忘れるのは当たり前。だから「仕組み」で勝つ
まず知っておいてほしいのは、「一度で覚えられないのは普通」ということです。
19世紀の心理学者エビングハウスの実験以来、覚えた情報は時間とともに急速に忘れられていくことが知られています。英単語も例外ではありません。単語帳を1周しただけで全部覚えられる人は、ほとんどいないのです。
言語習得の研究でも、ある単語をしっかり身につけるには、何度もくり返し出会う必要があると考えられています。必要な回数は研究によって幅がありますが、数回ではなく、十回前後かそれ以上の出会いが必要だとする見方もあります。
つまり、英単語の勉強で大切なのは、
- 一度で覚えようとしないこと
- 何度も出会う「仕組み」を作ること
- 出会うたびに、少しずつ記憶を深めていくこと
です。この記事では、そのための方法を「記憶の原理」「英語ならではのコツ」「道具」「毎日のルーティン」の順に紹介していきます。
ポイント:「覚えられない自分」を責める必要はありません。忘れる前提で、何度も会える仕組みを作りましょう。
土台になる2つの原理:間隔反復と想起練習
単語暗記の土台になるのが、学習科学でよく確かめられてきた2つの原理です。
間隔反復:日をあけて復習する
同じ回数だけ復習するなら、一度にまとめて見るより、日をあけて分けたほうが記憶は長持ちします(間隔効果)。単語帳を「1日で100個×3周」するより、「毎日少しずつ、何日にも分けて」見るほうが効果的です。
目安としては、覚えた翌日、数日後、1週間後、2〜3週間後…と、だんだん間隔をのばしていきます。
想起練習:見る前に思い出す
単語帳の英語と日本語を同時に眺めるだけでは、「見たことがある」という感覚は残っても、自分で思い出す力はつきにくいとされています。答えを隠して、自分の頭から思い出そうとすることが記憶を強くします(テスト効果)。
単語帳での実践法
- 左の英語を見て、右の日本語を手で隠して答える
- 慣れてきたら逆に、日本語を見て英語を言う・書く
- 答えられなかった単語には印をつけ、次の日に優先的に復習する
- 3回連続で答えられた単語は、復習の間隔をのばす
この2つの原理は、どんな単語帳・アプリを使う場合でも共通する「土台」です。この上に、英語ならではの覚え方を重ねていきましょう。
語源で覚える:接頭辞・語根・接尾辞
英単語の多くは、いくつかのパーツが組み合わさってできています。パーツの意味を知っていると、初めて見る単語の意味も推測しやすくなり、覚えるときの手がかりが増えます。
覚えておくと便利な接頭辞の例
- pre-(前に):preview(下見する)、predict(予測する)、prepare(準備する)
- re-(再び・元に):review(見直す)、return(戻る)、recover(回復する)
- inter-(間に):international(国際的な)、interview(面接)、interact(交流する)
- sub-(下に):subway(地下鉄)、submarine(潜水艦)、subtitle(字幕)
- un- / in- / dis-(否定):unhappy、impossible、disagree
語根の例
- spect(見る):inspect(検査する)、respect(尊敬する)、spectator(観客)
- port(運ぶ):export(輸出する)、import(輸入する)、transport(輸送する)
- dict(言う):predict(予言する)、dictionary(辞書)、contradict(矛盾する)
語源学習の注意点
語源はとても便利ですが、すべての単語が語源どおりの意味になるわけではありません。また、パーツを分解するのに時間をかけすぎると、かえって効率が落ちます。「覚えにくい単語を覚える手がかり」として、ほどほどに使うのがおすすめです。
ポイント:pre-、re-、inter- など、よく出るパーツを10個知っているだけで、単語帳の見え方が変わります。
コロケーションと例文で「使える単語」に
単語を「英語=日本語」の1対1で覚えるだけでは、実際に使える力にはなりにくいものです。そこで意識したいのがコロケーション(よくいっしょに使われる単語の組み合わせ)です。
日本語の感覚とズレるコロケーション
- 「決断する」→ make a decision(do a decision とは言わない)
- 「強いコーヒー」→ strong coffee
- 「大雨」→ heavy rain(big rain とはふつう言わない)
- 「薬を飲む」→ take medicine(drink medicine ではない)
- 「間違いをする」→ make a mistake
このように、単語は「組み合わせ」で覚えておくと、英作文やスピーキングでそのまま使えます。しかも、2語以上のまとまりで覚えたほうが、場面が思い浮かびやすく記憶にも残りやすくなります。
自分の生活に引き寄せた例文を作る
新しい単語を覚えたら、自分に関係のある短い例文を1つ作ってみましょう。
- postpone(延期する)→ We postponed our trip because of the typhoon.
