テスト効果(想起練習)とは
テスト効果とは、覚えた内容を思い出そうとする練習そのものが、記憶を強くするという現象です。英語では testing effect、思い出す練習のことを retrieval practice(想起練習)と呼びます。
テストというと「実力を測るもの」というイメージがありますが、この研究が示しているのは、テストは覚えるための道具にもなるということです。
よく知られた研究に、2006年にアメリカのRoedigerとKarpickeが行った実験があります。文章を「くり返し読む」グループと、「読んだあとに思い出して書き出す」グループを比べたところ、直後のテストでは読み返したグループがやや有利でしたが、数日後のテストでは思い出す練習をしたグループのほうが多くの内容を覚えていました。
さらに2008年には、KarpickeとRoedigerが外国語の単語ペア(スワヒリ語と英語)を使った実験を『Science』誌に発表しています。ここでも、単語を見直す回数より、思い出す練習をした回数のほうが、1週間後の成績に大きく関係していました。
英単語の暗記はまさに「外国語の単語ペア」を覚える作業です。テスト効果は、英語学習者にとって特に使いやすい知見だといえます。
ポイント:「見た回数」より「思い出した回数」。単語帳は読む本ではなく、自分に出す問題集として使いましょう。
なぜ「見る」より「思い出す」が強いのか
思い出す練習が効く理由は、まだ研究者のあいだでも議論が続いていますが、よく挙げられる考え方があります。
1. 思い出す道すじが太くなる
記憶は「しまう」だけでなく「取り出す」ことができて初めて使えます。思い出す練習は、取り出すルートそのものを何度も通る練習です。本番で必要なのも「何も見ずに取り出す力」なので、練習と本番の形が一致しています。
2. 「少し難しい」が記憶に効く
心理学者のBjorkらは、学習中に少し苦労する条件のほうが長期的な記憶につながりやすいことを「望ましい困難(desirable difficulties)」と呼びました。思い出すのに「えーと……」と時間がかかる状態は、まさにこの望ましい困難にあたると考えられています。
3. 「分かったつもり」を防げる
単語帳を眺めていると、見慣れた単語は「知っている」と感じます。でも、訳を隠して言おうとすると出てこない。想起練習は、覚えている単語と覚えていない単語を正直に仕分けてくれます。その結果、復習の時間を本当に苦手な単語に集中できます。
思い出せなくても意味はある
想起練習で答えが出てこなくても、そのあとに正解を確認すれば、ただ読むだけより記憶に残りやすいとする研究もあります。大切なのは、答えを見る前に一度考えることです。
英単語で使える想起練習5つ
① 赤シート・手隠しで「英→日」
いちばん基本の方法です。訳を隠し、英単語を見て意味を声に出してから確認します。ポイントは、分かったつもりで次へ進まず、必ず口に出すことです。
② 「日→英」で言う・書く
日本語を見て英単語を言う・書く練習です。英→日より難しいぶん、書く・話す力につながります。たとえば「しぶしぶの」→ reluctant、「〜に貢献する」→ contribute to のように、スペルまで書けるか試しましょう。
③ 例文の穴埋め
自分で作った例文の一部を隠して、単語を思い出します。
- She finally ( ) her goal of passing the exam.(achieved)
- The meeting was ( ) because of the typhoon.(canceled)
文の中で思い出すと、意味だけでなく使い方もいっしょに定着します。
④ 白紙に書き出す(ブレインダンプ)
今日覚えた単語を、何も見ずに白紙に書けるだけ書き出します。そのあとで単語帳と照らし合わせ、出てこなかった単語に印をつけます。5分でできる強力な想起練習です。
⑤ 覚え方の「手がかり」ごと思い出す
