「絵が浮かぶ単語」はなぜ覚えやすいのか
英単語を覚えていると、すぐ覚えられる単語と、何度見ても抜けてしまう単語があることに気づきます。
- すぐ覚えられる:dog、umbrella、ladder、bridge
- なかなか覚えられない:reluctant、abundant、inevitable、ambiguous
前のグループは、見た瞬間に絵が浮かぶ単語です。後ろのグループは、意味は説明できても、絵にしにくい単語です。
記憶の研究では、具体的でイメージしやすい単語のほうが、抽象的な単語より覚えやすい傾向があることが繰り返し報告されてきました。これは「具体性効果」などと呼ばれます。また、同じ内容でも、言葉だけより絵もあわせて見たほうが記憶に残りやすいことも知られています。
ポイント:覚えにくい単語の多くは「絵が浮かばない単語」。逆に言えば、自分で絵や場面をつけてあげれば、覚えやすい単語に変えられます。
では、なぜ絵があると覚えやすいのでしょうか。それを説明する代表的な考え方が、次に紹介する二重符号化理論です。
二重符号化理論とは:言葉と映像の2本立て
二重符号化理論(dual coding theory)は、カナダの心理学者Allan Paivio(ペイヴィオ)が1970年代ごろに体系的に示した考え方です。
ざっくり言うと、人間の頭の中には、情報をあつかう仕組みが大きく2つあると考えます。
- 言葉の仕組み:単語や文など、言語として情報をあつかう
- イメージの仕組み:絵・場面・音・動きなど、言葉以外の形で情報をあつかう
「りんご」という言葉を聞くと、言葉としての「りんご」と、赤くて丸い果物のイメージの両方が呼び出されます。このように、2つの仕組みの両方に記録されている情報は、片方だけのものより思い出す手がかりが多いので、記憶に残りやすいと考えられています。
英単語に当てはめると
reluctant を「気が進まない」という日本語だけで覚えるのは、言葉の仕組み1本だけに頼った覚え方です。そこに「宿題を前に、ペンを持ったまま動かない自分」という場面を足すと、イメージの仕組みにも記録が残ります。思い出すときの入り口が2つに増えるわけです。
ポイント:日本語訳だけで覚える=入り口1つ。訳+絵・場面で覚える=入り口2つ。入り口が多いほど、テスト本番で思い出しやすくなります。
語呂合わせで使われるキーワード法も、音をきっかけに場面を思い描くという意味で、この考え方と相性のよい方法です。
単語のタイプ別:イメージのつけ方
すべての単語を同じやり方でイメージ化する必要はありません。単語のタイプによって、向いているイメージのつけ方が変わります。
1. 具体的なモノ → 絵そのものを思い浮かべる
- ladder(はしご)、hive(巣箱)、pebble(小石)など
- 日本語訳を経由せず、英語から直接その絵が浮かぶようにするのが理想です
2. 動作 → 自分の体で動いてみる
- crawl(はう)、whisper(ささやく)、glance(ちらっと見る)、shrug(肩をすくめる)など
- 覚えるときに実際に体を動かします。shrug なら肩をすくめながら「shrug」と言う。体の動きが記憶の手がかりになります
3. 抽象的な性質・気持ち → 場面を作る
- reluctant(気が進まない):「朝5時、布団から出るのが気が進まない自分」
- abundant(豊富な):「食べきれないほどの果物が山積みになったテーブル」
- ambiguous(あいまいな):「右にも左にも行ける分かれ道の看板に、矢印が両方向に描いてある」
抽象語は、その性質や気持ちが一番わかりやすく表れている場面を1つ選ぶのがコツです。
4. 例文ごと場面にする
場面を作ったら、それを短い英文にしてみましょう。
- He was reluctant to get out of bed.
- The market had an abundant supply of fruit.
