示に縮めてしまったと述べています。25分のタイマーは、時間や集中とどう付き合うかという考え方の一つの表れにすぎない、という立場です。休憩中に何をすればいいかと聞かれたときには「何もしない」と答えています。
つまり、ポモドーロの中心にあるのは「時間を区切ること」と「自分の集中のくせに気づくこと」です。中学生なら15分、集中が続く人なら50分でもかまいません。タイマーが鳴るまでに何回スマホが気になったかをメモしておくと、自分の集中のくせが見えてきます。
02研究で見る「決めた休憩」の効果
ポモドーロ型の休憩は、本当に効果があるのでしょうか。オランダの研究を2つ紹介します。
1つ目は Biwer ほか(2023)の研究です。大学生87人が、実際の自習日にオンラインの仕組みを使って勉強しました。参加者は次の3つに分けられました。
- 自分で好きなときに休む(35人)
- 24分勉強して6分休む、ポモドーロ型(25人)
- 12分勉強して3分休む、短い区切り型(27人)
結果、自分で休んだグループは、勉強の時間も休憩も長くなり、疲れや気の散りが大きく、集中ややる気は低めでした。一方、終えた課題の量は3グループで差がありませんでした。決まった休憩のほうが、短い時間で同じ量をこなし、気分もよかったということです。
2つ目は Smits ほか(2025)の研究です。大学生94人が2時間の勉強をし、自分で休む方法、25分+5分のポモドーロ、作業の長さに応じて休憩の長さを決める方法の3つを比べました。こちらでは、ポモドーロのグループは疲れが早めにたまり、やる気の下がり方も早いという結果でした。ただし、2時間全体で見た疲れややる気、作業の量には差がありませんでした。
結論:万能ではないが、試す価値はある
2つの研究を合わせると、「ポモドーロにすれば必ず集中できる」とは言えません。どちらも人数が少なく、短い時間の実験です。それでも、休憩をあらかじめ決めておくことで、勉強の量が減るわけではないという点は共通しています。休憩がだらだら長くなりがちな人には、試してみる価値があります。
03英語学習のポモドーロ・メニュー
英語学習は、単語・リスニング・音読など、性質のちがう練習を組み合わせられるので、時間を区切る方法と相性がよいです。25分を1セットにした例を挙げます(長さは自分に合わせて変えてください)。
25分×1セット(平日の夜)
| 時間 | やること |
|---|---|
| 0〜5分 | 単語アプリやカードで前日の復習 |
| 5〜15分 | 1分ほどの音声で、シャドーイングを数回 |
| 15〜25分 | 同じ英文を音読し、最後に1回録音する |
| 休憩5分 | 席を立って水を飲む。スマホは見ない |
25分×2セット(休日)
- 1セット目:多読。やさしい英文を、辞書を引かずにどんどん読む
- 休憩5分
- 2セット目:読んだ話を英語で3〜5文に要約して書く
15分×1セット(中学生・初心者)
- 5分:教科書の新出単語を、見ないで言えるか確認
- 10分:本文を音声に合わせて音読
休憩中は、SNSや動画を見ないことをおすすめします。短い休憩のつもりが長くなりやすく、次のセットに戻るのが難しくなるからです。Cirillo の「何もしない」は、そのまま使えるアドバイスです。
ポイント:1セットに入れる練習は2〜3種類まで。種類を詰めこみすぎると、切りかえのたびに集中が途切れます。
04スマホは「そこにあるだけで」頭を使う?
