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「男性の合格率が高い=女性差別」は早とちり? バークレー大学院入試とシンプソンのパラドックス

「男性の合格率が高い=女性差別」は早とちり? バークレー大学院入試とシンプソンのパラドックス

読む前に予想してみよう!

全体の合格率で男性が上回っていれば、それだけで入試の女性差別の証拠になる

研究カード(どんな研究?)
対象
1973年秋のバークレー大学院出願者
規模
全学の出願データ(主要6学科で4,526人)
研究の種類
既存データの統計的分析
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

1973年のバークレー大学院入試は、全体では男性の合格率が高かった。でも学科別に見ると女性不利はほぼ消えた。まとめ方で結論が変わる「シンプソンのパラドックス」。

ひとことで言うと全体で見るか、グループごとに見るかで、答えがひっくり返ることがある!

論文スペック表研究デザイン・規模・結果・その後(玄人向け)
研究デザイン
既存の入試データの統計的分析(観察研究)
データ
1973年秋のバークレー大学院の出願者。教材でよく使われる主要6学科では4,526人
主な指標
男女別の合格率(6学科合計と学科別)
主な結果
6学科合計では男性約45%、女性約30%。学科別では6学科中4学科で女性の合格率が高い
論文の結論
全体の差は入試の判定ではなく、出願先の違いから生じていた
その後の再解釈
どちらの表を使うべきかはデータだけでは決まらず、因果構造で決まる(Pearl 2014、Hernán et al. 2011)。因果推論の枠組みでは、学科は性別の影響を受ける媒介変数にあたり、使う数字は問いによって変わる
もくじ
  1. 問い:大学は女性を差別していたのか?
  2. 数字で見るワナ:主要6学科のデータ
  3. 論文が本当に言ったこと
  4. 因果推論で見直す:どちらの数字が「正しい」のか
  5. 研究史の中の位置づけ
  6. まとめ

1973年秋、カリフォルニア大学バークレー校の大学院入試。出願者全体の数字を並べると、男性の合格率が女性よりはっきり高い。どう見ても「女性が不利な入試」です。

ところが、同じデータを学科ごとに分けて見直すと、景色が一変しました。女性に不利な判定をしている学科はほとんど見つからず、むしろ女性に有利な学科と男性に有利な学科が、ほぼ同じくらいありました。

全体で見ると「女性不利」、分けて見ると「ほぼ公平」。どちらも同じデータです。統計学で最も有名なワナの一つ、「シンプソンのパラドックス」の代表例として、今も世界中の授業で使われている事例です。

01問い:大学は女性を差別していたのか?

1975年、統計学者のビッケル(Bickel)さんらは、このバークレーの出願データを詳しく分析し、科学誌『Science』に発表しました。

論文の要旨の言葉を借りれば、全体の数字は「はっきりした、しかし誤解を招く」女性不利のパターンを示していました。もし入試で女性が組織的に不利に扱われていたなら大問題です。ビッケルさんらが確かめようとしたのは、まさに「この差は、入試の判定での差別を意味するのか?」という問いでした。

ポイントは、大学院入試の合否を決めていたのが大学全体ではなく、各学科だったこと。判定の現場は学科です。だから「差別があるなら、学科単位で見えるはずだ」と考えたわけです。

02数字で見るワナ:主要6学科のデータ

この論文に由来し、のちに統計の教材として広く使われるようになった「出願者の多い主要6学科」のデータで見てみましょう(学科名は A〜F の記号で匿名化されています)。

6学科の合計

  • 男性:2,691人が出願、合格率 約45%
  • 女性:1,835人が出願、合格率 約30%

約14ポイントもの差です。ところが学科ごとに見ると――

  • 学科A:男性 約62% / 女性 約82%
  • 学科B:男性 約63% / 女性 約68%
  • 学科C:男性 約37% / 女性 約34%
  • 学科D:男性 約33% / 女性 約35%
  • 学科E:男性 約28% / 女性 約24%
  • 学科F:男性 約6% / 女性 約7%

6学科のうち4学科で、女性の合格率のほうが高いのです。

カラクリは「誰が、どこに出願したか」にあります。合格率の高い学科AとBには、男性出願者の約半数が集中していました。一方、女性でAとBに出願したのは1割にも届きません。女性の多くは、男女を問わず合格率の低いC〜Fに出願していたのです。

難しい学科に多く挑んだグループは、たとえ各学科で同じように扱われていても、全体の合格率は低く出る。これがシンプソンのパラドックスの正体です。

どの「入り口」に多く並んだかで、全体の通過率は大きく変わる
どの「入り口」に多く並んだかで、全体の通過率は大きく変わる

03論文が本当に言ったこと

ビッケルさんらの結論は、単に「差別はなかった」ではありません。要旨をまとめると、こうなります。

  • 学科ごとに見ると、女性の合格数が期待値から統計的に有意にずれる学科はごくわずかで、女性有利に見える学科と男性有利に見える学科はほぼ同数だった
  • 学科ごとの違いを考慮してまとめ直すと、むしろ女性にわずかに有利な、統計的に有意な偏りが出た
  • 全体の差は入試委員会の差別ではなく、女性が合格しにくい分野へ出願する傾向から生まれていた
  • 入りやすい学科ほど、学部段階で数学を多く要求する傾向があった

