動物・植物ビミョー

動物の誕生は8億〜7億年前?「化石がない=まだいない」という前提がモンゴルで揺らいだ

動物の誕生は8億〜7億年前?「化石がない=まだいない」という前提がモンゴルで揺らいだ

読む前に予想してみよう!

化石がとてもよく残る地層に動物の化石がなければ、その時代に動物はいなかったと言い切れる

研究カード(どんな研究?)
対象
中国とモンゴルの微化石群+分子時計
規模
2つの化石生物群の比較と年代推定
研究の種類
化石記録の再評価+分子時計解析
確かさ
★★☆☆☆
3秒でわかる

「化石の宝庫に動物がいない=まだいない」という分子時計の目盛りが、モンゴルの化石で揺らいだ。置き直すと動物の起源は約8億〜7億年前に。

ひとことで言うと動物は、化石が見つかるよりずっと前から海にいたかも!

もくじ
  1. 分子時計には「目盛り」が要る
  2. 「化石の宝庫に動物がいない」はどこまで信じられる?
  3. どんでん返し:2年前の答えは「もっと新しい」だった
  4. まとめ

動物はいつ地球に現れたのか。確実に「これは動物だ」と言える体の化石をたどれるのは、約5.74億年前までです。

ところが岩石の中には、海綿動物(カイメン)がつくる脂質の「化学的な化石」とされる分子が、6.35億年前より前の地層から見つかっています。さらに、DNAから年代を逆算する「分子時計」は、もっと古い時代を指すことが多い。

この食い違いに、2026年10月2日、英オックスフォード大学などのチームが学術誌 Science Advances で一石を投じました。結論は、動物の起源は約8億〜7億年前。体の化石の記録より、1億年以上もさかのぼります。

01分子時計には「目盛り」が要る

分子時計は、いま生きている生物どうしのDNAの違いから、「共通の祖先から何年前に枝分かれしたか」を推定する方法です。ただし、DNAの違いだけでは「何年前か」はわからず、変わる速さも生物や時代によって違うので、化石の年代で目盛りを合わせる(較正する)必要があります。

目盛りには2種類あります。

  • 最小年代:「この化石があるから、少なくともこれより古い」
  • 最大年代:「ここまでさかのぼると、もういなかったはず」

最小年代は化石が1つ見つかれば決められますが、厄介なのは最大年代です。「いなかった」ことを示すには、動物がいれば化石に残ったはずの場所で、実際に何も残っていないことを根拠にするしかないからです。今回の論文は、分子時計の答えの正確さも精度も、この最大年代の置き方しだいで大きく変わることを示しました。

02「化石の宝庫に動物がいない」はどこまで信じられる?

最大年代の目盛りとして使われてきたのが、中国のエディアカラ紀(約6.35億年前に始まる時代)の地層に残る瓮安(ウェンアン)生物群です。微小な化石が驚くほど細かく保存されているのに、確実な動物はいない。だから「この時代にはまだ動物はいなかった」とみなされてきたのです。

研究チームは、これをモンゴルのヘシーン生物群(Kheseen Biota)と比べました。

つまり、「とてもよく化石が残る場所に動物がいない」ことは、「その時代に動物がいなかった」証拠にはならない。ヘシーン生物群は、それを動物が確実にいた時代の地層で示してしまった。いわば「いたはずの人が写っていない集合写真」です。

よく写る写真に写っていないからといって、そこにいなかったとは限らない
よく写る写真に写っていないからといって、そこにいなかったとは限らない

03どんでん返し:2年前の答えは「もっと新しい」だった

ただし、話はここで決着しません。2024年、同じ Science Advances に、ほぼ逆向きの結論の研究が載っています。エディアカラ紀の重要な化石群の年代の見直しなどを反映して較正点を作り直したところ、動物の起源はエディアカラ紀の初めと推定され、化石の記録と「ずっとよく合う」という結果でした。

目盛りの置き方しだいで答えが1億年単位で動くのは、昔からの弱点です。2015年の大規模な分析も、4通りの較正を試し、動物の起源をクリオジェニアン紀としつつ、古い化石の不確かさが分子時計の精度に限界を課していると結論しました。

もう一つの柱である脂質バイオマーカーにも異論があります。2009年の研究は、オマーンの地層で、マリノアン氷河期が終わった約6.35億年前より前から海綿由来とされる分子を報告しました。ところが2019年、そのもとになる物質を単細胞の生き物(リザリア)もつくるという研究が出て、「最古の動物の証拠とは言えないかもしれない」と論争に。この主張にも反論が出され、決着はついていません。

