脳と心理ビミョー

部屋に入った瞬間「何しに来たんだっけ?」は、ドアをくぐったせいかもしれない

部屋に入った瞬間「何しに来たんだっけ?」は、ドアをくぐったせいかもしれない

読む前に予想してみよう!

ドアをくぐって忘れたことは、元の部屋に戻っても思い出しやすくはならなかった

研究カード(どんな研究?)
対象
大学生・高齢者
規模
1実験あたり数十人
研究の種類
実験研究(追試で結果が分かれる)
確かさ
★★☆☆☆
3秒でわかる

ドアを通り抜けると、直前の記憶が引き出しにくくなる「ドア効果」が実験で報告された。脳が出来事を「場面」ごとに区切るためと考えられるが、いつも起きるわけではない。

ひとことで言うとドアをくぐると、脳が「場面が変わった」と思って、前の記憶をしまっちゃう!

もくじ
  1. バーチャルの部屋で「ドアをくぐる」実験
  2. 脳は記憶を「場面」ごとに区切っている
  3. 元の部屋に戻っても思い出せない?
  4. 「いつでも起きる」わけではない
  5. まとめ

リビングでソファから立ち上がり、キッチンへ。そしてドアをくぐった瞬間――「…あれ? 何しに来たんだっけ?」

あまりにもよくある、この現象。「年のせい」「疲れてるから」と片付けがちですが、心理学の実験によると、ドアそのものに原因があるかもしれないのです。

01バーチャルの部屋で「ドアをくぐる」実験

歩いた距離も時間も同じ。違うのは「ドアを通ったかどうか」だけ。それなのに、記憶の成績に差が出たのです。

その後の研究では、バーチャル空間だけでなく本物の部屋を歩いても、似た結果が報告されました(Quarterly Journal of Experimental Psychology, 2011)。

02脳は記憶を「場面」ごとに区切っている

なぜドアが記憶を邪魔するのか。カギになるのがイベント境界という考え方です。

かみ砕くと、私たちの脳は、流れ続ける毎日の経験をドラマのシーンのように区切って記憶しています。「リビングでくつろぐシーン」「キッチンで料理するシーン」というふうに。

ドアは、そのシーンの区切り線になりやすい。ドアをくぐった瞬間、脳は「はい、新しいシーンが始まりました」と判断し、前のシーンの情報をいったん奥の棚にしまう。だから「何をしに来たか」という前のシーンの目的が、急に取り出しにくくなる――というわけです。

ドアは、脳にとって「シーンの切り替え」の合図になりやすい
ドアは、脳にとって「シーンの切り替え」の合図になりやすい

03元の部屋に戻っても思い出せない?

「忘れたら元の部屋に戻れば思い出す」――よく言われる知恵ですよね。

ところがラドヴァンスキーらの2011年の実験では、物を覚えた元の部屋に戻っても、記憶は良くなりませんでした。「覚えた場所に戻れば思い出しやすい」という考え(符号化特定性)では説明できない結果です。研究者たちは、ドアをくぐって新しい「場面」が始まると、前の場面の記憶と今の場面の記憶が競合して取り出しにくくなる、と解釈しました。

04「いつでも起きる」わけではない

ただし、この効果は万能ではありません。2021年にオーストラリアの研究チームが、没入型のVRを使った2つと、カーテンで区切った本物の廊下を使った2つ(動画で見る/実際に歩く)の計4つの実験で追試したところ、ドアを通るだけでは忘れやすくならなかったのです(BMC Psychology, 2021)。唯一、VRの中を、声に出して引き算をくり返しながら移動する実験でだけ、ドアを通った後に、覚えた物の色と形を組み替えた「ニセモノ」を見た物だと答える誤りが増えました。

