多読とは?「精読」との違い
学校の英語の授業では、1つの英文をじっくり読み、知らない単語を辞書で調べ、文の構造を分析して、正確に和訳する――という読み方が中心です。これを「精読」と呼びます。精読は、文法や構文を正確に理解する力を育てる大切なトレーニングです。
一方の「多読」は、自分にとってやさしい英語の本を、辞書を使わずに、たくさん読む学習法です。1文1文を訳すのではなく、ストーリーを楽しみながらどんどん読み進めます。
言語習得の研究では、Stephen Krashenが提唱した「インプット仮説」がよく知られています。ざっくり言うと、「理解できる英語(comprehensible input)にたくさん触れることで、言語は身についていく」という考え方です。多読は、この「理解できるインプット」を大量に確保するのにぴったりの方法です。
また、語彙研究では、辞書なしで楽しく読むためには、文章中の単語のほとんど(研究によっては98%程度)を知っている必要があると言われています。つまり多読では、「ちょっと難しい本」ではなく、「スラスラ読めるやさしい本」を選ぶことが重要なのです。
ポイント:精読は「深く正確に」、多読は「広くたくさん」。どちらかではなく、両方あると英語力はバランスよく伸びます。
多読三原則:辞書は引かない・飛ばす・止める
日本で多読が広まるきっかけの一つになったのが、酒井邦秀氏らが提唱した「SSS英語学習法」です。そこで示されたのが、次の「多読三原則」です。
- 辞書は引かない
- わからないところは飛ばす
- つまらなくなったら止める
どれも、学校の勉強とは正反対に見えるかもしれません。一つずつ見ていきましょう。
1. 辞書は引かない
辞書を引くたびに読書は止まり、ストーリーの流れが途切れます。そもそも、辞書が必要になるような本は、多読には難しすぎるというサインです。わからない単語が多いと感じたら、もっとやさしい本に変えましょう。
2. わからないところは飛ばす
少しくらいわからない部分があっても、話の流れがつかめていればOKです。同じ単語に何度も出会ううちに、「たぶんこういう意味だな」と前後から推測できるようになることもあります。この「推測しながら読む力」こそ、試験の長文でも役立つ力です。
3. つまらなくなったら止める
つまらない本を無理に読み切る必要はありません。楽しくない読書は続きませんし、多読で一番大切なのは「続けること」です。途中でやめた本も、読んだ語数にしっかりカウントしましょう。
ポイント:三原則の目的は「楽に、楽しく、たくさん読む」こと。ラクをすることに罪悪感を持たなくて大丈夫です。
YL(読みやすさレベル)とGraded Readers
YL(読みやすさレベル)とは
多読で本を選ぶときの目安になるのが「YL(Yomiyasusa Level=読みやすさレベル)」です。日本の多読実践者の間で使われてきた指標で、0.0から9.9までの数字で、本の読みやすさを表します。数字が小さいほどやさしく、大きいほど難しくなります。
大まかなイメージは次のとおりです。
- YL0.0〜0.9:1ページに1〜数文程度の絵本。英語をほぼ忘れている人も安心
- YL1.0〜1.9:中学英語レベルで読める短い物語
- YL2.0〜3.9:少し長めの物語。中学〜高校英語レベル
- YL4.0以上:高校上級〜一般向けの本に近づくレベル
※YLは本ごとの目安で、同じシリーズでもばらつきがあります。数字にとらわれすぎず、「読んでみて楽かどうか」で判断しましょう。
Graded Readers(段階別読み物)
多読の強い味方が「Graded Readers(グレイデッド・リーダーズ)」です。英語学習者向けに、使う単語数や文法をレベルごとに制限して書かれた(または書き直された)本のシリーズです。Oxford Bookworms、Penguin Readers、Cambridge English Readersなど、出版社ごとにシリーズがあります。
有名な小説を学習者向けにやさしく書き直したものも多く、「知っている話を英語で読む」楽しさを味わえます。
Leveled Readers・絵本
英語圏の子ども向けに作られた段階別の絵本シリーズ(Leveled Readers)も人気です。絵がたっぷりあるので、単語がわからなくても話が追えます。「最初の1冊」におすすめです。
最初の1冊の選び方
多読で最も多い失敗は、最初に難しすぎる本を選んでしまうことです。「高校生だから高校レベルの本を」と考えると、たいていつまずきます。自分の英語力より「2段階くらい下」から始めるのがコツです。
本選びのチェックリスト
- 1ページに知らない単語が1〜2個以下
- 辞書なしで、話の流れが8割以上わかる
- 1分あたりに読める語数が、だいたい100語以上のペースで進む
