なぜか読めてしまう文章「タイポグリセミア」の正体。“ケンブリッジ大学の研究”は存在しなかった

読む前に予想してみよう!
単語の中の文字を入れ替えても、読む速さはまったく変わらない
視線を測った実験では、中の文字の入れ替えでも読む速度は落ち、最初の文字を動かすともっと遅くなった。
- 対象
- 英語話者の大学生など
- 規模
- 数十人規模の視線計測実験
- 研究の種類
- 実験研究
- 確かさ
- ★★★☆☆
文字の順番がバラバラでも読めるのは、脳が最初と最後の文字や文脈から単語を予測するから。ただし読む速度はちゃんと落ちる。「ケンブリッジ大の研究」はネットの作り話。
ひとことで言うと脳は1文字ずつではなく、単語の「形」と「流れ」で読んでいる!
もくじ
「こんちには みさなん おんげき ですか?」――文字の順番がバラバラなのに、なぜか読めてしまう文章。この現象はタイポグリセミア(Typoglycemia)と呼ばれています。
結論から言うと、読めてしまうのは脳が文字を1つずつ順番に読んでいるのではなく、「最初と最後の文字」「単語の形」「前後の文脈」から単語を予測しているからです。ただし、これには2つのどんでん返しがあります。ひとつは、有名な「ケンブリッジ大学の研究」は存在しなかったこと。もうひとつは、実験すると読む速度はしっかり落ちていたことです。
01「ケンブリッジ大学の研究によると…」は誰も知らなかった
2003年ごろ、英語圏のネットに「ケンブリッジ大学の研究によると、単語の最初と最後の文字さえ合っていれば、残りがどんな順番でも読める」という文章が出回りました。本文自体がバラバラの文字で書かれていて、「本当に読める!」と世界中に広まります。日本語版の「こんちには」もその流れです。
ところが、当のケンブリッジ大学にある研究所の認知科学者マット・デイヴィスが調べたところ、大学内にそんな研究をした人は見当たりませんでした。彼が公開している解説ページによると、ルーツとして考えられるのは、1976年に英国ノッティンガム大学に提出された博士論文。そこでは「単語の真ん中の文字を入れ替えても、熟練した読み手の理解にはあまり影響しない」ことが示されていたといいます。
つまり、「ケンブリッジ大学」はネットでついた尾ひれ。現象そのものには研究の裏付けがあるけれど、看板が違っていたわけです。
02タイポグリセミアの仕組み:脳は「予測しながら」読んでいる
では、なぜ読めるのでしょうか。カギは3つあります。
1つ目は最初と最後の文字。単語の端の文字は、周りに空白があるぶん目に入りやすく、単語を見分ける強い手がかりになります。
2つ目は文字の「だいたいの位置」。文字の入れ替えを使った実験では、「CANISO」のような入れ替え語を一瞬見せるだけで、元の単語「CASINO」の認識が速くなることがわかっています。脳は「この文字はだいたいこのあたり」という、ゆるい位置情報で単語を照合しているのです。
3つ目は文脈。「こんちには、みさなん」の次には「おげんき」が来そうだ、と脳は先回りして予測しています。

03どんでん返し:実は読む速度はちゃんと落ちていた
「なら、文字の順番なんてどうでもいい?」と思ったら大間違い。
ネットの例文が「すらすら読める」ように感じるのは、短い単語が多い・よく知っている言い回し・隣同士の入れ替えが中心など、読みやすい条件がそろっているからです。長くて見慣れない単語や、文字を大きく離して入れ替えると、とたんに読めなくなります。
04日本語でもタイポグリセミアは起きる?
日本語のひらがな文でも同じ現象が起きるのかを確かめる試みがあります。日本心理学会の大会では、日本語の文字入れ替え文の読みを調べた発表もあります。
ただし日本語は、漢字という「一文字で意味をもつ文字」や、単語の区切りにスペースを入れない書き方など、英語とは条件がかなり違います。英語と同じ仕組みがそのまま当てはまるかどうかは、まだ研究の途中です。
05まとめ
なぜか読めてしまう文章(タイポグリセミア)は、脳が予測しながら読んでいる証拠。ただし「ケンブリッジ大学の研究」は作り話で、実際には読む速度はちゃんと落ちていました。
この「勝手に補正する脳」は便利な反面、自分の誤字を見逃す原因にもなります。提出前のレポートは、ぜひ声に出して読み直してみてください。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerAround 2003, a message spread on the internet.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Can you read a word when its letters are mixed up? Often you can! Your brain does not read one letter at a time. It looks at the first and last letters, the shape of the word, and the meaning of the sentence.
Then it guesses the word. A famous story says that Cambridge University studied this, but that study did not exist. Also, mixed-up words still make us read more slowly.
72 words ・ CEFR A2
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文字の順番がごちゃまぜになった単語を読めるでしょうか。たいてい読めます!脳は1文字ずつ読んでいるわけではありません。最初と最後の文字、単語の形、そして文の意味を見ています。
そして単語を推測するのです。ケンブリッジ大学がこれを研究したという有名な話がありますが、その研究は存在しませんでした。また、ごちゃまぜの単語は、やはり私たちの読む速度を遅くします。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
文字がごちゃまぜの単語を脳がどう読んでいるかが中心なので A。
Q2. What does the brain look at to guess a word?
It looks at the first and last letters, the shape of the word, and the meaning of the sentence. とあるので B。
Q3. In the passage, "mixed up" means ...
mixed up は「ごちゃまぜになった」。文字が正しい順番に並んでいないことなので D。
Around 2003, a message spread on the internet. It said that a study at Cambridge University had shown that people can read words as long as the first and last letters are in the right place.
