脳と心理ビミョー

「動こう」と決める前に、脳はもう準備を始めていた? リベットの実験と"自由意志"論争のその後

「動こう」と決める前に、脳はもう準備を始めていた? リベットの実験と"自由意志"論争のその後

読む前に予想してみよう!

リベットの実験によって、人間に自由意志がないことが科学的に証明された

研究カード(どんな研究?)
対象
健康な成人
規模
数人〜数十人規模の実験
研究の種類
脳波・fMRI実験
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

「今だ」と決めたと自覚する約0.35秒前に、脳の準備信号が始まっていた。でもその信号は「決定」ではなく、ただの揺らぎかもしれないという反論が出ている。

ひとことで言うと「決めた」と思う前に脳が動いていた? でも答えはまだ出ていない!

もくじ
  1. 時計の針で「決めた瞬間」を測った
  2. 10秒前に予測できた?
  3. 反論①:それは「決定」じゃなく「揺らぎ」かも
  4. 反論②:大事な選択では、準備電位が見られなかった
  5. 反論③:途中で「やっぱりやめた」はできる
  6. まとめ

今、好きなタイミングで指を1本動かしてみてください。

動かそうと「決めた」のは、あなた自身ですよね? ……と思いきや、あなたが決めるより先に、脳がもう準備を始めていたとしたら?

これは、1983年に発表された有名な実験から始まった、今も続く大論争です。

01時計の針で「決めた瞬間」を測った

脳には、自分から体を動かす1秒ほど前から、じわじわと高まる電気信号があることが知られていました。これを準備電位と呼びます。

結果はこうでした。

  • 実際に手首が動く約0.2秒前に、「動かそう」と自覚していた
  • ところが準備電位は、それよりさらに約0.35秒前から始まっていた

つまり、「決めた」と自覚する前に、脳はもう動き出していたように見えたのです。「自由意志は幻想なのか?」と大きな話題になりました。

0210秒前に予測できた?

2008年には、ドイツの研究チームがfMRIを使い、参加者が左右どちらのボタンを押すかを、本人が決めたと自覚する最大10秒ほど前の脳活動から、偶然より少し高い確率で予測できたと報告しました。

ここまで聞くと、ちょっと怖くなりますよね。

準備電位は「決定」ではなく、たまたま大きくなった"さざ波"かもしれない
準備電位は「決定」ではなく、たまたま大きくなった"さざ波"かもしれない

03反論①:それは「決定」じゃなく「揺らぎ」かも

2012年、フランスのシュルガー(Schurger)さんらは、別の見方を提案しました。

脳の活動は、何もしなくても常に小さく揺らいでいます。「好きなときに動いて」と言われると、その揺らぎがたまたま一定のラインを超えた瞬間に、動きが起きる。動いた瞬間を基準に何回分も平均すると、まるでじわじわ準備していたかのような波形が見えてしまう——というのです。

この考えだと、準備電位は「無意識の決定」ではなく、決定の"きっかけ"になる揺らぎにすぎません。

04反論②:大事な選択では、準備電位が見られなかった

2019年の研究では、参加者に実際の寄付先(1,000ドルをどの団体に寄付するか)を選んでもらいました。

  • どっちでもいい、意味のない選択のときは準備電位が見られた
  • 本気で考える意味のある選択のときは、準備電位が見られなかった

リベット型の実験は「どうでもいい選択」ばかりを調べていたので、人生の大事な決断にそのまま当てはめるのは無理がある、と研究チームは指摘しています。

05反論③:途中で「やっぱりやめた」はできる

2016年のドイツの研究では、準備電位をリアルタイムで検出し、「止まれ」の合図を出す装置で実験しました。すると、動き出す約0.2秒前までなら、人は動きを取り消せることがわかりました。リベット自身も、意識には「やめる自由(拒否権)」があるのでは、と考えていました。

06まとめ

「決めた」と思う前に、脳はもう動いていた——リベットの実験は今も衝撃的です。でもその信号は決定そのものではなく、脳の自然な揺らぎかもしれないし、大事な選択では現れないかもしれません。

自由意志はあるのか、ないのか。脳科学はまだ、その答えを出していません。あなたは、どう考えますか?

