動物の誕生は8億〜7億年前?「化石がない=まだいない」という前提がモンゴルで揺らいだ

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化石がとてもよく残る地層に動物の化石がなければ、その時代に動物はいなかったと言い切れる
動物が確実にいた約5.5億〜5.26億年前のモンゴルの地層でも、確実な動物の化石は見つからなかった。
- 対象
- 中国とモンゴルの微化石群+分子時計
- 規模
- 2つの化石生物群の比較と年代推定
- 研究の種類
- 化石記録の再評価+分子時計解析
- 確かさ
- ★★☆☆☆
「化石の宝庫に動物がいない=まだいない」という分子時計の目盛りが、モンゴルの化石で揺らいだ。置き直すと動物の起源は約8億〜7億年前に。
ひとことで言うと動物は、化石が見つかるよりずっと前から海にいたかも!
動物はいつ地球に現れたのか。確実に「これは動物だ」と言える体の化石をたどれるのは、約5.74億年前までです。
ところが岩石の中には、海綿動物(カイメン)がつくる脂質の「化学的な化石」とされる分子が、6.35億年前より前の地層から見つかっています。さらに、DNAから年代を逆算する「分子時計」は、もっと古い時代を指すことが多い。
この食い違いに、2026年10月2日、英オックスフォード大学などのチームが学術誌 Science Advances で一石を投じました。結論は、動物の起源は約8億〜7億年前。体の化石の記録より、1億年以上もさかのぼります。
01分子時計には「目盛り」が要る
分子時計は、いま生きている生物どうしのDNAの違いから、「共通の祖先から何年前に枝分かれしたか」を推定する方法です。ただし、DNAの違いだけでは「何年前か」はわからず、変わる速さも生物や時代によって違うので、化石の年代で目盛りを合わせる(較正する)必要があります。
目盛りには2種類あります。
- 最小年代:「この化石があるから、少なくともこれより古い」
- 最大年代:「ここまでさかのぼると、もういなかったはず」
最小年代は化石が1つ見つかれば決められますが、厄介なのは最大年代です。「いなかった」ことを示すには、動物がいれば化石に残ったはずの場所で、実際に何も残っていないことを根拠にするしかないからです。今回の論文は、分子時計の答えの正確さも精度も、この最大年代の置き方しだいで大きく変わることを示しました。
02「化石の宝庫に動物がいない」はどこまで信じられる?
最大年代の目盛りとして使われてきたのが、中国のエディアカラ紀(約6.35億年前に始まる時代)の地層に残る瓮安(ウェンアン)生物群です。微小な化石が驚くほど細かく保存されているのに、確実な動物はいない。だから「この時代にはまだ動物はいなかった」とみなされてきたのです。
研究チームは、これをモンゴルのヘシーン生物群(Kheseen Biota)と比べました。
つまり、「とてもよく化石が残る場所に動物がいない」ことは、「その時代に動物がいなかった」証拠にはならない。ヘシーン生物群は、それを動物が確実にいた時代の地層で示してしまった。いわば「いたはずの人が写っていない集合写真」です。

03どんでん返し:2年前の答えは「もっと新しい」だった
ただし、話はここで決着しません。2024年、同じ Science Advances に、ほぼ逆向きの結論の研究が載っています。エディアカラ紀の重要な化石群の年代の見直しなどを反映して較正点を作り直したところ、動物の起源はエディアカラ紀の初めと推定され、化石の記録と「ずっとよく合う」という結果でした。
目盛りの置き方しだいで答えが1億年単位で動くのは、昔からの弱点です。2015年の大規模な分析も、4通りの較正を試し、動物の起源をクリオジェニアン紀としつつ、古い化石の不確かさが分子時計の精度に限界を課していると結論しました。
もう一つの柱である脂質バイオマーカーにも異論があります。2009年の研究は、オマーンの地層で、マリノアン氷河期が終わった約6.35億年前より前から海綿由来とされる分子を報告しました。ところが2019年、そのもとになる物質を単細胞の生き物(リザリア)もつくるという研究が出て、「最古の動物の証拠とは言えないかもしれない」と論争に。この主張にも反論が出され、決着はついていません。
04まとめ
動物の誕生は、体の化石が示す約5.74億年前より、ずっと前だったのかもしれません。今回の研究は「いたはずなのに写っていない写真」を見つけ、瓮安生物群を「まだいなかった」証拠に使う前提を揺さぶりました。
ただし、オックスフォード大学の発表によれば、筆頭著者のオリン・ロール・ダービンさん自身も、今回の分析は8億年前に動物がいたことを証明するものではないと認めています。エディアカラ紀より前の、確実な動物の体化石は、まだ見つかっていません。次の決め手は、その“本物”の化石になりそうです。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerScientists can estimate when groups of living things split apart by comparing their DNA.
