CLTとは何か:「練習」から「伝え合い」へ
CLT(コミュニカティブ・アプローチ)は、1970年代ごろから広がった外国語教育の考え方です。それまで主流だった文型の反復練習(パターン・プラクティス)に対して、「実際に意味をやり取りする中でこそ言葉は身につく」という立場をとります。
特定の教科書や手順が決まっているわけではなく、いくつかの共通する特徴でとらえると分かりやすくなります。
- 意味のやり取りがある:相手が知らない情報を伝える、意見を交換するなど、話す「必然性」がある
- 目的・場面・状況がある:誰に、何のために話すのかがはっきりしている
- 流暢さも大事にする:正確さだけでなく、止まらずに伝え続ける力も育てる
- 学習者が主役:教師の説明時間より、生徒が英語を使う時間を増やす
日本の学習指導要領でも、コミュニケーションを行う目的・場面・状況を明確に設定した言語活動が重視されています。CLTはその考え方と相性のよい土台だと言えます。
ポイント:CLTは「文法を教えない授業」ではありません。文法を「使うための道具」として位置づけ直す考え方です。
「伝え合い」の必然性を作るインフォメーション・ギャップ
CLTの授業づくりで一番使いやすいのがインフォメーション・ギャップです。ペアの2人が別々の情報を持ち、英語で聞き合わないと課題が完成しない状態を作ります。
授業例:中2「過去形」で週末の予定表を埋める
- Aさんには「Kenの週末」、Bさんには「Yukiの週末」の表を配る(土日の午前・午後に何をしたか)
- 相手の表の空欄を、質問して埋める
- 最後に「2人の共通点」を1文で書く
生徒が使う英語の例です。
- What did Yuki do on Saturday morning?
- She played tennis with her sister.
- Really? Ken played tennis, too!
教師の指示は短く、英語でモデルを見せます。
- Work in pairs. A, don't show your sheet to B.
- Ask questions and fill in the blanks.
- You have three minutes. Ready, go!
ポイントは、答えが教科書に書いていないことです。相手に聞かないと分からない状況が、自然な質問を生みます。
文法指導とどう両立させるか:PPPとの組み合わせ
「CLTだと文法が定着しないのでは」という心配はもっともです。実際の授業では、文法の明示的な説明とコミュニケーション活動を組み合わせるのが現実的です。
よく使われる流れがPPP(Presentation → Practice → Production)です。
- Presentation(5〜8分):場面の中で新出文法を見せる。例:先生の週末の写真を見せながら I went to Kyoto. I ate yudofu. と話す
- Practice(10分):口頭ドリルやペアでの短い言い換え練習
- Production(15〜20分):インフォメーション・ギャップや、自分のことを話す活動
CLTの考え方を取り入れるなら、Practiceの段階から少しずつ「意味」を入れていくのがコツです。たとえば、ただ動詞を過去形に変えるドリルではなく、「本当のことを言う」ルールにするだけで、生徒は内容を考え始めます。
- Did you watch TV last night? — Yes, I did. I watched a baseball game.
同じ文型でも、自分の本当の情報を言うだけで意味のやり取りになる。これが一番手軽な第一歩です。
40人クラスで回すための工夫
40人のクラスでペア活動をすると、「うるさくなる」「日本語になる」「誰が話したか分からない」という悩みが出てきます。次の工夫で、かなり回しやすくなります。
- 時間を短く区切る:最初は90秒。タイマーをスクリーンに映すと集中が続きます
- 役割を明確に:「窓側がA、廊下側がB」と座席で決めておけば、毎回説明する必要がありません
- ペアを変える:Change partners! の合図で、前後や斜めの人と組み直す。3回繰り返すと同じ英語を3回言うことになり、自然に練習量が増えます
- 日本語OKの言葉を決める:分からない単語だけは「How do you say ○○ in English?」と聞く、というルールにする
- 最後に2〜3ペアだけ発表:全員の前で話すのが苦手な生徒には、先生が近くで聞いた良い例を紹介する形にします
机間指導のときは、全部を直そうとせず、よく出ている間違いを1つだけメモしておき、活動後に全体で扱います。
よくある失敗と、その立て直し方
CLT型の活動を入れ始めたときによくある失敗を3つ挙げます。
1. 活動の目的が生徒に伝わっていない
「なぜこれをするのか」が分からないと、生徒は作業として済ませてしまいます。活動前に「ゴール」を1文で示しましょう。例:By the end of this activity, you can talk about your weekend for 30 seconds.
2. 準備なしでいきなり話させる
即興は大事ですが、使う表現を持たないまま話させると沈黙が続きます。黒板に「使えそうな表現」を3〜5個書いておくだけで、話し出しやすくなります。
3. 活動後の振り返りがない
楽しかったけれど何も残らない、を避けるために、最後の3分で「言いたかったけど言えなかった英語」を書かせます。次の授業の最初にそれを取り上げると、学びがつながります。
ポイント:CLTは一度で完成しません。1単元に1つ、意味のやり取りがある活動を入れるところから始めましょう。
教科書1ページをCLT型に変える3つのアレンジ
新しい教材を作らなくても、いつもの教科書の1ページを少しアレンジするだけでCLTらしい活動になります。
1. 本文を「質問し合う材料」にする
本文を読んだあと、生徒に答えが本文に書いてある質問を1つ、書いていない質問を1つ作らせます。
- 本文にある質問:Where did Emma go last summer?
- 本文にない質問:If you were Emma, what would you do there?
後者は正解がないので、ペアで意見を交換する自然なきっかけになります。
2. 登場人物になりきって話す
対話文の登場人物の「その後」を想像して、ペアで30秒の会話を作ります。Continue the conversation. What will they say next? と指示するだけで、既習表現を使った創造的なやり取りが生まれます。
3. 新出文法の「本当の使い道」を探す
たとえば現在完了を学んだら、Have you ever...? を使ってクラスの中で「一番珍しい経験をした人」を探す活動にします。Find someone who... 形式のワークシートは準備も簡単で、教室を歩き回るので大人数でも盛り上がります。
- Have you ever eaten kusaya?
- No, I haven't. Have you?
どれも「生徒が自分のことを言う」「相手の答えが予想できない」という共通点があります。この2つがそろえば、教科書の練習もコミュニケーションに変わります。
明日から使える1週間の導入プラン
いきなり授業全体を変える必要はありません。1週間で少しずつ試すプランです。
- 月曜:帯活動に「本当のことを言うQ&A」を2分入れる(例:What time did you get up today?)
- 火曜:教科書本文の内容について、ペアで1つずつ質問を作って聞き合う
- 水曜:インフォメーション・ギャップのワークシートを1枚作って試す
- 木曜:活動のあとに「言えなかった英語」を回収
- 金曜:回収した表現を全体で共有し、もう一度同じ活動をペアを変えてやる
同じ活動を「もう一度」やると、1回目よりずっと英語が出るようになります。生徒自身が上達を実感できる瞬間を、ぜひ作ってみてください。



