水中で覚えた単語は水中で思い出しやすい? 有名なダイバー実験は、やり直すと再現されなかった

読む前に予想してみよう!
覚えた場所と同じ場所でテストを受けると、思い出しやすくなることがある
「文脈依存記憶」と呼ばれる現象。ただし効果は小さめで、有名なダイバー実験は、やり直した実験では再現されなかった。
- 対象
- ダイバー・大学生
- 規模
- 元の実験+追試16人+75研究のメタ分析
- 研究の種類
- 実験研究+メタ分析
- 確かさ
- ★★★☆☆
覚えた場所で思い出しやすい「文脈依存記憶」はあるが効果は小さめ。有名なダイバー実験は、やり直した実験では再現されず。場所を変えて勉強する工夫が有効かも。
ひとことで言うと勉強する場所をときどき変えると、どこでも思い出しやすくなるかも!
もくじ
テストのとき、「家ではスラスラ言えたのに、教室だと出てこない!」という経験はありませんか?
それは、記憶が覚えたときの周りの状況とセットで保存されているせいかもしれません。心理学ではこれを文脈依存記憶と呼びます。「文脈」とは、ここでは場所・音・におい・気分などの「まわりの状況」のこと。
この現象を一躍有名にしたのが、海に潜ったダイバーたちの実験でした。
01海の中で単語を覚えたダイバーたち
水中で覚えたなら水中で、陸上で覚えたなら陸上で。まるで記憶に「場所のタグ」が付いているかのようです。
この発見は、「思い出すための手がかりは、覚えたときの環境にも埋め込まれている」ことを示唆しました。
02有名な実験、やり直したら再現されなかった
ところが話には続きがあります。2021年、オランダ・アムステルダム大学のミュレが16人のダイバーで同じような実験をやり直したところ、同じ環境で思い出しても成績は良くなりませんでした。
ゴッデンとバデリー自身も1980年に、「この単語は覚えたリストにあったか」を判断する再認テストでは、場所の効果が出なかったと報告しています。ただしその後、多くの研究をまとめた分析では、再認テストでも条件によっては効果が見られました。つまり、場所の効果は「出ることもあるが、いつでも出るわけではない」というのが今の理解です。
03「同じ場所」より「いろんな場所」作戦
とはいえ、試験は自分の部屋では受けられません。じゃあどうするか。
1978年、アメリカのスミスらは、大学生16人(1グループ8人)でこんな実験をしています。40個の単語を3時間あけて2回勉強し、その3時間後に、どちらとも違う部屋でテストしました。すると、2つの違う部屋で勉強したグループは平均約24個、同じ部屋で2回勉強したグループは約16個を思い出せたんです。

1つの場所にしか結びついていない記憶は、その場所を離れると取り出しにくい。でも、いろんな場所で覚えた記憶は特定の場所に頼らなくなると考えられています。
04効果は「ほどほど」と知っておこう
ただし、注意点もあります。2001年に75の研究をまとめたメタ分析(たくさんの研究を束ねて傾向を見る分析)では、文脈依存記憶は確かに見られました。でも平均すると効果は小さめで、大きさは条件によってまちまちでした。
特に、単語どうしを結びつけるなど内容に頭を使って覚えた場合や、テストのときに覚えた場所を頭の中で思い浮かべた場合には、場所の違いの影響が小さくなるようです。
つまり「場所選び」は勉強の中身ほど重要ではありません。メインはあくまで、思い出す練習や復習です。
05「場所」だけじゃない、気分や体の状態も手がかりに
文脈依存記憶の「文脈」には、場所だけでなく、そのときの気分や体の状態も含まれると考えられています。たとえば、覚えたときと同じような気分のときの方が思い出しやすい、という報告もあります(ただし、結果は研究によってまちまちです)。
テスト本番は、いつもより緊張していますよね。家でリラックスしすぎた状態でしか勉強していないと、本番の緊張感の中で思い出しにくくなる可能性もあります。
だからこそ、模試や時間を計った過去問演習で、本番に近い「ちょっとドキドキした状態」で思い出す練習をしておくのがおすすめです。
ちなみに、ゴッデンとバデリーの実験は、陸上と水中というかなり極端な環境の違いで行われたものです。教室と自分の部屋くらいの違いなら、影響はもっと小さいかもしれません。「家でしか思い出せないかも」と心配しすぎず、場所を変えた復習と思い出す練習を組み合わせておけば十分です。
06まとめ
記憶は、覚えたときの景色と一緒にしまわれることがあります。だからこそ、いろんな景色の中で勉強しておけば、どこでも取り出しやすくなる。
ただし場所はあくまで「おまけ」。一番の主役は、何度も思い出す練習であることを忘れずに。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerA student answers a question easily at home, then goes blank in the classroom.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
In a famous study in 1975, divers learned lists of words on land or under the sea. They remembered the words better in the same place where they learned them.
