原田先生のとっておきの話

【ToDoリストは意味ないは本当か?】イーロン・マスクの「5分ルール」と脳が集中する本当の理由

PRODUCTIVITY × BRAIN SCIENCE

「ToDoリストは意味ない」は本当か?
165万回再生の仕事術を科学で検証

― イーロン・マスクの「5分ルール」と脳が集中する本当の理由 ―

💬 こんなポスト、見かけませんでしたか?

「ToDoリストなんて意味ないぞ。イーロン・マスクは”タイムボクシング”で時間を箱にしてる」――2026年2月、このポストがX(旧Twitter)で165万回以上閲覧されました。でも、これって本当に効くの? 脳科学的に正しいの? 英語教師の視点で徹底検証します。

月曜の夜、資料が終わらない。未読メールは27件。チャットは通知だらけ。

こんな状況に心当たりがある人は多いはずです。そこに先輩が一言――「タイムボクシングや」。カレンダーを25分刻みで塗りつぶし、「時間が来たら終わってなくても止めろ」と。

このポストに共感が殺到した理由は明らかです。「仕事が終わらない」と感じている日本人が、それだけ多いということ。しかし共感と科学は別物。今回は、この「タイムボクシング」をファクトチェックしてみましょう。

⏱ そもそも「タイムボクシング」って何?

タイムボクシング(Time Boxing)とは、「やることリスト」ではなく「カレンダーの箱(Box)」で1日を管理する時間管理術です。

やり方は極めてシンプル。タスクに「何をするか」だけでなく「何時から何時までにやるか」を割り当て、カレンダーに埋め込む。そして、時間が来たら終わっていなくても強制的に次へ進む

📋 ToDoリスト:「資料を作る」「メールを返す」「企画を整理する」

📅 タイムボクシング:「9:00-9:25 資料」「9:30-9:50 メール」「10:00-10:25 企画」

違いは一目瞭然。ToDoリストには「いつやるか」と「どれくらいかけるか」の情報がない。だからいつまでも手をつけられず、あるいは1つのタスクに際限なく時間を使ってしまう。タイムボクシングは、その両方を解決するシンプルな仕組みです。

🧠 なぜ「箱に入れる」と集中できるのか ― 3つの科学的根拠

バズったポストの「箱に入れると決めるしかなくなる」は感覚的には正しい。でも、科学的にはなぜ効くのか? 3つの根拠を見ていきましょう。

根拠① パーキンソンの法則

1955年にイギリスの歴史学者C.N.パーキンソンが『エコノミスト』誌で発表した法則。「仕事は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する」。3時間あれば3時間かかり、45分と決めれば45分で終わる。タイムボクシングは、この膨張を「箱」で強制的に止めるわけです。

根拠② 決断疲れ(Decision Fatigue)の防止

人間は「次に何をしようかな?」と考えるたびに、脳のエネルギーを消費します。カレンダーにすべてが埋まっていれば、「考える」必要がなくなり、淡々と実行するだけ。スタンフォード大学のfMRI研究でも、明確な時間制限があると脳の前頭前野(集中を司る部位)がより効率的に働くことが示されています。

根拠③ 「ユーストレス」の発動

適度な時間的プレッシャーは、有害なストレス(ディストレス)ではなく、パフォーマンスを引き上げる「良いストレス」(ユーストレス)を生みます。2022年の『Scientific Reports』の研究では、適度な時間圧力のもとで人は意思決定を簡略化し、より効率的に行動することが確認されました。

🔍 ポストの「ファクトチェック」― どこまで正確?

