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皮膚の細胞から“万能細胞”へ。iPS細胞の発見から20年、医療はどこまで来た?

皮膚の細胞から“万能細胞”へ。iPS細胞の発見から20年、医療はどこまで来た?

読む前に予想してみよう!

iPS細胞は、皮膚や血液などの体の細胞から作ることができる

研究カード(どんな研究?)
対象
パーキンソン病患者ほか
規模
7人(Kyoto Trial)など少人数の臨床試験
研究の種類
基礎研究・第I/II相臨床試験
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

2006年に発見されたiPS細胞。2026年3月、パーキンソン病と重い心不全の治療製品が日本で初めて条件・期限付き承認された。効果の確認や費用など課題も残る。

ひとことで言うと皮膚や血の細胞を「何にでもなれる細胞」に戻せる! それがiPS細胞。

もくじ
  1. 4つの遺伝子で、細胞の時計を巻き戻す
  2. 人への臨床試験が次々と
  3. まだ残る課題
  4. まとめ

私たちの体は、たった1個の受精卵から始まります。その細胞が分かれていくうちに、心臓の細胞、脳の細胞、皮膚の細胞……と、それぞれの役割に決まっていきます。

一度「皮膚の細胞」になったら、もう他の細胞には戻れない――長い間、そう考えられていました。

ところが2006年、日本の研究者がこの常識をひっくり返します。大人の皮膚の細胞を、何にでもなれる状態に“巻き戻す”ことに成功したのです。それがiPS細胞。発見からちょうど20年、医療の現場はどこまで来たのでしょうか。

014つの遺伝子で、細胞の時計を巻き戻す

iPS細胞のすごさは、患者さん本人や、提供者の血液などの細胞から作れること。受精卵を使う必要がないため、倫理的な問題が少ないのも大きな特徴です。

iPS細胞から、目の細胞、神経の細胞、心臓の筋肉の細胞などを作り出し、病気やけがで失われた細胞を補う――これが再生医療のねらいです。

iPS細胞は、体のさまざまな細胞に育つ“種”のような存在。
iPS細胞は、体のさまざまな細胞に育つ“種”のような存在。

02人への臨床試験が次々と

iPS細胞を使った治療の研究は、日本を中心に人での臨床試験の段階に入っています。

  • 目の病気:2014年、理化学研究所などのチームが、加齢黄斑変性という目の病気の患者に、iPS細胞から作った網膜の細胞のシートを移植しました。iPS細胞から作った細胞を人に移植した、世界初の例です
  • パーキンソン病:脳の中でドーパミンを作る神経細胞が減っていく病気。京都大学のチームが2018年から臨床試験を始めました
  • 心臓病・脊髄損傷・軟骨など、さまざまな分野でも研究が進んでいます

パーキンソン病の臨床試験の結果

2025年、京都大学の Sawamoto らは科学誌 Nature に、パーキンソン病の患者7人の脳に、iPS細胞から作ったドーパミン神経のもとになる細胞を移植した臨床試験の結果を発表しました。移植した細胞は生き残ってドーパミンを作り、腫瘍はできず、重い副作用も見られなかったと報告されています。効果を評価した6人のうち、薬が切れた状態での運動症状のスコアが改善した人は4人でした。

人数が少なく、まだ「安全性を中心に確かめる段階」の試験ですが、大きな一歩です。

2026年、ついに「承認」へ

そして2026年3月、iPS細胞を使った再生医療等製品が、日本で初めて条件及び期限付きで製造販売承認を受けました。住友ファーマのパーキンソン病治療製品と、大阪大学発のベンチャー企業クオリプスの重い心不全の治療製品(iPS細胞から作った心筋の細胞シート)です。

「条件及び期限付き」とは、少人数の試験で安全性が確認され、効果が見込まれる段階で早めに使えるようにし、本当に効くかは発売後に患者さんのデータを集めて確かめるという日本独自のしくみです。期限内に効果を示せなければ、承認が取り消されることもあります(最新の状況は公式発表をご確認ください)。

03まだ残る課題

  • 安全性:細胞が意図せずに増えて腫瘍になるリスクを、長い期間にわたって確認する必要がある
  • 費用と時間:患者さん一人ひとりの細胞から作ると、莫大な費用と時間がかかる。そこで、拒絶反応が起きにくいタイプの提供者の細胞からあらかじめ作って保存しておく取り組みも進められています
  • 効果の確認:本当に効くのかを、より多くの患者さんで確かめる必要がある

