誤りは「学びのサイン」
第二言語習得の研究では、学習者の誤りは、言語を身につけていく過程で自然に起こるものだと考えられています。たとえば、過去形のルールを覚えた生徒が goed のように言うのは、ルールを使おうとしている証拠でもあります。
とはいえ、誤りをそのままにしておいてよいわけではありません。フィードバックを考えるときは、次の2つの視点が役立ちます。
- 活動のねらい:正確さ(accuracy)を練習する場面か、流暢さ(fluency)を練習する場面か
- 誤りの種類:意味が伝わらなくなる誤りか、伝わるけれど形が違う誤りか
正確さを練習する場面では、その場で丁寧に直します。流暢さを練習する場面では、会話の流れを止めず、あとでまとめて扱うのが基本です。
ポイント:すべての誤りを直す必要はありません。「今日のねらいに関係する誤り」を優先しましょう。
口頭フィードバックの種類
口頭での訂正フィードバックは、いくつかの種類に分けて説明されることがよくあります。ここでは授業で使いやすい5つを紹介します。
1. リキャスト(言い直し)
生徒の発言を、正しい形で自然に言い直します。
- Student: I go to Osaka yesterday.
- Teacher: Oh, you went to Osaka yesterday? Nice!
会話の流れを止めないのが長所ですが、生徒が訂正に気づかないこともあります。
2. 明示的訂正
誤りをはっきり指摘し、正しい形を示します。
- Teacher: Not "go". Yesterday is past, so we say "went".
3. 引き出し(エリシテーション)
正しい形を生徒自身に言わせます。
- Teacher: Yesterday, you...? (手で後ろを指す)
- Student: I went!
4. メタ言語的ヒント
文法のヒントだけを出します。
- Teacher: Yesterday... past tense?
5. 繰り返し
誤りの部分だけを、上昇調で繰り返します。
- Teacher: You GO to Osaka?
3〜5は、生徒に考えさせる(自分で直させる)タイプのフィードバックで、プロンプトと呼ばれることもあります。
場面ごとの使い分け
どのフィードバックが一番良いかは、場面によって変わります。目安として、次のように使い分けると整理しやすくなります。
- スモールトークや自由な会話:リキャストで流れを止めない。または活動後に全体でまとめて扱う
- 新出文法の練習:引き出しやメタ言語的ヒントで、生徒自身に直させる
- 発表の練習:発表の後に、良い点を先に伝えてから、1つだけ改善点を伝える
- 何度も同じ誤りが出るとき:明示的訂正ではっきり伝え、全体で確認する
生徒への声かけの例です。
- Good try! Let's check one thing.
- Can you say that again? Think about the tense.
- That's a good sentence. Just one small change...
どの方法を使うときも、まず内容に反応してから、形を扱うと、生徒は「伝わった」という安心感を持てます。Oh, you went to Osaka! What did you do there? のように、内容に興味を示すことが大切です。
ライティングの添削の工夫
ライティングで赤ペンを入れすぎると、生徒は真っ赤な答案を見てやる気をなくしてしまいます。次の工夫で、添削の負担を減らしつつ効果を高めましょう。
- 焦点を絞る:今回の課題でねらう文法(例:過去形)の誤りだけを直す
- 記号で示す:直接正しい形を書かず、誤りの種類を記号で示す。例:T=時制、S=主語と動詞の一致、Sp=スペル。生徒は記号をヒントに自分で直します
- 良い表現にも印を:うまく書けている文に波線を引き、Nice! と書く
- 書き直しの時間を取る:返却したら、授業中に5分、書き直す時間を取ります
40人分の添削は大変なので、全員の作文から、よくある誤りを5つ選んで全体で扱う方法も有効です。誰の作文かは伏せて、スクリーンに映して「どこを直せばいい?」とペアで考えさせます。
40人クラスでの全体フィードバック
大人数クラスでは、一人ひとりに丁寧なフィードバックをする時間は限られます。そこで役立つのが、活動後の全体フィードバックです。
手順
- ペア活動中、先生は机間を回って良い表現とよくある誤りをメモする
- 活動後、黒板を2つに分けて書く:Good sentences / Let's fix
- Good sentencesを読み上げてほめる
- Let's fixの文をペアで直させる:What's wrong with this sentence? Fix it with your partner.
- 全体で確認し、もう一度同じ活動をする
最後にもう一度活動することで、直した形をすぐに使う機会になります。
生徒同士のフィードバックも活用しましょう。ペアで作文を交換し、チェックリスト(主語と動詞があるか、過去形になっているか、最後にピリオドがあるか)で確認し合うと、自分の誤りにも気づきやすくなります。
生徒が自分で直せるようにする仕組み
フィードバックの最終的な目標は、生徒が自分の誤りに気づき、自分で直せるようになることです。そのための仕組みをいくつか紹介します。
1. 誤りノート(マイ・ミステイク・リスト)
返却された作文やテストで指摘された誤りを、ノートの専用ページに書き写し、正しい形を並べて書きます。
- × I very like music. → ○ I really like music.
- × He play tennis. → ○ He plays tennis.
次に作文を書く前に、このリストを見返す習慣をつけると、同じ誤りが減っていきます。
2. セルフチェックリスト
作文を提出する前に、自分で確認する項目をリストにしておきます。
- 主語と動詞があるか
- 三人称単数の -s を忘れていないか
- 時制はそろっているか
- 文の最初は大文字、最後はピリオドか
3. 録音での自己チェック
スピーキングの練習を1人1台端末で録音し、聞き直して、自分で気づいた誤りを1つ書きます。自分の声を聞くのは最初は恥ずかしいものですが、自分で気づいた誤りは記憶に残りやすいものです。
指示の英語例です。
- Check your writing with the checklist before you hand it in.
- Listen to your recording and find one thing to improve.
先生のフィードバックと、生徒自身のセルフチェックを組み合わせることで、訂正の効果は大きく高まります。
よくある失敗と、今日からできること
よくある失敗
- 話している途中で何度も止めて直す→生徒が話すのを怖がる
- 誤りをまったく扱わない→同じ誤りが定着してしまう
- 誰の誤りかが分かる形で全体に紹介する→生徒が恥ずかしい思いをする
- 赤ペンで全部直す→先生も生徒も疲れる
今日からできること
- 次の活動で、直す誤りの種類を1つだけ決める
- 活動中のメモ用紙に「Good」「Fix」の2つの欄を作る
- 作文の添削では、記号で誤りを示す方法を試す
フィードバックの目的は、間違いをなくすことではなく、生徒が自分で気づいて直せるようになることです。「直された」ではなく「自分で直せた」経験を増やしていきましょう。



