カエルも「多すぎて選べない」。オスの声が8つになると、迷った末に決めない回数が約5倍に

読む前に予想してみよう!
カエルのメスが大合唱で相手選びに迷うのは、鳴き声が重なって聞こえないせいだけだ
鳴き声を1つずつ重ならないように流しても、候補が増えると本命を選ぶ割合が下がった。
- 対象
- コープハイイロアマガエルのメス
- 規模
- 60匹・675試行
- 研究の種類
- 室内での音声再生実験(被験体内計画)
- 確かさ
- ★★★☆☆
オスの声が8つに増えると、メスのカエルは迷う時間が延び、決めずに終わる回数も約5倍に。声が重ならなくても起き、耳より頭の限界が原因らしい。
ひとことで言うとカエルのメスも、候補が多すぎると決められなくなる!
夜の池のほとりで、たくさんのオスのカエルがいっせいに鳴いている。メスはその中から、たった1匹の相手を選ばなければいけません。
人間でいえば「候補が多すぎて決められない」状態。この選択過多(チョイス・オーバーロード)が、カエルのメスにもはっきり起きていたことが、2026年8月に学術誌 iScience で報告されました。
面白いのは、人間の研究では効果が「出たり出なかったり」なのに、カエルではくっきり出たこと。その違いから、「選べない」の正体が見えてきます。
01うるさくて聞こえない? それとも頭が追いつかない?
大合唱の中でメスが好みどおりに選べなくなることは、以前から知られていました。理由の候補は2つ。1つは、音が重なって聞き分けられないという「耳」の問題(マスキング)。もう1つは、比べる相手が多すぎて頭の処理が追いつかないという「脳」の問題(選択過多)。本物の合唱ではこの2つが同時に起きるので、どちらが原因なのか区別できませんでした。
そこで米テネシー大学のクレア・ヘミングウェイさんらは、2つを実験で切り離すことにしました。
02音が重ならなくても、選べなくなった
ポイントは、鳴き声がまったく重なっていないのに成績が落ちたことです。耳ではちゃんと聞こえている。それでも候補が増えると、本命を選ぶ割合が下がり、迷う時間が延び、「今日は選ばない」が増えました。研究チームは、頭の情報処理の限界が相手選びをゆがめる証拠だと結論しています。
意外なことに、背景ノイズを流しても成績は全体としてほとんど変わらず、8択ではむしろノイズありのほうがわずかに高い(24.5%)くらいでした。この実験では、犯人は「耳」より「頭」だったわけです。
ただし、冷静に見ておきたい数字もあります。8択で本命を当てる確率は、でたらめに選んでも12.5%。論文によると、この「偶然の当たり」を差し引くと、ノイズなしでは2択・4択・8択で成績に差はありませんでした。メスはやけになってランダムに選んでいるわけではない。それでも本命にたどり着く割合は下がり、時間がかかり、先送りが増える。これがカエルの選択過多の姿です。

03どんでん返し:人間では「出たり出なかったり」
人間の選択過多は、有名な「ジャムの試食実験」で広まりました。ところが50本の実験をまとめた2010年のメタ分析では、平均の効果はほぼゼロ。一方、2015年のメタ分析は、選択肢が複雑なとき、課題が難しいとき、好みがはっきりしないときなどに選択過多が確かに起きると示し、「選ばずに先送りする」もその代表的なサインだとしています。
カエルの実験は、この「起きやすい条件」によく似ています。鳴き声は1つずつしか流れないので、メスは聞いた声を覚えながら比べる必要がありそうです(実際にどんな手順で比べているかは、まだわかっていません)。7つのおとりはまったく同じ声で、本命との違いはパルスの数だけ。本命との差は、2択ならはっきり好みが出るほどの大きさです。ただ、同じ声のおとりが並ぶといった自然界にはない条件が判断を難しくしている可能性は、論文自身も限界として認めています。
2015年のメタ分析によれば、人間の結果がバラつくのは、選択肢の数だけでなく比べ方の難しさなどの条件しだいで効果が変わるから。カエルの実験は、その「起きやすい条件」の側で起きた例として読めそうです。
04モテないオスにはチャンス?
