「ほら、あの俳優の…!」名前が喉まで出かかる現象には、ちゃんと学術名があった

読む前に予想してみよう!
舌先現象のとき、思い出せない言葉の頭文字は当てられることが多い
ハーバード大の古典的実験では、最初の文字や音節数を、当てずっぽうより高い確率で言い当てていた。
- 対象
- 大学生・高齢者・バイリンガル・ろう者
- 規模
- 1研究あたり数十人
- 研究の種類
- 実験研究+日誌研究・レビュー
- 確かさ
- ★★★★☆
知っているのに名前が出てこない「舌先現象」。頭文字や文字数は分かることが多く、記憶が消えたのではなく「音」の呼び出しでつまずいている。
ひとことで言うと名前が出てこないのは、記憶の「音」の引き出しが引っかかってるだけ!
「ほら、あの、ドラマに出てた…メガネの…ああもう、ここまで出てるのに!」
誰でも一度はやったことがあるこの状態。実は心理学では舌先現象(英語で tip-of-the-tongue、略してTOT)という立派な名前がついています。「舌の先まで出かかっている」という、まさにそのままのネーミングです。
しかもこの現象には、ただの物忘れとはちょっと違う性質があります。
01「知ってる」のに「言えない」不思議な状態
舌先現象の特徴は、その言葉を知っている確信があること。完全に忘れたなら「知らない」と感じるはずです。でもTOTのときは「絶対知ってる」と分かっています。
そして多くの場合、言葉の一部の情報は出てきます。「たしか『さ』で始まる」「4文字くらい」「似た響きの別の名前なら浮かぶ」。
02記憶は消えていない。「音」を取り出すところで詰まっている
今の有力な考え方では、言葉を思い出すときの脳は、ざっくり2段階で動いています。
- 意味を取り出す(「あの俳優、あのドラマ、メガネの人」)
- 音を取り出す(「さ・と・う…」という発音)
舌先現象は、1段階目は成功しているのに、2段階目でつまずいた状態だと考えられています。意味と音のつながりが弱くなっていて、音までたどり着けないのです。たとえるなら、どの引き出しに入っているかは分かっているのに、その引き出しが引っかかって開かない状態です。

03年を取ると増えるのは、なぜ?
舌先現象は、ほとんどの人が少なくとも週に1回は経験する、ありふれたものです(Psychonomic Bulletin & Review, 1999)。とくに人の名前で起こりやすく、年齢を重ねるほど増えることも知られています。
その理由を調べたのが、米国のバークらです(Journal of Memory and Language, 1991)。日誌や実験で、若い人と高齢者を比べました。そして、こう説明しました。意味と音のつながりは、使う回数が少ないと弱まる。最近あまり使っていない言葉ほど弱まるし、年を取ることでも弱まる。つながりが弱いと、音まで信号が届きにくくなる。これを伝達欠損仮説と呼びます。
最近使っていない言葉ほど出てきにくいのは、若い人でも同じです。また、高齢者は知っている言葉の数そのものが多い、という点も考える必要があります。思い出せないからといって、記憶が消えたわけではありません。
2つ以上の言語を話す人は、舌先現象が起こりやすいという報告もあります(Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 2004)。ただし、両方の言語で似た音の単語では起きにくかったそうです。たとえば英語の vampire とスペイン語の vampiro です。
研究者は、「2つの言語が邪魔し合う」という説明では、この結果を説明できないと考えました。そして別の理由を挙げています。2つの言語を使う人は、それぞれの言語の単語を使う回数が、1つの言語だけを話す人より少ない。そのぶん、つながりが弱いのではないか、というのです。
同じことは手話でも起きます。耳の聞こえない手話話者にも、手話の単語が「指先まで出かかって出てこない」「指先現象」が起きると報告されました(Psychological Science, 2005)。このとき、手の形や位置は思い出せても、手の動きが出てこないことが多かったのです。つまりこのつまずきは「音」に限りません。意味から、言葉の形を取り出す段階で起きていると考えられます。
04喉で止まった言葉を引き出すコツ
05まとめ
名前が喉まで出かかるのは、記憶が消えたからではありません。「意味」から「音」を取り出すところで、一時的につまずいているサインです。
次に「あれ、あれ!」となったら、焦らず深呼吸。そして心の中で「今、舌先現象だな」とつぶやいてみてください。それだけで、ちょっと楽しくなりませんか?
