人の目は光の粒「1個」まで感じる? 正解率51.6%、当てずっぽうなら50%

読む前に予想してみよう!
人の目が光の粒1個を感じ取れることは、もう確実に証明されている
2016年の実験では正解率51.6%と偶然(50%)をわずかに上回ったが、参加者は3人で、差はぎりぎりだった。2024年には別のチームが「網膜は1個だけの信号の多くを捨てている」と考える研究を発表した。
- 対象
- 暗い部屋で目を慣らした20代の男性
- 規模
- 3人(合わせて30,767回のテスト。粒が1個出たと確かめられたのは2,420回)
- 研究の種類
- 実験研究(2回鳴る音のどちらで光が来たかを選ぶテスト)
- 確かさ
- ★★☆☆☆
光の粒を1個ずつ放つ装置で、3人が暗闇の2択テストに約3万回答えた。粒が1個出たと確かめられた2,420回の正解率は51.6%で、当てずっぽうの50%をわずかに上回った。ただ、この結果だけでは統計の目安にわずかに届かなかった。反論もある。
ひとことで言うと光の粒1個が見えるかも? でも当てずっぽうとの差はほんの少し!
もくじ
光は、光子(こうし)と呼ばれる小さな粒でできています。星の光も、スマホの画面の光も、元をたどれば粒の集まりです。光をどこまでも弱くしていくと、最後は粒1個になります。では人の目は、その粒をたった1個だけでも感じ取れるのでしょうか。
2016年、オーストリアのウィーンの研究チームが、光の粒を1個ずつ放つ装置を作って確かめました。暗闇で「ピッ」が2回鳴り、どちらの音のときに光が来たかを答えるテストです。答えは2択なので、当てずっぽうでも正解率は50%になります。3人で3万回あまり答え、そのうち粒が1個出たと確かめられた2,420回の正解率は51.6%。50%をわずかに上回りました。ただし、その粒が目の表面まで届いたのは約2割の回と見積もられています。
目の細胞が光の粒1個に反応することは、1970年代には動物の網膜で確かめられていました。それでも、人が「見えた」と感じるには数個の粒が要ると考えられてきました。答えが出なかった大きな理由は、粒を1個だけ放つ方法がなかったことです。
011942年:網膜に光の粒が5〜14個ほど届けば「見えた」
1942年、アメリカのコロンビア大学のヘクト(Hecht)さんたちは、暗さに目を慣らした人に、ごく弱い光を一瞬だけ見せました。見えたと答えられたいちばん弱い光は、目の表面(角膜)に届いた粒で54〜148個でした。目の中で反射や吸収で失われる分を引くと、網膜の細胞が受け取ったのは多くても5〜14個と計算されました。しかもその粒は、別々の細胞が1個ずつ受け取ったはずだと考えられました。
暗い所で働く網膜の細胞を桿体(かんたい)といいます。1979年には、ヒキガエルの網膜から桿体を1本取り出し、その電流を測る実験が行われました。光の粒1個ごとに、ほぼ決まった大きさの信号が出ることが示されました。
細胞は1個で反応する。では、人の感覚としても1個で足りるのか。これが70年以上残った謎でした。目が暗さに慣れるしくみは暗い所で目が慣れるまで約30分かかる理由で紹介しています。
02ふつうの光は弱めても、粒の数を「ちょうど1個」にできない
レーザーなどの光をどれだけ弱めても、1回に出る粒の数はばらつきます。平均1個にしても、0個の回も、2個や3個の回もまじります。これでは「1個で見えたのか」が分かりません。
ウィーン大学などのチームは、光の粒を1個ずつあつかう技術(量子光学)を使いました。特別な結晶に紫外線のレーザーを当てます。すると紫外線の粒1個が、ごくまれにエネルギーの小さい2個の粒に分かれ、ペアで飛び出します。片方を高感度のカメラで数え、もう片方を目に向けて送ります。カメラが「ちょうど1個」を数えた回だけを、あとから選んで分析しました。網膜で2個以上の粒の信号が生まれてしまった回は、選んだ回の中で計算上1回にも満たないといいます。

032回の「ピッ」のどちらで光ったかを当てる
3人合わせて30,767回のテストのうち、カメラが粒をちょうど1個数えたのは2,420回でした。目の側にも粒が1個出たと確かめられた回です。その回の正解率が51.6%です。
差が小さいのには理由があります。カメラが1個を数えても、目の表面まで届くのは約2割。届いた粒も、多くは網膜で信号になる前に失われます。チームの見積もりでは、網膜で信号が生まれたのは選んだ回の約6%だけ。網膜に生まれた信号をすべて感じ取れたとしても、正解率は約53%が上限という計算でした。
