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脳と心理

「借」をじっと見てたら字に見えなくなった…ゲシュタルト崩壊、脳で何が起きてる?

「借」をじっと見てたら字に見えなくなった…ゲシュタルト崩壊、脳で何が起きてる?

読む前に予想してみよう!

同じ言葉を何十回も声に出して繰り返すと、意味がぼやけて感じられることがある

研究カード(どんな研究?)
対象
大学生など
規模
1実験あたり数人〜数十人
研究の種類
実験心理学の研究(古典〜近年)
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

同じ文字を見つめ続けると、バラバラの線にしか見えなくなる現象。脳の「慣れ」で文字としてのまとまりや意味が薄れると考えられている。

ひとことで言うと同じ字を見すぎると、脳が「字のまとまり」を見失っちゃう!

もくじ
  1. 「ゲシュタルト」ってそもそも何?
  2. 100年以上前から研究されていた
  3. 脳の「慣れ」がまとまりをほどく
  4. 崩壊しやすい文字、しにくい文字
  5. まとめ

テスト勉強で同じ漢字を何十回も書いていたら、ふと「……あれ、この字、こんな形だっけ?」。

じっと見つめるほど、文字がただの線と点の寄せ集めに見えてくる。日本ではゲシュタルト崩壊という名前で知られる、あの不思議な現象です。

試しに、下の字を30秒くらい見つめてみてください。

借 借 借 借 借 借

…どうでしょう。だんだん「にんべん」と「昔」に分かれて見えてきませんか?

01「ゲシュタルト」ってそもそも何?

ゲシュタルトはドイツ語で「形」「まとまり」という意味です。

人の脳は、ばらばらの部品を見ても、自動的に「ひとつのまとまり」として捉えるのが得意です。点が3つ並べば顔に見える、線の集まりが「借」という文字に見える。この、部分を足し算した以上の「全体」のまとまりを、心理学ではゲシュタルトと呼んできました。

ゲシュタルト崩壊は、その「まとまり」の感覚がほどけてしまう状態。文字としての全体像が消え、部品だけが目に入ってくるのです。

見つめ続けると、脳がつくっていた「まとまり」がほどけていく
見つめ続けると、脳がつくっていた「まとまり」がほどけていく

02100年以上前から研究されていた

この現象、実はかなり昔から研究されています。

英語圏では主に「言葉の意味が薄れる」意味飽和として研究されてきました。一方、日本で「ゲシュタルト崩壊」と言うときは、多くの場合、文字の形がバラバラに見える感覚を指します。漢字という、部品の組み合わせでできた文字を毎日使う日本ならではの関心かもしれません。

日本の研究者も、この現象を実験で調べています。二瀬由理さんと行場次朗さんの実験では、参加者に漢字を25秒間見つめ続けてもらいました(心理学研究, 1996)。その直後にテスト用の漢字を見せて、すばやく見分けてもらいます。すると、見つめた字と同じ大きさの字では、見分けるのが50ミリ秒(0.05秒)以上遅くなりました。同じ字だけではありません。部品は違っても、組み立て方(構造)が同じ字でも遅くなったのです。

この結果は、次のように解釈されています。漢字は、部品ごとではなく「まとまり」として脳の中に表されている。見つめすぎると、そのまとまりの処理が鈍る。

03脳の「慣れ」がまとまりをほどく

なぜ崩壊が起きるのか。完全に決着した答えはありませんが、有力なのが神経の順応という考え方です。

かみ砕くと、脳の「慣れ」です。同じ刺激を受け続けると、それに反応する神経細胞の反応がだんだん弱くなります。ずっと同じ香りをかいでいると匂いを感じにくくなるのと似ています。

文字を見るとき、脳では2つの段階が働いています。「線や点を見る段階」と、「それを文字や意味としてまとめる段階」です。同じ文字を見つめ続けると、まとめる段階の反応が先に弱まる。すると、部品の情報だけが目立ってしまう――そんなイメージです。

言葉の意味が薄れる意味飽和は、米国の研究チームが実験とモデルで調べています(Cognitive Psychology, 2010)。確かめたのは、「言葉とその意味のつながりが、繰り返すうちに一時的に弱まる」という考えです。ただし、どの段階の「慣れ」が主な原因なのかは、まだ議論が続いています。

