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101歳の人の血の細胞を実験室で作りかえたら、細胞の年齢が10歳くらいまで若返った

101歳の人の血の細胞を実験室で作りかえたら、細胞の年齢が10歳くらいまで若返った

読む前に予想してみよう!

101歳の人の血の細胞を実験室で作りかえても、細胞の年齢は101歳のまま変わらない

研究カード(どんな研究?)
対象
人の血から作った細胞(実験室の皿の中)
規模
血を提供した人15人(0〜101歳)、DNAの印で年齢を測ったのは12人分、途中経過を追ったのは3人分
研究の種類
細胞を使った実験研究
確かさ
★★☆☆☆
3秒でわかる

細胞にも"年齢"があり、DNAについた小さな印の付き方で、おおよそ見積もれる。ドイツの研究チームが、101歳の人を含む15人の血の細胞を実験室で"脳の細胞のもと"に作りかえると、この細胞の年齢がぐっと下がった。大人の細胞では平均で元の年齢の約13%(80歳の人なら約10歳にあたる計算)。若返りには約50日かかった。ただし実験室の皿の中の細胞の話で、人が若返るわけではない。

ひとことで言うと101歳の人の血の細胞が、実験室で"10歳くらい"に若返った!(若返ったのは皿の中の細胞だけ)

もくじ
  1. 血の細胞を、脳の細胞の"もと"に作りかえる
  2. 細胞の年齢は、DNAについた小さな印で測る
  3. iPS細胞を経ずに作りかえた細胞も、年齢が大きく下がった
  4. 若返りには約50日。iPS細胞を作るときより、ずっとゆっくり
  5. 細胞が増えるのを抑えても、若返りは進んだ
  6. この「若返り」は、どこまで信じていいのか
  7. まとめ

人に年齢があるように、細胞にも"年齢"があります。DNAについた小さな印の付き方を調べると、その細胞がどのくらい年をとっているかを、おおよそ見積もれるのです。

ドイツのボン大学病院などのチームは、101歳の人の血から取った細胞を、実験室で"脳の細胞のもと"(脳の神経の細胞を生み出す細胞)に作りかえました。すると、この細胞の年齢が10歳前後まで下がっていました(論文の図から読んだ値)。赤ちゃんから101歳までの15人の細胞で調べると、大人の細胞では、平均で元の年齢の約13%になりました。80歳の人なら10歳ほどにあたる計算です(平均からの計算で、80歳の人を実際に測った値ではありません)。2026年10月3日に学術誌『Aging Cell』で発表されました。

ただし、これは実験室の皿の中の細胞の話です。人の体が若返ったわけでも、若返りの治療ができるようになったわけでもありません。何が起きて、何がまだ分からないのかを、順に見ていきます。

01血の細胞を、脳の細胞の"もと"に作りかえる

体の細胞は、普通、役目が決まっています。血の細胞は、ある日いきなり脳の細胞に変わったりはしません。

この決まりを、実験室でひっくり返す方法があります。一番有名なのがiPS細胞です。2007年、京都大学のチームは、大人の皮膚の細胞に4つの遺伝子(OCT3/4・SOX2・KLF4・cMYC)を入れました。遺伝子は、細胞に「こう働け」と指示を出す設計図の一部です。すると人の皮膚の細胞が、何にでもなれる状態まで「巻き戻り」ました。こうしてできた、何にでもなれる細胞がiPS細胞です(iPS細胞の記事)。

今回のチームは、この「何にでもなれる状態」を通りませんでした。血の細胞を、脳の細胞のもとへ直接作りかえたのです。使った遺伝子は、4つのうちのSOX2とcMYCの2つだけ。それも、しばらくの間だけ働かせました。

材料にしたのは、赤血球のもとになる細胞です。採った血から細胞を取り出し、9日ほど育てて作ります。

作りかえた後の「脳の細胞のもと」は、専門用語では神経幹細胞と呼ばれます。自分で増えながら、脳の神経の細胞や、神経を支える細胞に育つことができる細胞です。

同じグループは2018年にも、31〜62歳の人の細胞でこの方法を発表していました。そのときも、DNAの印で見た細胞の年齢が大きく下がっていました。今回は、血を提供した人の年齢を0歳から101歳まで広げました。そして、若返りがどんな速さで進むのかを、時間を追って調べました。

02細胞の年齢は、DNAについた小さな印で測る

DNAを、分厚いレシピ本にたとえてみます。細胞は、そのところどころに付箋を貼っています。「このページは今は使わない」という目印です。冒頭の「DNAについた小さな印」は、この付箋のことです。

付箋の貼られ方は、年をとるにつれて、決まった形で変わっていきます。そこで貼られ方を調べると、細胞の年齢を見積もる計算式が作れます(大型犬の記事と同じ考え方です)。この記事では、この計算式で出した年齢を「付箋の年齢」と呼びます。

今回使ったのは、皮膚や血の細胞を測るために、2018年に作られた計算式です。

まず、作りかえる前の血の細胞を測りました。付箋の年齢は、細胞の持ち主(血を提供した人)の実際の年齢に、ほぼ沿っていました。年をとった人ほど、高い値が出たのです。ただし101歳の人は、論文の図から読むと80代前半で、実際より低めに出ています。