メスの好みがはっきりしていれば、鳴き声の短いオスはなかなか相手を得られないはず。でも大合唱でメスが本命を選びにくくなるなら、「イマイチなオス」にもチャンスが回ってくるかもしれません。今回の論文の著者の一人でもあるタナーらは2025年、同じ種で、選択肢が4つ・8つになると鳴くペースの速さや規則正しさをめぐる選別(性選択)がぐっと弱まり、比較的魅力の低いオスも相手を得られる可能性があると報告しています。
ハチやアリ、蚊、コオロギでも似た報告があります。選ぶ側の頭の限界が、選ばれる側の進化まで左右しているのかもしれません。
05まとめ
カエルのメスも、候補が増えると本命を選びにくくなり、迷い、先送りする。しかもそれは「うるさくて聞こえない」せいではなく、比べる頭の限界のせいでした。
次に迷ったら、選択肢をしぼり、比べやすくする工夫をしてみてください。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn a soundproof room in Tennessee, researchers placed female Cope's gray treefrogs in the middle of a ring…
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
It is night at a pond. Many male frogs are calling, and a female must pick one. Scientists in the United States tested 60 female treefrogs. Speakers played one long call, which females like, and some short calls.
In quiet tests with two calls, the females chose the long call 77 percent of the time. With eight calls, they chose it only 21 percent of the time. Some females waited ten minutes and chose nothing at all.
77 words ・ CEFR A2
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夜の池です。たくさんのオスのカエルが鳴いていて、メスは1匹を選ばなければなりません。アメリカの科学者たちは、60匹のメスのアマガエルを調べました。スピーカーから、メスが好む長い鳴き声を1つと、短い鳴き声をいくつか流しました。
静かな条件で鳴き声が2つのとき、メスは77パーセントの割合で長い鳴き声を選びました。8つのときは、わずか21パーセントでした。10分待っても何も選ばないメスもいました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
鳴き声の数が2つから8つに増えると、メスの選び方がどう変わったかを述べているので B。
Q2. With eight calls, how often did the females choose the long call?
With eight calls, they chose it only 21 percent of the time とあるので C。
Q3. In this passage, "pick" means ...
a female must pick one は「メスは1匹を選ばなければならない」。pick は choose と同じ意味なので A。
In a soundproof room in Tennessee, researchers placed female Cope's gray treefrogs in the middle of a ring of eight speakers. The speakers played one long call, the kind females prefer, along with one, three, or seven shorter calls.
Each call was played on its own, so no two calls ever overlapped. In quiet trials with two calls, females went to the long one about 77 percent of the time. With four calls, the figure dropped to 47 percent, and with eight it dropped to 21 percent.
The frogs also took longer to decide, and more of them made no choice within ten minutes. Adding the sound of a frog chorus did not make things much worse. The frogs could hear the calls. They just had trouble comparing so many.
130 words ・ CEFR B1
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テネシー州の防音室で、研究者たちはメスのコープハイイロアマガエルを、8台のスピーカーが輪になって並ぶ中央に置きました。スピーカーからは、メスが好む長い鳴き声を1つと、短い鳴き声を1つ、3つ、または7つ流しました。
鳴き声は1つずつ流したので、2つの鳴き声が重なることは一度もありませんでした。静かな条件で鳴き声が2つのとき、メスは約77パーセントの割合で長い鳴き声のほうへ向かいました。4つになるとその数字は47パーセントに、8つになると21パーセントに下がりました。
カエルは決めるまでに時間もかかるようになり、10分以内に何も選ばないメスも増えました。カエルの合唱の音を加えても、状況はあまり悪くなりませんでした。カエルには鳴き声が聞こえていました。ただ、これほど多くを比べるのに苦労したのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
鳴き声が2つ、4つ、8つと増えるほど長い鳴き声を選ぶ割合が下がったという内容なので B。
Q2. With four calls, about how often did the females go to the long call?
With four calls, the figure dropped to 47 percent とあるので B。
Q3. Why did the researchers play each call on its own?
no two calls ever overlapped とあり、最後に The frogs could hear the calls と述べている。重なりによる聞き取りの問題を除くためなので C。
On a spring night, dozens of male treefrogs may call at once from a single pond. A female gray treefrog has to find the best one, and earlier studies found that females become less picky in large choruses. The usual explanation was masking, in which overlapping sounds blur the details of each call.
A team at the University of Tennessee pulled that idea apart from a second one, choice overload. They played synthetic calls to 60 females, one call at a time so that nothing overlapped. A long call, the type females prefer, competed with one, three, or seven shorter ones. In quiet trials, the long call won 77 percent of two-way contests but only 21 percent of eight-way ones.
Average decision time rose from about 114 to 163 seconds, and refusals to choose became far more common at eight options. Chorus noise barely changed the results. One number keeps the result in proportion. A frog guessing at random among eight speakers would be right only one time in eight, and once that was accounted for, quiet-trial performance did not differ across set sizes.
