「死ぬ直前に人生が走馬灯のように見える」は脳波に記録された? 貴重なデータと、その大きな限界

読む前に予想してみよう!
人が死ぬ直前に人生を振り返ることは、脳波の研究で確かに証明された
記憶を思い出すときに似た脳波が見つかった例はあるが、ごく少数の記録で、本人の体験は確かめられない。
- 対象
- 亡くなる直前の患者
- 規模
- 1人(+4人の追加研究)
- 研究の種類
- 症例報告+小規模観察研究
- 確かさ
- ★☆☆☆☆
2022年、亡くなる瞬間の人の脳波で、記憶を思い出すときに似たリズムが増えていた。ただ1人分のデータで、本人が何を体験したかは誰にもわからない。
ひとことで言うと死ぬときの脳に、思い出すときに似た動きがあった。走馬灯かは不明!
崖から落ちそうになった瞬間、事故にあいかけた瞬間――「人生が走馬灯のように頭をかけめぐった」。
そんな体験談を聞いたことがあるでしょう。走馬灯とは、影絵がくるくる回って見える昔の灯籠のこと。英語でも"my life flashed before my eyes"という表現があり、世界中で語られてきた現象です。
2022年、この現象に科学のメスが入ったと話題になりました。ただし、その研究には大きな限界もあります。
01体験談は昔からたくさんあった
命の危険に直面した人の体験は、心理学の研究対象にもなってきました。
1970年代、アメリカの精神科医ノイズらは、溺れかけたり事故にあったりして死を覚悟した経験のある人たちから話を集めました。その中には、過去の記憶が次々とよみがえる「パノラマ記憶」を体験したと答えた人がいました。
ただ、こうした話は本人の記憶にもとづくもので、脳の中で何が起きていたかはわかりません。
02偶然記録された「最期の脳波」
研究チームは、これが「人生を振り返る」ような体験と関係しているかもしれない、と慎重に述べました。この結果は世界中で「走馬灯は本当だった?」と報じられました。

03でも「走馬灯の証明」にはほど遠い
ここで冷静になる必要があります。この研究には、本人たちも認める大きな限界があります。
- 記録はたった1人分
- その男性は、脳の出血やけいれんなどで脳に損傷があり、抗てんかん薬も使っていた
- 本人は亡くなっているため、何を体験したのかを確かめる方法がない
脳波が「思い出すときに似ている」ことと、「実際に人生を思い出していた」ことは、まったく別の話です。
04動物や別の患者さんでも似た現象が
似た現象はほかにも報告されています。
アメリカ・ミシガン大学のボルジギン教授らは2013年、ラットの心臓が止まった直後に、脳のガンマ波が一時的に強まることを報告しました。さらに2023年には、人工呼吸器を外して亡くなった4人の患者さんの脳波を調べ、そのうち2人で、ガンマ波の急な高まりが見られたと発表しています。
つまり、「死の間際の脳で、何か組織的な活動が起きることがある」という点は、少しずつデータが集まってきています。ただ、それが意識や体験と結びついているのかは、まだ誰にもわかりません。酸素が足りなくなった脳が、最後に起こす一時的な反応にすぎない可能性もあります。
05なぜ「走馬灯」は語り継がれるのか
人生の最期に、大切な思い出が駆けめぐる――。それは多くの人にとって、死の恐怖をやわらげてくれる、美しいイメージです。だからこそ、この現象は物語や映画にもよく登場します。
科学は、このイメージを否定も肯定もできていません。わかっているのは、「脳の最期には、まだ知られていない動きがあるかもしれない」ということだけです。
06まとめ
- 2022年、亡くなる瞬間の脳波で、記憶を思い出すときに似たリズムが見つかった
- ただし1人分のデータで、脳に損傷があり、本人の体験は確かめられない
- 動物や別の患者でも似た現象はあるが、走馬灯の証明にはほど遠い
「死ぬ瞬間に何が見えるのか」は、人類最大の謎のひとつ。科学は、その入口にようやく立ったところです。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerPeople who have nearly died sometimes say their whole life flashed before their eyes.
