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脳と心理

「ほら、あの俳優の…!」名前が喉まで出かかる現象には、ちゃんと学術名があった

「ほら、あの俳優の…!」名前が喉まで出かかる現象には、ちゃんと学術名があった

読む前に予想してみよう!

舌先現象のとき、思い出せない言葉の頭文字は当てられることが多い

研究カード(どんな研究?)
対象
大学生・高齢者・バイリンガル・ろう者
規模
1研究あたり数十人
研究の種類
実験研究+日誌研究・レビュー
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

知っているのに名前が出てこない「舌先現象」。頭文字や文字数は分かることが多く、記憶が消えたのではなく「音」の呼び出しでつまずいている。

ひとことで言うと名前が出てこないのは、記憶の「音」の引き出しが引っかかってるだけ!

もくじ
  1. 「知ってる」のに「言えない」不思議な状態
  2. 記憶は消えていない。「音」を取り出すところで詰まっている
  3. 年を取ると増えるのは、なぜ?
  4. 喉で止まった言葉を引き出すコツ
  5. まとめ

「ほら、あの、ドラマに出てた…メガネの…ああもう、ここまで出てるのに!」

誰でも一度はやったことがあるこの状態。実は心理学では舌先現象(英語で tip-of-the-tongue、略してTOT)という立派な名前がついています。「舌の先まで出かかっている」という、まさにそのままのネーミングです。

しかもこの現象には、ただの物忘れとはちょっと違う性質があります。

01「知ってる」のに「言えない」不思議な状態

舌先現象の特徴は、その言葉を知っている確信があること。完全に忘れたなら「知らない」と感じるはずです。でもTOTのときは「絶対知ってる」と分かっています。

そして多くの場合、言葉の一部の情報は出てきます。「たしか『さ』で始まる」「4文字くらい」「似た響きの別の名前なら浮かぶ」。

02記憶は消えていない。「音」を取り出すところで詰まっている

今の有力な考え方では、言葉を思い出すときの脳は、ざっくり2段階で動いています。

  1. 意味を取り出す(「あの俳優、あのドラマ、メガネの人」)
  2. 音を取り出す(「さ・と・う…」という発音)

舌先現象は、1段階目は成功しているのに、2段階目でつまずいた状態だと考えられています。意味と音のつながりが弱くなっていて、音までたどり着けないのです。たとえるなら、どの引き出しに入っているかは分かっているのに、その引き出しが引っかかって開かない状態です。

意味は分かっているのに、「音」の引き出しだけが開かない
意味は分かっているのに、「音」の引き出しだけが開かない

03年を取ると増えるのは、なぜ?

舌先現象は、ほとんどの人が少なくとも週に1回は経験する、ありふれたものです(Psychonomic Bulletin & Review, 1999)。とくに人の名前で起こりやすく、年齢を重ねるほど増えることも知られています。

その理由を調べたのが、米国のバークらです(Journal of Memory and Language, 1991)。日誌や実験で、若い人と高齢者を比べました。そして、こう説明しました。意味と音のつながりは、使う回数が少ないと弱まる。最近あまり使っていない言葉ほど弱まるし、年を取ることでも弱まる。つながりが弱いと、音まで信号が届きにくくなる。これを伝達欠損仮説と呼びます。

最近使っていない言葉ほど出てきにくいのは、若い人でも同じです。また、高齢者は知っている言葉の数そのものが多い、という点も考える必要があります。思い出せないからといって、記憶が消えたわけではありません。

2つ以上の言語を話す人は、舌先現象が起こりやすいという報告もあります(Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 2004)。ただし、両方の言語で似た音の単語では起きにくかったそうです。たとえば英語の vampire とスペイン語の vampiro です。

研究者は、「2つの言語が邪魔し合う」という説明では、この結果を説明できないと考えました。そして別の理由を挙げています。2つの言語を使う人は、それぞれの言語の単語を使う回数が、1つの言語だけを話す人より少ない。そのぶん、つながりが弱いのではないか、というのです。

同じことは手話でも起きます。耳の聞こえない手話話者にも、手話の単語が「指先まで出かかって出てこない」「指先現象」が起きると報告されました(Psychological Science, 2005)。このとき、手の形や位置は思い出せても、手の動きが出てこないことが多かったのです。つまりこのつまずきは「音」に限りません。意味から、言葉の形を取り出す段階で起きていると考えられます。

04喉で止まった言葉を引き出すコツ

05まとめ

名前が喉まで出かかるのは、記憶が消えたからではありません。「意味」から「音」を取り出すところで、一時的につまずいているサインです。

次に「あれ、あれ!」となったら、焦らず深呼吸。そして心の中で「今、舌先現象だな」とつぶやいてみてください。それだけで、ちょっと楽しくなりませんか?