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerAlmost everyone has experienced the frustrating feeling of knowing a word but being unable to say it.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Sometimes you know a word, but you cannot say it. You feel the word is "on the tip of your tongue."
Scientists call this the tip-of-the-tongue state. In a famous study, students often knew the first letter of the missing word. They also knew how many parts, or syllables, it had. So the word is not lost. Your brain finds the meaning, but it cannot find the sound for a moment.
71 words ・ CEFR A2
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知っている言葉なのに、言えないことがあります。その言葉が「舌の先まで出かかっている」と感じるのです。
科学者はこれを「舌先現象」と呼びます。ある有名な研究で、学生たちは思い出せない言葉の最初の文字を知っていることがよくありました。その言葉がいくつの部分、つまり音節でできているかもわかっていました。つまり、言葉が消えたわけではありません。脳は意味を見つけているのに、少しの間だけ音を見つけられないのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
知っている言葉が言えない「舌先現象」の説明が全体のテーマなので A。
Q2. What did the students often know about the missing word?
students often knew the first letter of the missing word とあるので D。
Q3. In this passage, "for a moment" means ...
for a moment は「少しの間」。言葉は消えておらず一時的に出てこないだけ、という文脈なので B。
Almost everyone has experienced the frustrating feeling of knowing a word but being unable to say it. Psychologists call this the tip-of-the-tongue state. In a classic 1966 study at Harvard, researchers read definitions of rare words to students. When the students felt the answer was "right there," they could often guess its first letter and its number of syllables much better than by chance. This suggests that remembering a word happens in two steps.
First we find its meaning, and then we find its sound. The problem happens at the second step. Such experiences become more common with age, especially with people's names, and most people have them at least once a week.
113 words ・ CEFR B1
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ほとんどの人が、言葉を知っているのに言えないというもどかしい感覚を経験したことがあります。心理学者はこれを「舌先現象」と呼びます。1966年にハーバード大学で行われた古典的な研究で、研究者たちは学生に珍しい単語の定義を読み上げました。学生が答えが「すぐそこにある」と感じたとき、彼らはその言葉の最初の文字や音節の数を、偶然よりもずっと高い確率で言い当てることができました。このことは、言葉を思い出すのは2段階で起こることを示しています。
まず意味を見つけ、次にその音を見つけるのです。問題は2段階目で起こります。このような経験は年齢とともに、特に人の名前で増えていきますが、ほとんどの人が少なくとも週に1回は経験します。
4択リーディングクイズ
Q1. What does the passage mainly explain?
舌先現象とは何か、なぜ起こるか(2段階目の音の呼び出しでつまずく)を説明しているので C。
Q2. In the 1966 study, what could students often guess?
they could often guess its first letter and its number of syllables とあるので A。
Q3. What can be inferred about a person in the tip-of-the-tongue state?
first we find its meaning, and then we find its sound. The problem happens at the second step. から、意味は見つかっているが音が出てこない状態とわかるので D。
You are sure you know the word, but it will not come out. In this tip-of-the-tongue (TOT) state, memory retrieval fails halfway, which makes it a useful window for researchers. Since a 1966 Harvard experiment, studies have found that people in a TOT state can report pieces of the missing word, such as its first letter or its number of syllables, far more often than chance. This fits a two-stage model.
The meaning is retrieved successfully, but the link to the word's sound breaks down. TOTs become more frequent with age. According to the transmission deficit hypothesis, the connection between meaning and sound weakens with age and when a word has not been used recently. Bilinguals also report more TOTs, but fewer for words that sound alike in both languages. That pattern points to less frequent use of each language as the cause, and away from the two languages interfering with each other.