英文と場面がセットになると、単語の使い方まで一緒に覚えられます。
ポイント:モノは絵、動作は体、抽象語は場面。迷ったら「その単語が一番似合う瞬間」を想像する。
棒人間スケッチ:10秒で描くイメージ記憶
頭の中で思い描くのが苦手な人は、実際に描いてみるのがおすすめです。絵の上手さはまったく関係ありません。
描き方のルール
- 1つの単語に10〜20秒まで
- 人は棒人間、モノは丸と四角でOK
- 気持ちは顔の表情(にっこり・しょんぼり・汗マーク)で表す
- 絵の横に英単語だけを書く(日本語訳は書かない)
例
- exhausted(疲れきった):棒人間がソファに倒れこみ、頭の上に「0%」の電池マーク
- reluctant(気が進まない):棒人間が宿題の前で、足を後ろに引いている
- crowded(混雑した):四角い箱(電車)に棒人間がぎゅうぎゅうに詰まっている
描いたスケッチは、あとで復習するときに絵を見て英単語を言う練習にも使えます。日本語を経由しない練習になるので、英語を見て直接イメージが浮かぶ回路を育てられます。
画像検索は補助として
ネットで画像を検索するのも手軽ですが、見るだけだとすぐに流れてしまいがちです。画像を見たら、その中で一番印象に残った部分を自分でひとこと説明するか、簡単にまねして描くと記憶に残りやすくなります。
ポイント:絵はうまくなくていい。「自分で考えて描いた」ことが記憶の手がかりになります。
イメージ暗記でよくある失敗
失敗1:イメージがぼんやりしている
「疲れた感じ」「多い感じ」のようなあいまいなイメージは、ほとんど記憶に残りません。誰が・どこで・何をしているかがはっきりした場面にしましょう。
失敗2:1つの単語に時間をかけすぎる
凝った場面を作ろうとして1語に5分かけていたら、単語帳は進みません。イメージは30秒以内に決め、思いつかない単語は例文や語源など別の方法に切り替えます。
失敗3:イメージだけで終わる
イメージで意味がわかるようになっても、英作文で使えるとはかぎりません。場面を英文にして音読する、日本語から英語を言う練習をするなど、言葉の仕組みの側も鍛える必要があります。二重符号化は「2本立て」が大事なのです。
失敗4:似た単語に同じイメージを使う
たとえば tired と exhausted に同じ「疲れた人」の絵を使うと、区別がつかなくなります。exhausted は「電池0%」のように、程度の違いまで絵に入れると混同を防げます。
ポイント:イメージは「はっきり・短時間・英文とセット」。この3つを守れば、イメージ暗記は強力な武器になります。
イメージで覚える1週間メニュー
1日15分でできる1週間メニューです。
- 月曜:単語帳の今週の範囲から、覚えにくい抽象語を10個選ぶ
- 火曜:10個それぞれに「その単語が一番似合う場面」を決め、棒人間で描く
- 水曜:スケッチを見て英単語を言うテスト。言えなかった単語は場面を描き直す
- 木曜:場面を短い英文にして音読する(例:The street was crowded with tourists.)
- 金曜:動作を表す単語を5個選び、体を動かしながら覚える
- 土曜:今週の単語を、英語→意味、日本語→英語の両方向でテスト
- 日曜:休み、または言えなかった単語だけ見直す
イメージとゴロ・語源の組み合わせ
音と意味がまったく結びつかない単語は、ゴロで音のきっかけを作ってから場面をつけると覚えやすくなります。STUDY HACK内の「超絶ゴロ暗記 大学入試英単語500」(/studyhack/goro/)は、大学入試の頻出語をゴロとイメージで覚えられるページです。
接頭辞や語根で分解できる単語は、「語源で覚える英単語」(/studyhack/gogen/)で成り立ちを確認し、「前に」「外へ」といった語源のイメージを場面に取り入れると、より強い記憶になります。単語ごとの語源を調べたいときは、原田英語の「英語語源辞典 AIはらだくん」(https://www.haradaeigo.com/gogen/ )も使ってみてください。
ポイント:言葉だけで覚えていた単語に、絵を1枚足す。それだけで思い出す入り口が増えます。
今日は、単語帳の中で一番覚えにくい抽象語を1つ選んで、棒人間で描いてみましょう。



