脳と心理ビミョー

ゴムの手を"自分の手"だと感じてしまう「ラバーハンド錯覚」。その後わかった意外な落とし穴

ゴムの手を"自分の手"だと感じてしまう「ラバーハンド錯覚」。その後わかった意外な落とし穴

読む前に予想してみよう!

ラバーハンド錯覚では、本物の手の皮膚温度が必ず下がる

研究カード(どんな研究?)
対象
健康な成人
規模
10人〜約900人(複数研究の合計)
研究の種類
実験研究・追試
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

隠した自分の手とゴムの手を同時になでると、ゴムの手が自分の手のように感じられる。ただ「本物の手が冷える」は再現されず、暗示の影響も指摘された。

ひとことで言うとゴムの手が自分の手みたいに感じられる。脳ってだまされやすい!

もくじ
  1. やり方は、筆2本とゴムの手だけ
  2. 脳は「見たもの」と「感じたもの」を合わせて判断する
  3. どんでん返し①:「本物の手が冷える」は再現されなかった
  4. どんでん返し②:「暗示」にかかりやすい人ほど強く感じた
  5. まとめ

「これは自分の手だ」——ふだん、そう考えることすらありませんよね。自分の手が自分のものだなんて、当たり前すぎます。

ところが、ある簡単な実験をすると、目の前のゴムの手を「自分の手」だと感じてしまう人がたくさんいます。これがラバーハンド錯覚です。

01やり方は、筆2本とゴムの手だけ

しばらくすると、多くの参加者が「筆の感触が、ゴムの手から来ているように感じる」と答えました。さらに、目を閉じて自分の手の位置を指してもらうと、ゴムの手のほうへズレた位置を指したのです。

なでるタイミングをわざとずらすと、この錯覚はほとんど起きませんでした。

02脳は「見たもの」と「感じたもの」を合わせて判断する

なぜこんなことが起きるのでしょう?

脳は、目からの情報(ゴムの手が筆でなでられている)と、皮膚からの情報(自分の手がなでられている)が、ぴったり同じタイミングで届くと、「この2つは同じ出来事だ」と判断します。その結果、「なでられているあの手が、自分の手だ」という結論を出してしまうのです。

2004年の脳の画像研究では、錯覚が起きているとき、運動前野という、複数の感覚をまとめる領域の活動が、手の"自分のもの感"の強さと対応していました。

見えるゴムの手と、隠れた本物の手を「同時に」なでるのがポイント
見えるゴムの手と、隠れた本物の手を「同時に」なでるのがポイント

03どんでん返し①:「本物の手が冷える」は再現されなかった

2008年、さらに驚きの報告がありました。錯覚が起きているとき、本物の手の皮膚温度が下がるというのです。「ゴムの手を自分のものと感じると、本物の手が"自分のもの"でなくなりかける」と解釈され、大きな話題になりました。

ところが、オランダの研究チームが5回の追試、合計167人で確かめたところ、本物の手がはっきり冷えるという結果は得られませんでした(2017年)。別の追試(2013年)でも、冷えは錯覚の有無とは関係なく、人が筆でなでるかどうかなどの条件で変わっていたと報告されています。

04どんでん返し②:「暗示」にかかりやすい人ほど強く感じた

2020年、イギリスの研究チームは、数百人規模の3つの研究で、意外な関係を見つけました。催眠の暗示にかかりやすい人ほど、ラバーハンド錯覚を強く感じるというのです。

研究チームは、参加者が実験の様子から「こう感じるはずだ」と予想し、その期待に合う体験を無意識に作り出している部分があるのでは、と指摘しています。

05まとめ

ゴムの手が自分の手のように感じられるラバーハンド錯覚は、「自分の体」という感覚さえ、脳が情報を組み合わせて作っていることを教えてくれます。

ただ、有名な効果の一部は再現されず、期待や暗示の影響も指摘されています。「自分の体」の不思議は、まだまだ研究の途中です。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn 1998, two American researchers showed how easily the brain can be fooled about its own body. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

In 1998, two American researchers showed how easily the brain can be fooled about its own body. Each participant's real hand was hidden behind a screen while a rubber hand lay in front of them. The researchers then stroked both hands with brushes at exactly the same time.