そして著者らは、その傾向の背景として、それ以前の教育や社会化の段階で、女性が混み合っていて資金も乏しく、就職の見通しも厳しい分野へと方向づけられている可能性を指摘しています。

つまり論文は「差別はゼロ」と言ったのではなく、差別が起きている場所は入試の判定ではなく、もっと上流ではないかと問いかけたのです。

04因果推論で見直す:どちらの数字が「正しい」のか

では、全体の数字と学科別の数字、どちらを信じればいいのでしょう?

ここで重要になるのが、因果推論の研究者ジューディア・パール(Pearl)さんの視点です。パールさんは2014年の論考で、データだけを見ていても、どちらの表を使うべきかは決められないと強調しました。まったく同じ数字でも、背後にある「原因と結果のつながり方」が違えば、正しい答えが集計側になることも、層別側になることもあるからです。

実はこの指摘には前史があります。1951年にこの現象を論じたシンプソン(Simpson)さん自身が、自分の挙げた二つの例を通して「まとめた表のほうが筋の通った答え」になる場合と、「分けた表のほうが筋が通る」場合があると気づいていました。ヘルナン(Hernán)さんらは2011年、シンプソンの例を因果ダイアグラムで描き直し、二つの例は因果構造がまったく違っていたことを示しています。

パールさんは、どちらの表が正しい答えを持っているかは、因果ダイアグラム上の「バックドア基準」(原因と結果を見かけ上つないでしまう“裏道”を、第三の要因がふさいでいるかどうか)で決まると説明しています。典型的な例で言うと、次のようになります。

  • 共通の原因(交絡因子)なら分けて見る:たとえば薬の効果を調べるとき、性別は薬を飲むかどうかにも回復にも影響しうるが、薬によって性別が変わることはない。こういう要因は層別して比べるのが正しい。
  • 原因の影響を受ける途中の要因なら、まとめて見る:薬が血圧を下げ、その血圧が回復に影響するなら、血圧で分けてしまうと薬の効果の一部を消してしまう。薬の効果全体を知りたいなら、まとめた表が正しい答えになる。

ただしパールさんは、決め手は「時間の順序」や「原因の影響を受けるかどうか」そのものではなく、あくまで因果ダイアグラム上の道筋の形だ、とも念を押しています。

では、バークレーに当てはめるとどうなるか。ここからは、パールさんの2014年の論考そのものではなく、因果推論の一般的な考え方(直接効果と総合効果の区別)を使った整理です。バークレーの「学科」は、性別(原因)の影響を受けて選ばれる要因、つまり媒介変数にあたります。

学科で層別すると、「同じ学科に出願した男女で、合否に差があるか」=学科選択を経由しない性別の影響が見えます。入試委員会の公平さを問うなら、知りたいのはこちらです。

一方、全体の数字が示すのは、学科選択を通した影響も含めた「性別による合格のしやすさの総合的な差」です。社会全体として男女の大学院進学機会に差があるか、を問うならこちらが意味を持ちます。

どちらかが「正しい」のではなく、どちらの問いに答えたいのかで使う数字が決まる。これが因果推論の考え方からの答えです。

ここから玄人ゾーン

ここまで読めば要点はつかめています。この先は反論・方法論・未解決の問いまで踏み込みます。

05研究史の中の位置づけ

集計と層別で関係が食い違う現象自体は、1899年のピアソンら、1903年のユールなど、19世紀末から統計学者たちに知られていました。1951年のシンプソンの論文は、それを分割表の「交互作用」の解釈という形で整理したものです。

バークレーの事例が特別なのは、それが現実の社会問題――大学の性差別疑惑――のなかで現れ、データの読み方ひとつで「差別あり」にも「差別なし」にも見えることを鮮やかに示した点です。

そして1990年代以降、パールさんらの因果推論の枠組みによって、「なぜ人はこの現象に驚くのか」「どちらの数字を使うべきか」が、統計ではなく因果の問題として整理されました。統計の授業のおもしろ雑学だった話が、因果推論の入り口として位置づけ直されたのです。

同じ数字でも、矢印(因果のつながり)の描き方しだいで、見るべき表が変わる
同じ数字でも、矢印(因果のつながり)の描き方しだいで、見るべき表が変わる

06まとめ

「全体の合格率に差がある」という事実だけでは、どこで何が起きているのかはわかりません。バークレーの例では、差は入試の判定ではなく「どの学科に出願したか」から生まれていました。

ただし、だから「何の問題もない」わけでもない。どの数字を見るべきかは、知りたいのが“判定の公平さ”なのか“社会全体の機会の差”なのかで変わります。

次にグラフや平均値を見たら、こう問いかけてみてください。「分けて見たら、話は変わらないだろうか? そして、分けるべきなのはなぜだろう?」

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn the fall of 1973, graduate admissions at the University of California, Berkeley, showed a worrying pattern. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

In the fall of 1973, graduate admissions at the University of California, Berkeley, showed a worrying pattern. Across the whole university, men were admitted at a clearly higher rate than women. The statistician Peter Bickel and two colleagues looked more closely. Because each department made its own decisions, they studied the departments one by one.