2017年、Adrian Ward らの研究が大きな話題になりました。約800人のスマホ利用者に記憶や推論の課題を解いてもらい、その間のスマホの置き場所を3つに分けました。
- 机の上
- ポケットやかばんの中
- 別の部屋
結果、別の部屋に置いた人の成績がいちばんよく、机の上に置いた人の成績がいちばん低いという結果でした。電源が入っていても切れていても、画面が上でも下でも、結果は変わらなかったと報告されています。また、スマホへの依存度が高い人ほど影響が大きかったといいます。研究者たちは、スマホを見ないようにがまんすること自体が、限られた頭の力を使ってしまうのではないかと考えました。
その後、結果は分かれている
ところが、この研究には続きがあります。
- Ruiz Pardo と Minda(2022)は、Ward らの2つ目の実験を、方法を事前に登録したうえで、同じ課題・同じ条件でやり直しました。その結果、スマホの置き場所による成績の差は見られませんでした。
- Parry(2024)は、56件・合計7,093人の研究をまとめたメタ分析を行いました。6つの分析のうち、はっきりした効果が出たのはワーキングメモリ(作業記憶)だけで、ほかの働きには効果が見られませんでした。研究ごとの方法のばらつきが大きく、人数の少ない研究が多いことも指摘されています。
ポイント:「スマホが近くにあるだけで頭が悪くなる」は言いすぎ。ただ、ワーキングメモリへの小さなマイナスはありうるとされ、まだ結論は出ていない。
では、スマホを別の部屋に置くのは意味がないのでしょうか。そうとは限りません。置き場所を変える手間はほとんどかからず、通知に気を取られたり、つい手に取ったりする機会は確実に減らせます。効果が小さかったとしても、損をしない工夫として続ける価値は十分にあります。
05英語学習の集中環境をつくる
ここまでの話をふまえて、英語学習のための環境づくりをまとめます。
スマホとの付き合い方
- 勉強中はスマホを別の部屋か、かばんの奥に。少なくとも視界から外します。
- 通知を切る。とくにSNSやメッセージの通知は、勉強の時間だけでもオフにします。
- 英語アプリを使うときのジレンマ:単語アプリや音声はスマホで使いたい、という人は多いはずです。その場合は、使うアプリ以外の通知を止める、勉強用のホーム画面にはSNSのアイコンを置かない、などで誘惑を減らします。紙の単語帳やパソコンでできる練習は、スマホを使わずにやるのも一つの方法です。
場所と道具
- 勉強する場所を決める。同じ机、図書館の同じ席など、場所そのものを「英語を始めるきっかけ」にします。
- 始める準備を前の晩に。教科書を開いておく、イヤホンを充電しておく。始めるまでの手間を減らします。
- タイマーはスマホ以外で。キッチンタイマーやパソコンのブラウザで使えるタイマーなら、時間を見るたびにスマホを触らずにすみます。
一緒に集中する
一人だと集中が続かない人は、図書館や自習室など、まわりの人も勉強している場所を使うのも手です。オンラインで知らない人と一緒に作業するサービスもありますが、例えば Focusmate は利用規約で、アカウントを持てるのを17歳以上としています。中学生・高校生は、家族や友だちと時間を決めて一緒に勉強する方法から始めましょう。
時間を区切って休憩を決め、スマホは視界の外に置く
今日からのやり方
- 今日の英語でやることを1つ決め、タイマーを25分(初心者は15分)にセットする
- スマホは別の部屋かかばんの奥に入れ、勉強中の通知を切る
- タイマーが鳴るまで、決めた練習だけをする
- 休憩の5分は席を立ち、スマホも画面も見ずに過ごす
- 1日の終わりに何セットできたかを記録し、ちょうどよい長さに調整する
レベル別:あなたならこうする
15分勉強+5分休憩から始めます。中身は「単語の確認」と「音読」の2つで十分です。スマホは別の部屋に置き、時間はキッチンタイマーで計りましょう。
25分+5分を1日2セットが目安です。1セットの中に復習・リスニング・音読を組み合わせ、最後に録音して確認すると、短い時間でも練習の中身が濃くなります。
集中が続くなら50分+10分など長めに区切ってもかまいません。洋書や長いポッドキャストは区切りのよいところで休憩し、休憩のあとに内容を英語で短く要約してから再開します。
よくある失敗と対策
5分のつもりが長くなり、次のセットに戻りにくくなります。休憩は席を立つ、水を飲む、窓の外を見るなど、画面を見ずに過ごすのがおすすめです。
25分は目安にすぎず、考案者も長さにこだわっていません。15分でも10分でも、守れる長さから始めて少しずつのばしましょう。
置き場所の効果は研究で結果が分かれていますが、手に取る機会は確実に増えます。かばんの奥や別の部屋に置くだけなので、試して損はありません。
1 MIN
スマホを別の部屋に置き、15分のタイマーで英語を1セットやる
友だちに出したい、この節の3問
タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。
3-4ポモドーロの本質は「25分」という長さ?
