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絶対音感は大人になってからでも身につく? 中国や日本の音大生に多い理由と、大人の訓練実験

絶対音感は大人になってからでも身につく? 中国や日本の音大生に多い理由と、大人の訓練実験

読む前に予想してみよう!

絶対音感を大人になってから身につけるのは、絶対に不可能

研究カード(どんな研究?)
対象
音楽大学の学生・大人の学習者
規模
各国の音大生の現地テスト調査+6〜43人の訓練実験
研究の種類
観察研究(調査)・訓練実験
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

欧米では1万人に1人未満とされる絶対音感。中国や日本の音大生には多く、幼いころの音楽経験が鍵らしい。大人でも訓練で到達した人はいるが、ごく一部。

ひとことで言うと絶対音感は生まれつきだけじゃない。でも大人からはかなり大変!

もくじ
  1. 北京の音大生は、アメリカの4倍以上
  2. 声調言語ではない日本でも、音大生の30%が持っていた
  3. 大人の挑戦:8週間で"本物レベル"に到達した人も
  4. どんでん返し:「絶対音感あり」の線引きはバラバラ
  5. まとめ

ポーンと鳴った音を聞いただけで「今のはソ」と言い当てる。基準の音を聞かなくても、音の名前がわかる。この能力を絶対音感(absolute pitch)といいます。

とても珍しい能力です。カリフォルニア大学サンディエゴ校の心理学者ダイアナ・ドイチュの解説によると、アメリカやヨーロッパでは1万人に1人未満と推定されています。

ところが中国・北京の音楽大学では、幼いころに音楽を始めた学生の約6割が持っていました。日本の音大生でも30%。さらに近年は、大人になってから訓練で身につけた人がいるという実験まで出てきています。

01北京の音大生は、アメリカの4倍以上

ドイチュらは2006年、2つの音楽大学の学生に、その場で同じテストを受けてもらいました。北京の中央音楽学院と、アメリカのイーストマン音楽学校です。希望者だけを集める方式ではないので、自信のある人ばかりが集まる偏りを避けられます。

どちらの国でも、音楽を始めた年齢が早いほど、絶対音感を持つ人の割合は高い。ところが、音楽を始めた年齢が同じ層どうしで比べても、中国の学生のほうがずっと多かったのです。

ドイチュが注目したのは、中国語(普通話)が声調言語だということです。声調言語では、音の高さの上げ下げで単語の意味が変わります。同じ「マー」でも、意味はこう変わります。

  • 高く平らに言えば「母」
  • 上がり調子なら「麻」
  • 下がって上がれば「馬」
  • 下がり調子なら「ののしる」

赤ちゃんは言葉を覚える時期に、音の高さと意味をセットで覚えます。そのため、絶対音感の土台ができやすいのでは、という仮説です。

02声調言語ではない日本でも、音大生の30%が持っていた

ここで日本の話です。宮崎謙一らは、日本とポーランドの音楽学生に同じ形式の音名テストを行いました。95%以上正解する「正確な絶対音感」を持つ人は、日本30%、ポーランド7%。

日本語は、ふつう声調言語には入りません(「雨」と「飴」のような高低アクセントはあります)。では、差を生んだのは何だったのでしょう。論文が挙げたのは、音楽経験の違いです。

  • 絶対音感を持つ人は、6歳以前に音楽を始めていた
  • 音楽の訓練を始めた年齢は、日本の学生のほうが平均で2年以上早かった
  • 幼いころにピアノを習った割合は、日本94%、ポーランド72%
  • 日本の学生の約3分の1は、ヤマハ音楽教室に通っていた

ヤマハ音楽教室は、就学前の子どもにピアノやエレクトーンを教える教室です。あわせて「固定ド」で歌う練習もします。曲の調が変わっても、同じ高さの音をいつも同じ音名で呼ぶ歌い方です。

つまり、声調言語でなくても、幼いころの音楽経験で絶対音感を持つ人は増えうる、ということです。声調言語説と早期教育説は、どちらか一方が正しいという関係ではなさそうです。

03大人の挑戦:8週間で"本物レベル"に到達した人も

ヴァン・ヘッジャーらの2019年の実験では、大人6人が8週間(計約32時間)の訓練を受けました。6人とも楽器を習った経験があり、音を一時的に覚えておく力(聴覚の作業記憶)が高い人たちです。訓練の後、一番伸びた参加者がすべての絶対音感テストに合格し、4か月後も力を保っていました。テストでは8種類の音色を使い、7オクターブ以上にわたる高さの音を出しました。「ピアノの音だけ覚えた」わけではないことも確かめています。ただし、大半の参加者はわずかな伸びにとどまりました。

香港中文大学のチームは、ゲーム感覚の訓練を12〜40時間行いました。覚える音は、3つから始めて12まで少しずつ増やします。結果、43人中6人(14%)が、12の音すべてを90%以上の正確さで言い当てられるようになりました。効果は少なくとも1〜3か月続きました。

ただ、同じチームは次の論文で注意点を挙げています。香港の参加者は、声調言語を話す人たちです。幼いころの言葉の経験が、有利に働いた可能性があります。そこで彼らは、声調言語を話さない大人13人に20時間の訓練を行いました。すると2人が、12の音すべてを言い当てられるようになりました。正確さも反応の速さも、子どものころから絶対音感を持つ人と同じくらいでした。

大人の訓練実験では、12の音すべてを言い当てられるようになった人は一部にとどまった
大人の訓練実験では、12の音すべてを言い当てられるようになった人は一部にとどまった