- improve(改善する)→ I want to improve my listening skills this year.
- avoid(避ける)→ I try to avoid using my phone before bed.
(例文は編集部による作例です)自分で作った文は、単語帳の例文よりもずっと記憶に残りやすいものです。完璧な英文でなくてもかまいません。「使おうとすること」自体が、単語を深く処理するきっかけになります。
単語アプリと単語帳の上手な使い分け
単語アプリの強み
Ankiのような間隔反復型のアプリは、覚えている度合いに合わせて、次に復習するタイミングを自動で計算してくれます。「どの単語をいつ復習すべきか」を考えなくていいので、仕組みづくりには最適です。Quizletのように、カードの作成やゲーム感覚の練習がしやすいアプリもあります。
アプリを使うときのコツは次のとおりです。
- 毎日の復習を最優先に:新しいカードを増やしすぎると、復習がたまって挫折します。1日の新規カードは10〜20枚程度から。
- カードに例文やコロケーションを入れる:表に英単語、裏に意味だけでなく、よく使う組み合わせも書いておく。
- 音声も活用:発音を聞きながら覚えると、リスニングでも気づける単語になります。
紙の単語帳の強み
市販の単語帳は、試験に出やすい単語がレベル順に整理されているのが強みです。受験や英検、TOEICなどの目標がある人は、目標に合った単語帳を1冊決めて「軸」にするのがおすすめです。
おすすめの組み合わせ
- 軸:目標に合った単語帳1冊(何周もくり返す)
- 補助:単語帳で覚えにくい単語や、長文・リスニングで出会った単語をアプリに登録
- 確認:週末に、今週の単語を白紙に書き出す想起テスト
ポイント:道具を増やしすぎないのがコツ。単語帳1冊とアプリ1つで十分です。
1日20分の英単語ルーティン
ここまでの方法を組み合わせた、1日20分の単語ルーティンを紹介します。
平日のルーティン
- 3分:昨日の単語を想起――昨日覚えた単語を、見ないで5〜10個書き出す
- 7分:アプリの復習――アプリが出してくる「今日の復習カード」を片付ける
- 7分:新しい単語――単語帳で新しい単語を10〜20個。答えを隠して覚える
- 3分:例文を1つ作る――今日の単語から1つ選んで、自分の例文を作る
週末のルーティン
- 今週の単語を、日本語→英語で書き出すテスト
- 間違えた単語はアプリに登録、または単語帳に印をつける
- 語源のパーツを1つ選んで、同じパーツを持つ単語を集めてみる
すきま時間の活用
通学・通勤の電車、休み時間、寝る前などのすきま時間は、アプリの復習にぴったりです。「スマホを開いたらまず単語アプリ」とルールを決めておくと、SNSを見る前の数分が単語の時間に変わります。
多読・リスニングとセットで
単語帳で覚えた単語が、多読や動画の中で出てくると、「あ、この単語!」という体験ができます。これが「何度も出会う仕組み」のもう一つの柱です。単語帳だけで完結させず、英語に触れる時間も確保しましょう。
まとめ:忘れない仕組みは、今日から作れる
英単語の覚え方のポイントを振り返りましょう。
- 忘れるのは当たり前。何度も出会う仕組みを作る
- 間隔反復(日をあけて復習)と想起練習(答えを隠して思い出す)を土台にする
- 語源で手がかりを増やし、コロケーションと例文で使える単語にする
- 単語帳1冊を軸に、アプリで復習を自動化する
- 多読やリスニングで、覚えた単語に「再会」する
大事なのは、特別な才能ではなく、毎日少しずつ続けられる仕組みです。まずは今日、単語帳の答えを隠すところから始めてみてください。