次に、比べる相手も用意しました。同じ人の細胞を、いったん何にでもなれる細胞(iPS細胞)にしてから、脳の細胞のもとに育てたものです。こちらは持ち主が何歳でも、付箋の年齢は生まれる前の段階のような値でした。

03iPS細胞を経ずに作りかえた細胞も、年齢が大きく下がった

では、今回のやり方で直接作りかえた脳の細胞のもとはどうだったか。大人の細胞では、どの年代でも、付箋の年齢が大きく下がりました。

育てている細胞は、増えて容器がいっぱいになると、分けて新しい容器に移します。この「移しかえ」が3〜5回目のころ、付箋の年齢は平均で、持ち主の年齢の約13%でした。移しかえを何度も重ねて長く育てた後は、約5%まで下がりました。

101歳の人の細胞は、論文の図から読むと、作りかえる前は80代前半でした。それが、移しかえ3〜5回目のころには10歳前後になっていました。

ボン大学の発表文には、80歳の人の例が出てきます。80歳の人の血の細胞を作りかえたら、分子のレベルで見た年齢が20歳未満になった、というものです。論文の平均「約13%」を80歳に当てはめると約10歳なので、この例と食い違いはありません。

04若返りには約50日。iPS細胞を作るときより、ずっとゆっくり

50〜101歳の3人の細胞では、作りかえの途中で、付箋の年齢を何度も測りました。すると若返りは、一気には起きていませんでした。何週間もかけて、少しずつ進んでいたのです。

年齢による付箋の変化の大部分が消えるまで、約50日かかりました。付箋の年齢が持ち主の年齢の約20%に下がるまで、7週間ほどかかった細胞もありました。

iPS細胞を作るときは、年齢による付箋の変化が約20日でほぼ完全に消えると、これまでの研究で報告されています。直接作りかえるやり方は、それよりずっとゆっくりでした。

脳の細胞のもとらしい形や、このタイプの細胞に特有のたんぱく質は、2週間もたたずに現れます。それでも、中身まで本当に「脳の細胞のもと」らしく仕上がるには、その後も何週間もかかっていました。

遺伝子の働き方からも、年齢の差は消えていきました。生まれたばかりの赤ちゃん3人と、62〜101歳の人の細胞を比べます。どの遺伝子がどれだけ働いているかを調べると、両者で働き方に差のある遺伝子は、作りかえる前には1,871個ありました。それが作りかえ14日目には20個、移しかえ4〜6回目のころには12個まで減りました。ただし赤ちゃんは3人だけなので、この比べ方には限界があります。

05細胞が増えるのを抑えても、若返りは進んだ

チームは最初、「細胞が分裂して増え続けること」が若返りのカギだと考えていました。手がかりは2016年の研究です。皮膚の細胞から、増える段階を通らずに神経の細胞を直接作る別のやり方では、付箋の年齢が下がらず、元のまま残っていました。

そこで、81〜86歳の3人の細胞で試しました。作りかえの途中から、細胞が増えるのを抑える薬(グリセロールまたはチミジン)を使ったのです。細胞の増え方は、はっきり落ちました。それでも付箋の年齢の下がり方は、薬を使わない細胞とはっきりした差がありませんでした。

細胞の大部分を、もう分裂しない神経細胞(脳で信号を伝える細胞)に変えても、結果は同じでした。論文は、この若返りは細胞が増え続けることに頼っていないと考えられる、とまとめています。ただし、どちらの実験も3人分の細胞です。

0歳・87歳・101歳の人から作った脳の細胞のもとも、詳しく調べました。年をとった細胞には、よく次のような特徴が見られます。

  • 核(細胞の中でDNAをしまっている部屋)を包む膜が変わる
  • 細胞の中の「ゴミ処理」の力が衰える
  • 年をとって分裂をやめた細胞(老化細胞)に特有の印が出る

調べた範囲では、こうした特徴は見られませんでした。iPS細胞を経由して作った脳の細胞のもとと、同じような状態です。

血の細胞を脳の細胞のもとに作りかえると、DNAの付箋で測る年齢は、約50日かけてゆっくり下がった(イメージ)
血の細胞を脳の細胞のもとに作りかえると、DNAの付箋で測る年齢は、約50日かけてゆっくり下がった(イメージ)

06この「若返り」は、どこまで信じていいのか

著者たち自身が、論文の中でいくつもの注意を書いています。

  • 付箋の年齢は「代わりの物差し」にすぎない。細胞の働きの衰えを直接測ったものではなく、年のとり方の全体まではとらえきれない、と著者らは断っている
  • 細胞の種類が変わったこと自体が、計算をずらしているかもしれない。確かめるには「本当に年をとった脳の細胞のもと」と比べる必要があるが、それは手に入らない
  • 脳などの神経の細胞は、もともとこの計算式で若く出る。この計算式を作った2018年の研究でも、脳から取り出した神経細胞は、平均31歳の人たちで、付箋の年齢が平均6歳と出ていた。血の細胞では、こうしたずれは出ない。作りかえた細胞は神経の細胞の仲間なので、若返りが実際より大きく見えている可能性がある
  • 途中で、細胞を育てるときの酸素の濃さが変わった(35日目まで5%、その後21%)。その影響も否定できないとしている
  • 血を提供した人は15人で、途中経過を追ったのは3人分