「自信あり」と答えた242回に限ると、正解率は60%に上がりました。カメラが何も数えなかった回(ほとんどは粒が出ていない)では正解率50.5%で、音などの手がかりで当てていたわけではないことも確かめています。
04前の粒から10秒以内だと、正解率は56%に上がった
前に粒が出たと確かめられてから10秒以内の回では、正解率が56%でした。10秒より後では51.0%で、当てずっぽうと区別できませんでした。差がいちばん大きかったのは約3.5秒後です。
チームは、光の粒を1個受け取ると、目と脳の感度が数秒だけ上がるのではないかと考えています。目は、短い時間に届いた光をまとめて感じます。このまとめる時間は、やっと見えるくらいの光で0.1秒ほどと見積もられてきました。アメリカのイリノイ大学のチームは2017年、粒の数のばらつきが小さい光源で、もっと弱い光を送って調べ直しました。結果は平均約0.65秒でした。数秒は、それよりずっと長い時間です。
05どんでん返し:「1個では見えない」という研究も
2016年の論文にも、注意して読むところがあります。51.6%という結果だけでは、偶然だけでこのくらい以上の差が出る確率が約5.5%ありました。科学では、この確率が5%より小さいことを「偶然ではなさそう」と言う目安によく使います。その目安に、わずかに届いていません。平均1個の弱いふつうの光を使った別の実験と合わせて、ようやく約1.4%になりました。また、1人ずつでは回数が足りず、3人分をまとめて分析しています。
2024年には、フィンランドのヘルシンキ大学・アールト大学と、アメリカのワシントン大学のチームが別の答えを出しました。サル(マカク)の網膜の信号を記録し、人5人にも同じ形の2択テストをしてもらって、結果を比べました。人のテストで使ったのは、LEDのふつうの弱い光です。粒を1個ずつ放つ装置は、この論文では使っていません。
いちばん弱い光の見え方は、網膜の「ON経路」という信号の通り道と合っていました。この通り道は、千本単位の桿体のまとまりの中で、粒の信号が2個以上重なったときに信号を通します。1個だけの信号は、その多くを捨てます。そのぶん神経の雑音も消え、ごくわずかな明るさの違いを見分けられるとチームは考えています。
このチームは論文の中で、2016年の結果は「気づく確率がとても低く、偶然との差もぎりぎり」と指摘しました。粒を1個ずつ放つ装置を使った追試は、この論文とは別の、まだ発表前の研究です。その追試について、ほぼ同じ実験を回数を増やして行ったところ、正解率は偶然を上回らなかったと書いています。ただしその追試の詳しい結果は、確認できた範囲ではまだ論文になっていません。
061942年の5〜14個は、見えやすい条件をそろえた実験の数
1942年の5〜14個は、暗さに慣らした目に、いちばん見えやすい条件をそろえて青緑色の弱い光を見せたときの数です。しかも、網膜の桿体が受け取った粒の数を計算した「多くても」の値です。ふだんの夜空で星を見るときの粒の数を、直接測ったものではありません。
07まとめ
光の粒1個に、人は気づけるのか。2016年の実験は「ごくわずかに気づけるかもしれない」という結果でした。2024年の研究は「網膜は1個だけの信号の多くを捨てている」と考えています。
この2つのどちらが正しいかは、まだ決着していません。ほぼ同じ実験をやり直したというフィンランドのチームの結果が論文になれば、70年以上続く謎に、次の答えが出るかもしれません。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerOur eyes have cells called rods that work in the dark.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Light is made of small pieces called photons. Can people see just one photon? In 2016, scientists in Vienna tested three men in a dark room. Their machine let out photons one at a time.
