語呂合わせは「ちゃんとした記憶術」だった
英単語が覚えられない一番の理由は、英語の音と日本語の意味のあいだに「つながり」がないことです。たとえば lament(嘆く)という単語。「ラメント」という音と「嘆く」という意味には、日本語話者にとって何の関係もありません。関係のないもの同士を丸暗記しようとするから、何度見てもすぐ抜けてしまうのです。
語呂合わせは、このつながりを「人工的に作る」方法です。英単語の音に似た日本語を見つけ、それを意味と結びつけることで、記憶に取っかかりをつくります。
この考え方は、学習研究の世界ではキーワード法(keyword method)と呼ばれています。1970年代に、AtkinsonとRaughらが外国語の単語学習の方法として研究したことでよく知られ、その後もさまざまな研究者が効果や限界を調べてきました。
ポイント:語呂合わせは「遊び」ではなく、音と意味をつなぐための記憶の工夫。ただし使い方しだいで効果は大きく変わります。
大事なのは、キーワード法は「ダジャレを1つ言えば終わり」ではないということです。研究で扱われてきたキーワード法には、はっきりした2つのステップがあります。次のセクションで、その仕組みを見ていきましょう。
キーワード法の仕組み:2つのリンクで覚える
キーワード法は、次の2つのリンク(つながり)で成り立っています。
- 音のリンク:英単語の音に似た、身近な日本語(キーワード)を見つける
- イメージのリンク:そのキーワードと単語の意味が一緒に登場する「場面」を頭の中に思い描く
例:lament(嘆く)
- 音のリンク:lament(ラメント)→「ラーメン」
- イメージのリンク:ラーメンを床にひっくり返して、頭を抱えて嘆いている自分
こうしておくと、lament を見た瞬間に「ラーメン」が浮かび、そこから「こぼして嘆いている場面」が再生され、「嘆く」という意味にたどり着けます。
例:candid(率直な)
- 音のリンク:candid(キャンディッド)→「キャンディ」
- イメージのリンク:友だちに「そのキャンディ、正直まずいよ」と率直に言われている場面
ポイントは、2つ目のイメージのリンクです。「ラーメン=嘆く」と文字だけで結びつけても、あまり残りません。ラーメンがこぼれる音、湯気、自分の悲しい顔まで思い浮かべることで、記憶の手がかりが一気に増えます。
ポイント:ゴロ=音のリンク+イメージのリンク。「言葉だけのダジャレ」で終わらせず、必ず場面を1つ思い描く。
言葉と映像の両方で覚えるという点では、心理学でいう「二重符号化」の考え方ともつながっています。イメージで覚えるコツについては、同じシリーズの記事でもくわしく扱っています。
「効くゴロ」と「効かないゴロ」の違い
同じ語呂合わせでも、覚えやすいものとすぐ忘れるものがあります。効くゴロには、次のような共通点があります。
効くゴロの5つの条件
- 最初の音が合っている:思い出すときは単語の頭から再生されるので、頭の音が一致しているほうが強い(lament → ラーメン)
- キーワードが具体的なモノ・人:「ラーメン」「キャンディ」「トラ」のように絵にしやすい言葉
- 意味がそのまま場面に入っている:場面の中心で「嘆く」「率直に言う」が起きている
- 少し変・少し大げさ:普通の場面より、ちょっとおかしい場面のほうが印象に残りやすい
- 短い:一息で言える長さ。長すぎるゴロは、ゴロ自体を覚えるのが大変
効かないゴロの例
- 音が遠すぎる:単語の音からキーワードが自然に出てこない
- 意味がゴロに入っていない:キーワードは浮かぶのに「で、意味は何だっけ?」となる
- 抽象的すぎる:「心」「感じ」「こと」など、絵にならない言葉がキーワードになっている
たとえば tolerate(我慢する)なら、「トラ」をキーワードにして「満員電車でトラが隣に座ってきても、じっと我慢している自分」という場面を作ると、上の条件をほぼ満たします。頭の音が一致し、トラは絵にしやすく、「我慢する」が場面の中心にあり、しかも少し変です。
ポイント:迷ったら「頭の音」「絵になる」「意味が主役」の3つをチェック。
自作ゴロの作り方:5分でできる4ステップ
市販のゴロ集を使うのも便利ですが、どうしても覚えられない単語は自分で作ったゴロのほうが残りやすいことがあります。作る過程でその単語についてあれこれ考えるので、それ自体が記憶の手がかりになるからです。