考案者の Cirillo は、メディアやアプリがこの方法を「25分やって休む」という一つの指示に縮めてしまったと述べ、25分は考え方の一つの表れにすぎないとしています。大切なのは、自分の集中と時間の使い方に気づくことです。
3-4スマホが机にあるだけで頭の働きが落ちる?
Ward ほか(2017)は、スマホを別の部屋に置いた人のほうが記憶や推論の課題の成績がよかったと報告しました。ただ、その後の再現実験では同じ結果が出ず、メタ分析でも効果は小さいとされています。
3-4勉強中の休憩は「疲れたら取る」のがいい?
大学生87人の実験では、自分のタイミングで休んだ人は勉強も休憩も長くなり、疲れや気の散りが大きく、集中ややる気は低めでした。あらかじめ決めた休憩の人と、終えた課題の量は同じでした。
PRACTICE KIT
この節の実践キット
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原田英語のサイトで練習する
使えるサイト・アプリ
動画で学ぶ
もっと詳しく(コラム)
この節の根拠(研究・公式情報)
2つの実験で、スマホがそばにあるだけで、使える頭の容量(ワーキングメモリなど)が減ると報告した。別の部屋に置いた人の成績がよく、スマホへの依存度が高い人ほど影響が大きかった。
Ward, A. F., Duke, K., Gneezy, A., & Bos, M. W. (2017). Brain drain: The mere presence of one’s own smartphone reduces available cognitive capacity. Journal of the Association for Consumer Research, 2(2), 140–154.出典を開く ↗Ward ほかの2つ目の実験を、事前登録のうえで同じ課題・条件でくり返した直接の再現研究。スマホの置き場所による成績の差は見られなかった。
Ruiz Pardo, A. C., & Minda, J. P. (2022). Reexamining the “brain drain” effect: A replication of Ward et al. (2017). Acta Psychologica, 230, 103717.出典を開く ↗56件・7,093人の研究のメタ分析。スマホがそばにあることの効果がはっきり出たのはワーキングメモリだけで、ほかの認知機能には効果が見られなかった。研究間のばらつきが大きい。
Parry, D. A. (2024). Does the mere presence of a smartphone impact cognitive performance? A meta-analysis of the “brain drain effect.” Media Psychology, 27(5), 737–762.出典を開く ↗大学生87人の1日の自習で比較。自分で休んだ群は勉強も休憩も長く、疲れや気の散りが大きく、集中ややる気が低めだった。決めた休憩の群と、終えた課題量に差はなかった。
Biwer, F., Wiradhany, W., oude Egbrink, M. G. A., & de Bruin, A. B. H. (2023). Understanding effort regulation: Comparing ‘Pomodoro’ breaks and self-regulated breaks. British Journal of Educational Psychology, 93(S2), 353–367.出典を開く ↗大学生94人の2時間の勉強で、25分+5分のポモドーロは自分で休む方法より疲れが早くたまったが、全体の疲れ・やる気・作業量には差がなかった。
Smits, E. J. C., Wenzel, N., & de Bruin, A. (2025). Investigating the effectiveness of self-regulated, Pomodoro, and Flowtime break-taking techniques among students. Behavioral Sciences, 15(7), 861.出典を開く ↗よくある質問
音楽を聞きながら勉強してもいいですか?
リスニングや音読の時間は、音楽を止めたほうが英語の音を聞き分けやすくなります。単語の書き取りなど耳を使わない練習なら、自分が集中できるかを試して決めましょう。
スマホの学習アプリを使うと集中が切れます。
アプリそのものより、ほかのアプリの通知や誘惑が問題になることが多いはずです。勉強中は使うアプリ以外の通知を切り、終わったらすぐにスマホを片づける、とルールを決めましょう。
25分が長すぎて集中が続きません。
長さは自由に変えてかまいません。10分や15分から始め、守れたら少しずつのばします。紹介した大学生の実験でも、12分勉強+3分休憩という短い区切りのグループがありました。




