学習ハックウソ

「読みにくいフォントで記憶力アップ」説、追試してみたらほぼ全滅だった

「読みにくいフォントで記憶力アップ」説、追試してみたらほぼ全滅だった

読む前に予想してみよう!

わざと読みにくいフォントで教材を作ると、記憶に残りやすくなることが確かめられている

研究カード(どんな研究?)
対象
大学生・高校生
規模
元の研究は2実験(約250人)+多数の追試とメタ分析
研究の種類
実験研究+メタ分析
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

読みにくい字体で勉強すると記憶に残る、という2011年の研究は大きな話題に。でもその後の追試では効果が出ないことが多く、今は否定的な見方が主流。

ひとことで言うと字を読みにくくしても、覚えやすくはならないみたい!

もくじ
  1. 読みにくい字体で、成績が上がった?
  2. 追試すると、効果が出ない
  3. 「むずかしさ」にも、いいものと悪いものがある
  4. 見た目が変えるのは「覚えた気分」
  5. まとめ

もし、教科書のフォントを変えるだけで成績が上がるとしたら? そんな夢のような研究が、2011年に発表されました。

答えは「わざと読みにくい字体にする」。読みにくいと脳がしっかり読もうとするので、記憶に残る…という理屈です。この発想から、記憶力アップをうたう専用フォントまで作られました。

ところが、その後の「答え合わせ」で、話は大きく変わっていきます。

01読みにくい字体で、成績が上がった?

「教材の見た目を少し変えるだけで、教育の成果が上がるかもしれない」。この研究は大きく報道され、多くの人の関心を集めました。

背景にあるのは望ましい困難という考え方。勉強にほどよい「むずかしさ」を加えると、そのときは大変でも長く記憶に残る、というものです。思い出す練習や、日をあけた復習が効くのもこの考え方で説明されます。

02追試すると、効果が出ない

ところが、その後ほかの研究者たちが同じような実験を行うと、効果が見られないケースが次々に報告されました。

2018年には、文章の読みにくさと学習の関係を調べた研究をまとめたメタ分析が発表され、記憶にも理解の応用にも効果はほぼゼロという結論でした。読む時間が長くなり、「覚えられた」という手ごたえが下がるだけだったのです。

同じ2018年には、オーストラリアのRMIT大学が記憶に残ることを目指した専用フォントを発表して話題になりました。しかし2020年、複数の研究チームが検証したところ、

  • 読みにくいとは感じるのに、記憶は良くならなかった
  • 実験によっては、むしろ成績が下がった

という結果に。2021年には、1週間後のテストで調べても効果はありませんでした。

ただ「見にくくする」だけでは、ゴールに近づかない
ただ「見にくくする」だけでは、ゴールに近づかない

03「むずかしさ」にも、いいものと悪いものがある

なぜフォントはうまくいかなかったのか。研究者たちは、読みにくさは「字を読み取る」ことに労力を使わせるだけで、内容の理解や、情報どうしを結びつける作業にはつながらないのでは、と考えています。

つまり「むずかしければ何でもいい」わけではないんです。

04見た目が変えるのは「覚えた気分」

ちなみに、文字の大きさを変えた2008年の実験では、大きな文字の単語ほど「覚えられそう」と感じるのに、実際の記憶はほとんど変わらないことが示されました。見た目は「覚えた気分」を左右しても、記憶そのものはあまり動かさないのです。

少なくとも、わざわざ読みにくくする理由はなさそうです。教材は見やすく整え、浮いたエネルギーを内容について考えることに使いましょう。

勉強法を選ぶときは、「話題になったか」より「何度も確かめられているか」を基準にするのがおすすめです。思い出す練習や日をあけた復習は、たくさんの研究で効果がくり返し確認されている、いわば“追試済み”の方法です。

05まとめ

「読みにくいフォントで記憶力アップ」は、魅力的なアイデアでしたが、追試の結果はほぼ「ウソ」寄り。

科学は、一つの研究で決まるものではありません。話題になった研究ほど「その後どうなった?」を確かめる。それ自体が、とても大事な学びです。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerCould changing the font of a textbook improve your grades? 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Could changing the font of a textbook improve your grades? In 2011, researchers at Princeton University reported that students remembered information better when it was printed in a hard-to-read font. They also found that high school classes using such materials got better scores. The idea was based on "desirable difficulty": a little challenge during learning can make memories last longer. The study became famous, and a special font designed for memory was later created in Australia.

