「牛は赤い色に興奮する」はウソ? よくある"牛は色が見えない"という反論も、実は間違っていた

読む前に予想してみよう!
牛は色がまったく見えず、白黒の世界で暮らしている
牛は2種類の色センサーを持つ2色型色覚で、赤と青・緑などを見分けられる。
- 対象
- 牛・ヤギ・ヒツジ
- 規模
- 数頭〜十数頭規模
- 研究の種類
- 網膜の電気生理・行動実験
- 確かさ
- ★★★☆☆
牛は「色が見えない」わけではなく、赤と青・緑は見分けられる2色型の色覚。ただ赤だけに怒るという証拠はなく、闘牛の突進は布の動きへの反応が大きい。
ひとことで言うと牛は赤を見分けられる。でも赤だから怒るわけじゃない!
闘牛士がひらりと赤い布をひるがえし、牛が猛然と突進する――。
このイメージから、「牛は赤い色を見ると興奮する」と思っている人は多いでしょう。一方で、雑学好きの人の間では「いや、牛は色が見えないからウソなんだよ」という反論も定番になっています。
ところが、論文を調べると、この"定番の反論"もまた正しくなかったのです。
01牛は「色が見えない」わけではなかった
私たちの目には、色を感じる細胞(錐体)が3種類あります。赤っぽい光、緑っぽい光、青っぽい光によく反応する細胞で、この組み合わせで色を見分けています。
2色型の色覚は、人間でいうと赤と緑の区別がつきにくいタイプの色覚に近いと考えられています。でも、それは「白黒の世界」とはまったく違います。
02実験で、牛は赤を見分けた
では実際に、牛は赤を見分けられるのでしょうか。
- 1986年、米国ユタ州立大学のギルバートとアラーブは、若いメス牛に「正しい色の光のときに板を押すとエサがもらえる」訓練をしました。すると多くの牛が、赤と青を見分けられるようになりました
- 2001年、英国ケンブリッジ大学のフィリップスとロマスは、色ごとの「明るさ」の違いで見分けてしまわないよう、光の明るさをそろえて実験しました。子牛は赤(長い波長)と、青や緑をよく見分けました(正答率は平均82〜89%)。一方、青と緑の区別は苦手でした

つまり、「牛は赤が見えないから、赤い布に興奮するのはウソ」という説明は、理由の部分が間違っているのです。
03それでも「赤だから怒る」とは言えない
では、牛は本当に赤い色に興奮するのでしょうか。ここが話のおもしろいところです。
フィリップスとロマスの実験では、明るさをそろえた赤い光の中で、子牛の動きが青や緑の光の中より活発になる場面がありました。ただし、これは「新しい場所」などの条件下での動きの違いで、赤を見て怒ったことを示すものではありません。
さらに、実際の闘牛では、試合の前半にピンクと黄色の大きな布も使われ、牛はそれにも勢いよく向かっていきます。牛を刺激しているのは、色そのものより、目の前でひらひらと動く大きなものだと考えられています。
赤い布が使われるのは、人間の観客にとって見ばえがよく、血の色を目立たなくするため、などと説明されることが多いようです。
04なぜ2つの"常識"が生まれたのか
- 「赤=興奮・怒り」という人間の感覚を、牛に重ねてしまった
- 「動物は色が見えない」という古いイメージが、反論として広まった
- 実際の色覚の研究は、あまり一般に知られていない
ウソを正そうとした"反論"にまで誤解が混ざっていた、というのは科学ではよくあることです。
05まとめ
- 牛は2色型の色覚で、赤と青・緑を見分けられる(「色が見えない」は誤解)
- でも「赤だから怒る」という証拠はなく、突進は布の動きへの反応が大きいと考えられる
- ウソを正す"反論"にも、実は誤解が混ざっていた
判定は「ビミョー」。神話も反論も半分ずつ。常識をひっくり返す話ほど、もう一度ひっくり返して確かめる価値がありそうです。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerA bullfighter waves a red cape, and the bull runs straight at it.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Many people think bulls get angry when they see a red cape. Others say, "Bulls cannot see colors, so this is wrong."
But neither idea is quite right. Cows can see some colors. In tests, young cows could tell red from blue and green. But there is no proof that red makes bulls angry. Bulls probably run at the cape because it moves.
63 words ・ CEFR A2
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多くの人は、牛は赤い布を見ると怒ると思っています。一方で、「牛は色が見えないから、それは間違いだ」と言う人もいます。
しかし、どちらの考えも正しいとは言えません。牛はいくつかの色を見ることができます。実験では、若い牛が赤を青や緑と見分けることができました。しかし、赤が牛を怒らせるという証拠はありません。牛が布に向かって走るのは、おそらく布が動くからです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
牛の色の見え方と、布に突進する理由を説明しているので B。
Q2. In the tests, what could young cows do?
young cows could tell red from blue and green とあるので A。
Q3. In this passage, "tell red from blue" means ...
tell A from B は「AとBを見分ける」という意味なので D。
A bullfighter waves a red cape, and the bull runs straight at it. Many people think the color makes the bull angry. Others say cattle cannot see color at all. Both ideas are wrong. In 1998, American researchers found that cows have two types of color-sensing cells called cones. Humans have three.
So cattle can see some colors, but not as many as we can. In a 2001 experiment, calves could tell red from blue or green, even when the lights were equally bright.
But no study has shown that red itself makes bulls angry. In bullfights, bulls also charge at pink and yellow capes. The movement of the cape probably matters more than its color.
