和文英訳で手が止まる本当の理由
和文英訳の問題を前にして固まってしまうとき、頭の中ではたいてい「この日本語の単語は英語で何て言うんだろう?」という辞書引きが起きています。たとえば次の文を見てください。
- 彼の話は説得力に欠ける。
- 最近、朝ごはんを抜きがちだ。
- 便利な世の中になったものだ。
「説得力に欠ける」「抜きがち」「〜になったものだ」。どれも日本語としては自然ですが、1語ずつ英語に置き換えようとすると、とたんに難しくなります。「説得力」って persuasiveness?「〜がち」は何て言う? と、存在するかもわからない「ぴったりの1語」を探し始めてしまうのです。
でも、英語が得意な人は、こういうときに辞書を引く前にもう一つ別の作業をしています。それが日本語を、英語にしやすい日本語に言い換える作業です。
- 彼の話は説得力に欠ける → 彼の話を信じるのは難しい → It is hard to believe what he says.
- 最近、朝ごはんを抜きがちだ → 最近、よく朝ごはんを食べない → These days, I often skip breakfast.
- 便利な世の中になったものだ → 私たちの生活はとても便利になった → Our lives have become very convenient.
どうでしょう。言い換えた日本語なら、中学英語でも十分に書けそうです。
ポイント:和文英訳は「翻訳」ではなく「伝言ゲーム」。元の日本語の意味を、自分が書ける英語まで運べればOKです。
ステップ1〜2:主語を決めて、骨組みを作る
ステップ1:「誰が(何が)」を決める
日本語は主語を省略することが多い言語です。「昨日は雨で出かけられなかった」には主語がありません。でも英語の文には基本的に主語が必要です。まず「この文の主語は誰(何)か」を決めましょう。
- 昨日は雨で出かけられなかった → 主語は「私」 → I couldn't go out yesterday because of the rain.
- この町は夜になると静かだ → 主語は「この町」 → This town becomes quiet at night.
主語が見つからないときは、別のものを主語にするのも手です。「雨のせいで出かけられなかった」は、「雨が私を家にいさせた」と考えれば The rain kept me at home yesterday. とも書けます。無生物主語は少し上級ですが、覚えておくと表現の幅が一気に広がります。
ステップ2:「誰が・どうする・何を」の骨組みを作る
主語が決まったら、次は動詞です。英語の文は「主語+動詞」が骨組みで、そこに目的語や飾りがくっつきます。長い日本語ほど、まず骨だけ取り出すのがコツです。
例:「駅前に新しくできたカフェで友だちと3時間もおしゃべりしてしまった」
- 骨:私は・おしゃべりした → I talked
- 誰と:友だちと → with my friend
- どこで:カフェで → at a cafe
- どんなカフェ:駅前に新しくできた → that recently opened near the station
- どれくらい:3時間も → for three hours
組み立てると、I talked with my friend for three hours at a cafe that recently opened near the station. となります。「〜してしまった」の気持ちは、ひとまず省いても意味は伝わります。余裕があれば I ended up talking... とすれば「つい〜してしまった」感が出せます。
ステップ3〜4:抽象語をほどき、日本語特有の表現を捨てる
ステップ3:抽象的な名詞を「文」にほどく
和文英訳で特に難しいのが、「〜性」「〜化」「〜感」のような抽象的な名詞です。こういう言葉は、動詞や形容詞を使った文にほどくと書きやすくなります。
- 少子化が進んでいる → 生まれる子どもの数が減っている → Fewer and fewer children are being born.
- 若者の読書離れ → 若い人が本を読まなくなっている → Young people are reading fewer books than before.
- 彼女の行動力には驚かされる → 彼女がすぐに行動することに驚く → I'm surprised at how quickly she takes action.
「少子化」を1語で言う英語を探すより、「何が起きているのか」を説明するほうがずっと確実です。
ステップ4:日本語特有の言い回しは「中身」だけ取り出す
「お世話になっております」「よろしくお願いします」「〜させていただきます」のような表現は、英語にそのままの対応がありません。こういうときは、その場面で本当に伝えたいことを考えます。
- 今後ともよろしくお願いします → これからも一緒に働けるのを楽しみにしている → I look forward to working with you.
- 明日お休みをいただきます → 明日は休みます → I will be off tomorrow.
- つまらないものですが → あなたのために小さな贈り物を用意した → I got you a little something.
ポイント:日本語のていねいさや謙遜は、英語では別の形で表します。直訳にこだわるほど不自然になります。
ステップ5:書いたら「英→和」で逆チェック
英文ができたら、最後に自分の英文を日本語に訳し直して、元の日本語と意味がずれていないか確かめます。言い換えを重ねると、途中で意味がすり替わることがあるからです。
例:「その映画は期待したほどではなかった」
- 書いた英文:The movie was not good.
- 逆訳:その映画はよくなかった。
- 元の文とのずれ:「期待したほどではない」は「悪い」とまでは言っていない。
そこで直します。The movie was not as good as I had expected. これなら「期待したほどよくはなかった」と元の意味に近づきます。
逆チェックでは、次の3点を見ると効率的です。
- 否定の強さ:「あまり〜ない」を not で強く言いすぎていないか
- 時制:「〜していた」「〜したことがある」を正しく表せているか
- 数:「本」「友だち」が1つなのか複数なのか決めたか
特に3は、日本語では意識しないのでミスが多い部分です。「友だちと遊んだ」なら、1人なら with a friend、何人かなら with my friends。どちらか決めないと英語になりません。
よくある失敗と、1週間の練習メニュー
よくある失敗
- 難しい単語を探して時間切れ:辞書に出てきた見慣れない単語は、使い方(前置詞や語法)を知らないとかえってミスのもとになります。自信のある単語で書くほうが安全です。
- 日本語の語順のまま並べる:「私は昨日図書館で友だちに会った」を I yesterday library friend met... と並べてしまうパターン。まず主語と動詞(I met)を先に置く習慣をつけましょう。
- 全部を訳そうとする:「〜のだ」「〜わけで」のような語尾は、意味にほとんど影響しないことも多いです。訳さなくていい部分を見極めるのも技術です。
1週間の練習メニュー(1日15〜20分)
- 月:短い日本語10文の「主語さがし」だけを練習(英訳はしない)
- 火:抽象名詞を含む文5つを、日本語で「文にほどく」練習
- 水:月・火の文を英訳。書けない語は言い換えで乗り切る
- 木:教科書や問題集の模範解答と比べ、違いをメモ
- 金:自分の英文を逆訳して、意味のずれを3点チェック
- 土:身の回りの日本語(広告、ニュースの見出しなど)を1つ選んで英訳に挑戦
- 日:1週間でよく使った「言い換えパターン」をノートにまとめる
和文英訳は、センスではなく手順です。最初は時間がかかっても、言い換えの型がたまってくると、驚くほど速く書けるようになります。