手順
- 発音を確認する:まず辞書や音声で正しい発音を聞く。カタカナ読みのまちがいからゴロを作ると、発音まで狂ってしまいます
- 頭の音からキーワードを探す:最初の1〜2音節に似た日本語を、食べ物・動物・人・道具などから探す
- 意味が主役の場面を作る:キーワードと意味が「同じ場面で起きている」ように、5秒で思い浮かべられる絵を作る
- 1行で書き残す:単語帳の余白やカードに「単語|キーワード|場面」を1行でメモする
自作例
- scatter(まき散らす):スキャター →「隙あった!」と節分の豆を部屋中にまき散らす
- dread(ひどく恐れる):ドレッド →ドレッドヘアの巨大な鬼が近づいてきて、心の底から恐れている
- fragile(壊れやすい):フラジャイル →ふらふら回るコマ(ジャイロ)が、机の端から落ちて割れそう
- persist(しつこく続ける):パーシスト →じゃんけんで何回負けても「パー」を出し続ける友だち
どれも完璧なゴロではありませんが、自分が思い出せればそれで合格です。人に見せるものではないので、くだらなくても、自分だけにわかる内輪ネタでもかまいません。
ポイント:1語に5分以上かけない。思いつかない単語は、語源や例文など別の方法に切り替える。
ゴロ暗記でよくある失敗と対策
失敗1:意味は言えるけど、つづりが書けない
ゴロは「英語→意味」の方向には強いのですが、つづりまでは教えてくれません。英作文や記述で使う単語は、ゴロで意味を固めたあとに、書いて・声に出してつづりを別に練習しましょう。
失敗2:ゴロだけ思い出して、意味にたどり着かない
「ラーメン」までは出るのに「で、何だっけ」となるのは、イメージのリンクが弱いサインです。場面をもう一度、音や表情まで細かく思い描き直しましょう。
失敗3:テストで思い出すのが遅い
ゴロは最初の足場です。何度か復習するうちに、ゴロを経由しなくても意味がすっと出るようになるのが理想です。ゴロを通らずに意味が出たら、その単語は「卒業」と考えてOKです。
失敗4:全部の単語をゴロにしようとする
キーワード法は、音と意味がまったく結びつかない単語で特に力を発揮します。一方で、inter-(間)や -ful(満ちた)のように語源で分解できる単語は語源で覚えたほうが、仲間の単語にも応用できます。また、ゴロで覚えた単語も、復習しなければ時間とともに忘れていきます。
ポイント:ゴロは「最初の1回」を覚えやすくする道具。長く残すのは、日をあけた復習と、英文の中で何度も出会うことです。
ゴロ×語源×復習の1週間メニュー
ゴロを「思いつき」で終わらせず、習慣にするための1週間メニューです。1日15〜20分を目安にしてください。
- 月曜:単語帳の今週の範囲から、何度見ても覚えられない単語を10個選ぶ
- 火曜:10個のうち、語源で分解できるものは語源で整理し、残りをゴロにする
- 水曜:新しく10個を同じ手順で。月曜の10個を「英語→意味」でテスト
- 木曜:ゴロで覚えた単語を使って、短い英文を1つずつ音読する(例:I lamented the loss of my favorite pen.)
- 金曜:今週の20個を、日本語→英語の向きでもテスト。つづりが怪しい語は3回書く
- 土曜:ゴロを経由せずに意味が出た単語に「卒業」マークをつける
- 日曜:休み、または卒業できなかった単語だけ5分で見直す
使えるサイト内のツール
ゴロから始めたい人は、STUDY HACK内の「超絶ゴロ暗記 大学入試英単語500」(/studyhack/goro/)で、入試頻出語をゴロとイメージで一気に確認できます。語源で分解できそうな単語は「語源で覚える英単語」(/studyhack/gogen/)で接頭辞・語根の仲間ごとにまとめて覚えましょう。気になる単語の成り立ちをその場で調べたいときは、原田英語の「英語語源辞典 AIはらだくん」(https://www.haradaeigo.com/gogen/ )が便利です。
ポイント:覚えにくい単語はゴロ、分解できる単語は語源。2つの道具を使い分けると、単語帳の「壁」が一気に低くなります。
今日の最初の一歩は、単語帳を開いて「3回以上まちがえた単語」を1つだけ選び、ゴロを作ってみることです。



