第12章|AIで英語12-1AI翻訳の時代に英語を学ぶ意味翻訳AIの「それっぽい間違い」に気づけるのは、英語ができる人だけ

AIに英語のニュース記事を要約させると、「新しい規則が来月から始まる」と出てきた。ところが元の記事を開くと、書いてあったのは「来月から始まる予定だが、まだ議会の承認待ち」。要約の文はなめらかで、どこにも怪しさはありません。なめらかだからこそ、このずれは要約だけを読んでいても気づけない。翻訳AIがここまで賢くなった今も、英語を学んだ人にだけ残る仕事があります。それは何でしょうか。
01翻訳は速い。でも確かめるのは人の仕事
機械翻訳と生成AIの精度は、この数年で大きく上がりました。旅行先のメニュー、海外ニュースの大意、メールの下書き。こうした場面では、翻訳AIは頼れる道具です。英語を勉強している人も、遠慮なく使ってかまいません。
それでも英語を学ぶ意味が消えないのは、翻訳の「最後の確認」が人にしかできないからです。AIの訳文は、たいていなめらかで自然に見えます。なめらかだからこそ、中に間違いがあっても気づきにくいのです。
たとえば日本語の「検討します」。文脈によって「前向きに考えます」にも、やんわり断る意味にもなります。英語にするなら、たとえば次の2つは全く違う文です。
- I'll think about it and get back to you by Friday.(考えて、金曜までにお返事します)
- Thank you, but I don't think we can do it this time.(ありがとうございます。でも今回は難しそうです)
どちらを選ぶかは、言いたいことを分かっている本人にしか決められません。翻訳AIが I will consider it. と訳したとき、それが相手にどう伝わるかを判断するにも、英語の感覚が要ります。
医療や裁判のように、間違いが重い結果につながる場面での機械翻訳を調べた文献レビュー(Vieira ほか, 2021)は、機械翻訳の強みと、とくに限界を、社会全体がもっと知る必要があると指摘しています。日常の英語でも構図は同じです。AIの訳を「そのまま信じる人」と「確かめられる人」では、結果が変わります。
02任せてよい場面、自分の英語が要る場面
翻訳AIに任せてよいかどうかは、「間違えたときの代償」と「速さが要るかどうか」で決まります。
| 場面 | 任せてよい度 | 理由 |
|---|---|---|
| 海外サイトの大意をつかむ | 高い | 細部が少しずれても困らない |
| 旅先で道や時間をたずねる | 中くらい | 短い文なら通じやすい。ただし聞き返されたら自分の耳が要る |
| 仕事のメール | 中〜低 | 丁寧さや遠回しさの調整が要る。送る前に必ず自分で読む |
| 契約・医療・お金の話 | 低い | 間違いの代償が大きい。専門家や公式の訳を使う |
| 雑談・友だちづくり | 低い | テンポと間(ま)が大事。画面を挟むとリズムが崩れる |
| 試験・面接 | 使えない | 本人の英語力そのものが問われる |
AIが強いのは「急がない」「多少の誤差が許される」場面です。反対に、その場のやりとり、人間関係、責任の重い文章では、自分の英語力が効いてきます。
見落とされがちなのが「聞く」場面です。相手の英語を翻訳アプリに通すと、どうしても数秒の遅れが出ます。会議や雑談で、その数秒は意外に大きい。相手の冗談に笑うタイミングや、話に入るタイミングは、自分の耳でしか合わせられません。
03AIを使う人ほど、英語力が増幅される
AIの時代に起きているのは、「英語が要らなくなる」ことより、「英語ができる人がAIでさらに速くなる」ことです。英語力があるとAIでできることが増える場面を、4つ挙げます。
- 出力を判断できる:AIが作った英文のどこが不自然か、どこが言い過ぎかに気づける。
- 一次情報に当たれる:AIの要約だけで終わらず、英語の元記事や公式ページを開いて確かめられる。
- 注文を細かくできる:「もう少しくだけて」「目上の人向けに丁寧に」のような調整を、出力を見ながらくり返せる。
- その場で話せる:AIで準備した内容を、会議や面接では自分の口で言える。
たとえば、AIに英語のニュース記事を要約させたとします。要約には「新しい規則が来月から始まる」と書いてあったのに、元の記事を開くと「来月から始まる予定だが、まだ議会の承認待ち」と書いてあった。こうした小さなずれは、要約だけを読んでいては気づけません。元の英文を読める人だけが、「予定」と「決定」の違いに気づけます。
