動物・植物ホント

猫のおしっこには「名刺」が入っていた。腎臓にためた脂肪酸で“自分”を名乗る

猫のおしっこには「名刺」が入っていた。腎臓にためた脂肪酸で“自分”を名乗る

読む前に予想してみよう!

猫の尿に含まれる「個体ごとのにおいの組み合わせ」は、同じ猫でも大きく変わってしまう

研究カード(どんな研究?)
対象
イエネコ(ほかネコ科動物の比較あり)
規模
複数の個体
研究の種類
化学分析+行動実験
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

岩手大学などのチームが、猫の尿に含まれる珍しい脂肪酸の組み合わせが「個体ごとに違い、長く変わらない」ことを発見。猫はそれをかぎ分けていた。

ひとことで言うと猫はおしっこのにおいで「これはミケだ!」と分かるみたい。

もくじ
  1. においの「名刺」には弱点があった
  2. 猫はちゃんと「かぎ分けて」いた
  3. 秘密の倉庫は「腎臓」にあった
  4. マタタビ研究のチームが再び
  5. まとめ

猫が、散歩コースの電柱や植え込みに鼻を近づけて、じーっとにおいをかいでいる。あれは、誰がここに来たのかを確かめているのかもしれません。

2026年8月、科学誌『Current Biology』に、岩手大学を中心に、ドイツ・ブラウンシュヴァイク工科大学、スペイン・コルドバ大学、日本大学などが参加した国際チームが論文を発表しました。猫の尿には、1匹ずつ違い、しかも長く変わらない「におい成分の組み合わせ」、いわば化学の名刺が入っていたのです。

01においの「名刺」には弱点があった

動物はにおいで「自分はここにいた」と伝えます。でも、ここに大きな謎がありました。

におい成分は、食べたものや体調で日々変わるし、外に出てからも分解や蒸発で変化していきます。そんな不安定なにおいで、どうやって「私は私」と名乗り続けられるのでしょうか。

02猫はちゃんと「かぎ分けて」いた

本当に猫にとって意味のある情報なのでしょうか。研究チームは、尿の脂質成分を人工的に再現した「共通の背景」の上に、特定の猫由来の脂肪酸の組み合わせだけを変えてのせ、猫に嗅がせました。

すると猫は、違う猫の組み合わせを区別できました。背景のにおいが同じでも、脂肪酸の「配合」だけで個体を見分けられる——つまり、この組み合わせ自体が「誰のにおいか」という情報を運んでいたのです。

腎臓にためた脂肪の粒が、においの「名刺」を安定させていた
腎臓にためた脂肪の粒が、においの「名刺」を安定させていた

03秘密の倉庫は「腎臓」にあった

では、なぜこの名刺は安定しているのか。成分の出どころを追うと、腎臓の皮質にある、中性脂肪をたっぷり含んだ脂肪の粒にたどり着きました。

この脂肪の粒が貯蔵庫(リザーバー)として働き、日々の細かな変動をならすことで、いつも同じような配合の尿が出せると考えられます。においの安定性を、臓器レベルのしくみで支えていたというのは、驚きの発見です。

さらにネコ科のほかの動物も調べたところ、似た脂肪酸や腎臓の脂質の特徴は広く見られる一方、種によって多様だったそうです。

04マタタビ研究のチームが再び

岩手大学の宮崎雅雄さんらのグループは、猫の尿のにおい物質のもと(フェリニン)の生成を調節するタンパク質「コーキシン」の研究(2006年)や、猫がマタタビに体をこすりつけるのは蚊よけになるという研究(2021年)でも知られています。今回は、猫の「におい社会」の新たなしくみを明らかにしました。

05まとめ

猫のおしっこは、ただの排泄物ではなく、腎臓でじっくり準備された「名刺」だったのかもしれません。次に猫が電柱をじっとかいでいたら、「今、誰の名刺を読んでいるんだろう」と想像してみてください。猫の行動の科学はこちらもどうぞ。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerAnimals often use smells to say "I was here." However, body smells can change with food and health, and… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Animals often use smells to say "I was here." However, body smells can change with food and health, and they also change after leaving the body. So how can an animal keep the same smell identity? An international team led by Iwate University studied cat urine and found a group of unusual fatty acids.

