EMIとは何か:CLILとの違いを押さえる
EMIは、英語を媒介言語として専門科目の内容を教える授業のことです。目的はあくまで専門内容の習得で、英語力の向上は副次的な効果として期待されることが多い、というのが一般的な位置づけです。
よく比較されるのがCLIL(内容言語統合型学習)です。違いを大まかに整理すると次のようになります。
- EMI:主目標は内容。言語面の到達目標は明示されないことが多い
- CLIL:内容と言語の両方を意図的に目標に置き、言語支援を授業設計に組み込む
実際の教室では、この二つはきれいに分かれません。EMIとして始めた授業でも、学生がついてこられなければ言語支援が必要になり、結果的にCLIL的な工夫が入ってきます。
ポイント:EMIを担当するなら「私は語学の先生ではない」と割り切りすぎず、「内容を理解させるための最低限の言語支援はする」という立場を取ると、授業が安定します。
シラバスには、到達目標を内容中心に書きつつ、「専門用語を英語で説明できる」のような言語面の目標を1つ添えておくと、学生にも授業の性格が伝わりやすくなります。
始める前の準備:学生と教材を見極める
EMIの準備で最初にやるべきことは、受講する学生像の確認です。同じ「英語開講」でも、留学生が多いクラスと、日本語話者がほとんどのクラスでは設計がまったく変わります。
- 履修予定者の構成(留学生の割合、学年、既習科目)を教務や前任者に確認する
- 英語の資料を読む経験がどの程度あるかを把握する(初回アンケートでもよい)
- 使う教科書・論文の英語の難易度を確認し、必要なら章を絞る
- 専門用語リスト(英語・日本語・短い定義)を作成し、LMSに置く
初回アンケートは短い英語で構いません。
- How comfortable are you with reading academic texts in English? (1-5)
- Which part of this course are you most worried about?
- Have you taken any courses taught in English before?
この結果をもとに、スライドの文字量や、配布資料をどこまで補助するかを決めます。準備段階で用語リストとスライドの事前公開を決めておくだけで、学生の不安は大きく下がります。
学生の言語支援と足場かけの具体例
足場かけ(スキャフォールディング)は、学生が一人ではまだできないことを、一時的な支援で可能にする工夫です。EMIでは次のような支援が効果的です。
講義前
- スライドとキーワードリストを前日までにLMSで公開する
- 各回のゴールを英語1文で示す(例:By the end of today, you will be able to explain the difference between fixed and variable costs.)
講義中
- 1つのスライドに1つのメッセージ。文章ではなく短い句で示す
- 重要な定義は板書またはスライドで文字にする(聞き取りだけに頼らない)
- 10〜15分ごとに理解確認を入れる
理解確認の問いかけは、Yes/Noで答えられる「Do you understand?」より、中身を言わせる形にします。
- In one sentence, what is the main idea of this slide?
- Turn to your partner and explain this graph in your own words.
- Which word on this slide is new to you?
講義後
- 要点を3行でまとめた英語の振り返りを提出させる
- よくあった質問をまとめて次回冒頭で共有する
ポイント:支援は「ずっと続ける」ものではありません。後半の回では用語リストを学生に作らせるなど、少しずつ外していきます。
日本語併用(トランスランゲージング)の考え方
「EMIなのだから日本語は一切禁止」とするか、「難しいところは日本語で」とするかは、多くの先生が悩む点です。近年は、複数の言語資源を学びに活用するトランスランゲージングという考え方も広く知られるようになりました。
大切なのは、日本語を使う場面をルールとして決めておくことです。場当たり的に切り替えると、学生は「結局日本語で説明してくれる」と英語を聞かなくなります。
使い分けの例です。
- 講義本体・スライド・課題の指示:英語
- ペアでの話し合いの最初の数分:日本語可(内容理解を優先)
- 話し合いの結果の共有・発表:英語
- 専門用語:英語と日本語を併記した用語リストを配布
留学生が受講している場合は、日本語で話すグループができると孤立が生まれます。その場合は「グループ内の共通言語は英語」と明示しておきましょう。
シラバスに書く場合の例文です。
- The main language of this course is English. You may use Japanese in pair discussions to check your understanding, but all presentations and written assignments must be in English.
評価の設計:内容と英語をどう分けるか
EMIの評価で起こりがちなのが、英語が上手な学生が高得点を取り、内容理解が深い学生が報われないという問題です。成績評価の説明責任を果たすためにも、評価の観点を事前に明示しておきましょう。
評価配分の一例です。
- 毎回の振り返り(内容理解):20%
- 小テスト(用語と概念の理解):20%
- グループ発表:25%
- 期末レポート:35%
ルーブリックでは、「内容の正確さ」「論理の組み立て」と「英語の伝わりやすさ」を別の観点として分けます。英語の観点は、文法の細かな正確さよりも「読み手に意図が伝わるか」を基準にすると、EMIの趣旨に合います。
ポイント:「英語の誤りでは大きく減点しない。ただし意味が通らない場合は内容点にも影響する」とシラバスに書いておくと、学生も安心して書けます。
期末レポートの指示文の例です。
- Write a 1,000-word report applying one theory from this course to a real case. Your report will be assessed mainly on the accuracy of content and the clarity of your argument.
15回の授業計画例と教員の負担を減らす工夫
半期15回・各回100分を想定した構成例です。
- 第1回:オリエンテーション、用語リストの使い方、アンケート
- 第2〜5回:基礎概念(講義60分+ペア活動・確認30分+振り返り10分)
- 第6回:小テスト①と復習
- 第7〜10回:応用・事例分析(講義は40分程度に短縮し、グループ活動を増やす)
- 第11回:小テスト②、発表準備
- 第12〜13回:グループ発表
- 第14回:総まとめ、レポート構想の相談
- 第15回:振り返りと質疑
EMIは準備に時間がかかります。負担を減らすには次の工夫が有効です。
- スライドは翌年も使う前提で作り、毎年2〜3回分ずつ改善する
- 英語の添削を教員がすべて抱え込まず、ルーブリックとピアレビューを活用する
- 学内の英語教員や、ライティング支援の窓口があれば連携する
- 自分の英語を完璧にしようとしない。明瞭さと準備で十分に伝わる
よくある失敗と最初の一歩
EMIを始めた先生がつまずきやすいポイントです。
- 日本語の講義をそのまま英訳する:情報量が多すぎて学生が消化できません。英語では内容を7〜8割に絞る覚悟を持ちましょう。
- 話し続けてしまう:学生の反応が見えないまま90分が過ぎます。15分ごとの確認を時間割に組み込みます。
- 質問が出ないのを理解と誤解する:英語で質問するのはハードルが高いもの。LMSの匿名質問やコメントシートを用意します。
- 評価基準が曖昧:英語力で差がついたように見え、学生の不満につながります。
まずは、次の学期に担当する科目の第1回分だけ、スライドを英語で作り、キーワードリストを添えてみてください。1回分を丁寧に作ると、全体の設計のイメージがつかめます。



