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脳と心理ビミョー

ゴムの手を"自分の手"と感じる「ラバーハンド錯覚」。「本物の手が冷える」は追試ではっきりせず

ゴムの手を"自分の手"と感じる「ラバーハンド錯覚」。「本物の手が冷える」は追試ではっきりせず

読む前に予想してみよう!

ラバーハンド錯覚では、本物の手の皮膚温度が必ず下がる

研究カード(どんな研究?)
対象
健康な成人
規模
1研究あたり10人〜353人
研究の種類
実験研究・追試
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

隠した自分の手とゴムの手を同時になでると、ゴムの手が自分の手のように感じられる。ただ「本物の手が冷える」は追試ではっきりせず、暗示が関わるという説と、その反論も出ている。

ひとことで言うとゴムの手が自分の手みたいに感じられる。脳ってだまされやすい!

もくじ
  1. やり方は、筆2本とゴムの手だけ
  2. 脳は「見たもの」と「感じたもの」を合わせて判断する
  3. どんでん返し①:「本物の手が冷える」は追試ではっきりせず
  4. どんでん返し②:「暗示」にかかりやすい人ほど強く感じた?
  5. まとめ

「これは自分の手だ」――ふだん、そんなことを考えることすらありませんよね。自分の手が自分のものだなんて、当たり前すぎます。

ところが、ある簡単な実験をすると、目の前のゴムの手を「自分の手」だと感じてしまう人がたくさんいます。これがラバーハンド錯覚です。

01やり方は、筆2本とゴムの手だけ

しばらくすると、多くの参加者が「筆の感触が、ゴムの手から来ているように感じる」と答えました。さらに、目を閉じて自分の手の位置を指してもらうと、指した位置はゴムの手のほうへズレていました。

なでるタイミングをわざとずらすと、この錯覚はずっと弱くなるか、起きなくなります。

02脳は「見たもの」と「感じたもの」を合わせて判断する

なぜこんなことが起きるのでしょう?

脳には、2つの情報が届いています。

  • 目からの情報:ゴムの手が筆でなでられている
  • 皮膚からの情報:自分の手がなでられている

この2つがぴったり同じタイミングで届くと、脳は「同じ出来事だ」と判断します。その結果、「なでられているあの手が、自分の手だ」と結論を出してしまうのです。

2004年には、錯覚が起きているときの脳を画像で調べた研究があります。注目したのは、いくつもの感覚の情報をまとめる運動前野という場所です。ここの活動が、「この手は自分のものだ」という感覚の強さと連動していました。

見えるゴムの手と、隠れた本物の手を「同時に」なでるのがポイント
見えるゴムの手と、隠れた本物の手を「同時に」なでるのがポイント

03どんでん返し①:「本物の手が冷える」は追試ではっきりせず

2008年、さらに目を引く報告がありました。錯覚が起きているとき、本物の手の皮膚温度が下がるというのです。「ゴムの手を自分のものと感じると、本物の手が"自分のもの"でなくなりかける」と解釈され、大きな話題になりました。

ところが2017年、オランダの研究チームが5回の追試(合計167人)で確かめました。すると、本物の手がはっきり冷えるという結果は出ませんでした。

別の追試(2013年)では、機械の腕で筆を動かすと、冷えは見られませんでした。人の手でなでたときは冷えました。ところが、錯覚が起きにくい「タイミングをずらした」条件でも、同じように冷えていたのです。つまり冷えは、錯覚そのものより、なで方などの条件と関係していたようです。

04どんでん返し②:「暗示」にかかりやすい人ほど強く感じた?

2020年、イギリスの研究チームが、別の角度から問題を投げかけました。353人にラバーハンド錯覚を試した研究で、催眠の暗示にかかりやすい人ほど、錯覚を強く感じたと報告したのです。

研究チームはこう考えました。参加者は実験の様子から「こう感じるはずだ」と予想する。そして、その予想に合う体験を、自分でも気づかないうちに作り出している部分があるのではないか。

ただし、この説には反論も出ています。2022年、ラバーハンド錯覚の研究者たちが、同じデータを分析し直しました。錯覚の強さを、「同時になでたとき」と「ずらしてなでたとき」の差で測ったのです。この分野でふつうに使われる測り方です。すると、暗示へのかかりやすさとのはっきりした関係は見られなかったと報告しています。暗示にいちばんかかりにくい人たちでも、錯覚ははっきり起きていました。

05まとめ

ラバーハンド錯覚では、ゴムの手が自分の手のように感じられます。「自分の体」という感覚さえ、脳が情報を組み合わせて作っていることを教えてくれる錯覚です。

ただ、有名な効果の一部は追試ではっきりせず、予想や暗示がどれほど関わるかも議論が続いています。「自分の体」の不思議は、まだまだ研究の途中です。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn 1998, two American researchers showed how easily the brain can be fooled about its own body. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

In 1998, two American researchers showed how easily the brain can be fooled about its own body. Each participant's real hand was hidden behind a screen while a rubber hand lay in front of them. The researchers then stroked both hands with brushes at exactly the same time.