そして何より、これは実験室の皿の中の細胞の話です。人の体の中で同じことが起きるとも、人を若返らせる治療につながるとも、この研究は示していません。

07まとめ

101歳の人の血から作った細胞でも、2つの遺伝子で脳の細胞のもとに作りかえると、DNAの付箋で測る年齢は大きく下がりました。実験室の皿の中での話です。その若返りは約50日かけてゆっくり進み、細胞が増えるのを抑えても止まりませんでした。

ゆっくり進むなら、途中のどの段階で何が起きているかを、時間をかけて調べられます。著者らも、若返りの仕組みを探る実験の場として使えると書いています。付箋の貼られ方を若いころの形に戻しているのは、いったい何なのか。答え探しは、ここから始まります。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerBlood cells do not normally turn into nerve cells. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Blood cells do not normally turn into nerve cells. In the lab, though, a team at the University of Bonn changed blood cells from 15 donors, aged from newborn to 101, into neural stem cells, which can grow into brain cells. The team used only two genes, SOX2 and cMYC. To measure the age of the cells, they read chemical marks on the DNA that shift as we get older.

By this measure, the new stem cells were much younger, at about 13% of the donor's age on average. The change was slow and took about 50 days. When the scientists slowed down cell growth with drugs, the cells still became younger. All of this happened in dishes, so it does not show that people can be made young again.

130 words ・ CEFR B1

和訳を見る

血液の細胞は、ふつう神経の細胞に変わることはない。ところが実験室で、ボン大学のチームは、生まれたばかりの赤ちゃんから101歳までの15人の提供者の血液の細胞を、神経幹細胞に変えた。この細胞は、脳の細胞に育つことができる。チームが使った遺伝子は、SOX2とcMYCの2つだけだった。細胞の年齢を測るために、彼らは、年をとるにつれて変わっていくDNA上の化学的な目印を読んだ。

この物差しで見ると、新しい幹細胞はずっと若く、平均で提供者の年齢の約13%だった。この変化はゆっくりで、約50日かかった。科学者たちが薬で細胞の増え方を遅くしても、細胞はやはり若くなった。これはすべて皿の中で起きたことなので、人を若返らせられることを示すものではない。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the passage mainly about?

Q2. About how long did the change take?

Q3. What does the writer want readers to understand in the last sentence?

重要単語

  • stem cellB2
    名詞幹細胞(増えながら、ほかの種類の細胞にもなれる細胞)A neural stem cell can give rise to new nerve cells. stem は「(植物の)幹・茎」。そこから枝分かれするように、いろいろな細胞が生まれるイメージ
  • donorB1
    名詞提供者(血液・臓器などを提供する人)The oldest donor in the study was 101 years old. donate(寄付する、提供する)+ -or(~する人)。blood donor は「献血者」
  • convertB1
    動詞変える、作りかえるThe team converted blood cells into neural stem cells. convert A into B(A を B に変える)の形が入試頻出。名詞は conversion
  • rejuvenationC1
    名詞若返りThe rejuvenation of the cells took about 50 days. re-(再び)+ juven(若い。juvenile と同じ語源)。動詞は rejuvenate
  • stand-inC1
    名詞代わりのもの、代役A DNA clock is only a stand-in for how old a cell really is. 映画の「代役」が元の意味。論文では同じ意味で proxy がよく使われる
  • gradualB2
    形容詞ゆっくりした、少しずつのThe change in the cells was gradual, not sudden. grade(段階)から。副詞 gradually(だんだんと)もよく使う

4コマでわかる

101歳の人の血の細胞を実験室で作りかえたら、細胞の年齢が10歳くらいまで若返ったの4コマ漫画
細胞にも"年齢"がある。DNAについた印の付き方で、おおよそ見積もれる。101歳の人の血の細胞を、実験室で"脳の細胞のもと"に作りかえたら、この細胞の年齢が10歳くらいまで下がった。大人の細胞の平均では元の年齢の約13%。若返りには約50日。ただし皿の中の細胞の話で、人が若返るわけではない。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Berg et al. (2026) Protracted Fate Acquisition and Epigenetic De-Aging During Induced Neural Stem Cell Conversion of Human Blood Cells, Aging Celldoi.org
  2. Sheng et al. (2018) A stably self-renewing adult blood-derived induced neural stem cell exhibiting patternability and epigenetic rejuvenation, Nature Communicationsdoi.org
  3. Horvath et al. (2018) Epigenetic clock for skin and blood cells applied to Hutchinson Gilford Progeria Syndrome and ex vivo studies, Agingdoi.org
  4. Huh et al. (2016) Maintenance of age in human neurons generated by microRNA-based neuronal conversion of fibroblasts, eLifedoi.org
  5. Takahashi et al. (2007) Induction of Pluripotent Stem Cells from Adult Human Fibroblasts by Defined Factors, Celldoi.org