ウソ?ホント?検証ウソ

「舌の先は甘味担当」はウソだった。教科書に載った“味覚地図”の正体

「舌の先は甘味担当」はウソだった。教科書に載った“味覚地図”の正体

読む前に予想してみよう!

舌の奥では、甘い味はほとんど感じない

研究カード(どんな研究?)
対象
成人の味覚実験・味覚受容体の研究
規模
少人数の感覚実験+分子生物学研究
研究の種類
実験研究・総説
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

舌の「先は甘味、奥は苦味」という地図は、昔の論文のグラフを読み違えて広まったもの。実際は舌のどこでも5つの味を感じる。

ひとことで言うと舌はどこでも甘い・しょっぱい・すっぱい・苦い・うまいを感じるよ!

もくじ
  1. 始まりは1901年のドイツの論文
  2. 「少し敏感」が「そこしか感じない」に化けた
  3. 今わかっている「味のしくみ」
  4. とはいえ、場所の差はゼロではない
  5. まとめ

理科の教科書や資料集で、こんな図を見たことはありませんか?

舌の先が「甘味」、両脇の前が「塩味」、その奥が「酸味」、いちばん奥が「苦味」。色分けされた、あの舌の味覚地図です。

でも今すぐ、砂糖をひとつまみ舌の奥に乗せてみてください。……ちゃんと甘いはず。実はこの地図、昔の論文を読み違えたことから広まった“勘違い”だったんです。

01始まりは1901年のドイツの論文

ポイントは「少しだけ」。どの場所でも4つの味(当時はまだ4つ)は感じられていて、違いは「わずかに敏感かどうか」の差にすぎませんでした。

ところが1942年、アメリカの心理学者ボーリングが心理学の歴史をまとめた本でこのデータをグラフにした際、目盛りの意味が伝わりにくい描き方になっていました。それを見た人たちが「この場所ではこの味しか感じない」と受け取ってしまい、きれいに区切られた地図が生まれた、と考えられています。

02「少し敏感」が「そこしか感じない」に化けた

これ、伝言ゲームとそっくりです。

  • 元の話:「舌の先は甘味をやや感じやすい」
  • 伝わった話:「甘味は舌の先でしか感じない」

1974年には、研究者コリングスが改めて調べ直し、舌のどの場所でもすべての味を感じられることを確認しています。それでも地図はわかりやすさから教科書に残り続け、長く信じられてきました。

きれいに区切られた「地図」は、伝言ゲームの産物だった
きれいに区切られた「地図」は、伝言ゲームの産物だった

03今わかっている「味のしくみ」

舌の表面には、味蕾(みらい=味を感じる小さなセンサーの集まり。つぼみのような形)がたくさんあります。

2006年に学術誌『ネイチャー』で発表されたレビュー論文(チャンドラシェカールら)では、甘味・うま味・苦味などを受け取る受容体(=味の分子をキャッチする“鍵穴”)が詳しく整理されました。これらの鍵穴を持つ細胞は、舌のあちこちの味蕾に散らばっています。

そしてもうひとつ大事なのがうま味。1908年に日本の化学者・池田菊苗が昆布のだしから見つけた味です。古い味覚地図には、そもそもうま味の居場所がありませんでした。

04とはいえ、場所の差はゼロではない

公平のために言うと、舌の先や縁は真ん中より全体的に敏感だったり、喉に近い奥のほうでは濃い苦味を強く感じやすかったりと、小さな差はあると考えられています。

苦味は毒のサインになることも多いので、飲み込む直前でしっかりチェックできるのは理にかなっています。

つまり「場所によって微妙なクセはある。でも担当制ではない」。これが正確な答えです。

どの場所でも、ちゃんと味がしたはずです。自分の舌で確かめられるのが、この話のいいところ。教科書の図より、実験の結果を信じる――それこそが理科の楽しさです。

05まとめ

  • 「舌の先=甘味」のような担当制の味覚地図はウソ
  • 1901年の「少し敏感」というデータが、グラフの読み違いで「そこしか感じない」に化けた
  • 実際は舌のどこでも5つの味(甘・塩・酸・苦・うま味)を感じる

