玉ねぎで涙が出る犯人は、日本の食品会社が見つけた「涙専用の酵素」だった。イグノーベル賞の裏話

読む前に予想してみよう!
玉ねぎの涙の成分は、切ったときに勝手に化学反応でできると考えられていた
長く「自然にできる」と考えられていたが、2002年に専用の酵素が必要なことが発見された。
- 対象
- 玉ねぎの酵素・遺伝子組換え玉ねぎ
- 規模
- 基礎研究
- 研究の種類
- 生化学・分子生物学の実験
- 確かさ
- ★★★★☆
玉ねぎを切ると涙が出る成分は、専用の「催涙因子合成酵素」が作っていた。2002年に日本の研究者がNatureで報告し、イグノーベル賞も受賞。
ひとことで言うと玉ねぎの中には「涙を作るための道具(酵素)」があった!
カレーやハンバーグを作るとき、避けて通れないのが玉ねぎのみじん切り。トントン切っていると、目がしみて涙がポロポロ……。
この涙の原因について、長いあいだ「玉ねぎを切ると、中の成分が勝手に化学反応を起こして目にしみる物質ができる」と考えられていました。
ところが2002年、日本の食品会社の研究者が、その常識をひっくり返します。玉ねぎの中には、涙の成分を作るための"専用の酵素"があったのです。
01玉ねぎは切られると「化学兵器」を作る
玉ねぎの細胞の中には、硫黄を含む成分(においの素)がたくわえられています。ふだんは、それを分解する酵素とは別々の場所に分けてしまってあります。
ところが包丁で細胞が壊されると、成分と酵素が出会い、反応が始まります。最初の反応でできた物質から、さらに目を刺激する揮発性の成分(催涙因子)が生まれ、空気中を漂って目に届くのです。
これは、玉ねぎが動物や虫に食べられないための防御作戦だと考えられています。
02「勝手にできる」はまちがいだった
この発見は、2013年に「人を笑わせ、考えさせる研究」に贈られるイグノーベル賞(化学賞)を受賞しました。身近すぎる謎を、本気で解き明かしたことが評価されたのです。

ちなみに、玉ねぎを加熱すると、生のときのツンとした辛さや刺激が消えて甘く感じられるのは、加熱で酵素がはたらかなくなることや、刺激成分が揮発・変化することが関係していると考えられています。
03「泣かない玉ねぎ」は作れるのか
涙の原因が酵素なら、その酵素をなくせば泣かない玉ねぎができるはず。
2008年、ニュージーランドと日本の研究チームは、遺伝子組換えの技術でこの酵素のはたらきを抑えた玉ねぎを作りました。すると、酵素の活性は最大で1500倍以上も低下し、切ったときの催涙因子も大きく減りました。おもしろいことに、そのかわりに別の風味成分が増えることもわかっています。
日本では、遺伝子組換えではない方法で、涙の出にくい玉ねぎも開発されています。さらに2017年には、この酵素の立体構造も明らかにされ、どうやって涙の成分を作っているのかが分子レベルで見えてきました。
04まとめ
玉ねぎで涙が出るのは、玉ねぎが身を守るために持っている「涙専用の酵素」のしわざでした。何十年も「勝手にできる」と思われていた常識を、日本の研究者がひっくり返したのです。
次に玉ねぎを切って涙が出たら、「これがイグノーベル賞の酵素か」と思い出してみてください。少しだけ、涙が誇らしく感じられるかもしれません。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerWhy do onions make us cry?
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Cutting onions often makes us cry. For a long time, people thought the tear gas formed by itself. But in 2002, researchers at a Japanese food company found something new.
Onions have a special enzyme just for making this gas. When you cut an onion, the cells break, and the enzyme starts working. The gas reaches your eyes and makes tears. This study won an Ig Nobel Prize.
68 words ・ CEFR A2
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玉ねぎを切ると、よく涙が出ます。長い間、人々は涙を出すガスが自然にできると考えていました。しかし2002年、日本の食品会社の研究者たちが新しいことを発見しました。
玉ねぎには、このガスを作るためだけの特別な酵素があるのです。玉ねぎを切ると細胞が壊れ、その酵素がはたらき始めます。ガスが目に届いて、涙が出ます。この研究はイグノーベル賞を受賞しました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
玉ねぎを切ると涙が出る理由(専用の酵素)を説明しているので C。
Q2. What did the researchers find in 2002?
Onions have a special enzyme just for making this gas. とあるので D。B は以前の考え。
Q3. In this passage, "by itself" means ...
by itself は「ひとりでに・ほかの助けなしに」。以前は酵素なしに自然にできると考えられていたので A。
Why do onions make us cry? Onion cells store sulfur compounds and an enzyme in separate places. When a knife breaks the cells, the two meet and a chemical reaction begins. For many years, scientists believed that the final tear-causing gas formed naturally from the first product.
However, in 2002, Shinsuke Imai and his team at House Foods reported in the journal Nature that a previously unknown enzyme is needed to make it. The discovery won an Ig Nobel Prize in 2013. Later, researchers created onions in which this enzyme hardly worked, and the tear-causing gas dropped sharply. Scientists think onions use this gas to protect themselves from animals.