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Some people say, "My life flashed before my eyes," when they almost died. Is this real? In 2022, doctors were checking the brain waves of an 87-year-old man. Suddenly, his heart stopped, and he died.
His brain showed fast waves. These waves are like the ones we have when we remember things. But this was only one man, and we cannot ask him what he saw.
66 words ・ CEFR A2
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死にかけたとき、「人生が目の前を駆けめぐった」と言う人がいます。これは本当なのでしょうか。2022年、医師たちは87歳の男性の脳波を調べていました。突然、彼の心臓が止まり、亡くなりました。
彼の脳には速い波が現れていました。この波は、私たちが何かを思い出すときの波に似ています。しかし、これはたった1人の男性のことで、彼が何を見たのかを聞くことはできません。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
亡くなる瞬間の男性の脳波についての話なので B。
Q2. How old was the man?
an 87-year-old man とあるので D。
Q3. In this passage, "remember" means to ...
remember は「思い出す・覚えている」。過去のことを思い浮かべるので B。
People who have nearly died sometimes say their whole life flashed before their eyes. In 2022, scientists found brain data that might be connected to this. An 87-year-old man was having his brain waves recorded for a test when his heart suddenly stopped.
In the 30 seconds or so around that moment, fast brain waves called gamma waves increased. According to the research team, this pattern looked similar to brain activity during remembering and dreaming. The news spread around the world.
However, there were serious limits. The data came from just one person, his brain was already injured, and he was taking medicine for seizures. Most importantly, nobody can ever know what he actually experienced.
115 words ・ CEFR B1
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死にかけた人は、人生全体が目の前を駆けめぐったと言うことがあります。2022年、科学者たちはこれに関係するかもしれない脳のデータを見つけました。87歳の男性が検査のために脳波を記録されていたとき、突然心臓が止まったのです。
その瞬間の前後約30秒間に、ガンマ波と呼ばれる速い脳波が増えていました。研究チームによると、このパターンは思い出したり夢を見たりしているときの脳の活動に似ていました。このニュースは世界中に広まりました。
しかし、深刻な限界がありました。データはたった1人分で、彼の脳はすでに損傷を受けており、けいれんを抑える薬も飲んでいました。最も重要なのは、彼が実際に何を体験したのかは誰にも決してわからないということです。
4択リーディングクイズ
Q1. What did the scientists find in the man's brain?
fast brain waves called gamma waves increased とあるので A。
Q2. Why was the man's brain being recorded?
was having his brain waves recorded for a test when his heart suddenly stopped とあり、偶然の記録だったので C。
Q3. What is the author's attitude toward the study?
興味深い結果を紹介しつつ there were serious limits と限界を並べているので B。
The phrase "my life flashed before my eyes" describes an experience reported across cultures, and in the 1970s psychiatrists collected accounts of such "panoramic memory" from people who had faced death. Such testimony, however, reveals nothing about what happens inside the brain. In 2022, researchers analyzed a rare recording from an 87-year-old man whose brain activity was being monitored for epilepsy when he suffered a cardiac arrest.
In the roughly 30 seconds before and after his heart stopped, gamma oscillations increased and became more strongly coupled with other rhythms, a pattern the team compared to memory retrieval and dreaming. The authors cautiously suggested a possible link to a kind of life review. The limitations, though, are considerable. It was a single case; the patient had bleeding in the brain and seizures and was receiving anti-seizure drugs; and his subjective experience can never be verified.
Related findings exist: a 2013 study observed a surge of gamma activity in rats after cardiac arrest, and a 2023 study saw similar surges in two of four dying patients. Even so, such activity may simply be a final reaction of an oxygen-starved brain rather than evidence of conscious recollection.