The mix of these fatty acids was different for each cat, stayed stable over time, and changed little after the urine was released. In tests, cats could tell the mixes of different cats apart. The team also discovered that these compounds come from fat droplets stored in the kidney, which seem to work like a storage tank.

111 words ・ CEFR B1

和訳を見る

動物はしばしば、においを使って「自分はここにいた」と伝えます。しかし、体のにおいは食べ物や体調で変わりますし、体の外に出たあとでも変化します。では、動物はどうやって同じ「においの身元」を保てるのでしょうか。岩手大学が率いる国際チームは猫の尿を調べ、珍しい脂肪酸のグループを発見しました。

これらの脂肪酸の組み合わせは猫ごとに違い、時間がたっても安定していて、尿が出たあともほとんど変化しませんでした。テストでは、猫は違う猫の組み合わせを見分けることができました。チームはまた、これらの成分が腎臓にたくわえられた脂肪の粒から来ていて、その粒が貯蔵タンクのように働いているらしいことも発見しました。

4択リーディングクイズ

Q1. What problem does the passage describe at the beginning?

Q2. Which is true about the mix of fatty acids?

Q3. Why does the writer compare the fat droplets to "a storage tank"?

重要単語

  • scent markC1
    名詞(句)においづけ、においの目印Cats leave scent marks around their territory. scent は「(よい・特有の)におい」。smell より具体的。scent-marking は動作としての「においづけ」。
  • individualityC1
    名詞個性、個体差Each cat has its own chemical individuality. individual(個人・個体)+-ity。in-(否定)+divide(分ける)で「これ以上分けられない一つ」が原義。
  • fatty acidC1
    名詞(句)脂肪酸Some fatty acids have a strong smell. fatty は「脂肪の多い」、acid は「酸」。omega-3 fatty acids(オメガ3脂肪酸)で見かける。
  • reservoirC1
    名詞たくわえ、貯蔵庫、貯水池The kidney works as a reservoir for these compounds. reserve(たくわえる)と同語源。発音は /ˈrezərvwɑːr/(レザヴワー)。もとはフランス語。
  • discriminateC1
    動詞区別する、見分ける/差別するCats can discriminate between different smells. discriminate between A and B「AとBを区別する」、discriminate against ~「~を差別する」。前置詞で意味が変わる。
  • fluctuateC1
    動詞変動するBody odors fluctuate with diet and health. ラテン語 fluctus(波)から。波のように上下するイメージ。名詞 fluctuation。
  • stableB1
    形容詞安定したThe mixture stayed stable over time. 名詞 stability、反意語 unstable。名詞の stable は「馬小屋」。

4コマでわかる

猫のおしっこには「名刺」が入っていた。腎臓にためた脂肪酸で“自分”を名乗るの4コマ漫画
猫のおしっこには、1匹ずつ違う「におい成分の組み合わせ」が入っていて、しかも同じ猫ではあまり変わらないらしい。その源は腎臓にたくわえた脂肪の粒。猫はちゃんとかぎ分けていたとか。マタタビ研究でおなじみ岩手大学チームの発見。

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出典・参考文献(3件)タップで表示
  1. Ichizawa et al. (2026) Signatures of branched-chain fatty acids derived from a kidney reservoir confer stable chemical individuality on domestic cats, Current Biologydoi.org
  2. Miyazaki et al. (2006) A Major Urinary Protein of the Domestic Cat Regulates the Production of Felinine, a Putative Pheromone Precursor, Chemistry & Biologydoi.org
  3. Uenoyama et al. (2021) The characteristic response of domestic cats to plant iridoids allows them to gain chemical defense against mosquitoes, Science Advancesdoi.org