ウソ?ホント?検証ウソ

60年間、片手だけ指を鳴らし続けた医師がいた。関節は太くなったのか?

60年間、片手だけ指を鳴らし続けた医師がいた。関節は太くなったのか?

読む前に予想してみよう!

指をポキポキ鳴らす習慣があると、関節炎になりやすい

研究カード(どんな研究?)
対象
医師本人の両手(+成人の調査)
規模
1人(調査は約200〜300人)
研究の種類
自己実験・症例対照研究・横断研究
確かさ
★★☆☆☆
3秒でわかる

片手だけ60年以上指を鳴らした医師の手を比べても、関節炎に差はなかった。音の正体は関節の液の中にできる空洞。数百人規模の調査でも関節炎との関係は見られていない。

ひとことで言うとポキッの正体は関節の中の「泡」。鳴らしても関節炎にはなりにくいみたい!

もくじ
  1. 左手だけ、60年以上鳴らし続けた
  2. 「ポキッ」の正体は、関節の中の“泡”
  3. もっと多くの人で調べてみると
  4. まとめ

「指をポキポキ鳴らしていると、関節が太くなるよ」「関節炎になるからやめなさい」

子どものころ、親や先生にこう注意された人は多いはず。でも、ついやってしまいますよね。あのスッキリ感、クセになります。

この「本当に悪いの?」という疑問に、自分の人生をかけて答えを出した医師がいました。

01左手だけ、60年以上鳴らし続けた

アメリカの医師ドナルド・アンガー博士。子どものころ、母親やおばたちから「指を鳴らすと関節炎になる」と言われ続けた彼は、ある実験を思いつきます。

左手の指だけを毎日鳴らし、右手は一切鳴らさない。そして何十年後かに、両手を比べてみる――。

この研究は2009年、「人々を笑わせ、そして考えさせる研究」に贈られるイグノーベル賞の医学賞を受賞しました。授賞理由では、片手だけを鳴らした期間は「60年以上」と紹介されています。

もちろん、これはたった1人の、たった2本の手の比較。科学的な証拠としては弱いものです。でも、その執念には拍手を送りたくなります。

02「ポキッ」の正体は、関節の中の“泡”

そもそも、あの音はどこから出ているのでしょう?

指の関節は、骨と骨の間が袋に包まれていて、中は関節液(=関節をなめらかに動かす潤滑油のような液体)で満たされています。

関節を引き離すと、中の圧力が下がって液の中に空洞が生まれます。その瞬間に「ポキッ」と鳴るのです。一度鳴らすとしばらく鳴らないのは、空洞がなくなって元の状態に戻るまで時間がかかるからだと考えられています。

関節を引き離すと中の圧力が下がり、液の中に空洞ができる。その瞬間が「ポキッ」
関節を引き離すと中の圧力が下がり、液の中に空洞ができる。その瞬間が「ポキッ」

03もっと多くの人で調べてみると

アンガー博士の1人実験だけでなく、たくさんの人を比べた調査もあります。

2011年にアメリカの研究チームが報告した調査では、200人あまりを対象に、指を鳴らす習慣がある人とない人を比べました。結果、手の関節炎の割合に差は見られませんでした。

ただし、完全に無害と言い切れるわけでもありません。1990年の研究では、習慣的に鳴らす人のほうが手の腫れが多く、握力が弱い傾向があったと報告されています。この結果はその後あまり確かめられていませんが、「やりすぎはほどほどに」という目安にはなりそうです。

04まとめ

  • 片手だけ数十年鳴らし続けた医師の手に、関節炎の差はなかった
  • 「ポキッ」の正体は、関節液の中にできる空洞
  • 大人数の調査でも、関節炎との関係は見つかっていない。ただし、鳴らしすぎには注意

親に注意されたら、「60年かけて確かめた先生がいるんだよ」と教えてあげましょう。ただ、会議中の連続ポキポキは、関節より人間関係に悪いかもしれません。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerCracking your knuckles has long been said to cause arthritis. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Cracking your knuckles has long been said to cause arthritis. To test this, an American doctor, Donald Unger, cracked the knuckles of his left hand at least twice a day for decades while leaving his right hand alone. In 1998, he reported that neither hand had arthritis and there was no difference between them. His study later won an Ig Nobel Prize.

Of course, one person is not strong evidence. However, a 2011 survey of more than 200 people also found no difference in hand arthritis between people who cracked their knuckles and those who did not. So what makes the sound? In 2015, Canadian researchers used MRI and saw that a cavity forms in the joint fluid at the moment of the pop.

124 words ・ CEFR B1

和訳を見る

指の関節を鳴らすと関節炎になると長い間言われてきました。これを検証するため、アメリカの医師ドナルド・アンガーは、何十年にもわたって左手の指の関節を少なくとも1日2回鳴らし、右手はそのままにしておきました。1998年、彼はどちらの手にも関節炎はなく、両手の間に違いもなかったと報告しました。彼の研究は後にイグノーベル賞を受賞しました。

もちろん、1人だけでは強い証拠にはなりません。しかし、200人以上を対象とした2011年の調査でも、指を鳴らす人と鳴らさない人の間で手の関節炎に違いは見られませんでした。では、何が音を出しているのでしょうか。2015年、カナダの研究者たちはMRIを使い、ポキッと鳴る瞬間に関節液の中に空洞ができるのを確認しました。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the passage mainly about?

Q2. Why does the writer say "one person is not strong evidence"?

Q3. What did the 2015 MRI study show?

重要単語

  • knuckleB2
    名詞指の関節He cracked the knuckles of his left hand. crack one's knuckles「指をポキポキ鳴らす」がセット。k は発音しない。
  • arthritisC1
    名詞関節炎There was no arthritis in either hand. arthr(関節)+-itis(炎症)。-itis は bronchitis(気管支炎)など病名に付く。
  • jointB1
    名詞・形容詞関節/共同のJoint fluid keeps the bones moving smoothly. 形容詞では a joint project「共同プロジェクト」。多義語として入試頻出。
  • cavityC1
    名詞空洞A cavity forms when the joint is pulled apart. 「虫歯(の穴)」の意味でもよく使う。cave(洞くつ)と同語源。
  • habitA2
    名詞習慣、癖Knuckle cracking is a common habit. 個人の癖は habit、社会の慣習は custom。break a habit「癖をやめる」。
  • anecdoteC1
    名詞逸話One person's story is only an anecdote, not proof. anecdotal evidence「体験談レベルの証拠」は科学系長文の定番表現。
  • replicateC1
    動詞(実験・結果を)再現するThe finding has rarely been replicated. replica(複製)と同語源。研究の信頼性を語るときのキーワード。

動画でもっと知る

4コマでわかる

60年間、片手だけ指を鳴らし続けた医師がいた。関節は太くなったのか?の4コマ漫画
「指をポキポキ鳴らすと関節が太くなる」を確かめるため、片手だけ60年以上鳴らし続けた医師がいたらしい。結果、両手とも関節炎なし。この研究でイグノーベル賞を受賞してる。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Unger (1998) Does knuckle cracking lead to arthritis of the fingers?, Arthritis & Rheumatismpubmed.ncbi.nlm.nih.gov
  2. Kawchuk et al. (2015) Real-Time Visualization of Joint Cavitation, PLOS ONEdoi.org
  3. deWeber et al. (2011) Knuckle Cracking and Hand Osteoarthritis, The Journal of the American Board of Family Medicinedoi.org
  4. Castellanos & Axelrod (1990) Effect of habitual knuckle cracking on hand function, Annals of the Rheumatic Diseasesdoi.org