牛を育てずに肉を「育てる」培養肉、販売OKの国はもうある。なのに食卓に並ばない理由

読む前に予想してみよう!
培養肉の販売を認めた国は、まだ世界に1つもない
2020年にシンガポールが世界で初めて認め、2023年には米国でも認められた。
- 対象
- 培養肉の生産技術・規制・環境影響
- 規模
- 技術経済分析・ライフサイクル評価・消費者調査
- 研究の種類
- レビュー・モデル試算
- 確かさ
- ★★★☆☆
動物の細胞を増やして作る培養肉は、シンガポールや米国で販売が認められた。ただ値段・量産・食感の壁が高く、ふつうの食卓に並ぶにはまだ時間がかかりそう。
ひとことで言うと培養肉は「牛を育てず、細胞を育てて」作るお肉!
牛も豚も鶏も、1頭も育てずに「お肉」を作る。
そんなSFのような話が、一部の国ではすでに現実になっています。動物から取った細胞を、タンクの中で増やして作るお肉――それが培養肉です。
「じゃあ、いつ近所のスーパーで買えるの?」と思いますよね。実はそこには、かなり手ごわい壁がいくつもあるのです。
01培養肉は「細胞の畑」で育てる
作り方をざっくり説明すると、こうなります。
- 動物から、ほんの少しだけ細胞を取る(針で取れるくらいの量)
- 栄養たっぷりの液体(培養液)の中で、細胞を増やす
- 増えた細胞を集めて、ミンチやナゲットのような形にする
牛を育てるには、エサや水、広い土地、そして長い時間が必要です。培養肉は、お肉として食べる部分の細胞だけを育てるので、うまくいけば土地や水を大きく減らせるのでは、と期待されています。

02もう「売っていい」国がある
2020年、シンガポールが世界で初めて培養肉(鶏肉)の販売を認めました。2023年には米国でも、培養した鶏肉の販売が認められています。その後もイスラエル(2024年、牛の培養肉)などで認可が続いていますが、執筆時点でも販売はレストランなどごく限られた場所・量にとどまっています。
一方で、イタリアや米国の一部の州のように、培養肉の生産や販売を法律で禁止する動きも出てきました。伝統的な畜産を守りたい、安全性が心配、といった理由からです。
03スーパーに並ばない3つの壁
壁1:培養液が高い
細胞を増やす培養液には、成長を促すタンパク質などが入っていて、これがとても高価です。2021年に化学工学の専門家 Humbird が発表したコスト分析では、培養液や無菌設備のコストを考えると、今の延長線上ではふつうの肉と勝負できる値段にするのは難しいと結論づけられ、大きな議論を呼びました。
壁2:大きなタンクで育てるのが難しい
実験室の小さな容器と、工場の巨大なタンクでは話が別。細胞は傷つきやすく、酸素や栄養をまんべんなく行き渡らせながら、雑菌が入らないよう管理し続けなければなりません。
壁3:「ステーキ」が作れない
いま実用化されているのは、主にミンチやナゲットのような形。ステーキには筋肉の繊維だけでなく、脂肪や血管が複雑に組み合わさった構造があります。細胞を立体的に並べる足場をどう作るかが研究されています。
たとえるなら、ミンチは「レンガをバラバラに積んだ山」、ステーキは「設計図どおりに組み上げたレンガの家」。細胞を増やすだけでなく、どう並べるかまで考えなければならないのです。そのため、植物由来の素材で作ったスポンジ状の足場に細胞を育てたり、3Dプリンターで形を整えたりする方法が試されています。培養肉と植物由来の原料を混ぜて、食感や値段のバランスをとる商品づくりも考えられています。
04まとめ
培養肉は、販売を認める国が出てきた「実現した未来」。でも、値段・量産・食感という3つの壁があり、毎日の食卓に並ぶにはまだ時間がかかりそうです。
もし同じ値段で売られていたら、あなたは培養肉のハンバーグを選びますか? その答えこそが、この技術の未来を決めるのかもしれません。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerCultured meat is produced by taking a small number of cells from an animal and growing them in a…
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Cultured meat is meat made from animal cells, not from whole animals. Scientists take a few cells and grow them in a tank with a special liquid. In 2020, Singapore became the first country to allow people to sell it. The United States allowed it in 2023.
