なぜ同じ本文を何度も使うのか
新しい英文を次々と読むことにも価値はあります。しかし、授業の中で「話す」「書く」につなげるには、意味が十分に分かっている英文が必要です。
内容を理解した本文には、次のような利点があります。
- 語彙や文法が、すでに意味と結びついている
- 生徒が安心して口に出せる
- 表現を借りて、自分の言葉に置きかえやすい
つまり、本文は「読んで終わり」の素材ではなく、話す・書くための表現の倉庫なのです。1つの本文を複数の活動で使い回すと、新しい教材を準備する負担も減ります。
ポイント:「新しい素材を増やす」より「同じ素材で違う作業をさせる」。そのほうが、生徒の中で英語が使える形に近づきます。
本文活用のアイデア6選
ここでは、自作の短い本文をもとに具体的な活動を紹介します。
本文(オリジナル)
Yuto found a small cat near the station on a rainy day. It was wet and shaking. He took it home, but his mother said, "We can't keep a pet in this apartment." Yuto made posters and put them up around the town. Three days later, a woman called him. She said, "I'd love to take care of the cat." Yuto was a little sad, but he was also happy.
1. キーワード・リテリング
本文のキーワード(station, rainy, wet, mother, posters, woman)だけを板書し、本文を見ずに内容を話させます。
"Look at the keywords. Tell the story to your partner without the textbook."
2. 視点を変えて語る
登場人物の立場で語り直します。
"Tell the story as Yuto's mother. Start with 'One day, my son came home with a cat.'"
3. 要約(1文・3文)
"Summarize the story in one sentence. Then try three sentences."
4. 質問づくり
生徒が本文についての質問を作り、ペアで出し合います。
"Make three questions about the story. One of them should be a 'why' question."
5. 続きを書く
"What happened one month later? Write three sentences."
6. 自分に置きかえる
"Have you ever helped an animal or a person? Write about it using two expressions from the story."
単元を通した時間配分の例
1つのパートを3時間で扱う場合の配分例です。
1時間目:理解
- 内容理解(発問・新出語)
- 音読(意味を確認したうえで)
2時間目:再生(15〜20分)
- 0〜5分:キーワードを見てペアで内容を思い出す
- 5〜12分:キーワード・リテリング(交代で2回)
- 12〜20分:1文要約→3文要約をノートに書く
3時間目:表現(20〜25分)
- 0〜8分:視点を変えて語る(役割をくじで決める)
- 8〜15分:質問づくりとペアでの質問し合い
- 15〜25分:自分に置きかえて書く(本文の表現を2つ以上使う)
同じ本文でも、「理解→再生→表現」と段階が上がるにつれて、生徒の頭の使い方が変わっていきます。生徒からすると毎時間違う活動なので、飽きずに取り組めます。
活動を支える「足場」の作り方
本文を使った活動は、足場があるかどうかで成功が大きく左右されます。
キーワードの選び方
- 1パートあたり6〜8語程度
- 名詞だけでなく、動詞も入れる(found, took, made など)
- 順番どおりに並べる
リテリングの始め方を示す
"Start like this: 'This is a story about a boy named Yuto.'"
最初の1文を教師が示すだけで、話し出せる生徒がぐっと増えます。
使える表現をリストにする
- At first, / Then, / After that, / In the end,
- I think … because …
段階的に支援を外す
1回目:キーワード+絵
2回目:キーワードだけ
3回目:何も見ない
同じ活動を繰り返しながら支援を減らすと、生徒は自分の成長を実感できます。
高校では「要約→意見」へつなげる
高校の説明文や論説文では、本文を活用した活動を、要約から自分の意見を述べる段階へと発展させられます。
段階の例
- 段落ごとの見出しをつける:"Give each paragraph a short title in English."
- 筆者の主張を1文でまとめる:"What is the writer's main message? Write it in one sentence."
- 要約を話す:段落の見出しだけを見て、ペアで1分間要約する
- 意見を加える:"Do you agree with the writer? Add your opinion with one reason."
要約と意見を分けて話す練習は、入試の要約問題や自由英作文にもそのままつながります。「要約の部分では I think を使わない」「意見の部分で初めて自分の考えを言う」というルールを決めておくと、生徒は2つを区別しやすくなります。
"First, say what the writer thinks. Then, say what you think. Don't mix them."
同じ本文で理解・要約・意見と段階を踏むので、新しい素材を用意しなくても、思考の深さを少しずつ上げていけます。
40人クラスでの工夫
同時進行でペア活動
リテリングは全員がペアで同時に行えば、40人でも数分で全員が話せます。教師は教室を回り、2〜3ペアの話を聞いて、よかった表現を後で全体に紹介します。
ペアの組み替え
"Stand up. Find a new partner from a different row." と、ペアを変えて同じリテリングを2〜3回繰り返すと、回数を重ねるごとに滑らかになります。
役割カードで視点変え
「ユウト」「母」「女性」「猫」などの役割カードを配り、同じ役の人同士でアイデアを出し合ってから、違う役の人とペアになって語り合う方法もあります。
書く活動の提出はミニカードで
A6程度の小さなカードに1〜3文を書かせて回収すると、確認の手間が少なく、40人分でもすぐ目を通せます。
よくある失敗
- 理解が不十分なまま表現活動に進む:生徒は何を話せばよいか分からず、活動が止まります。→理解の段階で内容をしっかり確認しておく。
- リテリングを暗唱と混同する:本文を丸暗記させるだけでは、自分の言葉にする練習になりません。→「本文と同じでなくてよい」と伝え、言いかえを歓迎する。
- 活動の種類を増やしすぎる:毎時間違う形式だと、説明だけで時間が過ぎます。→1学期に使う活動を3〜4種類に絞り、繰り返し使う。
- 評価の観点を示さない:生徒は何をがんばればよいか分かりません。→「キーワードを全部使えたか」「順番どおりか」など、簡単な基準を示す。
ポイント:同じ活動形式を繰り返すと、説明の時間が減り、生徒は内容に集中できます。「形式は同じ、素材は変わる」が理想です。