194 words ・ CEFR B2
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「人生が目の前を駆けめぐった」という言い回しは、文化を超えて報告される体験を表しており、1970年代には精神科医たちが、死に直面した人々からこうした「パノラマ記憶」の体験談を集めました。しかし、そのような証言は脳の中で何が起きているかについては何も明らかにしません。2022年、研究者たちは、てんかんのために脳活動を監視されていた87歳の男性が心停止を起こした際の、珍しい記録を分析しました。心臓が止まる前後約30秒間に、ガンマ波が増え、他のリズムとの結びつきも強まっていました。
研究チームはこのパターンを、記憶の想起や夢を見ているときになぞらえました。著者たちは、一種の人生の振り返りと関係している可能性を慎重に示唆しました。しかし、限界はかなり大きいものです。これは単一の症例であり、患者には脳内の出血とけいれんがあって抗てんかん薬を投与されており、本人の主観的な体験は決して確かめることができません。関連する発見もあります。
2013年の研究ではラットの心停止後にガンマ活動の急増が観察され、2023年の研究では亡くなっていく患者4人のうち2人で同様の急増が見られました。それでも、そうした活動は意識的な回想の証拠ではなく、酸素不足に陥った脳の最後の反応にすぎない可能性もあるのです。
4択リーディングクイズ
Q1. Why does the author mention the accounts collected in the 1970s?
体験談は昔からあるが reveals nothing about what happens inside the brain と続くので B。
Q2. Which of the following is NOT mentioned as a limitation of the 2022 study?
1人だけ・脳の損傷・抗てんかん薬は挙げられているが、記録が1秒だけとは書かれていない(約30秒間の変化)。よって D。
Q3. What alternative explanation does the author offer for the brain activity?
最終文 may simply be a final reaction of an oxygen-starved brain とあるので A。
重要単語
- brain waveB1名詞(句)脳波Doctors recorded his brain waves.
医学用語では EEG(脳波計)。口語の brainwave は「ひらめき」の意味もある。 - near-death experienceC1名詞(句)臨死体験Some people report a near-death experience.
NDE と略される。near-(近い)+death をハイフンでつなぎ形容詞的に使う。 - gamma oscillationC1名詞(句)ガンマ波(速い脳のリズム)Gamma oscillations are linked to memory.
oscillate(振動する)の名詞。振り子のように揺れ動くイメージ。 - case reportB2名詞(句)症例報告A single case report cannot prove a theory.
case は医学では「症例・患者」。a single case「単一症例」は限界を述べる定番表現。 - cardiac arrestC1名詞(句)心停止The patient had a cardiac arrest.
cardiac は「心臓の」(cardio- と同語源)。arrest は「逮捕」ではなく「停止」。 - verifyB2動詞確かめる、立証するHis experience can never be verified.
ver-(真実)。very と同語源。名詞は verification。
公式・一次情報をチェック
- Surges of activity in the dying human brain could hint at fleeting consciousness(University of Michigan, Borjigin Lab)borjigin.lab.medicine.umich.edu
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「死ぬ直前に人生が走馬灯のように見える」。2022年、亡くなる瞬間の87歳男性の脳波が偶然記録されて、思い出すときに似たリズムが増えていたらしい。ただしデータは1人分だけ。ロマンはあるけど、結論はまだずっと先。
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Vicente et al. (2022) Enhanced Interplay of Neuronal Coherence and Coupling in the Dying Human Brain, Frontiers in Aging Neurosciencedoi.org
- Xu et al. (2023) Surge of neurophysiological coupling and connectivity of gamma oscillations in the dying human brain, PNASdoi.org
- Borjigin et al. (2013) Surge of neurophysiological coherence and connectivity in the dying brain, PNASdoi.org
- Noyes & Kletti (1977) Panoramic Memory: A Response to the Threat of Death, OMEGA - Journal of Death and Dyingdoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。