The men heard two beeps and chose which beep came with the light. When a camera showed one photon had been sent toward the eye, they were right 51.6% of the time. Guessing gives 50%. This was not quite enough to be sure.
78 words ・ CEFR A2
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光は、光子と呼ばれる小さな粒でできている。人は光子をたった1個でも見ることができるのだろうか。2016年、ウィーンの科学者たちが、暗い部屋で3人の男性を調べた。科学者たちの機械は、光子を1個ずつ放った。
男性たちは2回のピッという音を聞き、どちらの音のときに光が来たかを選んだ。光子が1個、目に向けて送られたとカメラで分かったとき、彼らが正しかったのは51.6%だった。当てずっぽうなら50%になる。これは、確かだと言うには少し足りなかった。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
「Can people see just one photon?」という問いを、暗い部屋で3人の男性に試した実験の話なので、正解は B。
Q2. How often were the men right when a camera showed that one photon had been sent?
「When a camera showed one photon had been sent toward the eye, they were right 51.6% of the time.」とあるので、正解は C。50% は当てずっぽうの場合。
Q3. In the passage, "guessing" means ___.
guess は「当てずっぽうで答える」。本当は分からないまま選ぶと、2択では50%当たる、という流れなので、正解は A。
Our eyes have cells called rods that work in the dark. One rod can react to a single photon, the smallest amount of light.
But can a person notice one photon? Ordinary lamps and lasers cannot answer this, because the number of photons they give out keeps changing. A team in Vienna built a special device that lets out photons one at a time. Three men sat in darkness, heard two beeps and chose which beep came with the light.
In 2,420 of 30,767 tries, a camera showed that one photon was sent toward the eye, and the men were right 51.6% of the time. Only about one in five reached the eye. On its own, this fell just short of the usual statistical standard.
125 words ・ CEFR B1
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私たちの目には、暗い所で働く桿体という細胞がある。1本の桿体は、光の最も小さい量である光子1個に反応できる。
では、人は光子1個に気づけるのだろうか。ふつうのランプやレーザーではこの問いに答えられない。出てくる光子の数が、変わり続けるからだ。ウィーンのチームは、光子を1個ずつ放つ特別な装置を作った。3人の男性が暗闇に座り、2回のピッという音を聞いて、どちらの音で光が来たかを選んだ。
30,767回のうち2,420回で、光子が1個、目に向けて送られたとカメラで分かった。その回で、男性たちが正しかったのは51.6%だった。目まで届いたのは、5個に1個ほどだけだった。これだけでは、ふつう使われる統計の基準にわずかに届かなかった。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
「But can a person notice one photon?」という問いと、それを確かめた実験を説明しているので、正解は B。
Q2. How many times did the camera show that one photon was sent toward the eye?
「In 2,420 of 30,767 tries, a camera showed that one photon was sent toward the eye」とあるので、正解は D。30,767 はテスト全体の回数。
Q3. Why did the team need a special device?
ふつうのランプやレーザーは「the number of photons they give out keeps changing」なので、光子をちょうど1個送るには特別な装置が必要だった。正解は A。
In 1942, New York researchers found that a dark-adapted person, under the best conditions, could report a flash when at most 5 to 14 photons were absorbed in the retina. A single rod cell, though, responds to just one. Whether the brain ever registers that lone signal stayed an open question for decades, partly because no lamp or laser could deliver exactly one photon on demand.
In 2016, a team in Vienna split photons into pairs inside a crystal, counted one partner with a camera and aimed the other at the eye. Three men completed 30,767 two-choice trials, and on the 2,420 trials where the camera saw one partner, they were right 51.6% of the time. On its own, this fell just short of the usual statistical standard. It passed only after a second experiment with ordinary dim light was added.
In 2024, a Finnish and American team argued that the retina throws away many single-photon signals, and wrote that their unpublished repeat stayed at chance. The Vienna team estimated that a retinal signal formed in about 6% of those trials, so even a perfect observer would have scored only about 53%.