ゴロや語源で覚えた単語は、その手がかりから思い出す練習をしましょう。当サイトの『超絶ゴロ暗記 大学入試英単語500』(/studyhack/goro/)のゴロや、『語源で覚える』(/studyhack/gogen/)で学んだ接頭辞・語根を使って、「このパーツは何だったっけ」と自分に問いかけるのも立派な想起練習です。単語の成り立ちをもっと知りたいときは、英語語源辞典「AIはらだくん」(https://www.haradaeigo.com/gogen/)も役立ちます。
落とし穴:「覚えた単語」を外してはいけない
想起練習でよくある失敗が、一度言えた単語をすぐにリストから外してしまうことです。
先ほど紹介した2008年のKarpickeとRoedigerの実験では、一度正解した単語をその後のテストから外した条件と、正解したあとも思い出す練習を続けた条件が比べられました。その結果、1週間後の成績は、正解後も思い出す練習を続けた条件のほうがはっきり高かったと報告されています。
つまり、「1回言えた=覚えた」ではないのです。
解決策:外すのではなく「間隔をのばす」
- 言えた単語 → 捨てずに、次は3日後・1週間後に回す
- 言えなかった単語 → 翌日にもう一度
このやり方は、間隔反復とテスト効果を組み合わせたものです。すでに言える単語を毎日くり返す必要はありませんが、間隔をあけて何度か思い出すことで、ようやく長く残る記憶になります。
「3回ルール」で卒業判定
おすすめは、日をあけて3回連続で思い出せたら卒業というルールです。たとえば、1日後・3日後・1週間後の3回とも言えた単語は、ひとまず安心してよいでしょう。卒業した単語も、月に1回くらいパラパラと確認すると、さらに長持ちします。
ポイント:単語を「覚えたかどうか」ではなく、「何回、日をあけて思い出せたか」で管理しましょう。
想起練習の1週間メニュー
1日25分前後を想定した、想起練習中心の1週間メニューです。
- 月:新出20語を覚える(10分)→ 10分休憩をはさんで白紙に書き出し(5分)→ 答え合わせ
- 火:昨日の20語を英→日で言う(5分)→ 新出20語(10分)→ 白紙書き出し(5分)
- 水:昨日の20語を日→英で書く(5分)→ 新出20語 → 白紙書き出し
- 木:月曜分の3日後チェック(英→日)+ 昨日分の日→英 → 新出20語
- 金:火曜分の3日後チェック + 例文穴埋め10問 → 新出20語
- 土:新出なし。今週の100語から「×」の単語だけを集めてミニテスト(20分)
- 日:今週の単語を5つ選んで英文を1つずつ作る(10分)
ミニテストの作り方
土曜日のミニテストは、自分で作ると効果的です。ノートの左に日本語、右を空けて英語を書く欄にします。作る作業そのものも復習になります。友だちや家族と問題を出し合うのもおすすめです。
時間がない日は
最低限、「昨日の単語を訳を隠して言う」だけは続けましょう。3分でできて、1日の中でいちばん効果の高い時間になります。
よくある失敗と対策
失敗1:答えをすぐ見てしまう
思い出せないとき、1秒で答えを見るとせっかくの想起練習が浅くなります。3〜5秒は粘るのが目安です。それでも出なければ、潔く答えを見て、声に出して確認しましょう。
失敗2:選択肢問題ばかり解く
4択のアプリや問題は手軽ですが、選択肢があると「見れば分かる」状態でも正解できてしまいます。慣れてきたら、選択肢なしで答える練習も混ぜましょう。
失敗3:間違えるのが怖くてテストしない
想起練習は、間違えることも含めて練習です。間違えた単語こそ、次に覚えるべき単語だと分かったという収穫があります。点数は記録しても、落ち込む必要はありません。
失敗4:想起練習だけで理解を飛ばす
意味をまったく理解していない単語をいきなりテストしても、効果は上がりにくくなります。最初に例文や語源で意味をつかみ、そのあと思い出す練習に切り替える、という順番を守りましょう。
今日の勉強は、単語帳を開く前に、昨日覚えた単語を白紙に5つ書き出すところから始めてみてください。それが、いちばん手軽な想起練習の第一歩です。