109 words ・ CEFR B1
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玉ねぎはなぜ私たちを泣かせるのでしょうか。玉ねぎの細胞は、硫黄を含む成分と酵素を別々の場所にたくわえています。包丁が細胞を壊すと、2つが出会い、化学反応が始まります。長年、科学者たちは、最終的に涙を引き起こすガスは最初の生成物から自然にできると信じていました。
しかし2002年、ハウス食品の今井真介さんらのチームは、それを作るにはそれまで知られていなかった酵素が必要だと、学術誌『Nature』で報告しました。この発見は2013年にイグノーベル賞を受賞しました。その後、研究者たちはこの酵素がほとんどはたらかない玉ねぎを作り、涙を引き起こすガスは大きく減りました。玉ねぎは、この涙を引き起こすガスで動物から身を守っていると考えられています。
4択リーディングクイズ
Q1. What happens when a knife breaks onion cells?
When a knife breaks the cells, the two meet and a chemical reaction begins. とあるので A。
Q2. What did scientists believe before 2002?
scientists believed that the final tear-causing gas formed naturally from the first product とあるので B。
Q3. What does the passage suggest about the purpose of the tear-causing gas?
use this gas to protect themselves from animals とあり、防御のためと考えられるので C。
Tearing up while chopping onions is so familiar that few people wonder about the chemistry behind it. Onion cells keep sulfur-containing compounds and the enzyme that breaks them down in separate compartments. When a knife ruptures the cells, the two mix, and the resulting product is converted into a volatile substance that irritates the eyes. For decades, this final step was assumed to occur spontaneously.
In 2002, however, Shinsuke Imai and colleagues at the Japanese company House Foods reported in Nature that a previously unknown enzyme, lachrymatory factor synthase, is required; without it, very little of the tear-inducing compound forms. The finding, which earned an Ig Nobel Prize in 2013, also suggests that onions use this chemistry as a defense against animals and insects.
In 2008, a team from New Zealand and Japan used genetic modification to silence the enzyme, reducing its activity by up to 1,544 times and sharply lowering the irritant, while other flavor compounds increased. A non-genetically modified tearless onion has also been developed in Japan. Popular tips, such as chilling onions or using a sharp knife, are plausible given this mechanism, but they have been less rigorously tested.
192 words ・ CEFR B2
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玉ねぎをみじん切りにしながら涙が出るのはあまりにもおなじみなので、その背後の化学について考える人はほとんどいません。玉ねぎの細胞は、硫黄を含む成分と、それを分解する酵素を別々の区画にしまっています。包丁が細胞を破ると2つが混ざり、できた生成物が、目を刺激する揮発性の物質に変換されます。何十年もの間、この最後の段階は自然に起こると考えられていました。
しかし2002年、日本の企業ハウス食品の今井真介さんらは、それまで知られていなかった酵素「催涙因子合成酵素」が必要で、それがないと涙を誘う成分はほとんどできないことを『Nature』で報告しました。2013年にイグノーベル賞を受賞したこの発見は、玉ねぎがこの化学反応を動物や虫に対する防御に使っていることも示唆しています。
2008年、ニュージーランドと日本のチームは遺伝子組換えによってこの酵素のはたらきを抑え、その活性を最大1544分の1まで下げて刺激物質を大きく減らしましたが、ほかの風味成分は増えました。日本では、遺伝子組換えではない涙の出にくい玉ねぎも開発されています。玉ねぎを冷やす、よく切れる包丁を使うといった一般的なコツは、この仕組みから考えるともっともらしいものの、それほど厳密には検証されていません。
4択リーディングクイズ
Q1. What was the key point of the 2002 discovery?
a previously unknown enzyme, lachrymatory factor synthase, is required とあるので D。C は以前の考え。
Q2. What happened when the enzyme was silenced in 2008?
sharply lowering the irritant, while other flavor compounds increased とあるので B。
Q3. What does the writer say about popular tips like chilling onions?
plausible given this mechanism, but they have been less rigorously tested とあるので C。
重要単語
- onionA2名詞玉ねぎCutting an onion makes my eyes water.
発音は /ˈʌnjən/(アニャン)。my eyes water「目に涙がにじむ」の water は動詞。 - tearA2名詞涙Tears ran down his face.
涙は /tɪər/(ティア)、動詞「破る」は /teər/(テア)。発音で意味が変わる同綴異義語。 - enzymeB2名詞酵素This enzyme makes the tear-inducing gas.
-ase で終わる名前が多い(synthase=合成酵素)。 - irritateB2動詞刺激する、ひりひりさせるSmoke can irritate your eyes.
「イライラさせる」の意味でも頻出。名詞 irritant(刺激物)。 - volatileC1形容詞揮発性の(すぐ気体になる)The volatile compound quickly reaches your eyes.
比喩で「不安定な・変わりやすい」(a volatile market)。難関大頻出の多義語。 - spontaneouslyC1副詞自然に、ひとりでにThe gas was thought to form spontaneously.
spontaneous(自発的な)の副詞形。人について使うと「思いつきで・自発的に」。
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玉ねぎで涙が出るのは、玉ねぎの中の「涙を作る専用の酵素」のしわざだった。2002年に日本の食品会社の研究者がNatureで発表し、イグノーベル賞も受賞。“泣かない玉ねぎ”の研究まで進んでいる。
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出典・参考文献(3件)タップで表示
- Imai et al. (2002) An onion enzyme that makes the eyes water, Naturedoi.org
- Eady et al. (2008) Silencing Onion Lachrymatory Factor Synthase Causes a Significant Change in the Sulfur Secondary Metabolite Profile, Plant Physiologydoi.org
- Silvaroli et al. (2017) Enzyme That Makes You Cry–Crystal Structure of Lachrymatory Factor Synthase from Allium cepa, ACS Chemical Biologydoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。








