Xに投げられたこの一言が2000万回以上表示され、何百もの答えが集まりました。
「appleで🍎が浮かぶこと」「日本語を通さないこと」「英英辞典を引くイメージ」──
どれも当たっています。そして、どれも大事な部分が抜けています。
頭の中では、実際に何が起きているのでしょうか。
1結論:「訳さない」のではなく「訳が間に合わない」
最初に結論を書きます。
「英語を英語のまま理解する」とは、日本語を消すことではありません。英語から意味へ向かうルートが、日本語を通るルートより先にゴールしてしまう状態のことです。
この違いは決定的です。多くの人が「日本語を頭から追い出そう」として失敗するのは、それがそもそも不可能だからです。
2つの言語を使う人の頭の中を調べた研究では、英語を読んでいる最中も母語の単語が自動的に立ち上がり続けていることが、繰り返し確認されています。日本語のスイッチをオフにするボタンは、脳に存在しません。
ストループ効果で考えてみてください。「あか」という文字が青いインクで書かれていると、インクの色を答えるのに時間がかかります。読むまいとしても、読んでしまう。母語の意味処理は自動化されすぎていて、意識では止められないのです。目指すべきは日本語を止めることではなく、英語を止められなくすること。
2本のルートの、かけっこだと考える
英単語を見た瞬間、頭の中では2つのルートが同時にスタートします。
中継地点が1つ多い。習いはじめはこの道しか通れない
その語に出会った回数が増えるほど太く速くなり、やがてAを追い抜く
「英語のまま理解できた」という感覚は、ルートBが先にゴールしたときに生まれます。ルートAが消えたわけではありません。走ってはいるけれど、間に合っていないだけです。
この理解が大事なのは、勉強の方針が180度変わるからです。やるべきことは「日本語を我慢すること」ではなく、ルートBを太くする回数を稼ぐこと。ただそれだけです。
「日本語で考えちゃダメだ」と自分を責めている時間は、英文を1行も読んでいません。我慢は訓練ではないのです。
23つの段階を通って、人は英語のまま読めるようになる
では、ルートBはどうやって太くなるのか。これをうまく説明してくれるのが、クロールとスチュワートが1994年に発表した改訂階層モデルという考え方です。名前は難しそうですが、中身は単純です。
頭の中には3つの層がある、と考えます。
「りんご」
「apple」
英語と意味の層のパイプは、最初はごく細い。だから遠回りする。
このモデルの面白いところは、英語ができるようになるにつれてパイプの太さが変わると考える点です。
段階① 訳語とだけ結びついている時期
英単語が「日本語の訳」とだけつながっている状態です。apple を見て「りんご」を思い出し、そこから意味にたどり着く。単語帳で覚えた直後の語は、ほぼ全部ここにいます。
大事なのは、これは欠陥ではなく通過点だということ。訳語というラベルがなければ、新しい単語を記憶に留めることすらできません。訳語は足場です。
段階② 2つの道が競い合う時期
文章の中で何度もその語に出会ううちに、英語から意味への細いパイプが育ってきます。ただし翻訳の道のほうが速い場面もまだ多く、日によって、語によって、体調によってブレます。
「読める日と読めない日がある」という感覚は、この段階の典型的なサインです。伸び悩みではなく、移行中の証拠だと考えてください。
段階③ 英語から意味へ直行する時期
英語から意味への直通ルートが太くなり、翻訳の道を使わずに理解が終わる状態。これがまさに「英語を英語のまま理解している」状態です。
そしてもうひとつ、このモデルが教えてくれる大事な事実があります。英語と日本語をつなぐ線は、上級者になっても消えません。上書きではなく、追加なのです。
だから上級者は「訳せない」のではなく、「訳さなくてもわかるし、必要なら訳せる」。通訳者がその典型です。「日本語訳を覚えると英語のまま理解できなくなる」という心配には、根拠がありません。
実際どうすればいいか:単語帳で訳語を覚えるのをやめる必要はありません。やめるべきは、訳語を覚えた時点で学習を終わらせることです。その語に文章の中で再会する回数を確保して、はじめて段階①から②へ進みます。
3「appleで🍎が浮かぶ」は正しい。ただし結果であって手段ではない
