絶対音感は大人になってからでも身につく? 中国や日本の音大生に多い理由と、大人の訓練実験

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絶対音感を大人になってから身につけるのは、絶対に不可能
香港の実験では、12〜40時間の訓練で43人中6人が12の音を9割以上の正確さで言い当てた。ただし残りの大半はそこまで届かなかった。
- 対象
- 音楽大学の学生・大人の学習者
- 規模
- 各国の音大生の現地テスト調査+6〜43人の訓練実験
- 研究の種類
- 観察研究(調査)・訓練実験
- 確かさ
- ★★★☆☆
欧米では1万人に1人未満とされる絶対音感。中国や日本の音大生には多く、幼いころの音楽経験が鍵らしい。大人でも訓練で到達した人はいるが、ごく一部。
ひとことで言うと絶対音感は生まれつきだけじゃない。でも大人からはかなり大変!
ポーンと鳴った音を聞いただけで「今のはソ」と言い当てる。基準になる音を聞かなくても音の名前がわかる能力を、絶対音感(absolute pitch)といいます。
カリフォルニア大学サンディエゴ校の心理学者ダイアナ・ドイチュの解説によると、アメリカやヨーロッパでは1万人に1人未満と推定される、とてもめずらしい能力です。
ところが、ある国の音楽大学では、幼いころに音楽を始めた学生の約6割が持っていました。日本の音大生でも30%。さらに近年は、大人になってから訓練で身につけた人がいるという実験まで出てきています。
01北京の音大生は、アメリカの4倍以上
ドイチュらは2006年、北京の中央音楽学院と、アメリカの音楽大学(イーストマン音楽学校)の学生に、その場で同じテストを受けてもらいました。希望者だけを集める方式ではないので、自信のある人ばかりが集まる偏りを避けられます。
どちらの国でも、音楽を始めた年齢が早いほど、絶対音感を持つ人の割合は高い。ところが、音楽を始めた年齢が同じ層どうしで比べても、中国の学生のほうがずっと多かったのです。
ドイチュが注目したのは、中国語(普通話)が声調言語だということです。同じ「マー」でも、高く平らに言えば「母」、上がり調子なら「麻」、下がって上がれば「馬」、下がり調子なら「ののしる」。赤ちゃんが言葉を覚える時期に、音の高さと意味をセットで覚えるので、絶対音感の土台ができやすいのでは、という仮説です。
02日本の音大生も30%。声調言語ではないのに?
ここで日本の話です。宮崎謙一らは、日本とポーランドの音楽学生に同じ形式の音名テストを行いました。95%以上正解する「正確な絶対音感」を持つ人は、日本30%、ポーランド7%。
日本語は、中国語のような声調言語にはふつう含まれません(高低アクセントはあります)。では差を生んだのは何か。絶対音感を持つ人は6歳以前に音楽を始めていたうえ、日本の学生は訓練を始めた年齢が平均で2年以上早く、幼いころにピアノを習った割合も94%対72%でした。日本の学生の約3分の1は、就学前の子どもにピアノやエレクトーンのレッスンと「固定ド」で歌う練習をするヤマハ音楽教室に通っていました。
つまり、声調言語でなくても、幼いころの音楽経験で絶対音感を持つ人は増えうる、ということです。声調言語説と早期教育説は、どちらか一方が正しいという関係ではなさそうです。
03大人の挑戦:8週間で"本物レベル"に到達した人も
ヴァン・ヘッジャーらの2019年の実験では、音を一時的に覚えておく力(聴覚の作業記憶)が高い大人6人を選び、8週間(計約32時間)の訓練を行いました。その後、いちばん伸びた参加者がすべての絶対音感テストに合格し、4か月後も力を保っていました。テストは8種類の音色、7オクターブ以上の範囲で行われ、「ピアノの音だけ覚えた」わけではないことも確かめています。ただし、大半の参加者はわずかな伸びにとどまりました。
香港中文大学のチームは、ゲーム感覚の訓練を12〜40時間行い、覚える音を3つから12まで少しずつ増やしました。結果、43人中6人(14%)が12の音すべてを90%以上の正確さで言い当てられるようになり、効果は少なくとも1〜3か月続きました。
ただ、同じチームは次の論文で、こうした香港での訓練研究の参加者が声調言語の話者で、幼いころの言葉の経験が有利に働いた可能性があると指摘しています。そこで彼らは、声調言語を話さない大人13人に20時間の訓練を行います。すると2人が12の音すべてを、正確さも反応の速さも、子どものころから絶対音感を持つ人並みに言い当てられるようになりました。

04どんでん返し:「絶対音感あり」の線引きはバラバラ
紹介した研究の基準は、85%(ドイチュ)、95%(宮崎)、90%(香港)とそれぞれ違います。どこで線を引くかで「持っている人の割合」は大きく変わるので、研究どうしの数字を単純に比べることはできません。
また、香港の実験では、ほかの音への効果の広がり方が訓練に使った音に左右されたと報告されています。そしてドイチュが書いているように、基準の音さえあれば他の音がわかる相対音感なら、音楽家の多くが持っています。絶対音感がないと音楽ができない、というわけではありません。
05まとめ
絶対音感は「選ばれた人だけの才能」というより、言葉の環境や、幼いころの音楽経験と強く結びついた能力らしい、というのが今の研究の姿です。大人でも一部の人は高いレベルに届きますが、何十時間もの訓練が必要で、誰でも届くわけではありません。
試すなら、まずはピアノアプリで「ド・ミ・ソ」の3音だけ。毎日数分、音を当てるゲームから始めてみませんか。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerWhen Mandarin speakers say "ma" in a high, flat voice, it means "mother." In a falling voice, it means…
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Some people can name a note at once, with no other note to help them. This is called absolute pitch. In the US and Europe, maybe fewer than 1 in 10,000 people have it.