But in 2021, another scientist did the test again, and he did not get the same result. One idea may still help you. If you study in different places, you may remember things better in any place, even in a test room.
72 words ・ CEFR A2
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1975年の有名な研究で、ダイバーたちが陸上か海中で単語のリストを覚えました。彼らは、覚えたのと同じ場所の方が単語をよく思い出せました。
しかし2021年、別の科学者がもう一度その実験をしたところ、同じ結果は出ませんでした。それでも、ある考えが役立つかもしれません。いろいろな場所で勉強すれば、どんな場所でも、試験会場でさえ、よりよく思い出せるかもしれないのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
覚えた場所と思い出す場所の関係(文脈依存記憶)が全体のテーマなので C。
Q2. What happened in 2021?
in 2021, another scientist did the test again, and he did not get the same result とあるので A。
Q3. In this passage, "remembered" is the opposite of ...
remember(思い出す・覚えている)の反対は forget(忘れる)なので D。
A student answers a question easily at home, then goes blank in the classroom. One possible reason is context-dependent memory. We may remember things more easily in the place where we learned them. In 1975, Godden and Baddeley asked divers to learn words on land or underwater. Divers tested in the same place where they had learned recalled clearly more words.
But a 2021 repeat of the study with 16 divers did not find this effect. In a later study by the same team, the effect did not appear in a recognition test, where people only decide if they saw a word.
Another study was more useful. Students who studied words in two different rooms did better in a new room than students who studied twice in one room.
129 words ・ CEFR B1
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家では簡単に答えられた問題が、教室では頭が真っ白になって答えられない。考えられる理由の一つが文脈依存記憶です。私たちは、覚えた場所での方が物事を思い出しやすいのかもしれません。1975年、ゴッデンとバデリーはダイバーたちに、陸上か水中で単語を覚えてもらいました。覚えたのと同じ場所でテストされたダイバーは、はっきり多くの単語を思い出しました。
しかし、16人のダイバーで同じ研究を繰り返した2021年の追試では、この効果は見られませんでした。同じチームの後の研究では、単語を見たことがあるかどうかを判断するだけの「再認テスト」では、この効果は現れませんでした。
別の研究は、もっと役に立つ結果を示しました。2つの違う部屋で単語を勉強した学生は、1つの部屋で2回勉強した学生よりも、新しい部屋でよい成績をとったのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What did the 1975 diver study find?
Divers tested in the same place where they had learned recalled clearly more words とあるので B。
Q2. In a later study by the same team, in which kind of test did the effect NOT appear?
the effect did not appear in a recognition test とあるので D。
Q3. What would the writer most likely advise students to do?
最後に、2つの違う部屋で勉強した学生の方が新しい部屋でよくできた(did better in a new room)と述べているので C。
In 1975, Godden and Baddeley had a group of divers learn lists of words either on land or underwater. Recall was clearly higher when the testing environment matched the learning environment. The study became the textbook example of context-dependent memory, the tendency to recall information more easily in the conditions where it was learned. How solid it is, though, is open to question.
Godden and Baddeley themselves later found no effect on recognition tests, and a direct replication in 2021 with 16 divers failed to reproduce the original result. A 2001 meta-analysis of 75 studies concluded that environmental context effects do exist, but that their size varies a great deal. They shrink when learners think hard about the meaning of the material, or when they mentally picture the original setting during the test.
Land and water are also an extreme contrast. The gap between a bedroom and an exam hall probably matters much less. For students, a small 1978 study may be more useful. In that study, people who learned material in two different rooms later recalled it better in an unfamiliar room.