But you cannot find it in most stores yet. The liquid is very expensive, and making large amounts is difficult.
67 words ・ CEFR A2
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培養肉は、動物を丸ごと育てるのではなく、動物の細胞から作られる肉です。科学者たちは少しの細胞を取り、特別な液体の入ったタンクで育てます。2020年、シンガポールはそれの販売を認めた最初の国になりました。アメリカは2023年に認めました。
しかし、ほとんどの店ではまだ見つけることができません。液体はとても高価で、大量に作るのは難しいのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
細胞から育てる培養肉と、まだ普及していない理由が主題なので D。
Q2. Which country first allowed cultured meat to be sold?
In 2020, Singapore became the first country to allow people to sell it. とあるので A。
Q3. In this passage, "expensive" means ...
expensive は「高価な」。お金がたくさんかかる、という意味なので C。
Cultured meat is produced by taking a small number of cells from an animal and growing them in a nutrient-rich liquid called a growth medium. Because only the cells we eat are grown, some people hope it could greatly reduce the land and water used by farming. In 2013, Professor Mark Post presented the world's first hamburger made from cultured beef cells. Singapore approved the sale of cultured chicken in 2020, and the United States followed in 2023.
However, it is still sold only in very limited places. There are three main problems. The growth medium is expensive, growing cells in huge tanks is difficult, and it is hard to create complex structures like steak. Some places, such as Italy, have even banned it.
124 words ・ CEFR B1
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培養肉は、動物から少数の細胞を取り、培養液と呼ばれる栄養豊富な液体の中で育てることで作られます。私たちが食べる部分の細胞だけを育てるので、畜産で使われる土地や水を大きく減らせるかもしれないと期待する人もいます。2013年、マーク・ポスト教授は、培養した牛の細胞で作った世界初のハンバーガーを披露しました。シンガポールは2020年に培養鶏肉の販売を承認し、米国も2023年に続きました。
しかし、今もごく限られた場所でしか売られていません。主な問題は3つあります。培養液が高価であること、巨大なタンクで細胞を育てるのが難しいこと、そしてステーキのような複雑な構造を作るのが難しいことです。イタリアのように、禁止した場所さえあります。
4択リーディングクイズ
Q1. What is a growth medium?
a nutrient-rich liquid called a growth medium とあるので B。
Q2. Which is NOT one of the three main problems mentioned?
3つの問題は培養液の値段・大きなタンク・ステーキ構造。味がプラスチックのよう、とは書かれていないので D。
Q3. What can we infer about cultured meat from the passage?
販売を認めた国はあるが、ごく限られた場所でしか売られていないとあるので A。
Cultivated meat is grown from a small sample of animal cells multiplied in bioreactors, rather than from slaughtered livestock. Advocates argue that by growing only edible tissue, it could reduce the land, water and time required by conventional farming. Since Mark Post unveiled the first cultured beef burger in 2013, regulators in Singapore (2020), the United States (2023) and Israel (2024) have approved certain products, yet sales remain confined to a few restaurants and small volumes.
Meanwhile, Italy and some US states have moved to ban the products. Three obstacles stand out. First, growth media containing costly proteins drive up prices; a 2021 techno-economic analysis by Humbird concluded that, on current trends, price parity with ordinary meat would be very hard to achieve.
Second, scaling up is technically demanding, as fragile cells must receive oxygen and nutrients evenly in sterile conditions. Third, structured products like steak require scaffolds to arrange muscle, fat and blood vessels. Even the environmental case is not clear-cut. One assessment found lower emissions than beef if renewable energy is used, while another suggested that reliance on fossil-fuel electricity could make it worse in the long run.
