脳と心理ビミョー

「共感の正体はミラーニューロン」は言い過ぎだった? 大発見が"盛られた"30年

「共感の正体はミラーニューロン」は言い過ぎだった? 大発見が"盛られた"30年

読む前に予想してみよう!

自閉スペクトラム症の原因は「ミラーニューロンの故障」だと科学的に確かめられている

研究カード(どんな研究?)
対象
サル・てんかん患者・脳画像研究
規模
多数の研究
研究の種類
単一神経記録・fMRI・系統的レビュー
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

サルの脳で見つかった「ものまね細胞」ミラーニューロンは実在する。でも共感・言語・自閉症まで説明できるという話は、証拠が追いついていなかった。

ひとことで言うとミラーニューロンは本当にある。でも「心の全部」の正体ではなかった。

もくじ
  1. サルの脳で見つかった「ものまね細胞」
  2. 「心の万能キー」としてブームに
  3. 「8つの問題点」というツッコミ
  4. 自閉症の「壊れた鏡」説はどうなった?
  5. まとめ

友だちがあくびをすると、つられてしまう。映画で誰かが指を切ると、自分まで「イタッ」となる。

こうした現象の説明として、一時期ものすごく人気を集めたのが「ミラーニューロン(鏡の神経細胞)」です。「共感の正体」「言葉の起源」「自閉症の原因」……ミラーニューロンはまるで心の万能キーのように語られてきました。

でも、それって本当なのでしょうか?

01サルの脳で見つかった「ものまね細胞」

「自分がする」と「他人がするのを見る」の両方で反応する。まるで他人の動作を、自分の脳の中で鏡のように映しているようです。この細胞はのちにミラーニューロンと名づけられました。

02「心の万能キー」としてブームに

この発見は大きな反響を呼びました。

他人の動作を自分の脳でなぞれるなら、相手の意図や気持ちがわかる(共感)のもそのおかげでは? 人がまねをして言葉を覚えるのも? 他人の気持ちを読み取るのが苦手とされる自閉スペクトラム症は、ミラーニューロンの「故障」では?

アイデアは次々に広がり、ある著名な神経科学者は「ミラーニューロンは、DNAが生物学にしたことを心理学にするだろう」とまで予言しました。

「なんでもミラーニューロンで説明できる」——一時はそんな勢いだった
「なんでもミラーニューロンで説明できる」——一時はそんな勢いだった

03「8つの問題点」というツッコミ

しかし2009年、アメリカの認知科学者ヒコック(Hickok)は、「ミラーニューロン理論の8つの問題」という論文で強烈なツッコミを入れました。たとえば——

  • 運動の領域が傷ついて動作ができなくなった人でも、他人の動作の意味は理解できる場合がある
  • 動作を「理解」するのにミラーニューロンが必要だという直接の証拠は乏しい
  • サルは人ほど上手にまねをしないのに、ミラーニューロンを持っている

さらに人間では、脳に電極を入れられる機会が限られるため、証拠の多くはfMRIなどの間接的な測定でした。2010年には、てんかん患者の1,177個の細胞を記録した研究で、人にも「する・見る」の両方に反応する細胞があることが示されましたが、場所はサルの研究とは違う領域も含んでいました。

04自閉症の「壊れた鏡」説はどうなった?

2013年、イギリスのハミルトン(Hamilton)さんは、自閉スペクトラム症とミラーシステムを調べた研究25本を系統的にレビューしました。結論は、データはバラバラで、ミラーシステム全体の不全を示す証拠は乏しいというものでした。

05まとめ

ミラーニューロンは、ちゃんと存在する面白い細胞です。ただ、「共感も言葉も自閉症も、ぜんぶミラーニューロンで説明できる」という話は、証拠よりずっと先を走っていました。

大発見ほど、話は大きくなりがち。ニュースで「〇〇の正体がついに判明!」と見たら、ミラーニューロンの30年を思い出してみてください。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn the early 1990s, a team at the University of Parma in Italy was recording cells in a movement area of… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

In the early 1990s, a team at the University of Parma in Italy was recording cells in a movement area of the monkey brain. They noticed that some cells fired not only when the monkey grasped an object but also when it watched a researcher do the same. These cells became known as mirror neurons, and the discovery caused great excitement. People suggested that they could explain empathy, how we learn language, and even autism.

However, in 2009 a scientist named Hickok listed eight problems with this theory. For example, some people who cannot perform an action because of brain damage can still understand it. In 2013, a review of 25 studies found little evidence that autism is caused by a broken mirror system.

124 words ・ CEFR B1

和訳を見る

1990年代のはじめ、イタリアのパルマ大学のチームは、サルの脳の運動に関わる領域で細胞の活動を記録していました。彼らは、一部の細胞がサルが物をつかむときだけでなく、研究者が同じことをするのを見ているときにも反応することに気づきました。これらの細胞はミラーニューロンとして知られるようになり、この発見は大きな興奮を巻き起こしました。人々は、それによって共感や言葉の習得、さらには自閉症まで説明できるかもしれないと考えました。

しかし2009年、ヒコックという科学者がこの理論の8つの問題点を挙げました。たとえば、脳の損傷のために動作ができない人でも、その動作を理解できる場合があります。2013年には、25本の研究をまとめたレビューで、自閉症が「壊れたミラーシステム」によって起こるという証拠はほとんど見つかりませんでした。

4択リーディングクイズ

Q1. Where were mirror neurons first found?

Q2. What did the 2013 review of 25 studies find?

Q3. What does the example of people with brain damage suggest?

重要単語

  • mirror neuronC1
    名詞(句)ミラーニューロンMirror neurons fire when we watch others move. mirror(鏡)のように他者の動作を自分の脳に映す細胞、というイメージで命名。
  • empathyB2
    名詞共感Empathy helps us understand how others feel. sympathy(同情)との違いが入試頻出。empathy は相手の立場で感じること。動詞 empathize with ~。
  • imitationB1
    名詞模倣、まねBabies learn a lot through imitation. 動詞 imitate。imitator は「まねする者」。形容詞 imitation(模造の)としても使う。
  • overstateC1
    動詞誇張する、言い過ぎるThe headline overstated the results. over(過剰に)+state(述べる)。反対は understate。It is hard to overstate ~「~はいくら強調してもしすぎることはない」。
  • evidenceB1
    名詞証拠We need more evidence before we decide. 不可算名詞なので an evidence は不可。a piece of evidence と数える。
  • simulateB2
    動詞模擬的に再現するThe brain may simulate other people's actions. similar と同語源。名詞 simulation。flight simulator(飛行訓練装置)で覚えやすい。
他人の動きを見ただけで、自分が動いたときと同じように反応する「ミラーニューロン」。共感や言葉の起源まで説明できると大ブームになったけど、その後の研究で「さすがに盛りすぎ」という声が強まったらしい。

押すと「マジかリスト」に保存されます

出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. di Pellegrino et al. (1992) Understanding motor events: a neurophysiological study, Experimental Brain Researchdoi.org
  2. Rizzolatti & Craighero (2004) The mirror-neuron system, Annual Review of Neurosciencedoi.org
  3. Hickok (2009) Eight problems for the mirror neuron theory of action understanding in monkeys and humans, Journal of Cognitive Neurosciencedoi.org
  4. Mukamel et al. (2010) Single-neuron responses in humans during execution and observation of actions, Current Biologydoi.org
  5. Hamilton (2013) Reflecting on the mirror neuron system in autism: a systematic review of current theories, Developmental Cognitive Neurosciencedoi.org