バズの中でいちばん多かった「イメージが浮かぶ」という説明。これは感覚的なたとえではなく、認知科学の考え方とぴったり重なります。
人は情報を、言葉としてだけでなく映像としても覚えています。両方で記憶された情報は、片方だけの情報よりはるかに残りやすい。さらに進んだ考え方では、言葉の意味を理解すること自体が「その場面を頭の中で薄く再現すること」だとされます。run を理解するとき、脳は走る場面をうっすら再演している、というわけです。
これを示した有名な実験があります。「釘を壁に打ち込んだ」または「釘を床に打ち込んだ」という文を読ませたあと、釘の絵を見せて「さっきの文に出てきたか」を判断させる。すると文が示す向き(横向き/縦向き)と絵の向きが一致していると、判断が速くなったのです。文には釘の向きなど一言も書かれていないのに、読んだ人は勝手に向きまで思い描いていました。
ここに最大の誤解があります。イメージが浮かぶのは結果であって、手段ではありません。「英語を読みながら頑張って絵を思い浮かべよう」とすると、頭の作業スペースを余計に使ってしまい、かえって読むのが遅くなります。イメージは、十分な回数出会った語に勝手に立ち上がるものです。
正確には「映像」より「場面の見取り図」
読解の研究では、読み手が文章から作り上げる頭の中の見取り図を状況モデルと呼びます。誰が、どこで、いつ、何を、どんなつもりで──という多方向の地図です。
「英語のまま読めている」人の頭に残っているのは、英単語の列でも日本語訳でもなく、この見取り図です。だから読み終えたあと、使われていた単語は思い出せないのに、内容は説明できる。この状態が出てきたら、段階③に入った合図です。
セルフチェック
英文を1ページ読み終えた直後に、本を閉じて自分に聞いてみてください。
しゃべれない → 単語の解読で終わっている。素材が難しすぎる可能性が高い
4落とし穴3つ──抽象語・英英辞典・返り読み
ここからが、いちばん伝えたい部分です。「英語のまま」を目指す人がハマりやすい罠が3つあります。
落とし穴① 抽象語は、日本語を通ってよい
Xのリプライの中に、するどい指摘がありました。「define みたいな抽象概念系だと、日本語を介入させないと無理だと思う」。
この直感は、研究の結果と一致しています。心理学には具象性効果と呼ばれる現象があります。apple, dog, run のように目に見えるもの(具象語)は、映像として頭に浮かぶので処理も記憶も速い。一方 define, imply, justify, tendency のような抽象語には、そもそも対応する映像がありません。
抽象語の意味は、ほかの言葉とのつながりの中でしか決まらない。だから英語の抽象語は、日本語の訳語や説明という足場を長く必要とします。これは学習者が未熟だからではなく、語そのものの性質です。
では抽象語は一生訳読なのかというと、そうではありません。抽象語における「英語のまま」とは、その語と一緒によく出てくる言葉が反射的に浮かぶことです。
EXAMPLE
account for を見た瞬間に浮かぶべきもの
⭕ account for 40% of sales / account for the difference という、よく使われる形の束
具象語のゴールが映像なら、抽象語のゴールは一緒に使われる言葉のネットワーク。だから抽象語は、単語帳の訳語欄だけ見ていても一生直結しません。例文ごと音読して、使われ方を体に入れるのが唯一の道です。
落とし穴② 英英辞典に切り替えるのは「まだ早い」
「英語を英語のまま」と聞いて多くの人が最初に思いつくのが、英英辞典への切り替えです。象徴としては完璧ですが、実際の手段としてはかなりの確率で裏目に出ます。
辞書の種類と学習効果を比べた古典的な研究があります。英和のような二言語辞書、英英のような英語だけの辞書、そして英語の定義と訳語の両方が載っている辞書の3つを比較したところ、いちばん成績がよかったのは3つめでした。英語だけの辞書が優れているわけではなかったのです。
理由は考えてみれば当然で、英英辞典の定義文そのものが読解の負担になるから。調べた語の説明文に、また知らない語がある。この二次遭難が、時間とやる気を奪います。