But in a Japanese study, 30 percent of music students had it. The ones with it had started lessons by age 6. Some adults have learned it, too. In one study, 6 of 43 trained adults could name all 12 notes nine times out of ten.
80 words ・ CEFR A2
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ほかの音の助けなしに、ある音の名前をすぐに言える人がいます。これは絶対音感と呼ばれます。アメリカやヨーロッパでは、それを持つ人は1万人に1人もいないかもしれません。
でも、日本のある研究では、音大生の30%が絶対音感を持っていました。その研究で絶対音感を持っていた学生は、6歳までにレッスンを始めていました。大人で身につけた人もいます。ある研究では、訓練を受けた大人43人のうち6人が、12の音すべてを10回に9回は言い当てられるようになりました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
絶対音感とは何か、どんな人が持っているか、大人でも身につくかを述べているので B。
Q2. How many music students in the Japanese study had absolute pitch?
30 percent of music students had it とあるので C。1万人に1人未満はアメリカやヨーロッパの推定。
Q3. In this passage, "name" in "name a note" is closest in meaning to ...
name は動詞で「名前を言う、言い当てる」。音を聞いて「それはソ」と言えることなので B。
When Mandarin speakers say "ma" in a high, flat voice, it means "mother." In a falling voice, it means "scold." Diana Deutsch, a psychologist, thinks children who grow up with a tone language like this connect pitch with meaning early. In her team's study of music students who began at age 4 or 5, about 60 percent in China had absolute pitch, but only 14 percent in the US.
Japanese is not a tone language, but 30 percent of Japanese music students in another study had it, against 7 percent in Poland. The Japanese students had started music earlier. Some adults learn it, too. In Hong Kong, 6 of 43 adults who trained for 12 to 40 hours could name all 12 notes with at least 90 percent accuracy.
129 words ・ CEFR B1
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中国語(普通話)の話者が「マー」を高く平らな声で言うと「母」という意味になります。下がり調子で言うと「ののしる」という意味になります。心理学者のダイアナ・ドイチュは、このような声調言語の中で育つ子どもは、早い時期に音の高さと意味を結びつけると考えています。彼女のチームが4〜5歳でレッスンを始めた音大生を調べた研究では、中国では約60%が絶対音感を持っていたのに対し、アメリカでは14%だけでした。
日本語は声調言語ではありませんが、別の研究では日本の音大生の30%が絶対音感を持っており、ポーランドは7%でした。日本の学生は音楽を始めた時期が早かったのです。大人で身につける人もいます。香港では、12〜40時間の訓練を受けた大人43人のうち6人が、12の音すべてを90%以上の正確さで言い当てられるようになりました。
4択リーディングクイズ
Q1. Why does the writer mention the word "ma"?
「マー」は声の高さの違いで「母」にも「ののしる」にもなる例で、声調言語では音の高さが意味を変えることを示しているので B。
Q2. What was different about the Japanese students?
The Japanese students had started music earlier とあるので B。日本語は声調言語ではないと書かれている。
Q3. What can we infer from the passage?
中国の例では声調言語が、日本の例では早い音楽経験が関わっていそうだと述べているので B。大人でも6人が身につけたので C は誤り。
At the Central Conservatory of Music in Beijing, about six in ten students who began lessons at age four or five scored 85 percent or more on a note-naming test. At an American music school, the figure was 14 percent, and among students who started at eight or nine it fell to zero. Diana Deutsch's team tested students on site, so the results did not depend on who volunteered. She thinks Mandarin, a tone language, trains infants to link pitch with meaning.
Japan complicates the story. A survey using a higher cutoff of 95 percent correct found absolute pitch in 30 percent of Japanese music students and 7 percent of Polish ones. The Japanese students had begun training more than two years earlier on average, and about a third had attended Yamaha classes with fixed-do singing before school.
