UDLとは:授業の「入口」を複数にする
UDL(Universal Design for Learning)は、アメリカの研究機関CASTが提唱してきた学習設計の枠組みです。建物のユニバーサルデザインが、段差の代わりにスロープを付けることで車いすの人にもベビーカーの人にも使いやすくするように、授業も最初から多くの学び方に対応できるよう設計しよう、という考え方です。
UDLのガイドラインは、大きく3つの原則で整理されています。
- 取り組みの多様な手段:学ぶ意欲を引き出し、続けるための選択肢を用意する
- 提示の多様な手段:情報を、文字・音声・絵など複数の形で示す
- 行動と表出の多様な手段:学んだことを、書く・話す・選ぶ・つくるなど複数の方法で表現できるようにする
大切なのは、「特定の生徒のための特別な対応」を後から付け足すのではなく、「最初から選択肢のある授業」にしておくことです。
ポイント:UDLは「困っている生徒への個別対応」の代わりではなく、その土台です。土台がしっかりしていると、個別の配慮も最小限で済みます。
提示の工夫:文字・音声・絵を組み合わせる
英語の授業は、音声と文字の両方を扱う教科です。どちらか一方だけに頼ると、そこが苦手な生徒は取り残されます。
板書・スライドの工夫
- 1枚に載せる情報を絞る:新出単語は5〜8語程度に。詰め込みすぎない
- フォントと行間:読みやすいフォントを使い、行間を広めにとる。英文は大きめに
- 色の意味を固定する:「動詞はいつも赤」「新出単語はいつも青」など、色の使い方を毎回同じにする
- 絵や写真を添える:単語 umbrella の横に傘のイラスト。意味を文字以外でも示す
指示の出し方
- 口頭の指示は短く、必ず板書やスライドでも示す
- 手順は番号付きで示す。例:1. Read. 2. Circle. 3. Talk with your partner.
- 今どの手順をしているかがわかるよう、指し示したりマグネットを動かしたりする
音声の工夫
- 教科書本文の音声を、授業の外でも聞けるようにしておく(学校の端末やデジタル教科書の機能など、使える範囲で)
- 新出単語は、文字を見せる前に音から入る場面と、文字と音を同時に示す場面の両方を用意する
表出の工夫:答え方を選べるようにする
学んだことを表現する方法が「書く」だけだと、書字が苦手な生徒は理解していても力を示せません。
選べる表現方法の例
- 本文の内容理解:英語で書いて答える/選択肢から選ぶ/絵を並べ替える/口頭で先生に説明する
- 自己紹介:ノートに書く/タブレットで録音する/ポスターにまとめる
- 単語テスト:綴りを書く問題と、音声を聞いて絵を選ぶ問題を組み合わせる
ワークシートの工夫
- 解答欄を広めにとる。罫線を4線にする選択肢も用意する
- 書き写す量を減らす。問題文を書き写させず、答えだけを書く形式に
- 1枚に問題を詰め込まず、2枚に分けるか、問題ごとに区切り線を入れる
ポイント:「何を評価したいのか」を明確にすると、表現方法は柔軟にできます。本文の理解を見たいなら、書く力とは切り離して確認する方法を考えます。
取り組みの工夫:見通しと選択肢
注意が続きにくい生徒や、不安が強い生徒にとって、授業の見通しがあるかどうかは大きな違いを生みます。
授業の流れを見える化する
授業の最初に、今日の流れを黒板の端に書いておきます。
- 1. Warm-up(5 min)
- 2. New words(10 min)
- 3. Reading(15 min)
- 4. Pair talk(10 min)
- 5. Review(5 min)
終わった項目にチェックを入れていくと、「あとどれくらいか」がわかり、安心して取り組めます。
活動を短く区切る
一つの活動が長く続くと集中が切れやすくなります。10分程度で活動を切り替え、立つ・書く・話す・聞くなど、動きの種類も変えていきます。
選択肢を用意する
- 音読の練習方法を選べる(ペアで読む/一人で録音する/先生と読む)
- 課題の順番を選べる(どちらの問題から解いてもよい)
小さな選択でも、「自分で決めた」という感覚が取り組みを支えます。
単語と音読でのUDLの具体例
英語の授業で特につまずきが出やすいのが、単語の綴りと音読です。ここでもUDLの考え方で、入口と出口を複数にしておきます。
単語の覚え方を選べるようにする
- 見て覚える:単語を色分けして書く(例:母音だけ色を変える book, cake)
- 聞いて覚える:音声を聞いて、まねして言う。手拍子で音節を数える(ba-na-na で3回)
- 体で覚える:空中に指で大きく綴りを書く、動作と一緒に言う(jump と言いながら跳ぶ)
- つなげて覚える:自分に関係のある短い文を作る(I eat a banana every morning.)
授業でこれらを一通り体験させたうえで、「自分に合う覚え方」を選ばせます。
音読の段階をつくる
- 先生の後に続いて読む(リピート)
- 先生と同時に読む(オーバーラッピング)
- ペアで1文ずつ交互に読む
- 一人で読む
読みが苦手な生徒には、1と2を多めに。本文にスラッシュを入れたプリントや、読めない単語に小さく印をつけることを許可すると、ぐっと取り組みやすくなります。
個別の配慮とチームでの対応
UDLで授業全体を整えたうえで、それでも必要な生徒には個別の配慮を行います。学校には、障害のある生徒に対して合理的配慮を提供することが求められており、その内容は本人・保護者と相談しながら決めていくのが基本です。
英語の授業で考えられる配慮の例
- 板書の写真撮影を許可する、または板書内容をプリントで配る
- テストの問題用紙を拡大する、ルビを振る、時間を延長する
- 本文にスラッシュ(意味の区切り)を入れたものを配る
- 音読を人前でなく個別に確認する
- 静かな場所で取り組める時間をつくる
一人で判断しない
どのような配慮が必要かは、教科担当だけで決めるものではありません。担任、特別支援教育コーディネーター、学年の先生、保護者、そして本人と相談しながら決め、他教科とも共有します。本人がどんな配慮なら受け入れやすいか、周りの目をどう感じているかも大切な情報です。
よくある失敗
- 周りに見える形で特別扱いする:本人が望まない形の配慮は、かえって負担になることがあります
- 配慮を一度決めたら見直さない:学年や教材が変わると必要な配慮も変わります。学期ごとに振り返りましょう
- 「できない」前提で課題を減らしすぎる:目標は保ちつつ、到達する方法を変えるのがUDLの考え方です
明日からできる5つのUDLチェック
授業を大きく変えなくても、次の5つを確認するだけで、授業はずっとユニバーサルになります。
- 口頭の指示を、必ず文字でも示しているか
- 新出単語に、絵や写真などの手がかりを添えているか
- 授業の流れを最初に見せているか
- 答え方を2種類以上用意している活動があるか
- 一つの活動が長くなりすぎていないか
1週間、この5つを授業案の端にメモして意識してみてください。支援が必要な生徒だけでなく、クラス全体が落ち着いて取り組めるようになったと感じる先生も多いはずです。
ポイント:UDLの工夫は「誰かのため」ではなく「みんなのため」。わかりやすい授業は、すべての生徒にとってわかりやすい授業です。