04まとめ

iPS細胞は、大人の細胞を“何にでもなれる状態”に巻き戻す、日本発の大発見です。発見から20年で、臨床試験の結果が世界的な科学誌に載り、条件付きながら治療製品が承認されるところまで来ました。

まだゴールではありません。でも、「失われた細胞を自分の体の外で作って補う」という夢は、確実に現実の医療に近づいています。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerFor a long time, scientists believed that once a cell became a skin cell, it could never become anything else. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

For a long time, scientists believed that once a cell became a skin cell, it could never become anything else. In 2006, Shinya Yamanaka and Kazutoshi Takahashi proved this wrong. By adding just four genes to mouse skin cells, they created cells that could turn into many different types of tissue. They succeeded with human cells in 2007, and Yamanaka won the Nobel Prize in 2012.

Because iPS cells do not require fertilized eggs, they raise fewer ethical problems. In 2025, a Kyoto University team reported that cells made from iPS cells were transplanted into the brains of seven Parkinson's patients without causing tumors. In 2026, Japan gave conditional approval with a time limit to two iPS-based products, but their effectiveness still needs to be confirmed.

126 words ・ CEFR B1

和訳を見る

長い間、科学者たちは、細胞が一度皮膚の細胞になったら、もう他の何にもなれないと信じていました。2006年、山中伸弥と高橋和利はこれが誤りであることを証明しました。マウスの皮膚の細胞にわずか4つの遺伝子を加えることで、多くの異なる種類の組織に変わることのできる細胞を作り出したのです。2007年には人の細胞でも成功し、山中は2012年にノーベル賞を受賞しました。

iPS細胞は受精卵を必要としないため、倫理的な問題が少なくなります。2025年、京都大学のチームは、iPS細胞から作った細胞をパーキンソン病の患者7人の脳に移植し、腫瘍は生じなかったと報告しました。2026年、日本はiPS細胞を使った2つの製品に条件・期限付きの承認を与えましたが、その効果はまだ確認される必要があります。

4択リーディングクイズ

Q1. What did Yamanaka and Takahashi add to mouse skin cells?

Q2. Why do iPS cells raise fewer ethical problems?

Q3. What can we infer about the products approved in 2026?

重要単語

  • pluripotentC1
    形容詞多能性の(いろいろな細胞になれる)iPS cells are pluripotent stem cells. pluri-(多くの)+potent(力のある)。iPS は induced pluripotent stem cells の略。
  • reprogramC1
    動詞初期化する、作り直すYamanaka reprogrammed skin cells with four genes. re-(再び)+program。細胞の「設定を初期状態に戻す」イメージ。
  • clinical trialB2
    名詞(句)臨床試験The clinical trial included seven patients. clinic(診療所)の形容詞 clinical。phase I / II / III(第1〜3相)と段階がある。
  • transplantB2
    動詞・名詞移植する/移植Doctors transplanted the cells into the brain. trans-(移す)+plant(植える)。transplant A into B「AをBに移植する」。
  • regenerative medicineC1
    名詞(句)再生医療Regenerative medicine aims to replace lost cells. regenerate(再生する)= re-+generate(生み出す)。
  • ethicalB2
    形容詞倫理的なUsing embryos raises ethical questions. 名詞 ethics(倫理)。raise ethical concerns「倫理的懸念を生む」は生命科学の長文で頻出。
  • placebo effectC1
    名詞(句)プラセボ(偽薬)効果Without a control group, we cannot rule out a placebo effect. placebo はラテン語で「私は喜ばせるだろう」。思い込みで症状が良くなる現象。

動画でもっと知る

皮膚や血液の細胞を、体のどんな細胞にもなれる状態に“巻き戻す”iPS細胞。発見から20年の2026年、ついにパーキンソン病と心不全の治療製品が日本で条件付き承認されたらしい。ただし効果の本格的な確認はこれから。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Takahashi & Yamanaka (2006) Induction of Pluripotent Stem Cells from Mouse Embryonic and Adult Fibroblast Cultures by Defined Factors, Celldoi.org
  2. Takahashi et al. (2007) Induction of Pluripotent Stem Cells from Adult Human Fibroblasts by Defined Factors, Celldoi.org
  3. Mandai et al. (2017) Autologous Induced Stem-Cell–Derived Retinal Cells for Macular Degeneration, New England Journal of Medicinedoi.org
  4. Sawamoto et al. (2025) Phase I/II trial of iPS-cell-derived dopaminergic cells for Parkinson's disease, Naturedoi.org
  5. 京都大学 iPS細胞研究所 CiRA: iPS細胞の基本特許の存続期間延長が決定(2026)cira.kyoto-u.ac.jp