Laboratory TOTs depend on people's own reports, and researchers still argue over whether similar but wrong words cause the blockage or result from it. Deaf signers have their own version, a "tip of the fingers" state, in which they recall a sign's handshape but not its movement.
200 words ・ CEFR B2
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その言葉を知っているのは確かなのに、口から出てこない。この舌先現象(TOT)では、記憶の検索が途中で失敗するため、研究者にとっては記憶の仕組みをのぞく便利な窓になります。1966年のハーバード大学の実験以来、TOT状態の人が、思い出せない言葉の最初の文字や音節の数といった断片を、偶然では考えられないほど高い確率で答えられることが確認されてきました。これは2段階モデルに合っています。
意味はうまく検索されるのに、その言葉の音へのつながりが途切れるのです。TOTは年齢とともに増えます。伝達欠損仮説によれば、年齢を重ねたときや、最近使っていない言葉では、意味と音のつながりが弱まります。バイリンガルもTOTが多いと報告していますが、両方の言語で似た音を持つ単語ではむしろ少なくなります。このパターンは、2つの言語が干渉し合うことではなく、それぞれの言語を使う頻度が低いことが原因だと示唆しています。
実験室でのTOTは本人の報告に頼っており、似ているが間違った言葉が詰まりの原因なのか、単なる結果なのかについては、研究者の間で今も議論が続いています。ろうの手話話者にも独自の「指先現象」があり、手話の手の形は思い出せても、動きが思い出せないのです。
4択リーディングクイズ
Q1. Which best describes the passage?
TOTの研究を通して、言葉の検索が意味→音の2段階で行われることなどを説明しているので B。
Q2. What does the finding about bilinguals suggest?
似た音の単語では TOT が少ないことから That pattern points to less frequent use of each language as the cause と述べているので C。
Q3. Which question does the passage present as still unsettled?
researchers still argue over whether similar but wrong words cause the blockage or result from it とあるので A。
重要単語
- tip of the tongueB2名詞(句)舌先(現象)The actor's name is on the tip of my tongue.
be on the tip of one's tongue「喉まで出かかっている」は日常会話でもよく使うイディオム。 - retrieveB2動詞(記憶から)取り出すIt took me a minute to retrieve her name.
re-(再び)+trieve(見つける)。名詞 retrieval(検索)。犬が物を取ってくる retriever と同語源。 - syllableB1名詞音節The word "banana" has three syllables.
アクセント問題の基本用語。ba-na-na のように母音を中心に区切った単位。 - bilingualB1名詞・形容詞二言語話者(の)Bilinguals may have more tip-of-the-tongue experiences.
bi-(2つ)+lingual(言語の)。monolingual(単一言語の)、multilingual(多言語の)とセットで。 - phonologyC1名詞音韻(言葉の音の情報)The meaning came to mind, but the phonology did not.
phono(音)+-logy(学)。telephone、microphone の phone と同じ語源。 - partialB2形容詞部分的なShe could give only a partial answer.
part(部分)の形容詞形。be partial to ~「~をえこひいきする・~が大好き」という意味もある。
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名前が喉まで出かかってるのに出てこないアレ、「舌先現象」って名前があるらしい。しかも頭文字や文字数は当たってることが多い。記憶は消えてなくて、音の呼び出しで詰まってるだけ。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- Brown & McNeill (1966) The "tip of the tongue" phenomenon, Journal of Verbal Learning and Verbal Behaviordoi.org
- Burke et al. (1991) On the tip of the tongue: what causes word finding failures in young and older adults?, Journal of Memory and Languagedoi.org
- Schwartz (1999) Sparkling at the end of the tongue: the etiology of tip-of-the-tongue phenomenology, Psychonomic Bulletin & Reviewdoi.org
- Gollan & Acenas (2004) What is a TOT? Cognate and translation effects on tip-of-the-tongue states in Spanish-English and Tagalog-English bilinguals, Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognitiondoi.org
- Thompson, Emmorey & Gollan (2005) "Tip of the fingers" experiences by deaf signers: insights into the organization of a sign-based lexicon, Psychological Sciencedoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。











