忘却曲線とは?エビングハウスが1885年に調べたこと
忘却曲線は、ドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウス(Hermann Ebbinghaus)が1885年に発表した『記憶について(Über das Gedächtnis)』の実験から生まれたものです。記憶を実験で測ろうとした、心理学の歴史の中でもかなり早い研究として知られています。
実験のポイントは3つあります。
- 被験者はエビングハウス本人:自分自身を実験台にして、長い期間にわたって記録を取りました。
- 材料は「無意味つづり」:「子音・母音・子音」を組み合わせた、意味を持たない音のならびを使いました。すでに知っている単語だと、意味や連想の助けが入ってしまうからです。
- 「節約法(savings method)」で測定:つづりのリストを完璧に言えるまで覚え、時間をおいてからもう一度覚え直します。そのとき、最初より何割少ない手間で覚え直せたか(節約率)を記録しました。
つまり忘却曲線の縦軸は、「何%覚えているか」ではなく「覚え直すのがどれだけ楽だったか」です。ここを押さえておくと、この後の話がぐっと分かりやすくなります。
ポイント:忘却曲線は「無意味つづり」を「覚え直す手間」で測ったグラフ。英単語の記憶そのものを直接測ったものではありません。
「1日で7割忘れる」は本当?曲線の正しい読み方
よく引用される数値では、節約率は20分後に約58%、1時間後に約44%、1日後に約34%、1か月後に約21%ほどとされています(資料によって細かい値や表し方は少し異なります)。この「1日後に約34%」を裏返して「1日で約66%忘れる」「7割忘れる」と紹介されることがありますが、これは正確ではありません。
節約率34%とは、「最初に覚えたときの手間のうち、約3分の1を節約できた」という意味です。思い出せる量が3割しかない、ということではありません。
曲線が言っていること
- 覚えた直後の忘れ方がいちばん急で、時間がたつにつれて忘れるペースはゆるやかになる。
- ほとんど思い出せなくなっても、記憶はゼロになったわけではなく、覚え直すと最初より速い。
曲線が言っていないこと
- 「英単語は1日で○割忘れる」という具体的な割合。意味のある単語や例文は、無意味つづりより覚えやすいのがふつうです。
- 「この日に復習すれば完璧」という決まったスケジュール。復習の最適な間隔は、その後の研究(間隔効果の研究)で調べられてきたテーマです。
なお、エビングハウスの実験は1人の記録でしたが、のちの研究者による再現実験でも、おおむね似た形の曲線が得られたと報告されています。「最初に急に落ち、あとはゆるやかになる」という形そのものは、信頼できる知見と考えてよいでしょう。
忘却曲線から分かる3つの復習の原則
曲線の形と「覚え直しは速い」という事実から、英単語の勉強に使える原則が3つ見えてきます。
原則1:最初の復習は早めに
いちばん忘れやすいのは覚えた直後から翌日にかけてです。だから1回目の復習は「翌日」までに入れるのが基本です。可能なら、覚えたその日の夜にも軽く見直しておくと安心です。
原則2:復習の間隔は少しずつのばす
復習するたびに記憶は忘れにくくなり、曲線の落ち方はゆるやかになっていくと考えられています。そこで、2回目は数日後、3回目は1週間後……と、間隔をだんだん広げていきます。毎日同じ単語を同じ回数見続けるより、ずっと少ない手間で済みます。
原則3:忘れていても落ち込まない
節約法の結果が示すとおり、思い出せなかった単語も、覚え直すスピードは最初より速くなります。「また忘れた」は失敗ではなく、復習のタイミングが来たというサインです。
ポイント:「早めに1回、あとは間隔をのばす」「忘れたら覚え直せばいい」。この2つだけ覚えておけば、忘却曲線は十分に使いこなせます。
ちなみに、この「間隔をあけるほうが記憶に残る」という現象は間隔効果(spacing effect)と呼ばれ、学習研究の中でも特に多くの研究で確かめられてきたものの一つです。
英単語の復習カレンダー(1日後・3日後・1週間後…)
ここからは実践編です。月曜日に新しい英単語を20個覚えた場合の復習カレンダーの例です。
- 当日(月):覚える。寝る前に3分、英語を見て意味を言えるかチェック
