大学生のモチベーションをどう捉えるか
大学生の英語学習の意欲を考えるときには、よく知られた理論が見取り図になります。
- 自己決定理論(self-determination theory):人は「自分で選んでいる感覚(自律性)」「できるという感覚(有能感)」「人とのつながり(関係性)」が満たされると、意欲を保ちやすいという考え方
- L2動機づけ自己システム(L2 Motivational Self System):将来英語を使っている自分のイメージが、学習の意欲につながるという考え方
授業設計に生かすなら、細かな理論の議論よりも、次のような問いに置き換えると実用的です。
- 学生が自分で選べる場面はあるか
- 学生ができるようになったと実感できる仕組みはあるか
- クラスの中で一緒に学ぶ感覚はあるか
- 学生が英語を使う将来の自分を思い描く機会はあるか
ポイント:モチベーションは学生の性格ではなく、授業の仕組みによって上げ下げできる部分があります。教員が変えられるのは、この「仕組み」の部分です。
目標設定:将来の自分と今学期の行動をつなぐ
学期の最初の授業で、目標設定の時間をしっかり取ります。ポイントは、遠い目標と今週の行動をつなぐことです。
3段階で書く目標シート
- 将来の自分:英語を使っている場面を想像する
- 今学期の目標:学期末にできるようになりたいこと
- 今週の行動:具体的に何を、いつ、どれくらいするか
英語で書く場合のプロンプト例です。
- In five years, I can imagine myself using English when I ...
- By the end of this semester, I want to be able to ...
- This week, I will ... for ... minutes on ...
学生の記入例:
- By the end of this semester, I want to be able to read a short news article without a dictionary.
- This week, I will read one graded reader for 15 minutes on Monday, Wednesday, and Friday.
目標を具体的にするコツ
「頑張る」「たくさん」などの言葉を見つけたら、「何を」「どれくらい」に書き換えさせます。ペアで見せ合い、相手の目標に質問を1つするだけでも、具体性がぐっと上がります。
学習記録と選択肢:自分で選び、見える化する
学習記録の仕組み
授業外の学習は、記録して見える化しないと続きません。記録の形式はシンプルなほど続きます。
- 日付、やったこと、時間、一言コメント(1行)
- 週に1回、授業の最初の5分で記録を見返す
- 学期の途中で、自分の記録の傾向を振り返る
一言コメントは英語で書かせてもよいでしょう。
- The story was easy, but I enjoyed it.
- I listened twice and understood more the second time.
選択肢を与える
自律性を育てるには、学習内容や方法を選べる場面を作ることが効果的です。ただし、選択肢が多すぎると迷って動けなくなるので、3〜4つ程度のメニューから選ぶ形がおすすめです。
- 多読(レベル別の読みものを読む)
- 多聴(学習者向けの音声や動画を聞く)
- 単語学習(アプリや単語帳)
- 英語日記(3〜5文)
学期の途中で方法を変えることも認めます。「合わなかったので変えた」という判断そのものが、自律学習の大切な一歩です。
多読・多聴を授業に組み込む
多読・多聴は、学生が自分のペースで、自分の興味に合わせて選べるため、自律学習と相性の良い活動です。
始め方の手順
- やさしいレベルから始める:辞書なしで楽しめる程度のものを選ぶよう伝える
- 授業内で10分読む時間を取る:最初の数週間は授業中に一緒に読む
- 記録をつける:タイトル、語数やページ数、感想を1行
- 紹介し合う:月に1回、読んだ本や聞いた番組をペアで紹介する
紹介の型を英語で示しておくと、短い活動でも英語を使う時間になります。
- I read a story about a girl who moves to a new town. I liked it because the ending surprised me.
- I'd recommend it to people who like mysteries.
多聴の工夫
学習者向けのポッドキャストや、字幕付きの短い動画などを使います。1回目は字幕なしで聞き、2回目に字幕で確認するといった聞き方を提案しておくと、ただ流すだけにならずに済みます。
大学の図書館に多読用の図書がある場合は、授業で一度見学に行くと、授業外で手に取るきっかけになります。
自己評価:できるようになったことを言葉にする
有能感を育てるには、学生自身ができるようになったことに気づく仕組みが必要です。そのために自己評価を定期的に入れます。
Can-doリストによる自己評価
授業の目標を「〜できる」の形で並べ、学期の初め・中間・終わりに同じリストで自己評価させます。
- I can summarize a short article in three sentences.
- I can ask a follow-up question in a conversation.
- I can write a paragraph with a clear topic sentence.
各項目を「まだ難しい/少しできる/できる」の3段階でチェックするだけでも、変化が見えます。
振り返りの問い
学期の中間と終わりに、次のような問いで振り返りを書かせます。
- What was the most useful learning method for you this semester? Why?
- What will you continue after this course ends?
自己評価を成績とどう結びつけるか
自己評価そのものを点数にすると、正直に書かなくなる可能性があります。振り返りを提出したかどうかや、記述の具体性を評価の対象にし、「できる」と答えたかどうかは点数に反映させないのがおすすめです。
15回の計画例とよくある失敗
ここまでの要素を15回の授業に配置した一例です。各回の授業本体の内容とは別に、自律学習のための時間を5〜15分組み込みます。
- 第1回:目標シート(将来・今学期・今週)を書く
- 第2回:学習メニューの紹介と選択、記録の付け方を説明
- 第3回:授業内多読10分を開始、Can-doリストで初回の自己評価
- 第4〜6回:毎回最初の5分で記録を見返し、ペアで共有
- 第7回:読んだ本・聞いた番組の紹介活動
- 第8回:中間振り返り、Can-doリストで2回目の自己評価、方法の見直し
- 第9〜11回:新しい目標で学習を続ける、授業内多読は継続
- 第12回:2回目の紹介活動
- 第13回:学期末に向けて記録を整理
- 第14回:Can-doリストで3回目の自己評価、学期の振り返りを書く
- 第15回:授業後も続ける学習計画を立てる
よくある失敗
- 記録を細かくしすぎる:記入項目が多いと、記録そのものが負担になります
- 全員に同じ教材を強制する:選べる部分を少しでも残しましょう
- 記録を見るだけで返さない:一言コメントやクラス全体へのフィードバックがあると続きやすくなります
- 学期末に一度だけ振り返る:中間の見直しがあると、軌道修正ができます
まずは次の授業で、学生に「今週の行動目標」を1文で書いてもらうところから始めてみてください。



