ウソ?ホント?検証ビミョー

「ネコは高い所から落ちても平気」は危険な誤解。"高いほど無事"説には統計のワナがあった

「ネコは高い所から落ちても平気」は危険な誤解。"高いほど無事"説には統計のワナがあった

読む前に予想してみよう!

ネコは高い所から落ちても、けがをしないことが多い

研究カード(どんな研究?)
対象
高所から落ちて動物病院に来たネコ
規模
132匹+119匹
研究の種類
症例の後ろ向き調査
確かさ
★★☆☆☆
3秒でわかる

ネコは空中で体をひねって足から着地できる。でも高所から落ちたネコの多くは胸や足をけがしていた。「高いほど無事」説には統計のワナもある。

ひとことで言うとネコは着地の天才。でも落ちたらけがをする。窓に注意!

もくじ
  1. 空中で回れるのは物理のワザ
  2. でも、落ちたネコの9割が胸をけがしていた
  3. 「7階より上だと無事」説のワナ
  4. なぜ「平気」と思われてきたのか
  5. まとめ

「ネコは高い所から落ちても、くるっと回って着地するから大丈夫」

ネコを飼っている人なら、一度は聞いたことがあるでしょう。たしかにネコは、背中から落としても空中で体をひねり、見事に足から着地します。

でも、「だから平気」は大間違い。動物病院の記録を見ると、高い所から落ちたネコの多くはけがをしています。そして有名な「高い階から落ちたほうが無事」という説には、意外な統計のワナが隠れていました。

01空中で回れるのは物理のワザ

ネコが空中で体をひねる動きは「立ち直り反射」と呼ばれます。不思議なのは、空中では押したり蹴ったりする足場がないのに、向きを変えられることです。

1969年、米国スタンフォード大学のケインとシェアは、この動きを力学で説明しました。ネコは体の前半分と後ろ半分を別々にひねることで、全体としては回転の勢いをゼロのまま保ちつつ、向きだけを変えているのです。物理のルールを破っているわけではなく、体の柔らかさを使った見事なワザでした。

02でも、落ちたネコの9割が胸をけがしていた

着地はできても、地面にぶつかる衝撃は消えません。足から落ちてもあごを打ったり、胸に強い力がかかったりして、けがをするのです。

03「7階より上だと無事」説のワナ

この研究が有名になった理由は、もう一つあります。論文のデータでは、7階より高い所から落ちたネコのほうが、けがが少なめに見えたのです。生物学者ジャレド・ダイアモンドも1988年に『Nature』の解説記事でこの結果を取り上げました。

説明として考えられたのは、こんな仮説です。

  • ネコは数階分落ちると、それ以上は速くならない「終端速度」に達する
  • 加速が止まると、ネコは体の力を抜いて手足を広げ、ムササビのように空気抵抗を増やす
手足を広げて空気抵抗を増やす"ムササビ姿勢"。でも、それで安全になるとは限らない
手足を広げて空気抵抗を増やす"ムササビ姿勢"。でも、それで安全になるとは限らない

ところが、ここに大きな落とし穴があります。この研究に入っているのは、動物病院に運ばれてきたネコだけなのです。

高い所から落ちて亡くなったネコは、病院に運ばれないことが多いはずです。そうなると、高層階から落ちたネコのうち「病院に来た」のは、たまたま軽傷ですんだネコに偏ってしまいます。これは「生存者バイアス」と呼ばれる統計のワナです。

実際、クロアチア・ザグレブ大学のヴヌクらが119匹を調べた2004年の研究では、7階以上からの落下は、むしろ重いけがや胸のけがと関連していました。

04なぜ「平気」と思われてきたのか

  • 空中で回って着地する姿が、あまりに鮮やかで印象に残る
  • 低い所からのジャンプなら、本当に平気なことが多い
  • 「ネコに九生あり」のような言い伝えが、"不死身"のイメージを強めた

低い所なら上手に着地できる、という本当の部分が、「高い所も平気」に広がってしまったのでしょう。

05まとめ

  • ネコは空中で体をひねって足から着地できる(物理のワザ)
  • でも高所から落ちたネコの多くは、胸のけがや骨折をしていた
  • 「高いほど無事」説は、病院に来なかったネコを数えていない可能性がある

判定は「ビミョー」。ネコの着地は本物の才能ですが、才能があることと、けがをしないことは別。窓とベランダの対策をしてあげましょう。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerCats have an amazing skill called the righting reflex. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Cats have an amazing skill called the righting reflex. When they fall, they twist the front and back halves of their bodies separately, so they can turn over in the air and land on their feet.

However, landing well does not mean landing safely. In 1987, a New York animal hospital reported 132 cats that had fallen from high buildings. About 90 percent had chest injuries, and 39 percent had broken legs. The data also seemed to show that cats falling from above the seventh floor were hurt less. But this may be a trick of statistics. Cats that died after very high falls may not have been taken to the hospital at all.

114 words ・ CEFR B1

和訳を見る

ネコには「立ち直り反射」と呼ばれる驚くべき能力があります。落ちるとき、ネコは体の前半分と後ろ半分を別々にひねるので、空中で体をひっくり返して足から着地できるのです。

しかし、上手に着地できることは、安全に着地できることを意味しません。1987年、ニューヨークの動物病院が、高い建物から落ちたネコ132匹について報告しました。約9割が胸にけがをしており、39%が足を骨折していました。データからは、7階より上から落ちたネコのほうがけがが少ないようにも見えました。しかし、これは統計のワナかもしれません。とても高い所から落ちて死んだネコは、そもそも病院に運ばれなかった可能性があります。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the main point of the passage?

Q2. What percentage of the cats had chest injuries?

Q3. Why might the data show fewer injuries in cats that fell from higher floors?

重要単語

  • reflexB2
    名詞反射Cats have a righting reflex. 考える前に体が動く反応。righting reflex は「立ち直り反射」。形容詞 reflexive。
  • fractureC1
    名詞骨折The cat had a fracture in its back leg. broken bone の硬い言い方。動詞としても使える(fracture a leg)。
  • terminal velocityC1
    名詞(句)終端速度A falling cat reaches terminal velocity after several floors. 空気抵抗と重力がつり合い、それ以上速くならない速度。terminal は「終わりの」。
  • biasB2
    名詞偏りThe data may contain a serious bias. survivorship bias(生存者バイアス)、gender bias など。be biased toward ~「~に偏っている」。
  • injuryB1
    名詞けがChest injuries were the most common. 動詞 injure(けがをさせる)。be injured in an accident「事故でけがをする」。
  • orientationC1
    名詞向き、方向The cat changed its orientation in the air. orient(東)が語源で「方角を合わせる」。新入生の「オリエンテーション」も同じ語。

4コマでわかる

「ネコは高い所から落ちても平気」は危険な誤解。"高いほど無事"説には統計のワナがあったの4コマ漫画
「ネコは高い所から落ちても平気」説。マンションから落ちたネコ132匹の記録では、9割が胸にけがをしていたらしい。「7階より上の方が無事」という有名な話には、"病院に来なかったネコ"という統計のワナがあった。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Whitney & Mehlhaff (1987) High-rise syndrome in cats, Journal of the American Veterinary Medical Associationpubmed.ncbi.nlm.nih.gov
  2. Vnuk et al. (2004) Feline high-rise syndrome: 119 cases (1998–2001), Journal of Feline Medicine and Surgerydoi.org
  3. Kane & Scher (1969) A dynamical explanation of the falling cat phenomenon, International Journal of Solids and Structuresdoi.org
  4. Diamond (1988) Why cats have nine lives, Naturedoi.org