よくある失敗の流れ:意識の高い学習者が英英辞典を買う → 定義文が読めない → 「自分にはまだ早い」と落ち込む → 辞書を引く回数そのものが減る → 語彙が伸びない。手段が目的になってしまった典型例です。
英英辞典を捨てる必要はありません。順番と役割を変えるだけです。
STEP 2 英英で中心の意味を確認する(訳語とのズレを直す)
STEP 3 例文を2つ選んで音読する(ここが本番)
STEP 4 その語に文章の中で再会するまで待つ(多読・多聴の出番)
辞書は「英語のまま」を作る装置ではなく、材料を用意する装置です。直結を作るのは、あくまで再会の回数。
なお英英辞典が本当に威力を発揮するのは似た語の使い分けです。say / tell / speak / talk のように訳語が同じで使い方が違う語では、英和より英英のほうが圧倒的に速く解決します。目的を絞れば、最強の道具になります。
落とし穴③ 「返り読み禁止」は半分ウソ
「返り読みをしない」。よく聞くアドバイスですが、「一切戻ってはいけない」と受け取ると、読解力はむしろ落ちます。
目の動きを計測した読解研究では、母語話者でも読んでいる最中に一定の割合で戻っていることが繰り返し観察されています。it が何を指すか確かめる、あいまいな構造を直す、専門用語を確認する。読むという行為は、もともと前進と微調整の組み合わせです。
つまり問題は「戻ること」ではなく、何のために戻っているかです。
・関係代名詞が何を受けているか探す
・but のあとで前提を読み直す
意味のつじつまを合わせるための戻り
・日本語の語順に並べかえる
・「〜するところの」で組み立て直す
訳文を作るための戻り
やめるべきは後者だけです。英文を最後まで読んでから日本語の語順に並べかえる作業は、ルートAを毎回強化する行為にほかなりません。遠回りの道を太くする筋トレを、毎日やっているようなものです。
「前から処理する」とはどういうことか
英語は、意味のかたまりが出てきた順に確定していける言語です。
その報告書は → 先週出たやつね → で、示している → その政策が → ほとんど効果がなかった → 地方には
「先週出された報告書は、その政策が地方にほとんど効果を持たなかったことを示唆している」というきれいな訳文を作る必要はありません。かたまりごとに情報が積み上がれば、理解は完了しています。
きれいな日本語に直そうとした瞬間、翻訳の道が起動します。訳文の美しさは、読解の敵です。入試の和訳問題は、別の技能として切り分けてください。
5「英語のまま」を支える3つの土台
仕組みはわかりました。では実際に直結を作るには何が必要なのか。研究が示す条件は3つです。
いちばん冷たく、いちばん重要な条件です。ヒューとネイションの研究では、辞書などの助けなしで文章をきちんと理解するには、その文章の語の約98%を知っている必要があると報告されています。100語につき知らない語は2語まで、という水準です。
つまり、知らない語だらけの英文を「英語のまま」読むことは、原理的に不可能です。知らない語は意味に直結しようがない。「英語のまま読めない」と悩んでいる人の多くは、読み方ではなく素材の選び方を間違えています。
人が同時に頭に置いておける情報の数は、かなり限られています。1語ずつ処理していては、文の最後に着くころには前半が消えています。
これを解決するのが、as a result of / in terms of / take … into account のような決まった言い回しを、1語ずつ組み立てるのではなくひとかたまりで取り出すことです。
かたまりで読めるほど頭に余裕ができ、その余裕が内容の理解にまわります。「速く読めるから内容がわかる」のではなく、「かたまりで読めるから内容を考える余裕ができる」のです。
学習は「ルールとして知っている」段階から「体が勝手に動く」段階へ移り、繰り返しによって自動化される。自転車や楽器と同じ道すじです。
見落とされがちなのは、自動化の目印は平均速度ではないという点。研究では、処理のばらつきが小さくなることこそが自動化の証拠だと考えられています。
「調子がいいと読めるが、悪いと訳読に戻る」という状態は、まだ自動化されていないサイン。目指すのは最高速度の更新ではなく、どんな日でも同じ速さが出ることです。
6今日から始める7つの訓練