184 words ・ CEFR B2
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春の夜には、1つの池から何十匹ものオスのアマガエルがいっせいに鳴くことがあります。メスのハイイロアマガエルは最良の1匹を見つけなければならず、これまでの研究では、大きな合唱の中ではメスの選り好みが弱まることがわかっていました。よくある説明はマスキング、つまり重なった音がそれぞれの鳴き声の細部をぼやけさせるというものでした。
テネシー大学のチームは、この考えをもう1つの考え、選択過多から切り離しました。彼らは60匹のメスに合成した鳴き声を聞かせましたが、何も重ならないように1つずつ流しました。メスが好むタイプの長い鳴き声1つが、短い鳴き声1つ、3つ、または7つと競いました。静かな条件の試行では、長い鳴き声は2択の勝負の77パーセントで選ばれましたが、8択ではわずか21パーセントでした。
決めるまでの平均時間は約114秒から163秒に延び、8択では選ぶのを拒むことがずっと多くなりました。合唱の騒音は、結果をほとんど変えませんでした。ある数字を知ると、この結果を適切な大きさで捉えられます。8台のスピーカーから当てずっぽうで選ぶカエルが正解するのは8回に1回だけで、それを考慮すると、静かな条件での成績は選択肢の数によって違いませんでした。
4択リーディングクイズ
Q1. What was the main goal of the study described in the passage?
pulled that idea apart from a second one, choice overload とあり、マスキングと選択過多を切り離すのが目的なので B。
Q2. In quiet eight-call trials, about how long did females take to decide on average?
Average decision time rose from about 114 to 163 seconds とあり、8択では約163秒なので C。
Q3. Why does the writer mention random guessing?
A frog guessing at random among eight speakers would be right only one time in eight とあり、偶然の当たりを考慮すると成績に差はなかったと述べている。21パーセントへの低下の一部は、8択では当てずっぽうで当たる確率が低いことによると示すためなので B。
重要単語
- choice overloadC1名詞(句)選択過多Choice overload can make shopping online tiring.
overload は「積みすぎ・過負荷」。information overload(情報過多)もセットで覚えよう。 - mateB1名詞・動詞つがいの相手/交尾するFemale frogs choose a mate by listening to calls.
日常語では「仲間」(classmate, roommate)。生物の文脈では「配偶相手」。mate choice=配偶者選び。 - deferC1動詞先送りにするSome frogs deferred the decision until time ran out.
postpone, put off と同義。defer to ~ は「~の意見に従う」と意味が変わるので注意。 - distractorC1名詞注意をそらすもの、おとりSeven distractor calls made the test harder.
distract(気を散らす)+-or。選択式テストの「誤答の選択肢」も distractor と呼ぶ。 - maskingC1名詞(音の)マスキング、かき消しTraffic noise causes masking of bird songs.
mask(覆い隠す)から。ある音が別の音を聞こえにくくする現象。 - accuracyB2名詞正確さHer accuracy dropped as the options increased.
形容詞は accurate。accuracy と precision(精度・ばらつきの小ささ)は科学英語で区別される。 - chorusB2名詞合唱、(動物の)いっせいの鳴き声A chorus of frogs filled the night air.
発音は「コーラス」。dawn chorus は「夜明けの鳥のさえずり」。
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メスのカエルにオスの声を2つ聞かせると、静かな環境では約77%の回で本命を選んだが、8つでは約21%(でたらめでも12.5%)。声を1つずつ流しても迷う時間は延び、10分たっても選ばない回は約5倍に。選択肢多すぎ問題、カエルにも。
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- Hemingway, Rodrigues, Vélez & Tanner (2026) Choice overload constrains mate choice independent of energetic masking, iSciencedoi.org
- Tanner, Shein-Idelson, Hoke & Bee (2025) Complex choice environments shelter unattractive signallers from sexual selection, Proceedings of the Royal Society Bdoi.org
- Tanner & Hemingway (2025) Choice overload and its consequences for animal decision-making, Trends in Cognitive Sciencesdoi.org
- Scheibehenne, Greifeneder & Todd (2010) Can there ever be too many options? A meta-analytic review of choice overload, Journal of Consumer Researchdoi.org
- Chernev, Böckenholt & Goodman (2015) Choice overload: a conceptual review and meta-analysis, Journal of Consumer Psychologydoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。











