脳と心理ホント

「何も見えない」と言う男性が、障害物だらけの廊下をよけて歩いた。盲視(ブラインドサイト)の不思議

「何も見えない」と言う男性が、障害物だらけの廊下をよけて歩いた。盲視(ブラインドサイト)の不思議

読む前に予想してみよう!

脳の一次視覚野を失った人は、目の前の物にまったく反応できない

研究カード(どんな研究?)
対象
視覚野を損傷した患者
規模
1人〜数人の症例
研究の種類
症例研究
確かさ
★★☆☆☆
3秒でわかる

脳の視覚野が壊れて「見えない」はずの人が、障害物をよけたり、表情を当てたりできることがある。見えている自覚がないまま脳が見ている「盲視」。

ひとことで言うと「見えない」のに、脳のどこかでちゃんと見えていることがあるんだ!

もくじ
  1. 「当てずっぽうです」と言いながら、正解する
  2. 障害物の廊下を、杖なしで歩き切った
  3. 脳には「見る」ための裏道があった
  4. どんでん返し:本当に「まったく見えていない」?
  5. まとめ

「見る」とは、どういうことでしょう?

ふつうは、「見えた」と感じることと、見たものに反応できることは、セットだと思っていますよね。ところが、「何も見えない」と本気で言いながら、見えているかのように行動する人がいます。

この不思議な現象は、盲視(もうし)/ブラインドサイトと呼ばれています。

01「当てずっぽうです」と言いながら、正解する

目から入った光の情報は、まず脳の後ろ側にある一次視覚野(V1)に届き、そこから処理が進みます。V1が壊れると、その部分に対応する視野が見えなくなります。

ワイスクランツさんらは、この現象を「盲視」と名づけました。

02障害物の廊下を、杖なしで歩き切った

さらに驚くべき例が、2008年に報告されています。

TNさんは、本人いわく何も見えていないのに、障害物を一つずつ避けながら、ぶつからずに廊下の端までたどり着きました。その様子は映像にも記録され、研究者たちを驚かせました。

同じTNさんは、2005年の研究で、怒った顔・うれしい顔などの表情を偶然より高い確率で言い当て、そのとき感情に関わる扁桃体が反応していたことも報告されています。

メインの道(V1)が壊れても、細い"裏道"から情報が届いている?
メインの道(V1)が壊れても、細い"裏道"から情報が届いている?

03脳には「見る」ための裏道があった

なぜこんなことができるのでしょう?

目からの情報は、実はV1だけに行くわけではありません。脳の深いところにある上丘(じょうきゅう)や視床などを通って、V1を経由せずにほかの領域へ届く"裏道"がいくつかあると考えられています。

この裏道は、物の位置や動き、表情のような大まかな情報を伝えられても、「見えている」という自覚を生み出すには足りないのかもしれません。

04どんでん返し:本当に「まったく見えていない」?

ただし、盲視の研究には注意点も多くあります。2010年の総説では、盲視研究には落とし穴(アーティファクト)が多いと指摘されています。

  • 見えない側に出したはずの光が、目の中で散乱して、見える側にもれていないか
  • 本人は「見えない」と言っても、実はぼんやりした何かを感じている場合がある
  • 「見えた」と言うかどうかの基準が人によって違う

こうした点を一つずつ確かめながら、研究が進められています。

05まとめ

脳の視覚の中枢が壊れて「見えない」人でも、脳のどこかでは"見えている"ことがある。盲視は、「見る」ことと「見えたと感じる」ことが別物であることを教えてくれます。

あなたが今、気づかずに見ているものは、いくつあるのでしょうか。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerVisual information from the eyes first reaches the primary visual cortex, called V1, at the back of the brain. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Visual information from the eyes first reaches the primary visual cortex, called V1, at the back of the brain. If V1 is damaged, people lose part of their sight. In the 1970s, however, a British psychologist named Weiskrantz studied a patient who had lost part of V1 and could not see the left half of his visual field.

When a light appeared there, the patient said he was only guessing, yet he pointed to it quite accurately. Weiskrantz and colleagues called this "blindsight." In 2008, another man who had lost V1 on both sides walked down a hallway full of obstacles without hitting any. Scientists believe that other pathways carry rough information without creating the feeling of seeing.

118 words ・ CEFR B1

和訳を見る

目からの視覚情報は、まず脳の後ろ側にあるV1と呼ばれる一次視覚野に届きます。V1が損傷すると、人は視力の一部を失います。しかし1970年代、イギリスの心理学者ワイスクランツは、V1の一部を失い、視野の左半分が見えなくなった患者を調べました。

そこに光が現れると、患者は当てずっぽうだと言いながらも、かなり正確にその場所を指さしました。ワイスクランツらはこれを「盲視」と名づけました。2008年には、左右両方のV1を失った別の男性が、障害物だらけの廊下を何にもぶつからずに歩きました。科学者たちは、別の経路が、見えているという感覚を生み出さないまま大まかな情報を運んでいると考えています。

4択リーディングクイズ

Q1. What happened when a light appeared in the patient's blind field?

Q2. What is V1?

Q3. What can we infer about the "other pathways"?

重要単語

  • blindsightC1
    名詞盲視Blindsight shows that seeing is not always conscious. blind(見えない)+sight(視覚)の矛盾した組み合わせが現象の不思議さを表している。
  • visual cortexC1
    名詞(句)視覚野Damage to the visual cortex can cause blindness. primary visual cortex(一次視覚野)は V1 とも呼ばれる。
  • awarenessB2
    名詞自覚、意識He had no awareness of the object. be aware of ~「~に気づいている」の名詞形。raise awareness「意識を高める」も頻出。
  • obstacleB2
    名詞障害物She walked around every obstacle. an obstacle to ~「~の障害」。比喩的に「(目標達成の)障害」の意味で長文に多い。
  • pathwayB2
    名詞経路Visual signals can travel by another pathway. path(小道)+way。神経科学では neural pathway「神経経路」が定番。
  • bypassC1
    動詞迂回する、経由せずに進むSome signals bypass the visual cortex. by(脇を)+pass(通る)。名詞では「バイパス道路」「バイパス手術」。

4コマでわかる

「何も見えない」と言う男性が、障害物だらけの廊下をよけて歩いた。盲視(ブラインドサイト)の不思議の4コマ漫画
脳の視覚の中枢が左右とも壊れ、「何も見えない」という男性に、障害物を置いた廊下を杖なしで歩いてもらったら、全部よけてゴールした。本人は見えている自覚がないのに、脳の別のルートが「見て」いたらしい。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Weiskrantz et al. (1974) Visual capacity in the hemianopic field following a restricted occipital ablation, Braindoi.org
  2. Pegna et al. (2005) Discriminating emotional faces without primary visual cortices involves the right amygdala, Nature Neurosciencedoi.org
  3. de Gelder et al. (2008) Intact navigation skills after bilateral loss of striate cortex, Current Biologydoi.org
  4. Cowey (2010) The blindsight saga, Experimental Brain Researchdoi.org