理屈は以上です。ここからは実行編。ルートBを太くするための訓練を、優先度の高い順に7つ挙げます。全部やる必要はありません。上から順に、できるものを1つ足してください。
訓練 01
訓練 02
訓練 03
訓練 04
訓練 05 ★最短ルート
訓練 06
訓練 07
最小構成でいくなら:訓練01(多読)+訓練05(リスニング先行)+訓練07(記録)の3つ。合計40分弱で、直結を作る要素が一通りそろいます。
7現在地を測る──WPMと、共通テストという現実
WPM(words per minute)は、1分あたりに読める語数です。測り方は簡単。
2. ストップウォッチを押して、辞書なしで最後まで読む
3. かかった時間(秒)を記録する
4. 語数 ÷ 秒数 × 60 = WPM
5. 内容について自分に3問出し、2問以上答えられたら有効な記録とする
理解度を犠牲にした速読は、記録として無効です。「速く目を動かす練習」は「英語のまま」とは別物なので、注意してください。
参考までに、英語を母語とする人の黙読は、内容にもよりますがおおむね250〜300wpm前後とされます。150wpmは、母語話者の半分程度。決して非現実的な目標ではありません。
共通テストは「約5,600語 vs 80分」
「英語のまま」は理想論に聞こえるかもしれません。しかし受験生にとっては、すでに必須条件になっています。
近年の共通テストのリーディングは、試験時間80分、大問8題すべて読解、総語数は約5,600語規模。過去には6,000語を超えた年もありました。
単純に割れば1分あたり70語。ただし実際には、設問を読む時間、選択肢を照らし合わせる時間、図表と本文を往復する時間が必要です。本文そのものは150wpm前後で処理できることが望ましいと言われるのは、この余白を確保するためです。
「時間が足りない」の正体は、多くの場合スピード不足ではなく、通っている道の問題です。英語を読み、日本語に変え、意味を取るという3工程は、どれだけ練習しても2工程より速くなりません。速く訳す練習ではなく、訳さずに読む練習に切り替えてください。前者は頭打ちになり、後者は伸び続けます。
8よくある疑問4つ
やめる必要はありません。訳語は新しい語を記憶に留めるための足場で、上級者になっても消えませんし、消す必要もない。問題は、訳語を覚えた時点で終わりにすること。覚えた語に文章の中で再会する仕組みを作らないと、いつまでも段階①のままです。単語帳は入口であって、出口ではありません。
語彙量と今の処理速度によって大きく変わるので、一律には言えません。ただしWPMは訓練量に素直に反応する指標なので、週1回測っていれば1〜2か月で変化の有無が判断できます。伸びていない場合、原因はほぼ2つ。素材が難しすぎるか、触れている量が足りないか。どちらも直せます。
効果は知っている語の割合しだいです。ドラマの会話にはスラング、省略、固有名詞が大量に含まれます。研究では、テレビ番組の語の95%をカバーするのに3,000語族、98%には7,000語族が必要とされました。多くの学習者は「なんとなくわかる」95%の壁までは来ても、直結に必要な98%には届きません。その状態で流し見しても直結は作られない。使うなら英語字幕で1回、字幕なしで1回、気に入った場面だけシャドーイング。全編を完璧に理解しようとするより、5分を深く回すほうが効きます。
「英語のまま」の観点では、使いどころは3つです。①自分の語彙に合わせて英文を書き直してもらう ②英語の定義と例文を量産してもらう ③この文章は自分に易しすぎるか難しすぎるかを判定してもらう。逆に、いちばん避けたいのが訳させること。翻訳を読んだ時点で、遠回りの道が1回強化されます。楽ですが、訓練にはなりません。
まとめ──才能ではなく、設計の問題
2000万回以上表示された問いへの答えは、こうまとめられます。
英語のまま理解するとは、日本語を消すことではなく、
英語から意味への道が翻訳より先に着くようにすることです。
「英語のまま読めるようになりたい」と願う時間を、
やさしい英文を1ページ読む時間に変えるだけでいい。
直結は、そこでしか作られません。多読の設計は英語多読の科学的に正しいやり方、日本語を足場に使う読み方は混ぜて読むMazelingoは本当に効くのかで扱っています。