192 words ・ CEFR B2
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1942年、ニューヨークの研究者たちは、いちばん見えやすい条件で調べると、暗さに目が慣れた人は、網膜で吸収された光子が多くても5〜14個ほどで光を見たと答えられることを見いだした。しかし1本の桿体細胞は、たった1個にも反応できる。その1個だけの信号を脳が受け取ることがあるのかは、何十年も答えの出ない問いだった。その理由の1つは、ちょうど1個の光子を思いどおりに送れるランプやレーザーがなかったことだ。
2016年、ウィーンのチームは、結晶の中で光子をペアに分け、片方をカメラで数えて、もう片方を目に向けた。3人の男性が30,767回の2択テストを行い、カメラが相方をちょうど1個数えた2,420回では、51.6%で正解した。この結果は、それだけではふつう使われる統計の基準にわずかに届かなかった。ふつうの弱い光を使った2つ目の実験を加えて、初めて基準を満たした。2024年、フィンランドとアメリカの合同チームは、網膜は光子1個の信号の多くを捨てていると主張し、まだ発表していない自分たちの再実験では正解率が偶然の水準のままだったと書いた。
ウィーンのチームの見積もりでは、そうした回のうち網膜に信号が生まれたのは約6%だけだった。そのため、網膜の信号を1つも見逃さない人でも、正解率は約53%にしかならなかったはずだ。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
光子1個を人が感じられるかという問いと、2016年の実験・その弱点・2024年の反論を述べているので、正解は B。
Q2. According to the passage, what is the best score a perfect observer could get in the 2016 test?
「even a perfect observer would have scored only about 53%」とあるので、正解は B。網膜に信号が生まれたのは約6%の回だけと見積もられたため。
Q3. Why does the writer mention that the 51.6% result fell just short of the usual statistical standard?
51.6%という結果だけでは統計の基準に届かず、別の実験を加えて初めて満たしたと述べ、続けて2024年の反論を挙げている。証拠が弱いことを示すためなので、正解は C。
重要単語
- photonC1名詞光子(光の粒)A photon is the smallest piece of light.
photo-(光)+-on(粒子を表す語尾)。electron(電子)、proton(陽子)と同じ作り - rodB2名詞桿体(暗い所で働く目の細胞)、棒Rods help us see when there is very little light.
もとは「棒」の意味。細長い形からこう呼ばれる。色を見分ける細胞は cone(錐体) - retinaC1名詞網膜The retina sends signals to the brain.
目の奥で光を受け取る薄い膜。複数形は retinas または retinae - absorbB2動詞吸収するDark clothes absorb more heat from the sun.
be absorbed in ~ で「~に夢中になる」。名詞は absorption(つづりの b→p に注意) - deliverB1動詞届ける、送るThe mail is delivered every morning.
荷物だけでなく、光・薬・スピーチなどを「届ける」にも使う。名詞は delivery - on demandB2熟語求めに応じて、好きな時にYou can watch these videos on demand.
動画配信の「オンデマンド」と同じ。demand は「要求」 - at chanceC1熟語偶然(当てずっぽう)と同じ水準でTheir answers stayed at chance.
by chance(偶然に)とあわせて覚える。2択なら chance level は50%
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光は粒でできている。その粒1個に、人は気づくのか。ウィーンのチームが粒を1個ずつ放つ装置を作り、暗闇で3人に2択テストを3万回あまり。粒が1個出たと確かめられた2,420回の正解率は51.6%で、当てずっぽうの50%をわずかに上回った。ただ、この結果だけでは統計の目安にわずかに届かず、2024年には別のチームが反論している。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- Tinsley et al. (2016) Direct detection of a single photon by humans, Nature Communicationsdoi.org
- Hecht, Shlaer & Pirenne (1942) Energy, quanta, and vision, Journal of General Physiologydoi.org
- Baylor, Lamb & Yau (1979) Responses of retinal rods to single photons, The Journal of Physiologydoi.org
- Kilpeläinen et al. (2024) Primate retina trades single-photon detection for high-fidelity contrast encoding, Nature Communicationsdoi.org
- Holmes et al. (2017) Measuring temporal summation in visual detection with a single-photon source, Vision Researchdoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。