今夜のごはんで、舌のいろんな場所で味わう実験をしてみてください。教科書より、自分の舌のほうが正直です。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerFor many years, textbooks showed a tongue map in which sweetness was sensed at the tip, saltiness and… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

For many years, textbooks showed a tongue map in which sweetness was sensed at the tip, saltiness and sourness at the sides, and bitterness at the back. This map is a misunderstanding. In 1901, a German researcher tested how sensitive different parts of the tongue were to tastes. He found only small differences.

In 1942, an American psychologist turned this data into a graph that was easy to misread. People thought it meant each taste could only be sensed in one area. In 1974, another researcher confirmed that all tastes can be sensed everywhere on the tongue.

Today we know that receptors for different tastes are found in taste buds across the tongue. The old map also had no place for umami, discovered by a Japanese chemist in 1908.

129 words ・ CEFR B1

和訳を見る

長年、教科書には、甘味は舌の先、塩味と酸味は両脇、苦味は奥で感じるという舌の地図が載っていました。この地図は誤解です。1901年、ドイツの研究者が舌のさまざまな部分が味にどれだけ敏感かを調べました。彼が見つけたのは小さな違いだけでした。

1942年、アメリカの心理学者がこのデータを誤読しやすいグラフにしました。人々はそれを、それぞれの味は一つの場所でしか感じられないという意味だと考えました。1974年、別の研究者が、舌のどこでもすべての味を感じられることを確認しました。

今日では、さまざまな味の受容体が舌全体の味蕾にあることがわかっています。また、古い地図には、1908年に日本の化学者が発見したうま味の居場所がありませんでした。

4択リーディングクイズ

Q1. What did the 1901 study actually find?

Q2. How did the misunderstanding spread?

Q3. What does the last sentence suggest about the old map?

重要単語

  • taste budB2
    名詞(句)味蕾Taste buds are found all over the tongue. bud は「つぼみ」。形がつぼみに似ていることから。
  • receptorC1
    名詞受容体Sweet receptors detect sugar molecules. receive(受け取る)と同語源。生物系長文で頻出。
  • sensitivityB2
    名詞感度、感じやすさSensitivity differs only slightly across the tongue. sensitive(敏感な)と sensible(分別のある)の区別は入試の定番。
  • umamiB2
    名詞うま味Umami was discovered by a Japanese chemist. 日本語由来の英単語。tsunami, karaoke などと同じく英語の辞書に載っている。
  • misinterpretC1
    動詞誤解する、読み違えるPeople misinterpreted the original graph. mis-(誤って)+interpret(解釈する)。misunderstand より「解釈の誤り」に焦点。
  • distortC1
    動詞ゆがめるThe graph distorted the original data. dis-+tort(ねじる)。名詞 distortion。torture(拷問)も同じ tort。
  • thresholdC1
    名詞閾値、境目/敷居The taste threshold was similar across the tongue. on the threshold of ~「~の始まりに」。科学では「反応が起きる最小の値」。

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4コマでわかる

「舌の先は甘味担当」はウソだった。教科書に載った“味覚地図”の正体の4コマ漫画
「舌の先は甘味、奥は苦味」の味覚地図、実は100年以上前の論文のグラフを読み違えて広まったものらしい。いま砂糖を舌の奥に乗せてみて。ちゃんと甘いから。

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出典・参考文献(3件)タップで表示
  1. Chandrashekar et al. (2006) The receptors and cells for mammalian taste, Naturedoi.org
  2. Collings (1974) Human taste response as a function of locus of stimulation on the tongue and soft palate, Perception & Psychophysicsdoi.org
  3. Ikeda (2002) New Seasonings(池田菊苗1909年の論文の英訳), Chemical Sensesdoi.org