では、バズったポストの内容を1つずつ検証してみましょう。

ポストの主張 判定 検証結果
「ToDoリストは意味ない」 🔺 やや極端。HBRの100種の生産性ハック調査でタイムボクシングが1位に輝いたのは事実だが、ToDoリストが「無意味」なわけではなく、「時間の概念がない」という欠陥がある、が正確
「イーロン・マスクは5分単位で区切る」 多数のメディアが報じている。ただし「5分単位で計画し、実際のタスクは複数の5分ブロックにまたがる」が正確。5分で1タスク完了ではない
「25分やって時間が来たら止める」 これはポモドーロ・テクニック(25分作業+5分休憩)とほぼ同じ。1980年代にイタリアのシリロ氏が考案。脳科学的にも20〜30分が集中の持続限界とされ、合理的
「完璧を目指さなくなる」 時間制約があると「完璧よりまず完了」の意思決定が促される。アジャイル開発のタイムボクシングでも同じ原理が活用されている
「始めるまでの無駄な時間が消える」 「次に何をするか」を考える時間(決断疲れ)がゼロに。心理学でも、予定がカレンダーにあると行動開始のハードルが下がることが確認されている

総合判定:ポストの主張はおおむね科学的根拠あり。ただし「ToDoリストが無意味」はやや誇張で、「ToDoリストをカレンダーに移行させるのがタイムボクシング」というのが、より正確な理解です。

📊 HBR「生産性ハック100選」で堂々1位

タイムボクシングが単なるSNSのバズワードではない証拠があります。2018年、ハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)にMarc Zao-Sanders氏が寄稿した論文で、100種類の生産性向上テクニックを比較した結果、タイムボクシングが「最も有用」と評価されたのです。

Zao-Sanders氏自身もToDoリストからタイムボクシングに切り替えたところ、生産性が少なくとも2倍になったと報告しています。彼が挙げたToDoリストの5つの欠陥は、まさにバズったポストの「先輩」が指摘した問題と重なります。

📋 ToDoリストの5つの欠陥(HBR論文より)

選択肢が多すぎて圧倒される

簡単なタスクに流れがち

「重要だが緊急でない」タスクが後回しに

「いつやるか」の情報がない

自分を律するコミットメント装置がない

タイムボクシングはこの5つすべてを解決します。カレンダーという「外部の仕組み」に委ねることで、意志力に頼らず行動できる――これが最大の強みです。

🍅 「25分」の魔法 ― ポモドーロ・テクニックとの関係

バズったポストで先輩が設定した「9:00〜9:25」。この25分という数字には、実は深い裏付けがあります。

1980年代、イタリアのフランチェスコ・シリロという大学生が、自分の集中力の続かなさに悩んでいました。彼はトマト型のキッチンタイマー(イタリア語で pomodoro=ポモドーロ)を使い、何分なら集中が持つかを試行錯誤。最終的にたどり着いた答えが「25分作業+5分休憩」でした。

🧠 脳科学が裏付ける「25分」の合理性

集中の限界

スタンフォード大の研究では、人間の集中力は約20〜30分で低下開始。25分はその限界の「手前」で区切る絶妙なタイミング

脳の2つのモード

脳には「集中モード」と「拡散モード」がある。25分の集中で理解を深め、5分の休憩で新しいアイデアや神経接合が生まれる(Utami, 2022)

自分で休憩を決めるとダメ

2023年Biwerの研究では、ポモドーロ組 vs 自由休憩組を比較。自由休憩組は作業を引っ張りすぎて疲労増大。タイマー強制が有効

つまり、ポストの先輩の「キリよく終わる日は一生来ん」「時間が来たら止めろ」は、脳科学的にも正しいアドバイスだったのです。人間は放っておくと作業を続けたがり、その後に長く休みたがる。この本能に逆らうためにこそ、タイマーの「強制停止」が必要なのです。

⚠️ 知っておくべき「注意点」と「落とし穴」

ここまで良い話ばかりしてきましたが、タイムボクシングには注意点もあります。バズったポストが触れていない「裏側」を正直にお伝えします。

⚡ 注意①:慢性的な時間圧力は逆効果

適度な時間制限は「ユーストレス」を生むが、毎日毎時間カツカツにすると慢性ストレス(ディストレス)に転じる。『Frontiers in Psychology』(2019年)では、慢性的時間圧力の有害性が指摘されている