英語で話す場面でも同じです。AIに作ってもらった自己紹介の原稿を読み上げるだけなら、英語力はあまり要りません。でも、相手から「それはどういう意味?」と聞き返された瞬間、原稿の外の英語が必要になります。
逆に英語が分からないと、AIの答えが正しいのか間違っているのかを確かめる手段がなくなります。AIは便利な分、「分からないまま使う」危うさも大きいのです。もっともらしい間違いの実例は、この章の最後の節「AIの落とし穴」で扱います。
ポイント:AIは英語力をゼロにする道具ではなく、今ある英語力を何倍にもする道具。土台の英語力があるほど、AIの価値も上がります。
04翻訳を「先生」に変える比べ読み
翻訳AIは、使う順番を変えると強力な教材になります。Lee(2020)の研究では、大学生がまず母語で書いた作文を自分の力で英語に訳し、そのあとで機械翻訳の訳と見比べて自分の英文を直しました。その結果、語彙・文法の誤りが減り、書き直しの質も上がりました。学生もこの使い方を前向きに受け止めていました。ただし研究者は、教師が機械翻訳の限界を伝え、使い方を導く必要があるとも書いています。
大事なのは順番です。先に自分で書く、あとで比べる。 最初から翻訳させると、頭を使う場面がなくなってしまいます。
やり方(1回15分):
- 言いたいことを日本語で2〜3文書く(例:「週末は雨だったので、家で映画を見ました。字幕なしで見たら、半分くらい分かりました」)。
- 辞書を見ずに、自分で英語にする。
- It rained on the weekend, so I watched a movie at home. I tried watching it without subtitles, and I understood about half of it.(週末は雨だったので家で映画を見ました。字幕なしで見たら、半分くらい分かりました)
- 同じ日本語を翻訳AIにかける。
- 自分の英文と見比べ、違うところに印をつける。
- 「なぜ違うのか」を考え、分からなければAIに理由を聞く。
- 気に入った表現を1つだけノートに書き、声に出して3回言う。
ここで「翻訳のほうが正しい」と決めつけないことも大事です。自分の文のほうが場面に合っていることもあります。違いを見つけて理由を考える。その一手間が、訳を写すだけの使い方との差になります。
05AI時代に価値が上がる英語力
AIがあるからこそ価値が上がる英語力を、表にまとめます。
| 力 | 具体的には | 鍛え方 |
|---|---|---|
| 確かめる力 | AIの英文や要約の誤りに気づく | 英語の元記事を読む習慣、多読 |
| やりとりする力 | 相手の反応を見て言い直す、聞き返す | 音声での会話練習、オンライン英会話 |
| 選ぶ力 | 場面に合う丁寧さ・言い方を選ぶ | 同じ内容を2通りに言い分ける練習 |
| 自分の声で話す力 | 準備したことを人前で言える | 音読、スピーキングの練習 |
反対に、AIが一瞬でやってくれる作業もあります。単語の意味を調べる、定型文のひな形を出す、長い英文の大意をつかむ、などです。こうした作業はAIに手伝ってもらい、浮いた時間を「話す・聞く・確かめる」練習に回せばよいのです。
中学生・高校生の場合は、まず学校の英語をしっかり身につけることが、AIを使いこなす土台になります。また、AIサービスの多くには年齢条件があります。18歳未満は保護者の許可が必要なもの、18歳以上でないと使えないものもあります。使う前に、この章の各節で紹介する条件を保護者と一緒に確認してください。
AIの英語を「判断できる人」になるために学ぶ
今日からのやり方
- この節の表を見て、翻訳AIに任せる場面と自分で英語を使う場面を、自分用に書き分ける
- 1日1回、言いたいことを2〜3文、自分で英語にしてから翻訳AIの訳と見比べる
- 違いを見つけたら理由をAIに聞き、気に入った表現を1つだけノートに書いて3回言う
- AIの要約を読んだら、週に1回は英語の元記事も開いて中身を確かめる
レベル別:あなたならこうする
翻訳AIは「答え合わせ」専用にします。教科書の日本語訳から自分で英文を作り、AIの訳と比べて、単語の並び順の違いだけに注目しましょう。1回2文で十分です。