04どんでん返し:「絶対音感あり」の線引きはバラバラ

「何%正解したら絶対音感あり」とするかは、研究ごとに違います。紹介した研究では、85%(ドイチュ)、95%(宮崎)、90%(香港)でした。どこで線を引くかで「持っている人の割合」は大きく変わります。そのため、研究どうしの数字を単純に比べることはできません。

また香港の実験では、覚えた力がほかの音にどこまで広がるかが、訓練に使った音に左右されたと報告されています。

なお、基準の音さえあればほかの音がわかる力は相対音感といい、音楽家の多くが持っています。絶対音感がないと音楽ができない、というわけではありません。

05まとめ

絶対音感は「選ばれた人だけの才能」というより、言葉の環境や、幼いころの音楽経験と強く結びついた能力らしい。それが、今の研究から見えてきた姿です。大人でも一部の人は高いレベルに届きますが、何十時間もの訓練が必要で、誰でも届くわけではありません。

試すなら、まずはピアノアプリで「ド・ミ・ソ」の3音だけ。毎日数分、音を当てるゲームから始めてみませんか。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerWhen Mandarin speakers say "ma" in a high, flat voice, it means "mother." In a falling voice, it means… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

When Mandarin speakers say "ma" in a high, flat voice, it means "mother." In a falling voice, it means "scold." Diana Deutsch, a psychologist, thinks children who grow up with a tone language like this connect pitch with meaning early. In her team's study of music students who began at age 4 or 5, about 60 percent in China had absolute pitch, but only 14 percent in the US.

Japanese is not a tone language, but 30 percent of Japanese music students in another study had it, against 7 percent in Poland. The Japanese students had started music earlier. Some adults learn it, too. In Hong Kong, 6 of 43 adults who trained for 12 to 40 hours could name all 12 notes with at least 90 percent accuracy.

129 words ・ CEFR B1

和訳を見る

中国語(普通話)の話者が「マー」を高く平らな声で言うと「母」という意味になります。下がり調子で言うと「ののしる」という意味になります。心理学者のダイアナ・ドイチュは、このような声調言語の中で育つ子どもは、早い時期に音の高さと意味を結びつけると考えています。彼女のチームが4〜5歳でレッスンを始めた音大生を調べた研究では、中国では約60%が絶対音感を持っていたのに対し、アメリカでは14%だけでした。

日本語は声調言語ではありませんが、別の研究では日本の音大生の30%が絶対音感を持っており、ポーランドは7%でした。日本の学生は音楽を始めた時期が早かったのです。大人で身につける人もいます。香港では、12〜40時間の訓練を受けた大人43人のうち6人が、12の音すべてを90%以上の正確さで言い当てられるようになりました。

4択リーディングクイズ

Q1. Why does the writer mention the word "ma"?

Q2. What was different about the Japanese students?

Q3. What can we infer from the passage?

重要単語

  • absolute pitchC1
    名詞絶対音感People with absolute pitch can name a note without hearing another one first. perfect pitch とも言う。absolute(絶対の)と relative(相対の)は対で覚える。
  • tone languageC1
    名詞声調言語Mandarin is a tone language. tonal language とも言う。音の高さの上がり下がりで単語の意味が変わる言語。中国語・ベトナム語・タイ語など。
  • critical periodC1
    名詞臨界期Some scientists think there is a critical period for absolute pitch. 言語習得の長文で頻出。sensitive period(敏感期)と言い換えられることもある。
  • prevalenceC1
    名詞(集団の中での)割合、普及率The prevalence of absolute pitch was higher in Japan than in Poland. 形容詞は prevalent(広く見られる)。医学では「有病率」と訳す。
  • relative pitchC1
    名詞相対音感Most musicians use relative pitch to find the next note. 基準の音との関係で音の高さを判断する力。relative は「相対的な」のほか「親戚」の意味もある。
  • cutoffB2
    名詞基準点、線引きThe study used a cutoff of 95 percent correct. cut off(切り離す)から。合格ラインや締め切りの意味でも使う。cutoff score で「合格最低点」。
  • referenceB2
    名詞基準、参照She named the note without a reference tone. 動詞 refer(参照する)の名詞形。without reference to ~ で「~に関係なく」。

4コマでわかる

絶対音感は大人になってからでも身につく? 中国や日本の音大生に多い理由と、大人の訓練実験の4コマ漫画
絶対音感、北京の音大生では4〜5歳で音楽を始めた人の約6割が持っていた(同じ年齢で始めた米国の音大生は14%)。日本の音大生でも30%。しかも大人が訓練を受けた実験では、43人中6人が12の音を9割以上当てられるようになったらしい。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Deutsch, Henthorn, Marvin & Xu (2006) Absolute pitch among American and Chinese conservatory students: Prevalence differences, and evidence for a speech-related critical period, The Journal of the Acoustical Society of Americadoi.org
  2. Miyazaki, Makomaska & Rakowski (2012) Prevalence of absolute pitch: A comparison between Japanese and Polish music students, The Journal of the Acoustical Society of Americadoi.org
  3. Van Hedger, Heald & Nusbaum (2019) Absolute pitch can be learned by some adults, PLOS ONEdoi.org
  4. Wong, Lui, Yip & Wong (2019) Is it impossible to acquire absolute pitch in adulthood? Attention, Perception, & Psychophysicsdoi.org
  5. Wong, Ngan, Cheung & Wong (2020) Absolute pitch learning in adults speaking non-tonal languages, Quarterly Journal of Experimental Psychologydoi.org