However, when other researchers repeated the experiments, they usually found no benefit. A 2018 meta-analysis concluded that the effect on learning was close to zero, and tests of the special font showed that it did not help and sometimes made results worse.

118 words ・ CEFR B1

和訳を見る

教科書のフォントを変えると成績が上がるのでしょうか。2011年、プリンストン大学の研究者たちは、読みにくいフォントで印刷された情報の方を学生がよく覚えていたと報告しました。また、そうした教材を使った高校のクラスの方が点数が良かったことも分かりました。この考えは「望ましい困難」にもとづいていました。学ぶときに少しむずかしさがあると、記憶が長続きするというものです。この研究は有名になり、後にオーストラリアで記憶のための特別なフォントが作られました。

しかし、ほかの研究者たちが実験をやり直すと、たいてい効果は見られませんでした。2018年のメタ分析は学習への効果はほぼゼロだと結論づけ、特別なフォントを調べた研究では、それが役に立たず、ときには結果を悪くすることが示されました。

4択リーディングクイズ

Q1. What is "desirable difficulty" in the passage?

Q2. What did the 2018 meta-analysis conclude?

Q3. What lesson does the passage suggest?

重要単語

  • disfluencyC1
    名詞非流ちょう性(処理しにくさ)Perceptual disfluency means the text is hard to read. dis-(否定)+fluency(流ちょうさ)。fluent English(流ちょうな英語)の fluent は「流れる」が語源(fluid・influence と同語源)。
  • desirable difficultyC1
    名詞(句)望ましい困難Retrieval practice is a desirable difficulty. desire(望む)+-able=「望ましい」。学習科学のキーワードで、思い出す練習や分散学習がその代表。
  • legibleC1
    形容詞(文字が)読みやすいKeep your notes clean and legible. leg-は「読む」(lecture・legend と同語源)。反対語は illegible(判読できない)。readable は「内容が読みやすい」も含む。
  • meta-analysisC1
    名詞メタ分析(多くの研究をまとめた分析)A meta-analysis combines the results of many studies. meta-は「~を超えた・一段上の」。個々の研究を一段上から見渡す分析。複数形は meta-analyses。
  • overconfidenceC1
    名詞過信Easy reading can create overconfidence. over-(過度に)+confidence(自信)。形容詞 overconfident。「分かったつもり」を表す学習科学の重要語。
  • subsequentB2
    形容詞その後のSubsequent studies did not find the effect. sub-(下に・後に)+sequ(続く)。sequence(連続)と同語源。副詞 subsequently は論文・入試長文の頻出語。
  • outperformC1
    動詞~より成績が上回るThe class with clear handouts outperformed the other class. out-+動詞で「~にまさる」(outnumber・outlive)。A outperforms B「A が B を上回る」。
「読みにくいフォントで勉強すると記憶に残る」という有名な研究があって、記憶力アップをうたう専用フォントまで作られた。でも追試すると効果なし、むしろ下がることも…という結果に。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Diemand-Yauman, Oppenheimer & Vaughan (2011) Fortune favors the bold (and the italicized): Effects of disfluency on educational outcomes, Cognitiondoi.org
  2. Xie, Zhou & Liu (2018) Null effects of perceptual disfluency on learning outcomes in a text-based educational context: A meta-analysis, Educational Psychology Reviewdoi.org
  3. Taylor et al. (2020) Disfluent difficulties are not desirable difficulties: The (lack of) effect of Sans Forgetica on memory, Memorydoi.org
  4. Geller et al. (2020) Sans Forgetica is not desirable for learning, Memorydoi.org
  5. Rhodes & Castel (2008) Memory predictions are influenced by perceptual information: Evidence for metacognitive illusions, Journal of Experimental Psychology: Generaldoi.org