- 読んでいて「続きが気になる」
立ち読みテスト
本を選ぶときは、最初の1〜2ページを読んでみましょう。途中で何度も止まってしまうなら、それは今のあなたにとって「精読向けの本」です。いったん棚に戻して、もっとやさしい本を探しましょう。
本を手に入れる方法
- 学校や地域の図書館の多読コーナーを探す(多読用の本をそろえている図書館も増えています)
- 出版社のGraded Readersを1冊だけ買ってみる
- 電子書籍や学習者向けの多読サービスを利用する
最初から何十冊もそろえる必要はありません。まずは1冊、読み切る体験をしてみてください。「英語の本を1冊読み切った!」という達成感は、想像以上に大きな自信になります。
100万語へのロードマップ
多読の世界では、「100万語」がひとつの目標としてよく語られます。SSS英語学習法でも、100万語を読むことが一つの目安として掲げられてきました。「100万語なんて無理!」と思うかもしれませんが、最初はとても短い本から始めるので、少しずつ積み上がっていきます。
語数の数え方
多くのGraded Readersには、表紙や裏表紙、出版社のサイトに総語数(Word Count)が書かれています。読み終えたら、記録ノートやアプリに「日付・タイトル・YL・語数・ひとこと感想」を書いていきましょう。
段階別の目安
- 〜1万語:YL0〜1の絵本・超やさしい本をたくさん。「英語の本って読めるんだ」を体験
- 〜10万語:YL1〜2のGraded Readersへ。1冊数千語の本を読み切れるように
- 〜30万語:YL2〜3。好きなジャンルが見つかってくるころ
- 〜100万語:YL3〜4へ少しずつ。やさしめの一般向けの本にも挑戦
どれくらいの期間がかかる?
1日15分、1分100語のペースで読むと、1日約1,500語。単純計算で1か月に約4.5万語、1年で50万語ほどになります。1日30分なら、1年で100万語が見えてきます。
もちろん、ペースは人それぞれです。大事なのは、語数を競うことではなく、「読むことが習慣になる」ことです。
ポイント:語数の記録は「ごほうびシール」のようなもの。増えていく数字を見るだけで、次の1冊に手がのびます。
多読のよくある悩みQ&A
やさしすぎる本ばかりで、意味があるの?
あります。やさしい本をスラスラ読むことで、英語を日本語に訳さずに理解する回路が育ちます。また、基本的な単語や表現が、いろいろな文脈で何度も出てくるので、「知っている」から「使いこなせる」レベルに近づいていきます。
受験や英検の勉強と両立できる?
できます。むしろ、長文を速く読む力や、わからない単語を推測する力は、試験でそのまま役立ちます。ただし、多読だけで試験対策が完結するわけではありません。単語・文法の学習や過去問演習と組み合わせるのがおすすめです。平日は15分の多読、週末に試験対策、といったバランスが取りやすいでしょう。
途中で伸び悩んだら?
レベルを上げるのが早すぎたのかもしれません。一度YLを下げて、楽に読める本をたくさん読む「ぶ厚い土台づくり」に戻ってみましょう。一度戻ることで、かえって先に進めることがよくあります。
音声つきの本も使うべき?
音声つきのGraded Readersも多くあります。音声を聞きながら文字を目で追う「聞き読み」は、リスニング力やリズム感を育てるのにも役立ちます。読むだけの日と、聞き読みの日を組み合わせると変化がついて楽しめます。
知らない単語がどうしても気になる!
真面目な人ほど、飛ばした単語が気になってしまうものです。そんなときは、読み終わったあとに「どうしても気になる単語」を3つだけ調べてOK、という自分ルールを作ってみましょう。読んでいる途中は止まらず、あとでまとめて確認する。これなら、読書の流れを切らずにすみます。
多読を続けるための小さな工夫
- 本はカバンや枕元など、すぐ手に取れる場所に置く
- 「1日1冊」ではなく「1日10分」のように時間で目標を決める
- 読んだ本の表紙を写真に撮って並べ、「本棚」を作る
- 友達と読んだ本を紹介し合う
多読は、読んだ本が増えるほど楽しくなる勉強法です。記録が目に見えると、次の1冊に手がのびやすくなります。
まとめ:英語の本を「楽しむ」ことから始めよう
多読は、「がんばる勉強」というより「楽しむ習慣」に近い学習法です。
- 辞書は引かない
- わからないところは飛ばす
- つまらなくなったら止める
この三原則を守って、自分にとってやさしい本を、たくさん読んでいきましょう。YLを目安に、Graded Readersや絵本からスタートすれば、誰でも今日から始められます。
100万語は遠い目標に見えますが、最初の一歩はたった数百語の絵本です。まずは1冊、読み切るところから。英語の本のページをめくる楽しさを、ぜひ味わってください。