⚡ 注意②:最初から5分単位は無理

マスク氏の「5分単位」は複数の巨大企業を率いる超人の話。一般のビジネスパーソンは30分〜1時間単位から始めるのが現実的。無理をすると続かず、挫折して逆効果に

⚡ 注意③:割り込みの多い職種には不向き

電話対応、来客対応、チームでのリアルタイム作業が多い人は、25分間を完全にブロックすること自体が難しい。「割り込み対応タイム」を別枠で確保する工夫が必要

🛠 明日から使える「現実的な」始め方

マスク氏のように5分刻みにする必要はありません。まずはこの3ステップから。

Step 1:Googleカレンダーを開く

まず、明日の予定をまっさらなカレンダーに表示する。会議など動かせない予定を先に入れる。

Step 2:空いている「箱」にタスクを埋める

「メール返信」「資料作成」「休憩」をすべてカレンダーに配置。空白の時間をゼロにするのがポイント。最初は30分単位でOK。

Step 3:制限時間を「死守」する

これがゲームのルール。終わっていなくても、時間が来たら切り上げる。終わらなかった分は翌日のカレンダーに新しい箱を作って入れ直す。

1週間続けてみると、バズったポストの投稿者と同じ変化を実感するはずです。「始めるまでの無駄な時間が消える」「完璧を目指して悩まない」「面白いように終わる」。それは魔法ではなく、脳の仕組みに合った働き方をしているだけなのです。

📖 English Corner ― 仕事で使える「時間管理」の英語表現

英語教師として、せっかくなので関連する英語表現も紹介します。どれもビジネスの現場で頻出する表現です。

英語表現 意味 例文
time boxing タスクに固定時間を割り当てる手法 Let’s timebox this discussion to 15 minutes.
Parkinson’s Law 仕事は与えられた時間を満たすまで膨張する Parkinson’s Law says work expands to fill available time.
decision fatigue 決断を繰り返して精神的に消耗すること I schedule my day to avoid decision fatigue.
deep work 中断のない集中的な知的作業 I block two hours every morning for deep work.
eustress パフォーマンスを高める「良いストレス」 A tight deadline creates eustress that boosts focus.

💡 “Let’s timebox this.”(これ、時間を決めてやりましょう)は、英語の会議で非常によく使われるフレーズ。覚えておくと、外資系やグローバル会議で即戦力になります。

✨ まとめ ― 「終わらない」の正体は、能力ではなく仕組み

バズったポストの最後の一文が、すべてを言い当てています。

「仕事が終わらなかった理由は、能力じゃなかった。
終わりが決まっていなかっただけ。」

これはまさに、パーキンソンの法則の日本語訳のようなものです。そして科学はこの直感を裏付けています。

タイムボクシングはHBR「生産性ハック100選」で第1位

パーキンソンの法則・決断疲れの防止・ユーストレスの3つの科学的根拠あり

25分は脳の集中限界(20〜30分)の手前で区切る合理的な設定

ただし慢性的な時間圧力は逆効果。まずは30分単位から

ToDoリストが「無意味」なのではなく、カレンダーに移行させるのがコツ

明日の朝、Googleカレンダーを開いて、最初の30分の「箱」を1つ作ってみてください。たった1つの箱が、あなたの働き方を変えるかもしれません。

言葉を学ぶとは、世界の見方を変えること。仕事術だって、英語で学べばグローバルな武器になる――それが、原田先生のとっておきの話です。

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※記事内の研究情報は2026年2月時点のものです。参考文献:Parkinson, C.N. (1955) The Economist / Zao-Sanders, M. (2018) Harvard Business Review / Wu et al. (2022) Scientific Reports / Biwer et al. (2023) / Cirillo, F. “The Pomodoro Technique”

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