However, a Cambridge scientist found that no one there had done such a study. The idea may come from a 1976 thesis at a different British university. It is true that we can often read jumbled words, because the brain uses the first and last letters, the rough position of letters, and context to predict words. But a 2006 eye-tracking study showed that jumbled letters still slow down reading.
105 words ・ CEFR B1
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2003年ごろ、あるメッセージがインターネットで広まりました。ケンブリッジ大学の研究によって、最初と最後の文字さえ正しい位置にあれば人は単語を読めることが示された、というものでした。
しかし、ケンブリッジのある科学者が調べたところ、そこでそのような研究をした人はいませんでした。この考えは、別のイギリスの大学に提出された1976年の論文から来ているのかもしれません。確かに私たちは、ごちゃまぜの単語をたいてい読むことができます。脳が最初と最後の文字、文字のだいたいの位置、そして文脈を使って単語を予測するからです。しかし2006年の視線計測の研究は、文字がごちゃまぜだとやはり読む速度が落ちることを示しました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main idea of the passage?
「ケンブリッジの研究」は存在しなかったこと、ごちゃまぜの単語は読めるが速度は落ちることの2点が主旨なので C。
Q2. Where might the idea have come from?
The idea may come from a 1976 thesis at a different British university. とあるので D。
Q3. Why can people often read jumbled words?
the brain uses the first and last letters, the rough position of letters, and context to predict words とあるので A。
Around 2003, a paragraph full of scrambled words began spreading online with a confident claim attached: according to research at Cambridge University, readers can understand words whose inner letters are jumbled, as long as the first and last letters stay in place. A cognitive scientist at Cambridge went looking for the study and found no one there who had done it. The idea most likely goes back to a 1976 doctoral thesis at another British university.
Even so, the effect is partly real. Letters at the edges of a word are highly visible and act as strong cues, and the brain encodes letter positions only loosely. Flash a transposed string such as "CANISO" for a moment, and people then recognize "CASINO" faster. Context lets readers predict which word is likely to come next.
But reading jumbled text has a price. In a 2006 eye-tracking study, swapping inner letters slowed readers down, and moving the first or last letters slowed them even more. The viral paragraph seems effortless because it uses short, familiar words, predictable phrasing and swaps between neighboring letters. Scramble a long or unfamiliar word, and it soon becomes unreadable.
191 words ・ CEFR B2
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2003年ごろ、文字がばらばらの単語だらけの一節が、自信たっぷりの主張とともにネットで広まり始めました。ケンブリッジ大学の研究によれば、最初と最後の文字が元の位置にあれば、内側の文字がごちゃまぜの単語でも読者は理解できる、というのです。ケンブリッジのある認知科学者がその研究を探してみましたが、そこでそれを行った人は見つかりませんでした。
この考えは、おそらく別のイギリスの大学に提出された1976年の博士論文にさかのぼります。それでも、この現象は部分的には本当です。単語の端の文字はとても目に入りやすく強い手がかりになりますし、脳は文字の位置をゆるやかにしか符号化していません。"CANISO" のように文字を入れ替えた文字列を一瞬見せると、その後 "CASINO" を認識するのが速くなります。さらに文脈によって、読者は次に来そうな単語を予測できます。
しかし、ごちゃまぜの文章を読むには代償があります。2006年の視線計測の研究では、内側の文字を入れ替えると読む速度が落ち、最初や最後の文字を動かすとさらに遅くなりました。ネットの例文がすらすら読めるように見えるのは、短くてなじみのある単語、予測しやすい言い回し、隣り合う文字どうしの入れ替えを使っているからです。長い単語やなじみのない単語の文字をばらばらにすると、すぐに読めなくなります。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
ネットの主張の出どころと、ごちゃまぜ文字の読みについて研究が示すこと(読めるが代償がある)を論じているので D。
Q2. What does the "CANISO" example show?
the brain encodes letter positions only loosely の具体例として CANISO が CASINO の認識を速めると述べているので B。
Q3. According to the passage, why does the viral example feel easy to read?
it uses short, familiar words, predictable phrasing and swaps between neighboring letters とあるので C。B は視線計測の結果と矛盾する。
重要単語
- jumbledB2形容詞ごちゃまぜのThe letters in the word were jumbled.
動詞 jumble(ごちゃまぜにする)の過去分詞。jumble sale は英国の「がらくた市」。 - transposeC1動詞入れ替えるTry to transpose two letters and see if you can still read it.
trans-(向こうへ)+pose(置く)。音楽では「移調する」。transposed-letter effect は心理学の用語。 - contextB1名詞文脈Context helps us guess unknown words.
con-(ともに)+text(織られたもの)。guess the meaning from context「文脈から意味を推測する」は入試の読解力そのもの。 - eye movementB1名詞(句)眼球運動Researchers recorded eye movements during reading.
eye-tracking「視線計測」とセットで出る。読書研究では fixation(注視)も重要語。 - urban legendB2名詞(句)都市伝説The Cambridge study turned out to be an urban legend.
urban(都市の)+legend(伝説)。turn out to be ~「~だと判明する」と一緒に覚えると便利。 - predictB1動詞予測するGood readers predict the next word.
pre-(前に)+dict(言う)。名詞 prediction、形容詞 predictable(予測できる)。unpredictable も頻出。
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- Rayner, White, Johnson & Liversedge (2006) Raeding wrods with jubmled lettres: There is a cost, Psychological Sciencedoi.org
- Grainger & Whitney (2004) Does the huamn mnid raed wrods as a wlohe?, Trends in Cognitive Sciencesdoi.org
- Perea & Lupker (2004) Can CANISO activate CASINO? Transposed-letter similarity effects with nonadjacent letter positions, Journal of Memory and Languagedoi.org
- Mori (2012) Raeding Wrods with Jubmled Charactres in Japnaese, 日本心理学会大会発表論文集doi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。