Very few showed a significant bias against women, and about as many favored women as favored men. The overall gap came from where people applied. Women more often chose departments with low admission rates for everyone, while many men applied to departments that accepted most applicants. This kind of clash between a whole group and its parts is called Simpson's paradox.

116 words ・ CEFR B1

和訳を見る

1973年秋、カリフォルニア大学バークレー校の大学院入試には、気がかりなパターンが表れていた。大学全体で見ると、男性のほうが女性よりはっきり高い割合で合格していたのだ。統計学者ピーター・ビッケルさんと2人の共同研究者が、これをくわしく調べた。合否はそれぞれの学科が決めていたので、彼らは学科を一つずつ分析した。

女性に対して有意な偏りを示した学科はごくわずかで、女性に有利な学科と男性に有利な学科はほぼ同じ数だった。全体の差は、人々がどこに出願したかから生まれていた。女性は、誰にとっても合格率の低い学科を選ぶことが多く、一方で多くの男性は、出願者の大半を受け入れる学科に出願していた。このように、全体とその部分とで傾向が食い違う現象は、シンプソンのパラドックスと呼ばれる。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the main idea of the passage?

Q2. Why did the researchers study the departments one by one?

Q3. What can we infer about the departments many women applied to?

重要単語

  • aggregateC1
    形容詞・名詞集計した、総計(の)The aggregate numbers told a different story. ラテン語 ad-(~へ)+ grex(群れ)で「群れに集める」。in the aggregate で「全体として」。
  • admissionB1
    名詞入学許可、入場The admission rate for men was higher overall. 動詞 admit(入ることを許す/事実を認める)の名詞形。admission fee は「入場料」。
  • departmentA2
    名詞学科、部門、売り場Each department made its own decisions. 大学では「学科」、会社では「部署」、デパートでは「売り場」。department store の department。
  • paradoxB2
    名詞逆説、一見矛盾することSimpson's paradox surprises many students. para-(反して)+ dox(意見)。形容詞は paradoxical。
  • confounderC1
    名詞交絡因子Age can be a confounder in health studies. confound は「混同させる、困惑させる」。原因と結果の両方に影響して関係を見誤らせる要因のこと。
  • causalC1
    形容詞因果の、原因となるWe need a causal model, not just numbers. cause の形容詞。casual(気軽な)とつづりが似ているので注意。causal relationship(因果関係)が頻出。
  • steerB2
    動詞(ある方向へ)導く、向かわせるTeachers can steer students toward science. もとは「舵を取る」。steering wheel(ハンドル)の steer。steer A toward B で「A を B へ向かわせる」。

動画でもっと知る

4コマでわかる

「男性の合格率が高い=女性差別」は早とちり? バークレー大学院入試とシンプソンのパラドックスの4コマ漫画
1973年のバークレー大学院入試。全体の合格率は男性の方がはっきり高く「女性差別では?」と問題に。でも学科ごとに分けると、女性にはっきり不利な学科はほとんどなかった。データの“まとめ方”で結論が変わる統計のワナ。

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出典・参考文献(4件)タップで表示

原典ガイド:入門から読むと入りやすく、必読は議論の土台、発展はその先の論点です。

  1. 必読Bickel, Hammel & O'Connell (1975) Sex Bias in Graduate Admissions: Data from Berkeley, Sciencedoi.org原典。全体と学科別の比較と、差別の所在を入試より上流の教育や社会化に求める結論部分
  2. 発展Simpson (1951) The Interpretation of Interaction in Contingency Tables, Journal of the Royal Statistical Society Series Bdoi.org1951年の古典。集計と層別の食い違いを分割表の交互作用として整理した論文
  3. 発展Pearl (2014) Comment: Understanding Simpson's Paradox, The American Statisticiandoi.orgどちらの表を使うべきかはデータではなく因果構造で決まる、と論じた短い論考
  4. 入門Hernán, Clayton & Keiding (2011) The Simpson's paradox unraveled, International Journal of Epidemiologydoi.orgシンプソン自身の例を因果ダイアグラムで描き直した解説。交絡因子(共通の原因)と合流点(共通の結果)の違い、交絡と非収縮性の違いをつかむのに向く