04まとめ

動物の誕生は、体の化石が示す約5.74億年前より、ずっと前だったのかもしれません。今回の研究は「いたはずなのに写っていない写真」を見つけ、瓮安生物群を「まだいなかった」証拠に使う前提を揺さぶりました。

ただし、オックスフォード大学の発表によれば、筆頭著者のオリン・ロール・ダービンさん自身も、今回の分析は8億年前に動物がいたことを証明するものではないと認めています。エディアカラ紀より前の、確実な動物の体化石は、まだ見つかっていません。次の決め手は、その“本物”の化石になりそうです。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerScientists can estimate when groups of living things split apart by comparing their DNA. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Scientists can estimate when groups of living things split apart by comparing their DNA. This method is called a molecular clock, and it needs dates from fossils to set it. One important date is a maximum age, a point before which animals probably did not exist.

Some studies used the Weng'an Biota in China for this. Its tiny fossils are beautifully preserved, but none are clearly animals. A new study compared it with the Kheseen Biota in Mongolia, which formed between about 550 and 526 million years ago. Animals certainly lived then, yet no clear animals were found there either.

So an empty site cannot prove that animals were missing. Using other reference points, the team placed the origin of animals at about 800 to 700 million years ago.

129 words ・ CEFR B1

和訳を見る

科学者は、生き物のグループどうしのDNAを比べることで、それらがいつ枝分かれしたかを推定できます。この方法は分子時計と呼ばれ、目盛りを合わせるには化石の年代が必要です。重要な年代の1つが最大年代で、それより前には動物がおそらくいなかったという時点です。

いくつかの研究は、これに中国の瓮安生物群を使ってきました。そこの小さな化石は見事に保存されていますが、どれもはっきり動物だとは言えません。新しい研究は、これをモンゴルのヘシーン生物群と比べました。ヘシーン生物群は約5億5000万年前から5億2600万年前にできたものです。その時代には動物が確かに生きていましたが、そこでもはっきりした動物は見つかりませんでした。

つまり、動物の化石がない産地は、動物がいなかったことの証明にはなりません。研究チームは別の基準点を使い、動物の起源を約8億年前から7億年前としました。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the main point of the passage?

Q2. When did the Kheseen Biota form?

Q3. Why is the Kheseen Biota important to the argument?

重要単語

  • molecular clockC1
    名詞(句)分子時計A molecular clock turns DNA differences into time. molecular は molecule(分子)の形容詞。DNAやタンパク質の変化の量から分岐年代を推定する方法。
  • calibrationC1
    名詞較正、目盛り合わせEvery clock needs careful calibration. 動詞は calibrate。実験機器の「キャリブレーション」としてカタカナでも使われる。
  • fossil recordB2
    名詞(句)化石記録The fossil record has many gaps. record は「記録」。gaps in the fossil record(化石記録の空白)は入試の進化論テーマで頻出。
  • biomarkerC1
    名詞生物指標(ここでは生物がつくった分子の化石)Some biomarkers point to very early sponges. bio(生命)+marker(目印)。医学では病気の目印になる血液中の物質なども指す。
  • divergenceC1
    名詞分岐、枝分かれDNA can be used to date the divergence of two groups. 動詞は diverge(分かれる)。反対語は convergence(収束)。
  • absenceB2
    名詞不在、ないことFinding no fossils does not always mean the absence of animals. 形容詞は absent。in the absence of ~(~がないときに)は入試頻出の熟語。
  • preserveB1
    動詞保存する、残すFine clay can preserve tiny cells for millions of years. 名詞は preservation。化石の文脈では well-preserved(保存状態の良い)がよく使われる。
動物の確実な化石は約5.74億年前まで。でもモンゴルの地層で「動物がいたはずの時代なのに、化石の宝庫に動物が写っていない」ことが判明。“化石がない=いない”の前提を見直すと、動物の起源は約8億〜7億年前になったらしい。

押すと「マジかリスト」に保存されます

出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Lole Durbin, Anttila, Briggs, Macdonald & Anderson (2026) Re-evaluating molecular clock maximum age calibrations revives pre-Ediacaran divergence estimates for animals, Science Advancesdoi.org
  2. Carlisle, Yin, Pisani & Donoghue (2024) Ediacaran origin and Ediacaran-Cambrian diversification of Metazoa, Science Advancesdoi.org
  3. dos Reis et al. (2015) Uncertainty in the timing of origin of animals and the limits of precision in molecular timescales, Current Biologydoi.org
  4. Love et al. (2009) Fossil steroids record the appearance of Demospongiae during the Cryogenian period, Naturedoi.org
  5. Nettersheim et al. (2019) Putative sponge biomarkers in unicellular Rhizaria question an early rise of animals, Nature Ecology & Evolutiondoi.org