実験のちょっとしたやり方の違いで結果が変わる、ということは、ドア効果は「いつでも誰にでも起きる強い現象」ではないのかもしれない、ということです。

つまり、考えごとなどで頭がいっぱいのときに、ドア効果は起きやすいのかもしれません。

05まとめ

「何しに来たんだっけ?」は、あなたの記憶力が悪いからではなく、脳が経験をシーンごとに整理しようとしている証拠なのかもしれません。

家の中のドアは、脳にとっての「場面転換」。次にドアノブを握ったら、目的をひとこと唱えてからくぐってみてください。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerMany people walk into a room and suddenly forget why they came. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Many people walk into a room and suddenly forget why they came. Psychologists call this the doorway effect. In a 2006 experiment, participants moved through rooms in a virtual world, picking up objects and carrying them to other tables. When they were asked what they were holding, they made more mistakes right after passing through a doorway than after walking the same distance within one room.

Researchers think the brain divides experience into separate scenes, and a doorway marks a new one. Even going back to the original room did not help memory. However, a 2021 study could not repeat the basic effect. Forgetting increased only when participants also had to remember other information at the same time.

118 words ・ CEFR B1

和訳を見る

多くの人が、部屋に入ったとたん、何をしに来たのかを忘れてしまいます。心理学者たちはこれを「ドア効果」と呼びます。2006年の実験では、参加者が仮想世界の部屋を移動しながら、物を拾っては別のテーブルへ運びました。何を持っているかを尋ねられると、同じ部屋の中で同じ距離を歩いた後より、ドアを通り抜けた直後のほうが間違いが多くなりました。

研究者たちは、脳が経験を別々の場面に分けていて、ドアが新しい場面の始まりを示すのだと考えています。元の部屋に戻っても、記憶は良くなりませんでした。しかし、2021年の研究は、基本的な効果を再現できませんでした。物忘れが増えたのは、参加者が同時にほかの情報も覚えておかなければならないときだけでした。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the main point of the passage?

Q2. When did participants make more mistakes in the 2006 experiment?

Q3. What does the 2021 study suggest?

重要単語

  • event boundaryC1
    名詞(句)イベント境界(出来事の区切り)A doorway can act as an event boundary. boundary は「境界線」。push the boundaries「限界を押し広げる」も覚えたい。
  • forgetfulnessC1
    名詞物忘れForgetfulness is common when we are busy. forget+-ful(~に満ちた)+-ness。形容詞 forgetful「忘れっぽい」。
  • virtual environmentB2
    名詞(句)仮想環境Participants walked through a virtual environment. virtual は「仮想の」のほか「事実上の」の意味も。virtually=「ほとんど」は入試頻出。
  • reinstateC1
    動詞元に戻す、再現するReinstating the original room did not help memory. re(再び)+instate(据える)。「復職させる」の意味でもニュースに出る。
  • cognitive loadC1
    名詞(句)認知負荷(頭の中の作業量)High cognitive load makes us more forgetful. cognitive は「認知の」。load は「積み荷・負担」で workload(仕事量)も頻出。
  • retrieveC1
    動詞(記憶・情報を)取り出すIt is harder to retrieve memories after a scene change. 名詞 retrieval。犬種 retriever は獲物を「取ってくる」犬。

動画でもっと知る

部屋に入った瞬間「あれ、何しに来たんだっけ?」となるアレ、ドアを通り抜けたせいかもしれないらしい。脳は出来事を「場面」ごとに区切って記憶していて、ドアはその区切り線になりやすいんだとか。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Radvansky & Copeland (2006) Walking through doorways causes forgetting: situation models and experienced space, Memory & Cognitiondoi.org
  2. Radvansky, Krawietz & Tamplin (2011) Walking through doorways causes forgetting: further explorations, Quarterly Journal of Experimental Psychologydoi.org
  3. McFadyen et al. (2021) Doorways do not always cause forgetting: a multimodal investigation, BMC Psychologydoi.org
  4. Radvansky et al. (2015) Walking through doorways causes forgetting: younger and older adults, Psychology and Agingdoi.org
  5. Zacks et al. (2007) Event perception: a mind-brain perspective, Psychological Bulletindoi.org