116 words ・ CEFR B1
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闘牛士が赤い布を振ると、牛はまっすぐそれに向かって走ってきます。多くの人は、その色が牛を怒らせるのだと考えています。一方で、牛はそもそも色が見えないと言う人もいます。どちらの考えも間違っています。1998年、米国の研究者たちは、牛には「錐体」という色を感じる細胞が2種類あることを発見しました。人間には3種類あります。
つまり牛は、私たちほど多くはないものの、いくつかの色を見ることができるのです。2001年の実験では、光の明るさを同じにしても、子牛は赤を青や緑と見分けることができました。
しかし、赤そのものが牛を怒らせることを示した研究はありません。闘牛では、牛はピンクや黄色の布にも突進します。おそらく色よりも、布の動きのほうが重要なのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
Both ideas are wrong と述べ、牛は赤を見分けられるが赤で怒るという研究はないと説明しているので C。
Q2. How many types of cones do cows have?
cows have two types of color-sensing cells called cones とあるので B。3種類は人間。
Q3. Why does the writer mention pink and yellow capes?
赤以外の布にも突進する例を挙げ、The movement of the cape probably matters more than its color と結論しているので A。
Ask why a bull charges at a matador's red cape, and someone will usually reply that cattle are color-blind anyway. That popular correction is itself mistaken. In 1998, researchers recorded the responses of the retina in cows, goats and sheep.
All three species had two types of cones, one most sensitive to blue light at around 444 to 455 nanometers and the other to yellowish-green light at around 552 to 555 nanometers. Cattle therefore have dichromatic vision. Their world is not black and white but roughly comparable to that of a person with red-green color deficiency.
Behavioral tests agree. In a 2001 study in which the lights were matched for brightness, calves picked out red from blue or green with an average accuracy of 82 to 89 percent, though they had trouble separating blue from green.
So cattle can see red. There is no good evidence, however, that red makes them aggressive. Calves were sometimes more active under red light, but only in particular conditions, such as unfamiliar surroundings. Few controlled studies have been run inside a bullring. Even so, bulls are known to charge at pink and yellow capes as well, so movement is the more likely trigger.
199 words ・ CEFR B2
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雄牛はなぜ闘牛士の赤い布に突進するのかと聞けば、たいてい誰かが「そもそも牛には色が見えない」と答えるでしょう。しかし、この定番の訂正そのものが間違っています。1998年、研究者たちは牛・ヤギ・ヒツジの網膜の反応を記録しました。
3種すべてが2種類の錐体を持っており、一つは約444〜455ナノメートルの青い光に、もう一つは約552〜555ナノメートルの黄緑の光に最もよく反応しました。したがって牛は2色型の色覚を持っています。牛の見ている世界は白黒ではなく、赤緑の色覚特性を持つ人の見え方にほぼ相当するのです。
行動実験の結果も一致しています。光の明るさをそろえた2001年の研究では、子牛は平均82〜89%の正答率で赤を青や緑と見分けましたが、青と緑を区別するのは苦手でした。
つまり、牛には赤が見えます。しかし、赤が牛を攻撃的にするというしっかりした証拠はありません。子牛が赤い光の下でより活発になることはありましたが、それは慣れない環境など特定の条件の下だけでした。闘牛場の中で対照研究が行われた例はほとんどありません。それでも、雄牛はピンクや黄色の布にも突進することが知られているので、引き金になっているのは動きである可能性のほうが高いのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
That popular correction is itself mistaken(色が見えないという反論も誤り)と述べ、さらに赤で攻撃的になる証拠もないとしているので、両方を退けている C。
Q2. In the 2001 study, which colors did the calves find difficult to tell apart?
they had trouble separating blue from green とあるので D。
Q3. Why did the researchers probably match the lights for brightness?
明るさが同じなら、見分けた手がかりは色そのものだと言えるので B。
重要単語
- color visionB2名詞(句)色覚Cattle have dichromatic color vision.
color-blind(色が見分けにくい)とセットで。近年は color vision deficiency と言うことが多い。 - coneC1名詞錐体(色を感じる細胞)Humans have three types of cones.
本来は「円錐」(ice cream cone)。明暗を感じる rod(桿体)と対で覚える。 - discriminateC1動詞見分けるThe calves could discriminate red from blue.
discriminate A from B「AとBを見分ける」。against が付くと「差別する」になる点に注意。 - wavelengthB2名詞波長Red light has a long wavelength.
be on the same wavelength は「気が合う・考えが同じ」という口語表現。 - provokeC1動詞刺激する、怒らせるDoes the color red provoke a bull?
pro-(前へ)+voke(呼ぶ)。provoke anger / a reaction(怒り・反応を引き起こす)。 - dichromaticC1形容詞2色型のDogs and cattle have dichromatic vision.
di-(2つ)+chroma(色)。人間の色覚は trichromatic(3色型)。
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「闘牛は赤い布に興奮する」説。よく「牛は色が見えないからウソ」と言われるけど、実験では牛は赤と青・緑をちゃんと見分けられた。とはいえ"赤だから怒る"証拠はなく、突進のカギは布の動きらしい。ウソと反論、どちらも半分ずつ。
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出典・参考文献(3件)タップで表示
- Jacobs, Deegan & Neitz (1998) Photopigment basis for dichromatic color vision in cows, goats, and sheep, Visual Neurosciencedoi.org
- Phillips & Lomas (2001) The perception of color by cattle and its influence on behavior, Journal of Dairy Sciencedoi.org
- Gilbert & Arave (1986) Ability of cattle to distinguish among different wavelengths of light, Journal of Dairy Sciencedoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。