Many participants said the touch seemed to come from the rubber hand, and when asked to point to their real hand with their eyes closed, they pointed toward the rubber one. When the strokes were out of time, the illusion hardly occurred. The brain seems to combine sight and touch, and when they match perfectly, it decides that the hand being touched belongs to the body.

114 words ・ CEFR B1

和訳を見る

1998年、2人のアメリカ人研究者は、脳が自分の体についていかに簡単にだまされるかを示しました。参加者の本物の手はついたての後ろに隠され、目の前にはゴムの手が置かれました。そして研究者は、2本の筆で両方の手をまったく同時になでました。

多くの参加者は、触られている感覚がゴムの手から来ているように感じると言い、目を閉じて本物の手を指さすよう頼まれると、ゴムの手のほうを指さしました。なでるタイミングがずれていると、錯覚はほとんど起きませんでした。脳は視覚と触覚を組み合わせているようで、それらが完全に一致すると、触られている手は自分の体の一部だと判断するのです。

4択リーディングクイズ

Q1. What happened when participants pointed to their real hand with their eyes closed?

Q2. What is necessary for the illusion to occur?

Q3. According to the passage, how does the brain decide which hand belongs to the body?

重要単語

  • ownershipB2
    名詞所有感(自分のものだという感覚)The illusion changed his sense of ownership. 一般には「所有権」。sense of ownership は「当事者意識」の意味でビジネス英語でも使う。
  • strokeB2
    動詞なでるShe gently stroked the cat's back. 名詞では「脳卒中」「(水泳・テニスの)ひとかき・一打」。多義語として頻出。
  • synchronousC1
    形容詞同時の、同期したSynchronous touch created the illusion. syn-(同じ)+chron(時)。反対は asynchronous。in synchrony「同期して」。
  • replicateC1
    動詞再現する、追試で確かめるOther labs could not replicate the result. 名詞 replication「追試」。failed to replicate「再現できなかった」は科学ニュースの定番表現。
  • suggestionB1
    名詞暗示Suggestion can change what we feel. ふつうは「提案」。心理学では「暗示」。形容詞 suggestible「暗示にかかりやすい」。
  • illusionB2
    名詞錯覚、幻想The rubber hand illusion fooled most participants. optical illusion「目の錯覚」。allusion(言及)と発音・綴りが似ているので注意。

4コマでわかる

ゴムの手を"自分の手"だと感じてしまう「ラバーハンド錯覚」。その後わかった意外な落とし穴の4コマ漫画
隠した自分の手と目の前のゴムの手を同時に筆でなでると、ゴムの手が「自分の手」に感じてくる有名な錯覚。でもその後「本物の手が冷える」は再現されず、「暗示にかかりやすい人ほど強く感じる」という研究も出たらしい。

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出典・参考文献(6件)タップで表示
  1. Botvinick & Cohen (1998) Rubber hands 'feel' touch that eyes see, Naturedoi.org
  2. Ehrsson, Spence & Passingham (2004) That's my hand! Activity in premotor cortex reflects feeling of ownership of a limb, Sciencedoi.org
  3. Moseley et al. (2008) Psychologically induced cooling of a specific body part caused by the illusory ownership of an artificial counterpart, PNASdoi.org
  4. de Haan et al. (2017) No consistent cooling of the real hand in the rubber hand illusion, Acta Psychologicadoi.org
  5. Rohde et al. (2013) The human touch: skin temperature during the rubber hand illusion in manual and automated stroking procedures, PLoS ONEdoi.org
  6. Lush et al. (2020) Trait phenomenological control predicts experience of mirror synaesthesia and the rubber hand illusion, Nature Communicationsdoi.org