- 1日後(火):1回目の復習。日本語を見て英語を言う練習も入れる
- 3日後(木):2回目の復習。例文の中で使えるか確認
- 1週間後(翌週月):3回目の復習。まだあやしい単語に印をつける
- 2週間後:4回目の復習。印のついた単語だけでもOK
- 1か月後:5回目の復習。ここで思い出せれば、かなり定着しています
間隔は目安です。テストや試験本番が近いなら全体を短めに、半年先の入試や資格試験が目標なら「1か月後」の後にも2〜3か月後の復習を足すとよいでしょう。
復習のやり方も大事
復習は「眺める」のではなく、答えを隠して思い出してから確認するのが基本です。たとえば abandon を見たら、すぐに訳を見ずに「捨てる、あきらめる」と言ってから確かめます。さらに次のような自作の例文で、使い方まで確認できれば完璧です。
- He abandoned his old car on the street.(彼は古い車を道ばたに放置した)
- Don't abandon your dream so easily.(そんなに簡単に夢をあきらめないで)
覚えにくい単語には「手がかり」を
何度復習しても抜ける単語は、覚え方を変えるチャンスです。当サイトの『超絶ゴロ暗記 大学入試英単語500』(/studyhack/goro/)のようなゴロで最初のフックを作ったり、『語源で覚える』ページ(/studyhack/gogen/)で接頭辞・語根から意味を組み立てたりすると、思い出すときの手がかりが増えます。気になる単語の成り立ちは、英語語源辞典「AIはらだくん」(https://www.haradaeigo.com/gogen/)で調べることもできます。
忘却曲線を活かす1週間メニュー
「1日20語の新出+復習」を回す場合の1週間メニューです。1日の勉強時間は25〜30分を想定しています。
- 月:新出20語(No.1〜20)を覚える(15分)→ 寝る前に3分チェック
- 火:新出20語(No.21〜40)+ 月曜分の1日後復習(5分)
- 水:新出20語(No.41〜60)+ 火曜分の1日後復習
- 木:新出20語(No.61〜80)+ 水曜分の1日後復習 + 月曜分の3日後復習
- 金:新出20語(No.81〜100)+ 木曜分の1日後復習 + 火曜分の3日後復習
- 土:新出はお休み。水曜分の3日後復習 + 今週の100語から「×」の単語だけ総復習
- 日:完全オフ、または木曜分の3日後復習だけ(5分)
翌週の月曜日には、先週月曜分の「1週間後復習」が入ります。こうして、毎日の勉強が「新しく覚える時間」と「予定どおりの復習時間」の2本立てになります。
管理のコツ
- 単語帳の各ページの余白に、覚えた日付と復習予定日を書き込む。
- 復習でスッと言えた単語には○、迷ったら△、忘れていたら×をつける。×は次の日にもう一度見る。
- 土曜日の総復習で×が多いなら、翌週の新出を20語から15語に減らす。
ポイント:新出の数より、「予定した復習をきちんとこなす」ほうが大事です。復習が追いつかない日は、新出を減らしてでも復習を優先しましょう。
よくある失敗と対策
失敗1:新出ばかり増やして復習が崩壊する
勢いで1日50語、100語と進めると、数日後には復習の量がふくれ上がって続かなくなります。最初の1〜2週間は少なめに始め、復習を回せる量を見極めてから増やしましょう。
失敗2:「見て分かる」で合格にしてしまう
英単語を見て「ああ、見たことある」と感じるのは、思い出せたこととは違います。訳を隠して声に出す、日本語から英語を書く、といった形で確かめることが大切です。
失敗3:忘却曲線の数字を気にしすぎる
「1日後に何%」という数字は、無意味つづりの実験から出たものです。自分の英単語にそのまま当てはまるわけではありません。数字よりも、「翌日に1回、あとは間隔をのばす」という形を守ることに集中しましょう。
失敗4:一度覚えた単語を二度と見ない
1か月後に言えた単語でも、半年使わなければ抜けていくことがあります。長文や英作文で出会ったときに「前に覚えたあの単語だ」と意識するだけでも、自然な復習になります。
今日からできることはシンプルです。今日覚える単語の横に、明日・3日後・1週間後の日付を書いておくこと。それだけで、忘却曲線を味方につける準備は完了です。



