多読・多聴とは:精読との違い
多読(Extensive Reading)は、自分のレベルに合ったやさしい英語の本を、たくさん、楽しみながら読む学習法です。多聴は、同じようにやさしい英語の音声をたくさん聞く方法です。
授業でよく行われる精読(Intensive Reading)との違いを整理すると、次のようになります。
- 精読:短い英文を、文法や語彙を確認しながら正確に読む
- 多読:長い英文を、辞書をあまり使わず、内容を楽しみながら読む
言語習得の分野では、Krashenのインプット仮説のように、理解できるインプットを大量に受けることの大切さが論じられてきました。多読・多聴は、そうしたインプットの量を増やす方法として位置づけられます。
日本の多読の実践では、次のような原則がよく紹介されます。
- 辞書は(なるべく)引かない
- 分からないところは飛ばして読む
- つまらなくなったら、その本はやめて別の本にする
ポイント:多読の本は「スラスラ読めるやさしさ」が基本です。教科書より少しやさしいくらいの本から始めましょう。
本と音声の選び方
多読用の本として代表的なのが、グレーデッド・リーダー(Graded Readers)です。語彙数や文法に応じてレベル分けされた、学習者向けの読み物のシリーズで、複数の出版社から出ています。多くのシリーズに、音声が付いています。
ほかにも、次のような素材があります。
- レベル別の子ども向け読み物(リーダーズ):絵が多く、入門期の中学生にも読みやすい
- 絵本:短く、絵から意味を推測できる
- 学習者向けのオンライン読み物:多読用の読み物を公開しているウェブサイトもあります(利用条件は各サイトで確認)
- やさしい英語のニュース音声:学習者向けのニュース番組は、多聴の素材になります
本を選ぶときの目安です。
- 1ページに知らない単語が1〜2語程度
- 辞書を引かなくても話の流れが分かる
- 生徒が興味を持てるジャンル(ミステリー、伝記、ノンフィクションなど)がそろっている
学校の予算で一度に大量に買うのが難しい場合は、図書室と連携して少しずつ増やしたり、英語科の予算で毎年少しずつ追加したりする方法があります。
授業の最初の10分で始める手順
多読を授業に取り入れる一番簡単な方法は、授業の最初の10分を「黙読の時間」にすることです。
手順
- 本を教室に持ち込み、ブックボックスや机に並べる
- 生徒は好きな本を選んで、10分間黙って読む
- 読み終わったら記録シートに書く
- 途中までの本は、しおりを挟んで次回続きを読む
記録シートの項目例
- 日付
- 本のタイトル
- レベル
- 語数(本に書かれている場合)
- ひとこと感想(◎○△、または英語で1文)
感想は、長く書かせると負担になるので、It was exciting. / It was a little difficult. のような1文で十分です。
生徒への指示の英語例です。
- Choose a book you like. If it's too difficult, change it.
- Don't use a dictionary. Just enjoy the story.
- Write the title and one comment on your reading log.
レベル選びのための「最初の1ページテスト」
生徒には、本を選ぶときに最初の1ページを読んでみて、知らない単語を指で数えるよう伝えます。5本の指がすべて折れてしまうようなら、その本は今は難しすぎるサインです。If you find five new words on the first page, try an easier book. というシンプルな目安は、生徒が自分でレベルを判断する助けになります。
多聴を組み合わせる方法
多読に慣れてきたら、多聴も組み合わせましょう。
1. 聞きながら読む(リスニング・リーディング)
本の音声を聞きながら、文字を目で追います。音と文字が結びつき、読むスピードが上がる効果が期待できます。1人1台端末とイヤホンがあれば、教室でも一人ひとりが自分の本の音声を聞けます。
2. 先生の読み聞かせ
絵本や短い物語を、先生が読み聞かせます。絵をスクリーンに映し、ときどき What do you think will happen next? と問いかけると、生徒が予想しながら聞くようになります。
3. 家庭での多聴
学習者向けのニュース音声や、グレーデッド・リーダーの音声を、家で聞くことを勧めます。「通学中に5分」「寝る前に1話」など、具体的な時間を示すと習慣になりやすくなります。
多聴でも、分かる英語をたくさん聞くことが基本です。難しすぎる素材は、ストレスになるだけでなく、聞き流しになりやすいので注意しましょう。
40人クラスでの本の管理と運営
40人のクラスで多読を行うときは、本の管理が大きな課題になります。
- ブックボックスを作る:レベル別に色分けしたシールを貼り、箱に入れて教室に運ぶ
- 貸し出しは記録シートで:本の番号を記録シートに書かせれば、貸し出し簿を別に作る必要がありません
- 図書委員や係の生徒に任せる:本の出し入れを係の生徒に担当してもらうと、先生の負担が減ります
- 最低でもクラスの人数の1.5倍の冊数を:選べる本が少ないと、自分に合う本が見つかりません。複数のクラスで本を共有して、冊数を確保しましょう
- 本が足りないときはオンラインの読み物も:1人1台端末で、学習者向けの読み物サイトを使う方法もあります
また、生徒同士の本の紹介も効果的です。月に1回、おすすめの本を1冊、ペアで紹介し合う時間を作ると、読みたい本が見つかりやすくなります。
- This book is about a boy who... I recommend it because...
評価の考え方とよくある失敗
評価の考え方
多読は「楽しんで読む」ことが大切なので、読んだ冊数や語数をそのまま成績にすると、やさしい本を急いで読むだけになってしまうおそれがあります。
評価に使う場合は、次のような工夫が考えられます。
- 記録シートの提出(継続して取り組んでいるか)を、主体的に学習に取り組む態度の参考にする
- 読んだ本の紹介(話す・書く)を、パフォーマンス課題として評価する
よくある失敗
- 難しすぎる本を選ばせる:「教科書と同じくらい」だと多読には難しすぎることが多いです。最初はとてもやさしいレベルから始めましょう
- 読後に内容確認テストをする:テストがあると、楽しんで読めなくなります
- 時間が続かない:10分を毎時間が難しければ、週1回の授業の最初から始めても構いません
- 先生が読まない:生徒が読んでいる間、先生も英語の本を読むと、良いモデルになります
1学期で始める導入プラン
- 1か月目:学校にある英語の本を集め、レベル別に整理する。足りない分は購入計画を立てる
- 2か月目:週1回、授業の最初の10分を多読の時間にする。記録シートを配る
- 3か月目:聞きながら読む活動や、先生の読み聞かせを取り入れる。学期末に、おすすめの本の紹介活動を行う
多読・多聴は、すぐに成果が見えにくい活動ですが、続けるほど生徒の「英語を読むことへの抵抗感」が減っていきます。まずは10分、教室に本を持っていくところから始めてみてください。