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When did animals first appear? The oldest clear animal fossils are about 574 million years old. Some scientists think animals are much older. A fossil site in China has many tiny fossils but no clear animals. So people thought animals came later.
Then a team studied a similar site in Mongolia. Animals were alive when those rocks formed, but the site had no clear animal fossils either. The team now says animals began about 800 to 700 million years ago.
80 words ・ CEFR A2
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動物はいつ初めて現れたのでしょうか。はっきりした動物の化石で最も古いものは、約5億7400万年前のものです。動物はもっとずっと古いと考える科学者もいます。中国のある化石産地には小さな化石がたくさんありますが、はっきりした動物はいません。そのため、動物はもっと後に現れたと考えられていました。
その後、ある研究チームがモンゴルの似た産地を調べました。その岩ができたとき動物は生きていましたが、その産地にもはっきりした動物の化石はありませんでした。チームは今、動物は約8億年前から7億年前に始まったと述べています。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
最初の動物がいつ生きていたのか、という問いから始まり、その年代について述べているので A。
Q2. How old are the oldest clear animal fossils?
The oldest clear animal fossils are about 574 million years old とあるので B。
Q3. In this passage, "site" means ...
A fossil site in China は「中国の化石産地」。site は「場所」なので A。
Scientists can estimate when groups of living things split apart by comparing their DNA. This method is called a molecular clock, and it needs dates from fossils to set it. One important date is a maximum age, a point before which animals probably did not exist.
Some studies used the Weng'an Biota in China for this. Its tiny fossils are beautifully preserved, but none are clearly animals. A new study compared it with the Kheseen Biota in Mongolia, which formed between about 550 and 526 million years ago. Animals certainly lived then, yet no clear animals were found there either.
So an empty site cannot prove that animals were missing. Using other reference points, the team placed the origin of animals at about 800 to 700 million years ago.
129 words ・ CEFR B1
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科学者は、生き物のグループどうしのDNAを比べることで、それらがいつ枝分かれしたかを推定できます。この方法は分子時計と呼ばれ、目盛りを合わせるには化石の年代が必要です。重要な年代の1つが最大年代で、それより前には動物がおそらくいなかったという時点です。
いくつかの研究は、これに中国の瓮安生物群を使ってきました。そこの小さな化石は見事に保存されていますが、どれもはっきり動物だとは言えません。新しい研究は、これをモンゴルのヘシーン生物群と比べました。ヘシーン生物群は約5億5000万年前から5億2600万年前にできたものです。その時代には動物が確かに生きていましたが、そこでもはっきりした動物は見つかりませんでした。
つまり、動物の化石がない産地は、動物がいなかったことの証明にはなりません。研究チームは別の基準点を使い、動物の起源を約8億年前から7億年前としました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
瓮安生物群を最大年代に使う方法が疑わしく、別の基準点では動物の起源が約8億〜7億年前になったという内容なので B。
Q2. When did the Kheseen Biota form?
which formed between about 550 and 526 million years ago とあるので C。
Q3. Why is the Kheseen Biota important to the argument?
Animals certainly lived then, yet no clear animals were found there either とあり、動物がいた時代でも化石が残らないことを示すので B。
The oldest animal body fossils are about 574 million years old. Chemical traces linked to sponges turn up in rocks older than 635 million years, and molecular clocks, which convert DNA differences into time, often point earlier still. To run such a clock, researchers need fossil dates that act as limits. A minimum age is easy to defend, since a fossil proves a group existed.
A maximum age is harder, because it rests on absence. Some analyses have used the Weng'an Biota of China, where tiny fossils are preserved in fine detail, on the assumption that animals would have shown up there had they existed. Orin Lole Durbin and colleagues tested that assumption against the Kheseen Biota in Mongolia.