183 words ・ CEFR B2
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1975年、ゴッデンとバデリーはダイバーたちに、陸上か水中で単語リストを覚えてもらいました。テストの環境が学習の環境と一致したときには、思い出せた量がはっきり多くなりました。この研究は、覚えたときと同じ状況の方が情報を思い出しやすいという「文脈依存記憶」の、教科書の定番例になりました。しかし、その結果がどれほど確かなのかには疑問があります。
ゴッデンとバデリー自身も後に再認テストでは効果が見られないことを発見し、16人のダイバーによる2021年の直接追試では元の結果を再現できませんでした。75の研究を対象とした2001年のメタ分析は、環境文脈の効果は確かに存在するものの、その大きさはかなりばらつくと結論づけました。学習者が内容の意味をよく考えて覚えた場合や、テスト中に元の場所を頭の中で思い浮かべた場合には、この効果は小さくなります。
また、陸と水は極端な対比です。寝室と試験会場の違いは、おそらくずっと小さな影響しかありません。学生にとっては、1978年の小さな研究の方が役に立つかもしれません。その研究では、2つの違う部屋で学習した人の方が、後で見慣れない部屋でよく思い出せたのです。
4択リーディングクイズ
Q1. Why does the author question how solid the diver study is?
直後に、再認テストでは効果なし、2021年の直接追試でも failed to reproduce the original result と理由が述べられているので A。
Q2. According to the passage, when does the context effect become weaker?
They shrink when learners think hard about the meaning of the material, or when they mentally picture the original setting とあるので C。
Q3. What does the author imply about studying at home for an exam in a hall?
陸と水は極端な対比で、The gap between a bedroom and an exam hall probably matters much less とあるので B。
重要単語
- contextB2名詞文脈、まわりの状況Memory can depend on the context in which you learned.
con-(共に)+text(織る)=「一緒に織りこまれたもの」。in this context「この文脈では」、out of context「文脈を無視して」。 - recallB2動詞・名詞思い出す/想起Divers tried to recall the words underwater.
re-(再び)+call(呼ぶ)=記憶を呼び戻す。製品の「リコール(回収)」も同じ語。recognition(再認)との対比が心理学の定番。 - retrieval cueC1名詞(句)思い出す手がかりA familiar smell can be a strong retrieval cue.
retrieve(取り戻す)の名詞 retrieval + cue(合図)。犬の retriever は「獲物を取ってくる犬」。 - replicationC1名詞追試、再現A replication tests whether a finding is reliable.
replicate(再現する)の名詞形。direct replication(直接追試)は元の実験と同じ手順でやり直すこと。 - reinstateC1動詞元の状態に戻す、再現するTry to mentally reinstate the room where you studied.
re-+instate(据える)。reinstate a worker(復職させる)のように「元の地位に戻す」の意味でも使う。 - robustC1形容詞頑健な・しっかりしたThe effect is not as robust as people believe.
研究では「条件を変えても崩れない」結果を robust と言う。名詞 robustness。日常では「たくましい」。 - environmentB1名詞環境Divers learned words in two different environments.
つづりの n を落としやすい(enviro-n-ment)。形容詞 environmental(環境の)。
公式・一次情報をチェック
- Spaced Practice(The Learning Scientists)learningscientists.org
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ダイバーに水中と陸上で単語を覚えさせたら、覚えた場所と同じ所の方がよく思い出せた、という有名な実験がある。でも2021年のやり直し実験では再現されなかったらしい。じゃあ試験会場で思い出すには、どこで勉強すればいい?
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Godden & Baddeley (1975) Context-dependent memory in two natural environments: On land and underwater, British Journal of Psychologydoi.org
- Smith, Glenberg & Bjork (1978) Environmental context and human memory, Memory & Cognitiondoi.org
- Smith & Vela (2001) Environmental context-dependent memory: A review and meta-analysis, Psychonomic Bulletin & Reviewdoi.org
- Murre (2021) The Godden and Baddeley (1975) experiment on context-dependent memory on land and underwater: a replication, Royal Society Open Sciencedoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。