Many participants said the touch seemed to come from the rubber hand, and when asked to point to their real hand with their eyes closed, their pointing shifted toward the rubber one. When the strokes were out of time, the illusion became much weaker. The brain seems to combine sight and touch, and when they match perfectly, it decides that the hand being touched belongs to the body.

116 words ・ CEFR B1

和訳を見る

1998年、2人のアメリカ人研究者は、脳が自分の体についていかに簡単にだまされるかを示しました。参加者の本物の手はついたての後ろに隠され、目の前にはゴムの手が置かれました。そして研究者は、2本の筆で両方の手をまったく同時になでました。

多くの参加者は、触られている感覚がゴムの手から来ているように感じると言い、目を閉じて本物の手を指さすよう頼まれると、指した位置がゴムの手のほうへずれました。なでるタイミングがずれていると、錯覚はずっと弱くなりました。脳は視覚と触覚を組み合わせているようで、それらが完全に一致すると、触られている手は自分の体の一部だと判断するのです。

4択リーディングクイズ

Q1. What happened when participants pointed to their real hand with their eyes closed?

Q2. What is necessary for the illusion to occur?

Q3. According to the passage, how does the brain decide which hand belongs to the body?

重要単語

  • ownershipB2
    名詞所有感(自分のものだという感覚)The illusion changed his sense of ownership. 一般には「所有権」。sense of ownership は「当事者意識」の意味でビジネス英語でも使う。
  • strokeB2
    動詞なでるShe gently stroked the cat's back. 名詞では「脳卒中」「(水泳・テニスの)ひとかき・一打」。多義語として頻出。
  • synchronousC1
    形容詞同時の、同期したSynchronous touch created the illusion. syn-(同じ)+chron(時)。反対は asynchronous。in synchrony「同期して」。
  • replicateC1
    動詞再現する、追試で確かめるOther labs could not replicate the result. 名詞 replication「追試」。failed to replicate「再現できなかった」は科学ニュースの定番表現。
  • suggestionB1
    名詞暗示Suggestion can change what we feel. ふつうは「提案」。心理学では「暗示」。形容詞 suggestible「暗示にかかりやすい」。
  • illusionB2
    名詞錯覚、幻想The rubber hand illusion fooled many participants. optical illusion「目の錯覚」。allusion(言及)と発音・綴りが似ているので注意。

4コマでわかる

ゴムの手を"自分の手"と感じる「ラバーハンド錯覚」。「本物の手が冷える」は追試ではっきりせずの4コマ漫画
隠した自分の手と目の前のゴムの手を同時に筆でなでると、ゴムの手が「自分の手」のように感じられてくる有名な錯覚。でも「本物の手が冷える」は追試ではっきりせず、「暗示にかかりやすい人ほど強く感じる」という研究と、その反論も出ているらしい。

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出典・参考文献(7件)タップで表示
  1. Botvinick & Cohen (1998) Rubber hands 'feel' touch that eyes see, Naturedoi.org
  2. Ehrsson, Spence & Passingham (2004) That's my hand! Activity in premotor cortex reflects feeling of ownership of a limb, Sciencedoi.org
  3. Moseley et al. (2008) Psychologically induced cooling of a specific body part caused by the illusory ownership of an artificial counterpart, PNASdoi.org
  4. de Haan et al. (2017) No consistent cooling of the real hand in the rubber hand illusion, Acta Psychologicadoi.org
  5. Rohde et al. (2013) The human touch: skin temperature during the rubber hand illusion in manual and automated stroking procedures, PLoS ONEdoi.org
  6. Lush et al. (2020) Trait phenomenological control predicts experience of mirror synaesthesia and the rubber hand illusion, Nature Communicationsdoi.org
  7. Ehrsson et al. (2022) No specific relationship between hypnotic suggestibility and the rubber hand illusion, Nature Communicationsdoi.org