Its preservation and its set of microfossils are similar, and it formed between about 550 and 526 million years ago, when animals were definitely around. It holds no definite animals either. The team prefers several sites older than the Ediacaran Period that keep both non-animal fossils and biomarkers, and their analyses support an origin about 800 to 700 million years ago. A 2024 study with different calibrations put the origin in the early Ediacaran instead.
194 words ・ CEFR B2
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動物の体の化石で最も古いものは約5億7400万年前のものです。海綿と結びつけられる化学的な痕跡は6億3500万年より古い岩石から見つかり、DNAの違いを時間に換算する分子時計は、さらに古い時代を指すことがよくあります。こうした時計を動かすには、限界の役割を果たす化石の年代が必要です。最小年代を正当化するのは簡単で、化石があればそのグループが存在したことが証明されるからです。
最大年代はもっと難しく、「ないこと」に基づくからです。いくつかの分析は、小さな化石が細部まで保存されている中国の瓮安生物群を使い、もし動物がいたならそこに現れたはずだと仮定してきました。オリン・ロール・ダービンらは、その仮定をモンゴルのヘシーン生物群と照らし合わせて検証しました。
保存のされ方も微化石の顔ぶれも似ており、しかも約5億5000万年前から5億2600万年前、動物が確実にいた時代にできたものです。それでも確かな動物は含まれていません。チームは代わりに、動物以外の化石とバイオマーカーの両方が残る、エディアカラ紀より古い複数の産地を使うことを勧めており、その分析は約8億年前から7億年前という起源を支持しています。一方、異なる較正を用いた2024年の研究は、起源をエディアカラ紀の初めとしていました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
最大年代の置き方をめぐる問題と、それによって動物の起源の推定が変わることが中心なので B。
Q2. Why is a maximum age harder to defend than a minimum age?
A maximum age is harder, because it rests on absence とあるので B。
Q3. What does the last sentence suggest?
異なる較正を用いた2024年の研究はエディアカラ紀初めとしていたと述べており、見解が分かれていることを示すので A。
重要単語
- molecular clockC1名詞(句)分子時計A molecular clock turns DNA differences into time.
molecular は molecule(分子)の形容詞。DNAやタンパク質の変化の量から分岐年代を推定する方法。 - calibrationC1名詞較正、目盛り合わせEvery clock needs careful calibration.
動詞は calibrate。実験機器の「キャリブレーション」としてカタカナでも使われる。 - fossil recordB2名詞(句)化石記録The fossil record has many gaps.
record は「記録」。gaps in the fossil record(化石記録の空白)は入試の進化論テーマで頻出。 - biomarkerC1名詞生物指標(ここでは生物がつくった分子の化石)Some biomarkers point to very early sponges.
bio(生命)+marker(目印)。医学では病気の目印になる血液中の物質なども指す。 - divergenceC1名詞分岐、枝分かれDNA can be used to date the divergence of two groups.
動詞は diverge(分かれる)。反対語は convergence(収束)。 - absenceB2名詞不在、ないことFinding no fossils does not always mean the absence of animals.
形容詞は absent。in the absence of ~(~がないときに)は入試頻出の熟語。 - preserveB1動詞保存する、残すFine clay can preserve tiny cells for millions of years.
名詞は preservation。化石の文脈では well-preserved(保存状態の良い)がよく使われる。
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動物の確実な化石は約5.74億年前まで。でもモンゴルの地層で「動物がいたはずの時代なのに、化石の宝庫に動物が写っていない」ことが判明。“化石がない=いない”の前提を見直すと、動物の起源は約8億〜7億年前になったらしい。
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- Lole Durbin, Anttila, Briggs, Macdonald & Anderson (2026) Re-evaluating molecular clock maximum age calibrations revives pre-Ediacaran divergence estimates for animals, Science Advancesdoi.org
- Carlisle, Yin, Pisani & Donoghue (2024) Ediacaran origin and Ediacaran-Cambrian diversification of Metazoa, Science Advancesdoi.org
- dos Reis et al. (2015) Uncertainty in the timing of origin of animals and the limits of precision in molecular timescales, Current Biologydoi.org
- Love et al. (2009) Fossil steroids record the appearance of Demospongiae during the Cryogenian period, Naturedoi.org
- Nettersheim et al. (2019) Putative sponge biomarkers in unicellular Rhizaria question an early rise of animals, Nature Ecology & Evolutiondoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。