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerThe brain produces an electrical signal called the readiness potential before we move on our own. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

The brain produces an electrical signal called the readiness potential before we move on our own. In a famous 1983 study, Libet asked people to bend their wrist whenever they liked and to report the moment they decided, using a fast-moving dot on a screen. They became aware of their decision about 0.2 seconds before moving, but the readiness potential began about 0.35 seconds before that. Many concluded that free will is an illusion.

However, later research challenged this view. In 2012, French researchers suggested the signal may simply be random brain activity that happens to cross a threshold. In 2019, another study found no readiness potential when people made meaningful choices about real donations.

115 words ・ CEFR B1

和訳を見る

脳は、私たちが自分から動く前に、準備電位と呼ばれる電気信号を出します。1983年の有名な研究で、リベットは人々に好きなときに手首を曲げてもらい、画面上を速く動く点を使って、決めた瞬間を報告してもらいました。彼らは動く約0.2秒前に決定を自覚しましたが、準備電位はそれよりさらに約0.35秒前に始まっていました。多くの人が、自由意志は幻想だと結論づけました。

しかし、その後の研究はこの見方に異議を唱えました。2012年、フランスの研究者たちは、その信号はたまたまある基準を超えた脳のランダムな活動にすぎないのかもしれないと提案しました。2019年には、人々が実際の寄付について意味のある選択をするときには、準備電位が見られないことが別の研究でわかりました。

4択リーディングクイズ

Q1. When did people become aware of their decision in Libet's study?

Q2. What did the 2012 French researchers suggest?

Q3. What does the 2019 study suggest about Libet-type experiments?

重要単語

  • free willB2
    名詞(句)自由意志Philosophers have argued about free will for centuries. of one's own free will「自らの意志で」という熟語も入試頻出。
  • readiness potentialC1
    名詞(句)準備電位The readiness potential appears before a movement. potential はここでは「電位」。「可能性」の意味と区別すること。
  • voluntaryB2
    形容詞自発的な、意図的なRaising your hand is a voluntary action. 反対は involuntary(不随意の・無意識の)。volunteer と同語源。
  • vetoC1
    動詞拒否する、取り消すYou can still veto your decision at the last moment. ラテン語で「私は禁ずる」。名詞で veto power「拒否権」は政治経済の長文で頻出。
  • deliberateB2
    形容詞熟慮した、よく考えた上でのIt was a deliberate choice, not a random one. 「故意の」の意味も。副詞 deliberately。動詞(熟考する)では発音が /-reɪt/ に変わる。
  • thresholdC1
    名詞しきい値、境目Movement starts when activity crosses a threshold. 原義は「敷居」。on the threshold of ~「~の始まりに」も。綴りは threshhold ではなく threshold。

4コマでわかる

「動こう」と決める前に、脳はもう準備を始めていた? リベットの実験と"自由意志"論争のその後の4コマ漫画
手首を動かそうと「自覚」する約0.35秒前に、脳ではもう準備の信号が始まっていた——1983年のリベットの実験。「自由意志はない」と話題になったけど、その後「信号は決定じゃない」という反論が続いている。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Libet et al. (1983) Time of conscious intention to act in relation to onset of cerebral activity (readiness-potential), Braindoi.org
  2. Soon et al. (2008) Unconscious determinants of free decisions in the human brain, Nature Neurosciencedoi.org
  3. Schurger, Sitt & Dehaene (2012) An accumulator model for spontaneous neural activity prior to self-initiated movement, PNASdoi.org
  4. Schultze-Kraft et al. (2016) The point of no return in vetoing self-initiated movements, PNASdoi.org
  5. Maoz et al. (2019) Neural precursors of decisions that matter—an ERP study of deliberate and arbitrary choice, eLifedoi.org