190 words ・ CEFR B2
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培養肉は、屠畜された家畜からではなく、バイオリアクターで増やされた動物細胞の少量のサンプルから育てられます。推進派は、食べられる組織だけを育てることで、従来の畜産に必要な土地、水、時間を減らせると主張しています。2013年にマーク・ポストが最初の培養牛肉バーガーを披露して以来、シンガポール(2020年)、米国(2023年)、イスラエル(2024年)の規制当局が特定の製品を承認しましたが、販売は少数のレストランと少量に限られたままです。
一方、イタリアや米国の一部の州は、これらの製品を禁止する動きを見せています。3つの障害が際立っています。第一に、高価なタンパク質を含む培養液が価格を押し上げます。Humbirdによる2021年の技術経済分析は、現在の延長線上では、普通の肉と同じ価格にするのは非常に難しいと結論づけました。
第二に、壊れやすい細胞に無菌状態で酸素と栄養を均等に届けなければならないため、規模の拡大は技術的に困難です。第三に、ステーキのような構造のある製品には、筋肉、脂肪、血管を配置するための足場が必要です。環境面の利点でさえ、はっきりとは言い切れません。ある評価では再生可能エネルギーを使えば牛肉より排出量が少ないとされた一方、別の評価は化石燃料の電気に頼ると長期的にはかえって悪くなりうると示唆しました。
4択リーディングクイズ
Q1. What does the passage say about sales of cultivated meat?
sales remain confined to a few restaurants and small volumes とあるので B。
Q2. What did Humbird's 2021 analysis conclude?
on current trends, price parity with ordinary meat would be very hard to achieve とあるので C。
Q3. According to the passage, the environmental benefits of cultivated meat ...
再生可能エネルギーなら排出が少ないが、化石燃料の電気だと悪化しうる、と2つの評価を挙げているので D。
重要単語
- cultivated meatC1名詞(句)培養肉Cultivated meat is grown from animal cells.
cultivate は「耕す・育てる」。cultured meat, lab-grown meat とも言う。culture(文化)も「耕す」が語源。 - growth mediumC1名詞(句)培養液The growth medium is a very expensive part.
medium は「媒体・中間」。複数形は media(マスメディアの media と同じ形)。 - bioreactorC1名詞培養タンク(生物反応器)Cells multiply inside a large bioreactor.
bio-(生物)+reactor(反応器)。nuclear reactor(原子炉)の reactor と同じ。 - scaffoldC1名詞足場A plant-based scaffold helps cells form a steak-like shape.
建設現場の足場が原義。細胞を立体的に並べる土台の意味で再生医療・培養肉に共通。 - livestockB2名詞家畜Raising livestock needs a lot of land and water.
live(生きている)+stock(在庫・財産)。集合名詞なので通常 a や -s を付けない。 - banB1動詞・名詞禁止する/禁止Some places have banned cultivated meat.
ban A from doing「Aが~するのを禁じる」。新聞見出しで好まれる短い語。 - emissionB2名詞排出(量)Beef production causes large greenhouse gas emissions.
動詞 emit(排出する)。carbon emissions「炭素排出」は環境系長文の最頻出語。
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牛を1頭も育てずに「細胞だけ」を増やして作る培養肉、実はシンガポールやアメリカではもう販売OKになってるらしい。それでもスーパーに並ばない大きな理由の一つは“培養液のお値段”だった。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- Post (2012) Cultured meat from stem cells: Challenges and prospects, Meat Sciencedoi.org
- Humbird (2021) Scale-up economics for cultured meat, Biotechnology and Bioengineeringdoi.org
- Lynch & Pierrehumbert (2019) Climate Impacts of Cultured Meat and Beef Cattle, Frontiers in Sustainable Food Systemsdoi.org
- Sinke et al. (2023) Ex-ante life cycle assessment of commercial-scale cultivated meat production in 2030, The International Journal of Life Cycle Assessmentdoi.org
- Bryant & Barnett (2018) Consumer acceptance of cultured meat: A systematic review, Meat Sciencedoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。