04崩壊しやすい文字、しにくい文字

これは研究で確かめられた話ではありません。ただ経験的には、次のような字が崩壊を感じやすいと言われます。

  • 左右や上下のパーツに分かれる漢字(「借」「娘」「傷」など)
  • 同じ形がくり返される字(「品」「森」など)

部品の境目がはっきりしているほど、ばらけて見えやすいのかもしれません。

05まとめ

ゲシュタルト崩壊が起きると、ふだん脳がどれだけ一瞬で「まとまり」を作ってくれているかが分かります。崩れて初めて、その見事な仕事ぶりに気づけるわけです。

今日、何気なく読んでいる文字の一つひとつも、実は脳が休まず組み立ててくれているものなんですね。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIf you stare at the same kanji for a long time, it may suddenly look strange, like a collection of separate… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

If you stare at the same kanji for a long time, it may suddenly look strange, like a collection of separate lines. In Japan, this is known as "gestalt collapse."

Gestalt is a German word meaning "shape" or "whole," and it refers to the brain's ability to see parts as one unit. A similar effect with words has been studied for more than 100 years. In 1907, American psychologists reported that words lost their meaning after long staring.

Later research showed that repeating a word aloud weakened its meaning. Many scientists think the cause is adaptation. When the brain receives the same input again and again, its response gradually weakens. Fortunately, the effect is only temporary.

116 words ・ CEFR B1

和訳を見る

同じ漢字を長い間見つめていると、急に奇妙に見え、ばらばらの線の集まりのようになることがあります。日本では、これは「ゲシュタルト崩壊」として知られています。

ゲシュタルトは「形」や「全体」を意味するドイツ語で、部分をひとつのまとまりとして見る脳の能力を指します。言葉に関する同じような現象は、100年以上前から研究されてきました。1907年、アメリカの心理学者たちは、単語を長く見つめると意味が失われることを報告しました。

その後の研究では、ある言葉を声に出して繰り返すと、その意味が弱まることが示されました。多くの科学者は、原因は順応だと考えています。脳が同じ入力を何度も受け取ると、その反応がだんだん弱くなるのです。幸い、この現象は一時的なものにすぎません。

4択リーディングクイズ

Q1. What does the word "gestalt" refer to in the passage?

Q2. What did the 1907 study report?

Q3. According to the passage, what is the likely cause of the effect?

重要単語

  • semantic satiationC1
    名詞(句)意味飽和Saying a word fifty times can cause semantic satiation. semantic(意味の)+satiation(飽きること)。satiate は「満腹にさせる」で satisfy と同語源。
  • adaptationB2
    名詞順応、慣れSensory adaptation helps us ignore constant smells. adapt(適応する)の名詞形。adopt(採用する)とのつづり・意味の混同に注意。
  • perceiveB2
    動詞知覚するWe perceive the lines as a single letter. perceive A as B「AをBとみなす・知覚する」。名詞 perception。
  • fixationC1
    名詞注視、凝視Long fixation on a word can make it look odd. fix(固定する)から。日常では「執着」の意味(a fixation on money)でも使う。
  • holisticC1
    形容詞全体的なReaders often process familiar characters in a holistic way. whole(全体)と同じ語源。holistic medicine「全人的医療」。
  • fadeB1
    動詞薄れる、消えていくThe strange feeling fades when you look away. fade away「消えていく」。色・音・記憶が薄れるときにも使う。
同じ漢字をじーっと見てると「あれ、こんな字だっけ?」ってなるアレ、脳が文字のまとまりに「慣れすぎて」反応が鈍るせいらしい。100年以上前から研究されてる現象なんだとか。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Severance & Washburn (1907) The loss of associative power in words after long fixation, The American Journal of Psychologydoi.org
  2. Lambert & Jakobovits (1960) Verbal satiation and changes in the intensity of meaning, Journal of Experimental Psychologydoi.org
  3. 二瀬・行場 (1996) 持続的注視による漢字認知の遅延(Delays produced by prolonged viewing in the recognition of Kanji characters), 心理学研究doi.org
  4. Tian & Huber (2010) Testing an associative account of semantic satiation, Cognitive Psychologydoi.org