Because each study set its own cutoff, the percentages cannot be compared directly. Some adults have learned it, too. In a Hong Kong study, 6 of 43 trained adults could name all twelve notes with at least 90 percent accuracy. In a later study of non-tonal language speakers, 2 of 13 matched natural possessors in speed and accuracy after 20 hours.
199 words ・ CEFR B2
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北京の中央音楽学院では、4〜5歳でレッスンを始めた学生の約10人に6人が、音名テストで85%以上の正解率を出しました。アメリカの音楽学校ではその割合は14%で、8〜9歳で始めた学生ではゼロになりました。ダイアナ・ドイチュのチームはその場で学生をテストしたので、結果は誰が自分から参加したかに左右されませんでした。彼女は、声調言語である中国語が、赤ちゃんに音の高さと意味を結びつける練習をさせていると考えています。
日本の例は話を複雑にします。95%正解というより高い基準を使った調査では、日本の音大生の30%、ポーランドの音大生の7%に絶対音感が見られました。日本の学生は平均して2年以上早く訓練を始めており、約3分の1は就学前に「固定ド」で歌うヤマハの教室に通っていました。
研究ごとに基準が違うので、割合をそのまま比べることはできません。大人で身につけた人もいます。香港の研究では、訓練を受けた大人43人のうち6人が、12の音すべてを90%以上の正確さで言い当てられるようになりました。声調言語ではない言語の話者を対象にしたその後の研究では、20時間の訓練の後、13人中2人が速さと正確さで、子どものころから絶対音感を持つ人に並びました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main idea of the passage?
中国の声調言語、日本の早期教育、大人の訓練の研究を順に紹介しているので B。
Q2. Why can the percentages from different studies not be compared directly?
Because each study set its own cutoff, the percentages cannot be compared directly とあるので A。
Q3. Why does the writer say "Japan complicates the story"?
声調言語で説明する話に対し、日本の音大生にも絶対音感が多く、早期の訓練が関わっていたことを示しているので B。D は本文(2年以上早く始めた)と逆。
重要単語
- absolute pitchC1名詞絶対音感People with absolute pitch can name a note without hearing another one first.
perfect pitch とも言う。absolute(絶対の)と relative(相対の)は対で覚える。 - tone languageC1名詞声調言語Mandarin is a tone language.
tonal language とも言う。音の高さの上がり下がりで単語の意味が変わる言語。中国語・ベトナム語・タイ語など。 - critical periodC1名詞臨界期Some scientists think there is a critical period for absolute pitch.
言語習得の長文で頻出。sensitive period(敏感期)と言い換えられることもある。 - prevalenceC1名詞(集団の中での)割合、普及率The prevalence of absolute pitch was higher in Japan than in Poland.
形容詞は prevalent(広く見られる)。医学では「有病率」と訳す。 - relative pitchC1名詞相対音感Most musicians use relative pitch to find the next note.
基準の音との関係で音の高さを判断する力。relative は「相対的な」のほか「親戚」の意味もある。 - cutoffB2名詞基準点、線引きThe study used a cutoff of 95 percent correct.
cut off(切り離す)から。合格ラインや締め切りの意味でも使う。cutoff score で「合格最低点」。 - referenceB2名詞基準、参照She named the note without a reference tone.
動詞 refer(参照する)の名詞形。without reference to ~ で「~に関係なく」。
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- Absolute Pitch(ダイアナ・ドイチュ教授の解説ページ、カリフォルニア大学サンディエゴ校)deutsch.ucsd.edu
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絶対音感、北京の音大生では4〜5歳で音楽を始めた人の約6割が持っていた(同じ年齢で始めた米国の音大生は14%)。日本の音大生でも30%。しかも大人が訓練を受けた実験では、43人中6人が12の音を9割以上当てられるようになったらしい。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- Deutsch, Henthorn, Marvin & Xu (2006) Absolute pitch among American and Chinese conservatory students: Prevalence differences, and evidence for a speech-related critical period, The Journal of the Acoustical Society of Americadoi.org
- Miyazaki, Makomaska & Rakowski (2012) Prevalence of absolute pitch: A comparison between Japanese and Polish music students, The Journal of the Acoustical Society of Americadoi.org
- Van Hedger, Heald & Nusbaum (2019) Absolute pitch can be learned by some adults, PLOS ONEdoi.org
- Wong, Lui, Yip & Wong (2019) Is it impossible to acquire absolute pitch in adulthood? Attention, Perception, & Psychophysicsdoi.org
- Wong, Ngan, Cheung & Wong (2020) Absolute pitch learning in adults speaking non-tonal languages, Quarterly Journal of Experimental Psychologydoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。