日記やメールを自分で書き、翻訳AIの訳と比べて「知らなかった言い方」を1日1つ集めます。Could you / Would you など、丁寧さの違いにも目を向けましょう。
AIの英訳や要約を「校正する側」に回ります。英語の元記事とAIの要約を並べ、抜けや言い過ぎを指摘する練習をすると、確かめる力がはっきり鍛えられます。
よくある失敗と対策
頭を使う場面がなくなり、英語力はほとんど残りません。先に自分で書き、あとで比べる順番にするだけで、同じ翻訳AIが教材に変わります。
AIの訳がいつも場面に合うとは限りません。違いを見つけたら理由を考え、辞書や別の例文でも確かめましょう。自分の文のほうが合っていることもあります。
AIの出力を確かめるには英語力が要ります。AIで浮いた時間を、話す・聞く練習に回すと考えると、AIと英語学習は対立しません。
1 MIN
今日言いたいことを2文、自分で英語にしてから翻訳AIと比べる
友だちに出したい、この節の3問
タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。
12-1翻訳AIで一番得をするのは、英語ができない人?
実は逆の面があります。訳文が正しいか、場面に合うかを判断できるのは、ある程度英語が分かる人です。医療や法律の場での機械翻訳を調べた文献レビューも、限界を知らずに使う危うさを指摘しています。
12-1機械翻訳を使うと、英作文の力は落ちる?
使い方しだいです。先に自分で英文を書き、あとで機械翻訳の訳と見比べて直す方法を試した研究では、語彙や文法の誤りが減り、書き直しの質も上がりました。最初から訳させるのではなく「比べる」のがポイントです。
12-1AIを使いこなす力と英語力は関係ある?
あります。AIの答えを英語の元の情報と照らし合わせる、出てきた英文の不自然さに気づく、といった作業には英語力が要ります。AIは下書きの時間を縮めますが、「これで正しい」と決める役は人に残ります。
PRACTICE KIT
この節の実践キット
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動画で学ぶ
もっと詳しく(コラム)
この節の根拠(研究・公式情報)
医療と法律の場での機械翻訳の使われ方を文献で検討。誤訳が重大なリスクになりうること、機械翻訳の強みと限界を社会がもっと知る必要があることを指摘した。
Vieira, L. N., O'Hagan, M., & O'Sullivan, C. (2021). Understanding the societal impacts of machine translation: A critical review of the literature on medical and legal use cases. Information, Communication & Society, 24(11), 1515–1532.出典を開く ↗大学生が自分で英訳した作文を、あとから機械翻訳の訳と見比べて直した。語彙・文法の誤りが減り、書き直しの質も上がった。教師が限界を伝えて導く必要があるとも述べている。
Lee, S.-M. (2020). The impact of using machine translation on EFL students' writing. Computer Assisted Language Learning, 33(3), 157–175.出典を開く ↗よくある質問
将来は翻訳イヤホンで十分になりませんか?
道案内や買い物のような短いやりとりは、かなり楽になるはずです。ただ、翻訳を挟むと数秒の遅れが出ますし、訳が場面に合っているかを判断するには英語の感覚が要ります。人との関係づくりや責任のある場面ほど、自分の英語が効きます。
子どもに翻訳アプリを使わせても大丈夫?
使う場面を決めておくのがおすすめです。宿題の答えを訳させるのではなく、「自分で書いてから比べる」「分からない単語を確かめる」に限りましょう。AIサービスの年齢条件は、利用規約で保護者と一緒に確認してください。
AIの英語はどこまで信用していい?
決まった割合はありません。短い日常表現は自然なことが多い一方、細かい言い回しや事実の説明では間違いが混ざることがあります。大事な文ほど、辞書や英語の元情報で確かめましょう。