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerAlmost everyone has experienced the frustrating feeling of knowing a word but being unable to say it. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Almost everyone has experienced the frustrating feeling of knowing a word but being unable to say it. Psychologists call this the tip-of-the-tongue state. In a classic 1966 study at Harvard, researchers read definitions of rare words to students. When the students felt the answer was "right there," they could often guess its first letter and its number of syllables much better than by chance. This suggests that remembering a word happens in two steps.

First we find its meaning, and then we find its sound. The problem happens at the second step. Such experiences become more common with age, especially with people's names, and most people have them at least once a week.

113 words ・ CEFR B1

和訳を見る

ほとんどの人が、言葉を知っているのに言えないというもどかしい感覚を経験したことがあります。心理学者はこれを「舌先現象」と呼びます。1966年にハーバード大学で行われた古典的な研究で、研究者たちは学生に珍しい単語の定義を読み上げました。学生が答えが「すぐそこにある」と感じたとき、彼らはその言葉の最初の文字や音節の数を、偶然よりもずっと高い確率で言い当てることができました。このことは、言葉を思い出すのは2段階で起こることを示しています。

まず意味を見つけ、次にその音を見つけるのです。問題は2段階目で起こります。このような経験は年齢とともに、特に人の名前で増えていきますが、ほとんどの人が少なくとも週に1回は経験します。

4択リーディングクイズ

Q1. What does the passage mainly explain?

Q2. In the 1966 study, what could students often guess?

Q3. What can be inferred about a person in the tip-of-the-tongue state?

重要単語

  • tip of the tongueB2
    名詞(句)舌先(現象)The actor's name is on the tip of my tongue. be on the tip of one's tongue「喉まで出かかっている」は日常会話でもよく使うイディオム。
  • retrieveB2
    動詞(記憶から)取り出すIt took me a minute to retrieve her name. re-(再び)+trieve(見つける)。名詞 retrieval(検索)。犬が物を取ってくる retriever と同語源。
  • syllableB1
    名詞音節The word "banana" has three syllables. アクセント問題の基本用語。ba-na-na のように母音を中心に区切った単位。
  • bilingualB1
    名詞・形容詞二言語話者(の)Bilinguals may have more tip-of-the-tongue experiences. bi-(2つ)+lingual(言語の)。monolingual(単一言語の)、multilingual(多言語の)とセットで。
  • phonologyC1
    名詞音韻(言葉の音の情報)The meaning came to mind, but the phonology did not. phono(音)+-logy(学)。telephone、microphone の phone と同じ語源。
  • partialB2
    形容詞部分的なShe could give only a partial answer. part(部分)の形容詞形。be partial to ~「~をえこひいきする・~が大好き」という意味もある。

動画でもっと知る

名前が喉まで出かかってるのに出てこないアレ、「舌先現象」って名前があるらしい。しかも頭文字や文字数は当たってることが多い。記憶は消えてなくて、音の呼び出しで詰まってるだけ。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Brown & McNeill (1966) The "tip of the tongue" phenomenon, Journal of Verbal Learning and Verbal Behaviordoi.org
  2. Burke et al. (1991) On the tip of the tongue: what causes word finding failures in young and older adults?, Journal of Memory and Languagedoi.org
  3. Schwartz (1999) Sparkling at the end of the tongue: the etiology of tip-of-the-tongue phenomenology, Psychonomic Bulletin & Reviewdoi.org
  4. Gollan & Acenas (2004) What is a TOT? Cognate and translation effects on tip-of-the-tongue states in Spanish-English and Tagalog-English bilinguals, Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognitiondoi.org
  5. Thompson, Emmorey & Gollan (2005) "Tip of the fingers" experiences by deaf signers: insights into the organization of a sign-based lexicon, Psychological Sciencedoi.org